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第3話 崩れ始めた現実

違和感は、小さなヒビみたいなものだ。

最初は気づかない。

でも、一度見えてしまうと、もう元には戻れない。

「ごめん、今ちょっとだけいい?」


その日の夜、彼女からの通話はどこか様子が違った。


声が、いつもより暗い。


「どうした?」


「実はさ…携帯、ほんとに止まりそうで…」


またか、と思った。


頭のどこかで、そう感じている自分がいた。


でも、口から出た言葉は違った。


「いくら足りないの?」


「…1万くらい」


少しの沈黙。


その“間”が、妙に引っかかった。


「この前も送ったよね?」


思わず言ってしまった。


初めてだった。


彼女に対して、“疑うような言葉”を口にしたのは。


その瞬間、空気が変わった。


「…やっぱり、迷惑だったよね」


声が震えている。


「違う、そういう意味じゃなくて」


「ごめんね、重いよね、私」


急に距離を取られたような気がした。


焦った。


「そんなことないって」


「ほんとに?」


「うん」


本当は、少しだけ思っていた。


でも、それを認めたくなかった。


彼女を失いたくなかったから。


「じゃあ…今回だけ、お願いしてもいい?」


その言葉に、また頷いてしまった。


――結局、俺は変われなかった。


その日も、俺はお金を送った。



数日後。


仕事の休憩中、ふとスマホを見ていた時だった。


SNSのおすすめ欄に、見覚えのある名前が表示された。


「……え?」


彼女の名前と、似ているアカウント。


何気なく開いた。


そこには――


知らない男と写っている、彼女らしき写真。


笑っていた。


俺に見せたことのない顔で。


心臓が、ドクンと音を立てた。


「いや、違う…よな」


必死に否定しようとする。


でも、プロフィールに書かれていた言葉が、目に入る。


『大切な人と過ごす時間が一番幸せ』


その瞬間、頭が真っ白になった。



その夜。


俺は彼女に聞いた。


「なあ、SNSやってる?」


少しの間。


そして――


「やってないよ?」


即答だった。


迷いのない声。


その一言で、全てが繋がった気がした。


――ああ、やっぱり。


疑いたくなかった。


でも、もう無理だった。


「そっか」


それ以上、何も言えなかった。


言ったら終わる気がしたから。



通話を切ったあと。


スマホを握りしめたまま、動けなかった。


怒りでもなく、悲しみでもない。


ただ――


虚しさだけが、残った。


「俺、何してんだろ…」


小さく呟いたその言葉は、


誰にも届かず、部屋の中で消えた。

信じたい気持ちと、疑う現実。

その間で揺れる心は、少しずつ壊れていく。


そして――

真実を知る覚悟があるかどうかが、試される。

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