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第一話

新作です。

昼休みの屋上は、思っていたより静かだった。


風がフェンスを揺らす音。

遠くのグラウンドから聞こえる体育の笛。


それ以外は、ほとんど何もない。


……はずだった。


「……あー」


ため息みたいな声が聞こえた。


思わず足を止める。


屋上の奥。

フェンスのそば。


コンクリートの上に、誰かが寝転がっていた。


女子だ。


長い黒髪がコンクリートに広がっている。

片腕を額に乗せて、完全にだらけきった姿勢。


昼休みの屋上に寝転ぶ女子なんて、初めて見た。


……いや、それより。


「……あの」


声をかける。


反応はない。


寝てるのかと思って、もう一歩近づいた。


「ここ、立ち入り禁止ですよ」


ぴくり、と。


腕の下から、片目だけこちらを見た。


眠そうな目だった。


世界に、あまり興味がなさそうな目。


「……誰」


声も、ものすごく眠そうだ。


「一年です」


「ふーん」


興味なさそうに視線が外れる。


そしてそのまま、


「……別にええやん」


また目を閉じた。


「いや、よくないです」


「なんで」


「怒られますよ」


「うちが?」


「はい」


「……」


少しだけ沈黙。


風が吹いて、フェンスがカタカタ鳴る。


やがて女子は、小さく息を吐いた。


「めんど」


そう言って、ゆっくり体を起こす。


思っていたより背が高かった。


同じ制服なのに、どこか大人っぽい。


目元が少し気だるい。


「一年?」


「はい」


「真面目やなぁ」


髪を軽くかき上げながら、こちらを見る。


「うち、別に悪いことしてへんやん」


「屋上、鍵かかってましたよね」


「乗り越えた」


「……」


「フェンス」


「ダメです」


「細か」


そう言いながら、女子はフェンスにもたれた。


そしてこちらを見て、少しだけ目を細める。


「名前」


「え?」


「一年の」


「……奏多です」


「ふーん」


しばらく見られる。


居心地が悪い。


「……先輩は?」


「あ?」


「名前です」


「聞きたいん?」


「一応」


女子は少し考えるような顔をしてから、あっさり言った。


「別に覚えんでええよ」


「いやでも」


「どうせまた来るし」


「え?」


「ここ」


フェンスに背中を預けたまま、空を見る。


「昼休み」


「……」


「後輩くん」


「奏多です」


「……奏多くん」


ゆっくり視線が降りてくる。


「ここ、ええ場所やろ」


確かに、風は気持ちいい。


校庭の音も遠い。


静かだ。


「まぁ……」


「やろ」


満足そうにうなずく。


「だから」


そして、少しだけ笑った。


ほんの少しだけ。


「誰にも言わんといて」


「……」


「共犯や」


さらっと言う。


「いや、俺関係ないです」


「もう見たやん」


「それは」


「今さらやろ」


言い切る。


そして、またコンクリートに寝転がった。


「……ほら」


「?」


「座り」


「え?」


「立っとるん邪魔」


「邪魔!?」


「影できる」


「俺のせいじゃないですよ」


「ええから」


ぽん、と隣の地面を叩く。


「昼休み、あと十五分」


目を閉じたまま言う。


「ちょっとくらいサボり」


「いや俺は別に」


「真面目やなぁ」


小さく笑う。


「そんな頑張らんでもええんに」


風がまた吹く。


髪が揺れる。


しばらく黙って見ていたら、


女子は目を閉じたまま言った。


「……まだおるん?」


「……います」


「なら座り」


「なんでですか」


「一人やと暇」


それだけ。


そして、少し間を置いて。


「……あ、そうや」


片目だけ開ける。


「うち、二年」


「はい」


「だから先輩」


「……はい」


「敬え」


「全然敬えないです」


「失礼やなぁ」


そう言って、また目を閉じた。


「……まぁええわ」


小さくつぶやく。


「奏多くん」


「なんですか」


「ジュース買ってきて」


「自分で行ってください」


「はぁ、めんど」

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