第4話「壊れる音」
嘘は、守るためにつくものだと思っていた。
でも――
その嘘が誰かを壊すなら、それはもう“優しさ”じゃない。
気づいてしまった真実は、
知らなかった頃には、もう戻してくれない。
それから、彼女とのやり取りは少しだけ変わった。
いや。
“変わってしまった”のは、俺の方だったのかもしれない。
「おはよ、玲央くん」
いつも通りのメッセージ。
でも、その一言がどこか嘘っぽく見えてしまう。
「おはよ」
短く返す。
前なら、もっと何か書いていたはずなのに。
仕事中も、ずっと頭から離れなかった。
あの写真。
あの笑顔。
あの言葉。
『大切な人と過ごす時間が一番幸せ』
――あれは、誰に向けたものなんだ?
俺じゃない。
それだけは、はっきり分かってしまった。
休憩中、またそのアカウントを開いた。
何度も、何度も。
見なければいいのに。
指が勝手に動く。
最新の投稿。
昨日の夜にアップされた写真。
同じ男。
距離が、近い。
肩に手を回されている。
――無理だろ、これ。
否定なんて、できるわけがなかった。
その夜。
彼女から、通話が来た。
一瞬、迷う。
出るか、出ないか。
でも、結局出た。
「もしもし?」
「玲央くん…?」
少し、不安そうな声。
「今日、なんか元気なくない?」
ドキッとする。
気づかれている。
「別に」
「ほんとに?」
「うん」
嘘をついた。
でも、それは彼女と同じだった。
少しの沈黙。
そして。
「ねえ…」
彼女の声が、少しだけ低くなる。
「なんか、隠してない?」
その一言に、心臓が跳ねた。
――こっちのセリフだろ。
そう思った。
でも、言えなかった。
「……別に」
「ほんとに?」
「うん」
また、同じやり取り。
まるで、壊れかけた会話みたいに。
「そっか」
小さく呟く声。
そのあと、彼女は続けた。
「じゃあさ…今度会おうよ」
「え?」
予想外の言葉だった。
「ちゃんと顔見て話したい」
一瞬、思考が止まる。
会う?
今、この状況で?
「なんで急に…」
「だって、不安なんだもん」
その言葉は、あまりにも自然で。
あまりにも“都合が良すぎた”。
「玲央くん、最近ちょっと冷たいし…」
「そんなことない」
「あるよ」
食い気味に返される。
「前みたいに、優しくない」
胸が、チクッと痛む。
それは、事実だったから。
「……仕事が忙しいだけ」
適当な言い訳。
でも。
「そっか」
彼女は、あっさり引いた。
その軽さが、逆に怖かった。
「じゃあさ」
また、少し間を置いて。
「今度会う約束、してくれる?」
――逃げ場を塞がれた気がした。
もし会ったら。
全部、分かるかもしれない。
でも、分かりたくない自分もいる。
「……分かった」
気づけば、そう答えていた。
「ほんと?」
声が明るくなる。
「うん」
「よかったぁ…」
嬉しそうに笑う声。
でも、その笑顔をもう信じられなかった。
通話が終わったあと。
天井を見つめながら、呟く。
「終わりに、なるかもな…」
それが、“関係”なのか。
それとも――
“自分の幻想”なのか。
スマホの画面に、あの写真を表示する。
笑っている彼女。
知らない男と一緒に。
「……確かめるしかないか」
小さく呟いたその言葉は、
もう、引き返せないことを意味していた。
真実を知るための一歩は、
時に“関係を壊す覚悟”と同じ意味を持つ。
会えば終わるかもしれない。
でも、会わなければずっと苦しいまま。
次回、二人は現実で向き合う。
そこで見えるのは、“真実”か、それとも――




