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第九十九話 刀と武士

「それじゃあ行くよ」

 盛文さんを先頭にして、俺と堀田先輩が続く。

『フン!』

 イザナギが槍で払う。

 盛文さんは刀の腹を槍の柄に滑らせるように当てると、槍の動きに合わせ軽く跳ね飛んだ先で体制を立て直す。

 囮になってくれたのだと思っていたのに受け流すなんて。

「やあ!」

「それ!」

 イザナギは、倒れなかった盛文さんが気になったようで、俺と堀田先輩の攻撃をかわしそこねる。

「いけ、長三郎!」

「おう!」

 キン!

 続いた長三郎は槍を光らせ、イザナギと槍で押し合う形となった。

「うぐぐぐぐぅ」

 堪えているとはいえ、今にも押しつぶされそうだ。

 しかし、その隙に霞が仕掛ける。

 深く踏み込み逆手に持った直刀で脇腹を切ると、回転して左手の苦無をへその右辺りに突き立てた。

 鮮やかな連撃に、案山子と戦った時のことを思い出す。

「えい!」

『うぬぬ』

 近距離で放った穂見月の矢がイザナギの目に刺さる。弓で光っている石は、皮肉にも天帝から預かったものだ。

「はっ!」

 思わず手を顔に寄せてしまったイザナギを見て、走り込んできた盛文さんは刀を横に倒し胴を切りに行く。

『ガアアア!!!!』

 盛文さんの刀が当たろうかという一瞬だった。

 イザナギが、地が揺れるような大声をあげる。

 なんだ?

 盛文さんは吹き飛び転がっていく。

 術なのか? 気合で飛ばしたようにも見えるが、そんなことができるのか?

 俺たちは威圧的な空気に驚き、凍りついてしまう。

「ぐぁ」

「長三郎!」

 そして俺も。

「あ!」

 イザナギが片手で振り下ろしてきた槍をかわそうとしたが、僅かに当たったそれは俺の小手を砕いた。

「立ち止まっちゃだめだ!」

 堀田先輩が叫ぶ。

「鮫吉!」

「わかってる」

 松下先輩が撤退を即すが、急に動きが荒っぽくなったイザナギの前に機会がない。

「穂見月、下がるでチュ」

「うん」

 ドン!

 穂見月の前に出た霞が、腕を返すイザナギの手の甲に叩かれその場に転がる。

「霞!」

 穂見月の声が響く中、イザナギは右足で転がる霞を踏みつけようとしている。

 耐えられるのか?

 あの叫び声の後から、イザナギの体も武器も瘴気に包まれたのかおかしな力がある。俺たちが属性力をまとうようにだ。

「なめるな!」

 霞は、手に持っていた直刀をイザナギに投げつけると同時に体を転がし、そのまま反対の手を軸にして体を起こすと空中で回転するということを二回繰り返して離脱した。

「鮫吉、長三郎を。隼人も下がって」

 俺も下がり、穂見月と霞が合流するころ。堀田先輩と松下先輩が倒れている長三郎の回収に向かう。

「鮫吉、長三郎をお願い」

 松下先輩に言われ、堀田先輩は長三郎の体を引きずりながら下がろうとしている。だが豹変したイザナギは、先輩たちを逃すつもりはないようだ。

『ガアア』

 イザナギは、振りかぶった槍をただ真っ直ぐ振り下ろす。

「はぁああ!」

 ゴキン! ドン!

 松下先輩が長三郎の槍を拾い、振り下ろされてくる槍の横を叩き僅かに筋を逸らす。

 地面を叩いたイザナギの槍が土埃を立てる。

『ガアアアア!』

 イザナギは吠え、再び槍を高く掲げる。

 もはや構えもなく、怒りに満ち溢れただけのイザナギは隙だらけに見える。しかし、俺たちは瘴気に包まれた奴ととても戦える体ではなった。

 ……

「これで終わりだ」

 そんな時に聞こえた、妙に落ち着いた一言であった。

 イザナギの体を前に飛ぶ盛文さんは、左肩を前に出し刀を中段に構え刃を水平にして奴に向けている。

 そしてその刃と奴のあいだには、穂見月が背負ってきた装備があった。

「ふん!」

 赤く光った刀が、展開装備の中央に深く突き刺さっていく。

『おしいな。だが、浅知恵と勇敢さを履き違えるなよ人間』

 イザナギの後ろに、さざなみを打ったような空間が現れる。色はないが背景の歪み具合から見て間違いない。おそらく門と言われる境目で、小鬼が消えた仕掛けはこれだ。

 自分も逃げようというのか?

 予想に反し、さざなみの方から人の腕が出てくると、その左右の腕はイザナギの首に抱きついた。

『なに!』

 イザナギも想定していなかったのか、驚く様子を見せると体を前に戻す。そして引きずられるように一人の女性が出てきたのだ。

「お母さん!」「道世!」

『おのれーーー!』

「さあ、いまのうちに」

「だめだ。お前は穂見月と帰るんだ」

「いいえ。わたしも戻ることはできません。所詮、神の力で与えられた偽りの器。瘴気のない場所では消え去るのみです」

 そのあいだも、盛文さんの刀はどんどん赤さを増す。

「もう一度会えるのではないかという希望が捨てられず過ごしてしまいましたが、みなさんのおかげでもう思い残すことはありません」

「お母さん!」

「穂見月、最後に会えてよかった。早苗を守って」

「お父さん!」

「お前の言う通り時代は変わる。これからは自分のために生きろ」

『ううぬ! どうしてわたしだけいつも……』

 イザナギの言葉も途切れ、目に写すことができない強い光のあと爆風が体を押し付けた。


 ……砂煙が消えると、お爺さんが座椅子で居眠りでもしているかのようにイザナギはへたり込んでいる。

 一方、盛文さんと道世さんを見ることはできない。

「お父さん! お母さん!」

 穂見月は両膝をつき呆然としている。

「戻るよ」

 防具はぼろぼろで、俺たちも瘴気にいつやられるか分からない。属性力の残りも少なく、霞なんて全ての武器を使い果たしてしまっている。

 だけど、優しいと思っていた堀田先輩のことを、これほど冷たいと思ったことはない。

「はい」

 穂見月は、かすれた声で返事をしてから立ち上がった。

 帰り道、長三郎も何とか歩くことができ、イザナギを倒したためか他の者が襲ってくることはなかった。

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