第九十六話 宮殿
入り口では、隆政さんと岩根さんが待っていた。
「準備はいいかしら?」
「ただならぬ瘴気だ。気をつけるんだぞ」
ハァ、この二人もきてくれたならな。
「それじゃあ、頼みます」
最後に、入れない晴親さんが盛文さんに気持ちを託すと俺たちは中へ入って行った。
周囲を見渡すと木材などで補強されている。金山もこんな感じなんだろうか。
「先の方、ぼんやりですが光ってませんか?」
入って間もないのに、もう何かあるようだ。
盛文さんは堀田先輩の言葉を気にすることなく、そのまま進むと地面中央にある筋状の割れた場所を指さした。
「これだね」
黄色っぽく、僅かだが光っている。
「何でしょうか?」
「瘴気か属性力が漏れ出ているのかも知れないね」
嫌な感じは特にしないし、危険な感じもない。
むしろ、その筋が落雷のように模様を描いているにも関わらず、太い本線のようなものは奥へと続いており導いているかのようにも見える。
どちらにしろ選択の余地はない。少し広くなった上に足元も明るくなって、これが罠だとしたら親切が過ぎるだろう。
「堀田先輩、何もいませんね。ひょっとして、天帝たちが出入りするために倒しておいたとか?」
「うーん、わからないけど隼人。ここでなら僕たちで前を固めて後ろから槍や弓で攻撃してもらえば堅いと思うよ」
二人がようやく並べるぐらいだった通路は、金持ち屋敷の玄関のごとくまた一回り大きくなった。そして、玄関の先には広間があるものだ。しかし、この大きさの広間を備えた屋敷はないだろう。
広間は、自分たちがいる場所と同じ高さの通路に囲まれていて、目の前にはそこへ降りられる大階段がある。そして、驚くことにそれら全部を包む遥に高い天井を、中央にある太い柱が一本で支えていた。
「自然にできたんですかね?」
「どうかな。柱を中心に百尺ありかねない空間だし、それだけじゃなさそうだけど」
堀田先輩と盛文さんは冷静に話をしているが、それどころではなかった。下の広間にも、囲んでいる通路にも魔物がいたからだ。
「この数をいっぺんにか……」
長三郎の言う通りだ。これなら、さっきまでの通路でちょこちょこと遭っておいた方がマシであっただろう。
「待っててくれなさそうですし、下に降りる組と左右の通路へ行く組に分かれるしかなさそうですね」
盛文さんは、堀田先輩に任せると言う。
「それじゃあ、下は僕と霞」
「わかったでチュ」
「右は長三郎と舞」
「了解!」「りょうかーい」
「左は隼人と穂見月で」
「了解」「はい」
「盛文さんは一緒に左へ行ってください」
「承知した」
******
「どうして俺は、松下先輩といつも一緒なんですかね?」
「長三郎は、私とじゃ嫌なの?」
シャ!
走り寄り、蛙の化け物に槍を突き出すと、奥にいた奴までも切り傷が入った。
天帝との戦いでは盾役に徹し、山中教官から石をもらってから初めて使ってみればこの威力だ。人に使わずに済んでよかったと頭をよぎる。
「へー。私は回復だから、このまま頼んだわよ」
「関心してないで、松下先輩も手伝ってくださいよ」
装備の力かも知れないが、敵は大して強くはない。だけど、一人でやるにはちょっと忙しいんだよな。
******
「霞、前に出過ぎないで」
「わかってるでチュ」
あたいは、納得できなかった。
どう見ても敵の数が多い上に、囲んでいる通路より包囲される可能性が高く戦い難い場所だったからだ。
「ここを三人にするべきだったでチュ」
「今更? 霞だってわかってるだろ」
「穂見月と盛文さんを一緒にしたいのは分かるでチュ」
「それだけ?」
「穂見月の相手として隼人は未熟でチュ」
「それは盛文さんに判断してもらうとして、ここは二人でもいいかなと思って。霞が優秀だからさ」
「後半は否定しないでチュ」
「それじゃあ、僕もあれやろうかな?」
「それはできると思うでチュが、堀田先輩は土属性だからこの土竜たちには効きが弱いかもしれないでチュ」
「え? こいつら蛙じゃないの?」
「蛙に鱗はないでチュ」
「それを言ったら土竜にもないと思うけど」
あたいは、さっと体の前に手を出すと直刀と苦無に属性力を溜める。
「あっ、僕も溜めるから少し遅らせてよ。ほんと急だな」
それ!
やあ!
あたいの放った渦に、堀田先輩の力が層をなすように混ざり威力を増していく。
敵は、巻き上げられた石や砂で体に無数の傷をつけられ、次々に倒れていく。
「さすが堀田先輩でチュ。威力も大きいが、隼人より制御されていて初めてと思えないでチュ」
「だろ? これを狙って広い場所を受け持ったんだよ」
「ウソでチュ」
「ええ。霞だって、土竜と勘違いしたこと隠そうとして急に始めたくせに」
「記憶にないでチュ」
その時、意味不明な声がした。
「霞、危ない」
上の通路から穂見月が矢を放ち、少し離れたところにいた蛙かも知れない敵を射たのだ。
ほえ?
全然危なくなかった。いや、離れ過ぎていてどうでもいい相手である。
******
私は叫び、下の広間にいる蛙に矢を放った。
「え? お父さん、何か言った?」
「だから、お父さんはいいと思うぞ。お爺さんにもお婆さんにも会ったんだろ」
「違うって。隼人君とはそんな関係じゃないんだって」
「こうしてお前のこと、守ってくれてるじゃないか」
隼人君の背中を見ながら、お父さんは何を勘違いしたのか私たちのことを応援していると話しだしたのだ。
「穂見月。この出会いを大切に育てていきなさい」
「もう、お父さん。これからの時代はそんなに焦る必要はないんだって」
「あ、左から抜けたのお願いします」
「ほら、お父さん。隼人君を手伝ってよ」
「よし! 任せとけ」
どりゃー!
はぁ。ここの卒業生だけあって、戦いの方は心配なさそうだ。
えい!
これ蛙かな? 気持ち悪いけど、蛇よりはマシか。
******
「こっちは片付きましたね」
「そうだね隼人君。下の広間はまだ少し残っているようだから応援に行こう」
三人ということもあったが、盛文さんは想像以上に強かった。火属性で刀装備だったから当時は花形だったと自慢していただけはある。
それ!
おりゃ!
下に降りても盛文さんは、目の前にいる敵をザクザク切っていく。
やっぱ、石付きじゃないのに一太刀で倒せるなんてすごいよな。
「上は終わりましたか?」
「ああ、堀田君。終わったよ」
そんな話をしているうちに、ここも終わってしまう。
「はあ、はあ、はあ。あれ、終わっちゃった?」
息を切らしながら長三郎も降りてきた。
「遅いでチュ」
「なんだよ霞、しょうがないだろ。こっちは前衛一人なんだから。ハア、ハア、ハア」
「もうー。長三郎だらしがないわね。そんなに息を乱して」
「いや、松下先輩。絶対戦えるでしょ?」
「無理無理。ほら、わたし回復だから」
右も同じぐらいいたもんな。長三郎、可愛そうなやつ。
「ザンネンデス……」
くだらない会話で頬が緩んだとき、小さくぎこちない声が聞こえ目の前に白く丸い光が現れる。そして、三寸もなかったその光の円は、背丈ほどまでの大きさにたちまち広がった。
浮いているそれは、相模の洞窟で会ったもので間違いないだろう。
しかし、中にある青い光は前の膝を抱えたような姿から、こちらを向いている人型になっていた。
「あなたがたは、ゆがみそのものになってしまった……」
おかしい。見た目だけでなく、喋りもすんなりとなりはっきり聞き取れる。
「お前、あん時のやつか?」
長三郎は前と違い、動揺しないどころか強気だ。たぶんもう、振り回されたくないのだろう。
「そうです。あなたたちのようなわかものが、まかされたものとてをくみゆうきゅうのときをおくることこそあたらしいせかいがあるべきすがた」
違和感を持った俺は、長三郎に続き質問した。
「任された者とは天帝のことなのか? あの時といい、あなたは何がしたいんだ!」
「もうおかえりなさい」
「それはできない。穂見月のお母さんを助けないといけないんだ」
「さきにすすむというのなら、わたしはたたかわなければならない」
「どうして? 火の鳥と戦ったときは止めなかったじゃないか」
「もんだいは、たおすたいしょうではない。こうどうのいみだ」
ここで、盛文さんが一歩前に出る。
「天帝に逆らい、先に進むことが歪みと言うことなのか?」
「そうゆうことだ。まだ、おそくはないひきかえせ」
「彼が言ったように、それはできない話だ。それに貴様が歪みと言っているものは、お前やお前が仕えている者と相違的な考えのことを指しているのだろ」
「よけいなせんさくはするな」
「相模の洞窟でちゃんと会話を持たなかったのは、自演か管理者の火の鳥が許さなかったからというところであろう」
「どうしてももどらないというのか?」
「ああ」
「ならばはなしはおわりだ。うらむなよ」
「中間管理職は、どこの世界でもそんなものだろうよ」
盛文さんが鞘に納めていた刀を抜くので、俺たちも再び抜刀した。




