第九十四話 動く軍団
天帝側は立て直すことができず、その後は一方的であった。
俺たちの勝利である。
落ち着いたところで、個人の技術に頼らない戦の形が始まったのだと思いながら丘を登ると、特火陣地訓練場へ到着していた。
「来たわね」
岩根さんが腰に手を当てて、訓練場の入り口に立っている。
「本物の遺跡の入り口だったんですね」
「堀田君たちは、ここで練習もしていたのでしょ? なんで気がつかないのよ」
そう言われても未だによくわかっていないのだけど、ひとまず調査より先にやることがあるらしい。
「あなたたちお友達でしょ? 連れて行ってあげなさいよ」
岩根さんが、顎で遠くにいる人を指しながら嫌味を言っている。
お友達って……。
先にいたのは、捕まっている天帝と柳沢部長であった。
「一般兵は、こちらが主体になって体育館に収容することになったわ。指揮官たちは部隊棟の部屋を割り当てて軟禁するからあなたたちはそれを手伝いなさいってこと」
みんな天帝を拘束する仕事なんてやりたくないだろうし、そもそも顔見知りが少ないから任せられる人がいないらしい。そこで、俺たちに回ってくるわけだ。
「お前たちか」
天帝は、刀などの武器は持っていないが縛られたりはしていない。
俺たちは一礼すると、「では」と両脇を固めるように並び一緒に部隊棟へ向かって歩き始めた。
「料亭での話、覚えているぞ」
校内に入り足元がよくなった頃、天帝が俺に話かけてきた。
その声は、負けたと気落ちするというより抑揚から気が立っていると伝わってくるから我慢をやめたのだろう。
「市民の役に立つことをやりたいと言っていたな」
「はい」
「これが、人々のためになることなのか?」
「土の遺跡には、彼女の、仲間のお母さんがいるようなのです」
「そのようだな。貴様たちに勘違いしないでほしいのは、余も人々を救いたいと願っているということだ」
「でもなんで、それがこんなことになるんですか」
「それは、遺跡の管理を我々がすることが必要だからだ。今の『ひのもと』には、一人の亡くなった者よりも優先しなければならないことがある」
「俺には、穂見月のお母さん一人を救えないで、『ひのもと』の人々を救うことができるとは思えません」
話は噛み合うことなく、伊賀の兵が固めている部隊棟に入っていく。そして中にも伊賀兵がいて、誘導されるまま正面階段を上がり二階の一室まで天帝と柳沢部長を案内した。
ここで軟禁するのか。
そう思ったとき、廊下からガチャガチャ装備が擦れる音が聞こえてくる。
振り返ると、閉められていなかった扉の向こうに複数の兵がいた。それは、頭巾をかぶり薙刀を持っている僧兵であった。
今更? 戦いは、すでに終わっているというのに。
「ここは我々が預かる」
天帝と柳沢部長を案内するようにと言われただけとはいえ、僧兵の言うことには違和感がある。どういうことかと戸惑い、周りにいた伊賀兵の二、三人に目をやった。
するとまもなく、下から部下を連れた伊賀軍の将がやってきて俺たちに言うのだ。
「君たち、ここは彼らに任せるから退室して結構だ」
続いて将が周りを固めていた兵たちにも顔を向けると、彼らは頷き扉から出て行った。
納得がいかない。
そんな俺の腰を、後ろから堀田先輩が軽く押しながら言う。
「隼人、行くよ」
俺は諦め、建物から出る。と、後ろの観音開きの扉が閉められ大きな音を上げた。
……
同じく締め出された先ほどの将がいる。
「大教室へ向かえ。君たちには、元々そう伝えるように言われている」
ボソッと話す様子は落ち着いているが、僧兵が部屋に飛び込んできたときの伊賀兵たちは動揺しているように見えた。
予定と違ったはずだ。
「これで俺たちは命令を果たせたんですかね?」
堀田先輩にこぼした言葉だったが、伊賀の将には響くものがあったらしい。
「軟禁し、警護することが任務であるなら不十分であろう。しかし、彼らと事を構えることは作戦の根底に関わることなのだから止むを得ない」
「味方同士で戦うべきではないとは分かるのですが、どうして後から来た奴らに譲る必要があるんですか?」
「隼人!」
堀田先輩が止めに入るが、将は隠さなかった。
「彼らは、南条家からの書状を持参していた。それにより、天帝の身柄を保護する役目は自分たちにあると」
「南条家って、忠義の臣と評判の武家ですよね」
「僧兵たちを送り込んできたのは戦いに参加するためでなく、天帝側が負けたときに天帝を守らせるためだったのだろう」
「それなら、最初から天帝側で戦えばいいような気もするんですけど?」
……
「まあまあ隼人君。大教室に移動しようじゃないか」
晴親さんが話を遮り止めると、堀田先輩が合わせるように移動を始めてしまう。
もっと聞きたかったのに。
しばらく歩くと、晴親さんから話し出す。
「いや、余程悔しかったんだろうね」
「あの伊賀の将の人ですか?」
「あんなに喋る忍者はいないだろう」
「そうですね。寡黙で頭巾かぶってて、普段は何を考えているか分からないですよね」
「それで、ここだけの話だけど僕が答えると、来たのは僧兵で南条家の兵ではないということなんだ」
「え?」
「天帝側に加わって戦うなら、僧兵じゃなくて南条家の兵が来るだろ?」
「そう……ですね」
「大渕が甲賀兵を使ったり、山縣が伊賀兵を使ったりするのと一緒だよ。誰も直接は前に出てこない」
ああ、そういえば。ここには、議員も役人もいない。
この戦、天帝の正規軍対謎の軍団なんだ。
南条家は戦には関係ない。だが、天帝の保護は内密にしたということか。
「何となくですけど、分かりました」
僧兵が正規軍と扱われないように、伊賀兵も使われていただけだ。だから、何故正規軍として加わらないのかという質問で将は寡黙に戻ったのだ。
本校舎に入ると足音だけが廊下に響いた。




