第九十七話 伝言の正体
青い人型は、折った腕をそのまま手のひらをこちらに向け指側を下の方へとゆっくり回す。するとそこに、渦巻く光の玉がボワッと湧いた。
光の玉は盛文さんに向かって飛んでいくが、盛文さんがサッと飛び跳ね避けるので地面に当る。
俺は、その砂煙が広がる地面を見て理解した。
先に進むには倒すしかないと。
「長三郎いくぞ!」
「おう」
俺は前に出て、ぎりぎり届くか届かないかというところで剣を振り下ろしてみる。
サッと青い人型は後方へかわす。
「おりゃ!」
間合いを取り直すため後ろに跳ねた俺に合わせ、長三郎が真っ直ぐ中段を突く。
これも、浮いているだけあって紙風船のように避けられてしまう。
「まだまだ!」
長三郎は槍を引かず、伸びた体制から足を進め体の方を槍に寄せると、避けた人型を薙ぎ払うように槍を回した。
また、槍の風圧に押されるように人型は下がったが、周りを囲んでいる光にかする程度には当たったようだ。穂と柄の間にある石は光っており、効果は期待できる。
「長三郎、下がるでチュ」
長三郎の後ろでは、霞が渦を出しているがこれまでとはちょっと形が違う。
「ほれ!」
霞が縦に巻いていた渦を青い人型に向けると、そこを通すように穂見月が矢を放った。
渦の中で加速され、加えて属性力まで帯びた矢は光に包まれ伸びていく。
俺は決まったと思った。
フッワン! ……ダン!
え?
左上に当たったと思った矢は、青い人型を包んでいる淡く白い光に流されるようにはじかれるとそのまま先にある壁まで飛んで激しく当たった。
「まさか、あの威力で効いてないのか?」
俺は驚く。
木の盾なら砕き、持つ者をも倒していてもおかしくない勢いだったからだ。
「隼人君。どうやらあの包んでいる光は、属性力を受け流すことができるようだ」
あいつの初手は術であったし、だいたい浮いているぐらいだ。盛文さんが言うように、術に耐性があっても不思議ではない。でも、それならどうすれば?
「石付きの武器が揃ったところなのに、どうやら直接攻撃を当てないとだめってことのようですね」
堀田先輩の話に盛文さんが頷くと、俺たち前衛は武器を構えた。
「まずは俺から」
長三郎は突っ込むと、避ける人型を気にせずそのまま走り抜ける。
「左は任せるでチュ」
「じゃあ俺は右に」
正面を堀田先輩と盛文さんに任せ移動すれば、人型はキョロキョロと首を回す。
こいつ、困ってるんじゃないか?
不思議な見た目を気にし過ぎたようだ。
「それ!」
穂見月が山なりに放った矢は人型にゆるゆると、だが真ん中に向かって落ちていく。
そして、人型が仕方なくそれを小さくかわす今が仕掛け時だ。
「やあ!」
「ほい!」
人型は、右から払う堀田先輩の刀を避けようとしたが、霞の後ろ回し蹴りに押し返されかわしそこねる。
「はっ! はっ! はっ!」
傷つき、ではと下がろうとすると、今度は突きだした槍を左右に捌く長三郎に逃げ道を塞がれる。
「終わりだー!」
迷いが見える人型へ俺は飛び、上段から剣を振り下ろす。
『ギャアァァァァーー!!』
一瞬強く光ったそれは、悲鳴のような声と共に消え去った。
「最後は、あっけなかったな」
長三郎と同じ気持ちだ。たぶん、相模でのことを引きずっていたみんなもそうだろう。
「もう敵はいないようだし、一休みしようか?」
堀田先輩がそう言うと、松下先輩が迷わず背負っていた荷物を解きだす。しかし、長三郎は納得できないようだ。
「こんなところで休んでないで、進んだ方がいいんじゃないですか?」
「もう長三郎、わかってないわね。体力だけじゃなくて、連戦なんてしたら集中力が切れるでしょ」
「でも、松下先輩。この先どれぐらいあるかわかりませんし」
「そうだけどさ、いままで三か所の遺跡で日帰りできないほど広かったとかなかったじゃない」
仕方なく腰を下ろした長三郎は、今度は出てきたそれの話をする。
「なんですか? それ」
「なんですかって、お弁当でしょ。だ・か・ら、戦えなかったの」
取り出したのは、竹皮に包まれたおにぎりであった。
いくつかに分けて包んであるし、添えてあるのもたくあんだけだから戦っても崩れないと思うけど。でも、俺たちのために松下先輩が用意してくれたのかと思うとちょっと感動だ。
「松下先輩、ありがとうございます」
俺は、涙をこらえお礼をいう。
「すいません。全部持たせてしまって」
穂見月の言う通りで、ほんと申し訳ないと思う。
「ああ、気にしないで。入るとき急に渡されちゃって、分けてる暇がなかっただけだからさ」
渡された? あれ?
「松下先輩が作ったんじゃないんですか?」
「何言ってるのよ隼人。当たり前でしょ。いやさ、岩根さんって、こういう心遣いする人なんだね」
感動を返して欲しい。
「松下先輩が作るわけないと気がつかぬとは、お主何年一緒に戦ってるんだ」
俺たちまだ一年生じゃん、と思うがそれよりもだ。
「霞。なんだかんだ言って、岩根さんの作ったおにぎり食べるんだね」
「チュ! みんなに被害がでないよう毒味してるでチュ」
遅い昼食と霞の毒味も終わり、お腹が膨れると寝てしまいそうだ。
「そろそろ行こうか」
「はい」
広間へ入ってきた側とは反対側、そこにも階段があり上がれば先に続く道がある。地面に筋が入り光るところは先ほどと同じで、やはり分かれ道もなく沿って進むしかないのであった。
『うっきゃ、うっきゃ、うっきゃきゃきゃきゃ』
両手を上げ、踊るようなしぐさで近寄ってくる者がいる。背丈は俺の半分ぐらいしかないが、顔には深いシワがあり腹がポッコリと出ている。
「また小鬼だね」
「気持ち悪いでチュ」
盛文さんによると、伝承にある人に悪さをする化け物とそっくりな見た目だという。こいつがさっきから湧いて出てくるようになり、間隔も短くなっていたのだ。
「なんだか戦い難いよな」
体が小さい上にちょこちょこ動いて、長三郎は俺以上にやりにくいのだろう。
「だけど長三郎。これだけ出てくるとなると、何かあるんじゃないか?」
俺の予感は当たっていた。
通路が終わると開けた空間に出る。中央には舞台のように一段高くなった場所があり、そこの奥に何かがいた。
細身の人が外套を羽織っているような形をしているが、周りではしゃいでいる四、五匹の小鬼の背はそいつの膝辺りまでしかなく大きさを考えれば比べれば人のわけがない。
ジリジリと近寄って行くとそいつは顔を上げ、逆三角の顔つきに切れ上がった線のような目をこちらに見せた。
そいつは、爪が尖った手を僅かに上げると左右に振り周りの小鬼たちを追い払う。
小鬼たちは、すっと散らばり四方に消えていく。
「どこへ行ったんだ?」
周囲は行き止まりに見える。
「見えない境目でもあるのかもね」
堀田先輩の言う境目があるなら、それが門なのかも知れない。
「お前がここの門番だな!」
もう一歩近づいたところで、盛文さんが強く尋ねた。
「貴様たちに言わせればそういうことになるだろう」
響く声は、普通に喋り答えている。
「道世はどこだ?」
「道世?」
「風の塔の番から聞いているぞ」
盛文さんはあの場所にいなかったのに、直接聞いたかのように話している。
「お喋りな犬め」
「何故、生き返させた? 他の遺跡で起きたことをどうやって知り、運ばせたんだ?」
「まるで我が企みでもしたかのような言い方だな」
「当然だろう。お前たちの世界であっても生死の考え方はあり、それを無視することは容易ではないはずだ。それでも上位の神に願い出、自らがいる場所まで運んだのだから」
「あれはな、小鬼どもが面白がって連れてきただけだ。ここでは暇を持て余すばかり、余興も必要よ」
「そんな戯れのために許せん!!」
盛文さんの怒った声がこだますると、そいつはニヤリとして言う。
「いいだろう、楽しませてくれよ。貴様たちが崇めるこのイザナギが相手をしてやるのだから」




