第九十三話 変わる戦
会議が終わり、自分たちの車に戻ると装備を付ける。
「どんどん行っちゃってますけど、俺たちはどの辺に加わればいいんですかね?」
本陣の設置はしているが、すぐ決戦ということで天幕を張ったり柵を作ったりしているわけではない。なので、兵たちはとっくに移動を始めていた。
「一番後ろでいいんじゃないかな。何にしても隼人、前に出ることないよ」
堀田先輩によると、学校に詳しいことと遺跡の発見を期待しての同行ということで、兵力も十分だからと戦わなくてもよいと言われたらしい。
さっき見た作戦図でも、綺麗に敵と向き合って並んでるだけで小細工もなしのようであった。
音が聞こえてくる。
最前線では戦闘が始まったようだ。
車が進むにつれその音は大きくなるのだが、声ともう一つ、鉄砲の火薬がはじける音が多分に混ざっている。
「意外に厳しいようだね」
晴親さんの推測通り、前線が膠着していたため俺たちはかなり前の方まで来ていた。
「車はこの辺で置いて様子見でいいですか?」
堀田先輩が晴親さんに確認を取る。
「僕は実戦経験がないからね。君たちに任せるよ」
指揮を任された堀田先輩に続いて前線まで行けば、丘のようになっている場所に設置された天帝側の陣地が見渡せる。しかしこれは、相手からもこちらが丸見えということだ。
ここを越えれば特火陣地訓練場の本体とも言える遺跡を模したところなわけだが、ウサギの住みかようにあちらこちらに穴を掘り敵は隠れている。
「なるほど。あの斜面に連なっているのは確かに特火点と言えるね」
晴親さんによると、穴の淵を土嚢や石を使って固め、兵はそこで鉄砲を構え待ち伏せしているのだとか。
前に来たときは、こんなもんなかったのにな。
「それだけじゃないでチュ」
霞は、特火点以外にも問題があるというのだ。
「どうやら鉄砲隊は風属性を展開して、威力より飛距離を稼ごうとしてるみたいでチュ。同じ風属性として好きになれない連中でチュ」
「霞も風属性なんだから威力が上がっていいんじゃないの?」
「隼人はやっぱりアホでチュ」
「なんだよ!」
「あたい以外にも、伊賀甲賀には風属性の者が多いでチュ。だから風属性を展開されている丘では確かに威力が上がるが、これでは近寄れないでチュ。いま必要なのは火力ではなく、近寄る方法でチュ」
「霞の言うことはわかったけどさ、じゃあどうすればいいの?」
「敵の属性展開を上回る属性展開をすればいいでチュ」
俺が考え込んでしまうと、松下先輩が霞に聞く。
「そりゃそうだろうけど、誰が属性展開するのよ? あんたの家の人たちだって、属性展開できる人がいてこれなんでしょ?」
「それはでチュね……」
霞が困っていると、晴親さんが助けに入る。
「天帝の兵は少ないけれど、さすがに精鋭揃いだからね。最初から鉄砲と属性展開を組み合わせるつもりでやってるわけだし、戦線を崩せるまで展開を上回り続けさせることは難しい状況なんだよ」
「鮫吉はどう思う?」
「うーん。特火点は横一列に配置されてるから、どこか一か所壊せればそこから侵入して崩せそうなんだけどね」
兵たちも属性装備を着けていることや、威力より飛距離重視の攻撃により受ける被害は大きくない。しかし、このまま波状攻撃をしても戦闘不能になる味方が増えていくだけだ。
そんな手詰まり感漂う時だった。
「霞、なんか光ってるよ?」
穂見月が、霞の腰の辺りを指して言う。
「おお、穂見月。これを使うでチュ」
霞はそう言って、腰に差していたヤツデの形をした団扇を取り出した。
「ええ、どうしろって言うのよ?」
ボワッ ボワッ と、強弱を繰り返しながら、団扇の光は段々強くなっていく。
そして次の瞬間、その光が辺りを白くしたかと思うと天狗が現れたのである。
「ワシの力を使うがよい」
天狗が喋ると、霞が話に乗っかる。
「ほらほら言ってるでチュ。穂見月、背負っている装備で天狗の力を展開するでチュ」
「あの、私、水属性なんですが、天狗さんは風属性じゃ?」
戦った経験上、天狗は風属性のようであった。
実はこれが、穂見月の装備で展開できるのかということよりも大きな問題であった。それは、風属性の展開が問題のところに風属性を展開しても何も変わらないからである。
「大丈夫だ。ワシが展開したら、一点突破の総攻撃だ」
「わかったでチュ。伝令はやるでチュ」
霞が去ったあと、俺と長三郎は借りた盾を使ってぎりぎりまで前に出る。
「なし崩し的になっちゃったけど、私知らないからね?」
後ろでは、団扇を受け取った穂見月が背中の装備を光らせる。
キン! カン!
「二人とも頑張って」
堀田先輩の声援と、松下先輩の回復が飛んでくる。
「なあ隼人?」
「なんだよ。こんな流れ玉で死にそうなときに」
横に並ぶ長三郎が、急な話を振ってくる。
「お前さ、保田先輩のこと好きなの?」
「はぁ? 確かに……ちょっとかわいいと思うけど」
「じゃあ、この戦いが終わったらとか考えてる?」
「何言ってるんだよ。長三郎こそ、保田先輩のことどう思ってるんだよ?」
「いやいや。俺は、保田先輩のこと何とも思ってないし」
「ああ、お前はお姉さんみたいな人がいいんだろ? 松下先輩みたいな」
後ろから冷たい波が漂ってくる。
ため込んだ装置から漏れる属性力と、穂見月の“こんなときに何話してるんだお前ら”という冷たい波である。
「わかったわ」
「違うんだよ穂見月」
……
「天狗のやりたかったことが」
あ、そういうことか。俺、間違って返事しちゃったよ。
「それ!!」
穂見月が属性力を展開させると、周辺が感じたことのない空気に包まれる。
「これは?」
静けさの中、俺がつぶやくと答えが返ってくる。
「負の展開でチュ」
本体まで走っていた霞が戻ってきていた。
ワアーーーーーー!!
そして、その向こうには静寂を破り突撃していく伊賀の兵たちが見える。
「これで勝負ありでチュ」
穂見月の能力では範囲が限られていたが、そこに掛かった特火点へ集中して駆け上がることで敵の防衛線は崩れたのである。
負の風属性展開は伊賀軍の弱体にもつながったが、白兵戦になればそれを埋める技術を彼らは持っていた。
「俺たちは行かなくていいんですかね?」
「もう終わるよ」
迷う俺を、晴親さんは止める。
「ふぅ、久々に力を使ったわい。ワシはそろそろお暇させてもらうぞ」
そして天狗は続けて言う。
「お前たちの探している者は土の遺跡にいる。行くのだろが、ワシが力添えをできるのはここまでじゃ。さらばだ」
天狗は消え、宙に浮いた団扇も光ると続いて消えた。
「伊吹山に寄って良かっただろ?」
堀田先輩がしてやったりとお国自慢をするが、伊吹山の半分は近江国である。
「騙されて行っただけなのに調子がいいでチュ」
猪を倒したからだったか食べられなかったからだったかは忘れたけど、礼にしては天狗の貸してくれた力は羽振りがよかった。




