第九十五話 大教室
大教室へ入るが誰もいない。
俺たちは、仕方なく前の方にかたまって座っていた。
「授業じゃ、こんな前に座ったことないよな」
話し掛けた長三郎からではなく、開いた扉の方から答えが返ってくる。
「ならば今日は、目の前で思い切り質問してくれ」
隆政さんがそう言いながら、校長の横木と教官の永倉を連れて入ってきたのだ。
三人は、スタスタとこちらに来ると教壇ではなく通路を挟んだ席に座る。
生徒どうしのように語ろうとでもいうのだろうか?
「こうして黙っていてもしょうがあるまい」
沈黙を見かね、話を進めようと隆政さんが口にする。
俺たちは、戦の前の態度を見て教官たちのことを信用できなかった。だか、聞かないわけにはいかない。
「では、僕から質問させてもらいます」
やはりここは、堀田先輩だ。
「まず、訓練場が本物の遺跡だと知っていたのですか?」
「本物の遺跡だとは知らなかったし、どうやら重要な遺跡のようじゃないか?」
答える永倉は、講堂で話していた時のような威厳が消え失せていただけでなく、逆に質問をしてくる有様だ。
「知っていて、守っていたんじゃないんですか?」
「私たちは命令に従い仕事をしていただけだ。つまりそれは、学校の運営だ」
「言われていなくても、見て気がつかなかったのですか?」
「もちろんだ。そもそも、遺跡の入り口がどこにあったのか聞いていないのだが」
俺たちは、すでに岩根さんたちと入り口を確認している。それなのに、校長たちは聞かされていないのだろうか?
確かに、特火陣地訓練場からは少しずれていた。言うなら訓練場が遺跡ではなく、訓練場は遺跡を守るための出城のようなものであった。
「では、その“重要な遺跡”というのが武蔵にあるということも知らなかったのですか?」
「くどい! そんなこと知ってるわけがないだろう」
土の遺跡と言えないから堀田先輩は遠回しに言っているのに、永倉は怒る始末だ。
話にならない。
「私からもよろしいでしょうか?」
晴親さんに交代だ。
「あなた方が遺跡の存在を知らないとしても、偶然ここに学校ができたとは考えづらいことです。誰か知っている方がいたのではないですか?」
これに校長が、考えながら答えだす。思い当たる節があるらしい。
「誰ということではないのですが、南条家ではないでしょうか」
また、南条家?
「どうしてそのように思われるのですか?」
「警察学校を作ることを進言し、建てた一族だと言われているからです」
「それは、いつの話ですか?」
「最初の施設ができてから、五十年も経っていないかと。実は、南条家が関係していると知ったのは、校舎を新しく建て替える機会があったからなのです」
校長によると今の校舎は二代目で、建て替えるときに最初に建てたのが南条家だと分かり壊す前にご機嫌を伺いに行ったのだとか。その時は、訓練所を触らない計画だったからか、特に注文などもなかったという。
よく考えると、
――思ったより歴史が浅いんだな――
ずっと前からあったような気がする。
警察も学校も。
遠い時代だと思っていた。
武士も刀も。
遺跡や神の力への見方が変わったのも、そんな昔の話ではないということだ。
ガラガラガラ!
勢いよく扉が開く。
隆政さんみたいに音もなく現れるのもどうかと思うけど、この人雑だよな。
らしいと言えばらしい岩根さんは、扉を閉めもせず話を始めた。
「で、どうするの?」
「上の方針は決まっているのだろ」
「まあね」
隆政さんと岩根さんのやり取りを聞いて晴親さんが聞く。
「そう言いますと?」
どうするかとは遺跡の調査のことで、決まっていたらしいこととは俺たち飛山雷鳥隊の六人でそれをやるということであった。
「僕たちだけで行くんですか?」
穂見月のお母さんを探すためには土の遺跡に入る必要がある。とはいえ、堀田先輩が言うように他に誰もこないというのも疑問である。
「雇い主の考えは分からないが、お前たちに任せるということではないか」
隆政さんの話、好きなようにやっていいと捉えれば聞こえはいいけど、実験的に行かせてみるということのように思える。
「しかし、今まで門番と会えば結局戦いになりましたし……」
「門を閉めてしまうことになっても気にしないということだろう」
堀田先輩の不安に、隆政さんは勝てる前提で答えるのであった。
「もういいかな?」
今度は、開けっ放しの扉にもたれながら話してくる人がいる。
九鬼さんだ。
「船の見張りじゃなかったんですか?」
また戦が終わってから来たなと思った俺は、嫌味っぽく言ってしまう。
「まあ、そう言うなよ。それで根津さんよ。彼らが言っているのは、そもそも戦いにならないって話だろ?」
そこまで自信がないわけじゃないけど……。
「そのために、あなたが来たんでしょ!」
「そうそう、そこのくノ一さんが言う通り。だから隼人君だっけ。そう怒るなよ」
船を離れられなかった理由は、松永から預かっていた新装備があったからだと言うのだ。
「ジャーン!」
「この防具、石つきじゃないですか!」
九鬼さんが、部下に運ばせ見せびらかす防具には、武器に比べると小さいが石が付いていた。
「そういうこと。隼人君も納得の出来だろ?」
「九鬼さん。こんないい物あるんなら、戦の前に貸してくださいよ」
「そう言うわけにはいかねえ条件があったんだ」
「条件? ですか」
「土の遺跡に入るときに渡せと。つまり、そこに辿り着く力がなければ貸す価値はねえってことだな」
どうやら松永は、俺たちをここでも試していたようだ。
「でも、本当に俺たちが使っていいんですか?」
岩根さんは俺の言葉にため息をつき、
「だから呼んだんでしょ」
というと、
「預かった装備はお前たちに合わせてあるから、そういうことだろ」
と九鬼さんも続けて言った。
最終調整のため、装備保管庫に装備を担いで移動していた。
「六人分しかないようだね」
心配してくれる晴親さんの分はない。
到着するとそこでは、事前に聞いていたように浅井教官が待っていたのだが、もう一人横に立っている者がいた。
「すまない……」
穂見月のお父さん、盛文さんである。
「君たちに、こんな危険なことをやらせたかったわけじゃないんだ」
僅かに震えているようにも見える。
「装備は、松永様の命令で私が手配していた。製作段階で君たちに合わせるとなったときには止められなく」
そんな盛文さんに穂見月は強く言う。
「お父さん。私、行くよ。知ったからには諦めないから!」
「ああ、分かっているよ。お前は頑固だからな。だけど私も一緒に行くから」
娘である穂見月を止めない理由は分からない。だが、これを聞いて浅井教官が驚き盛文さんの方へ顔を向けた理由は明確であった。
「仁科さん、待ってください。もう装備ないんでしょ?」
「この特殊な装備はないが、私はここの卒業生ですよ。普通の人よりは耐えられますから」
「しかし……」
「もちろん、ここにある中から一番いい装備をお借りしますけどね」
盛文さんは、浅井教官に微笑んだ。
「分かりました」
こうして、俺たち六人の装備と盛文さんの装備の準備が始まると、浅井教官は新しい防具のすごさに調整中ずっと唸っていた。
「それじゃあ、危なそうだったら戻ってくるんだよ」
終わると浅井教官は、訓練場まで移動するための人員輸送車まで貸してくれる。
そして、晴親さんがせめてもと運転する車で土の遺跡に向かうのであった。




