第九十八話 勝利への道
「戦闘準備!」
堀田先輩が、いつも通りに指示をする。
だが、俺でも聞いたことがある神だ。これがただの門番だというのか?
名を知っているという恐れと許せないという怒りが混在するなか武器を構える。
「みんな基本通りに。盛文さんは援護でお願いします」
震えていないかと心配になりながら、堀田先輩に並んで前に出た。
一方、イザナギは右手を高くあげ、手をくるりと回す。と、その上に円が浮かび槍が現れる。
形だけなら普通の槍であるが、体と同じで大きい。
落ちてきた槍を掴み持った立ち姿は、大木をそのまま握っているようであった。
「いくぞ!」
走る堀田先輩の後ろに続く。
どうする? 背丈の差で、大人対子供のようになっている。足? 狙うなら足か。うまくいけばあの高さが災いするかも知れない。
俺は連続的な攻撃をと考え、堀田先輩と距離を詰める。
動かないイザナギに堀田先輩は迫り、あまり振りかぶらず踏み込みは突きのようにして打ち込む。とにかく当てにいっているようだ。
右足か。さすがに、同じ左を狙うには堀田先輩との距離が近すぎる。
そう思ったとき、左に黒い影が見える。
「しまった!」
イザナギの払った槍が堀田先輩を捉え、押され続ける堀田先輩の体が俺と重なるまで払われたのだ。
二人揃って飛ばされ地面に転がる。
「隼人、大丈夫かい?」
「はい」
驚きながら体を起こし膝で立つと、松下先輩から回復が飛んできて二人の鎧がきらきら光った。
動かないからおかしいとは思ったけど、狙っていたのか。あそこまで溜めてから動いても間に合うんだから、槍の回転速度も相当だったはずだ。
それでも、このぐらいの被害で済むところを見ると石付きの防具はやはり伊達じゃない。
立ち上がった俺は、仕掛けずに下がった長三郎と待機していた穂見月たちの方を見る。
霞の技に、誰が乗るのかと。
それに対し、松下先輩が穂見月に合図を送る。前衛でもなく経験があるからだろう。
すぐに穂見月と霞は構え、発動させた。
『ファッファッファ』
イザナギは、地の底から響くような笑い声を出すと、飛んでくる矢の前に左手を出し手を広げる。
風をまとった矢は、霞の属性力に押され落ちずに手のひらを押し続けている。
この隙に。
堀田先輩と俺は、左右から襲い掛かる。もう一度、足だ。
『フッン』
イザナギは、槍を左上から右下に払い堀田先輩をはじく。堀田先輩は後ろに合わせて飛び、直撃は避けたようだ。
よし! こちら側は空いた。
俺は、イザナギの左足へ飛びかかった。
が、イザナギは、矢を抑えていた左手を握りそれをつぶすと、その手をそのまま下へと勢いよく振り下ろしてきたのだ。
矢の威力が弱まり拮抗が崩れたのか? それともそもそも効いていなかったのか?
降りてくる握りこぶしと足に向かう剣が視界にある。
「ウッ!」
次の瞬間、地面に叩かれ跳ね飛ばされた。
なんだろう? 暖かい。
意識が飛びそうになったが我に返る。
「う、うぅぅん」
倒れたまま周囲を伺うと、地面が青く波打っている。相模でネズミと戦った時よりもずっと濃い波。
「っは」
穂見月の属性展開だ。
剣を支えにして俺は立ち上がる。
「穂見月すごいよ!」
「うん、自分でもびっくり。もう少し装置が小さければいいんだけどな。これ、結構重いんだよ」
「あのー。回復したの私なんだけど」
「あ、ありがとうございます松下先輩」
俺は気持ちを切り替えイザナギを確認するが、気持ちの悪い笑み浮かべている。だが、少しだけど手応えはあった。
剣を構え直し提案する。
「もう一度、やりましょう」
「隼人、同じままでは苦しいでチュ」
「霞、属性力がきついのか?」
「ふざけるな隼人。あたいはそんなにやわじゃない」
「じゃあどうしてだよ」
「お主、穂見月の背負っている装備のすごさで行けると思ってるんだろ」
その通りであった。同じことをやれば相手にばれるし、さっき与えた程度では怪我とも呼べないかも知れない。だけどあれは、陽動のために素早く撃ったものだ。しっかり属性展開をしてからやれば、イザナギは矢を止めるだけで精一杯だろう。
「ひょっとして、展開しながら撃てないの?」
「えっと……やったことないけど……」
穂見月が、自信なさそうにつぶやく。
「隼人失礼ね。それは確かに難しいことだけど、穂見月ならできるかも知れない。でもね、一人だけすごくてもだめなわけよ」
松下先輩によると、水属性だけが強化されても風属性がそのままでは、釣り合いを考えるとそれほど威力を上げられないというのだ。
「いい? あんたたちは、一緒にやってきてお互いを知っているから自然に均衡を保とうとしているのよ」
確かに、何ができるのか、何を考えているのか全くわからない人と連携ができるとは思えない。
「隼人、そんなに焦らない。もう少し揺さぶってみよう」
激しい攻撃を受けたにも関わらず、堀田先輩も余裕があるようだ。
「はい!」
今度は、堀田先輩の後ろに長三郎と並んで続き仕掛けることにした。
予定通り、叩かれ役の堀田先輩が吹き飛ばされる。
俺は、上段から体の中央目掛けて剣を振り下ろす。
イザナギは、返す動きで俺を飛ばすが、その腕を長三郎の槍が捉える。
ジュバ!
当たった。
下がる長三郎を援護しようと、霞が手裏剣を次々と投げつける。
イザナギは体を引き、長三郎への追撃はしなかった。
所詮、相手は一人だ。
攻撃できる対象には限りがある。
攻撃で属性展開に乗れる人がいないのは残念だが、回復の厚さがある。このままでも勝てそうだ。
「いいじゃん、いいじゃん。穂見月も矢、撃ってもいいよ」
松下先輩も乗りのりだ。
「やー!」
「とりゃ!」
俺たちは、イザナギに細かい傷を付けていく。
『ファッファッファ』
イザナギを体を見ると、繰り返しつけた傷を回復している様子はない。だが。
「あの……そろそろ」
穂見月のこの言葉で、少し風向きが変わったと気づく。武器も防具もまだ耐えられるが、矢が切れると穂見月は言いたいのだ。つまり、俺たちも消耗しているということである。
「奴め、手も足も普通に動いてるでチュ。順番に回復を受けて続けるでチュか?」
圧倒的な回復量でも、回復対象が二人から三人四人と増えれば松下先輩の負担は大きくなる。それで倒しきれるのか怪しくなってきたのだ。
「まだまだ行けそうだけどな。穂見月の装備、すごい光ってるだけあって上昇効果高いし」
「はい。矢で援護できない分も頑張ります」
俺たち一年の心配が伝わったようで、松下先輩は平気だと強調しているようにも思える。
しかし、堀田先輩は考え込んでいる。
「イザナギは、最初にいた位置からほとんど動いていない。僕たちをもてあそぶためとも思えるけど、あそこから動きたくない理由があるのかもしれない。それに、たとえ動けたとしても門番なら動かない可能性もある」
門番というのは、人間側が付けた通称である。だけど、実際にその場から動かないのは間違いないようだ。
堀田先輩、退却するつもりなのかな?
「少しいいかな? 考えがあるんだけど」
後方で、穂見月や松下先輩を守っていた盛文さんに策があるらしい。
「回復の松下さんにはまだ余裕があるが、娘の矢だけではなく根津さんの投擲武器ももうあまりないはずだ。しかし、致命傷を与えるには連携攻撃の必要がある」
盛文さんは、限られた攻撃回数で一気に詰めるしかないと言い、続けて作戦を授けてくれる。
「まず、その重い背中の拡張装置を外して、穂見月ももっと前に出て共に攻撃に回るんだ。回復の属性展開がなくなった分は大変だと思うが回数で補ってくれ」
「お父さん、私が攻撃に回って威力ある?」
「みんなと同じように防具にも石は付いているし、弓にも付いているだろう。それに後衛の守りがなくなれば僕も参加できる」
「なるほど。じゃあ私も、ぎりぎりまで前に出るわ。槍使いでもあるんだしね」
松下先輩、昔取った杵柄ってやつだな。
「でも、総攻撃となれば失敗したときの被害も大きくなります」
「わかっているよ、堀田君。だが、このまま長引くと下がるしかないだろ? ならば仕掛けようと言うのさ。だめならそのとき撤退すればいい」
「では……」
「もちろん、撤退の判断も含め指揮は堀田君に任せるよ」
「了解しました。引き受けます」
「それじゃあ大一番。僕から行かせてもらうよ」
奴が余裕を見せていられるのもここまでだ。俺たち全員の攻撃が始まる。




