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第九十二話 帰還

 俺たちは、学校の目前で布陣する伊賀軍の中で待機していた。

 隆政さんによると、天帝の部隊は学校内で守りを固めていて外には出てきていないらしい。

 一方こちらは、甲賀の部隊も到着しつつあった。

「戻ったでチュ」

 本陣に様子を見に行っていた霞が戻ってきた。

「兄様によると、天帝の部隊は学校の北側、訓練場の辺りで陣を張ってるらしいのだ」

「北の丘? 被害が出ないように、気を使ってそこに陣を置いたのかな」

「いや鮫吉、被害を心配するならここで戦うなって話でしょ」

 松下先輩の言う通りだ。なら、単純に陣を置く場所がなかったからとかだろうか。

「その訓練場というところは、どんなところなんですか?」

 晴親さんが、学校に詳しくないのでと尋ねてきたのだが、

「だだっ広くて何もないところかな」

と、長三郎が答えるので不思議そうにする。

「我々が学校を挟んで南側にいるのに、そんな北側に陣を張るだろうか?」

「それなら兄さん、校舎を盾にしようとしているとかじゃない?」

「単純に戦に勝てば良いのならそうかも知れないけど、土の遺跡を他の勢力から守るために来てるんだから遺跡がそこにあると考えるべきではないかな」

 晴親さんは、裏付けになる情報が欲しいと霞に聞く。

「根津さん。相手の部隊配置、もう少し詳しくわからないですかね?」

「わかるでチュ。本陣に置いてあった地図を黙って写してきたでチュ」

 早く言えよと思ったけど、そんな勝手なことをしても怒られないのかな?

「うーん……。本校舎から、かなり北西に離れているね」

 横から覗き込んでいた堀田先輩が気がつき、晴親さんに説明する。

「一番西側にある、特火陣地訓練場を前にして布陣していますね。普段、使わない訓練場ですし、公開されることもないので学校の資料などにも載っていない場所です」

 そんなところもあったなという感じで長三郎も思い出したようだ。あの、イライラが募るだけのつまらない場所である。

「なるほど。それなら、学校に入れそうだね」

「晴親さん、それは」

「うん、堀田君。僕らの部隊で様子を見に行こう。他の生徒に会えれば情報もあるかも知れない」

 この後、本陣の隆政さんに許しをもらいに行くと、開戦の前までに戻ることを条件に許可が下りる。

 みんなは無事でいるだろうか?

 俺たちは、人員輸送車一両で学校へ向かうことにした。


 正面切って進むと、敵と遭遇することなく正門前まで到着してしまう。

「さすがに門には見張りが立ってるか」

 運転している堀田先輩は、そう言いながらも気にすることなく門まで進む。

「ここの生徒か?」

 止まり窓を開けると、門衛に学生証を提示した。

「入って良し!」

 門は開けられ、調べられることもなく車は進入できる。

「ここまで来られた状況もそうだけど、統合局の車でない時点で止められないとは不思議だね」

「まさか晴親さん。罠ですか?」

 両脇にある並木に、入学のときのことを思い出していた俺は驚いて尋ねた。

「それはないと思うけどね。捕まえるつもりなら、とっくにやっているだろうし」

 車寄せまで行くと、こんな時に客も来ないだろうからとそのままとめて本校舎への階段を上がることにした。

 本当に誰もいないな……。

 校舎に入っても人気はなく、晴親さんの提案で教官室へ向かうことにした。校長に直接会って話した方が早いということだ。

 トントン

 教官室の扉を叩き開けると、学科の永倉教官や一緒に京まで行った浅井教官、それに俺はよく知らないけど治療・回復学科を教えている細川教官と勢揃いしている。

「あの、横木校長に会いたいんですが?」

 堀田先輩が誰ということなく声をかけると永倉教官が取り次いでくれ、隣の校長室で横木校長と話す機会が与えられた。

「時間もありませんので本題に入りたいと思います」

 さすがにここは生徒の俺たちではなく、晴親さんが話すことになった。

「ここにいます彼らは、私と共に天帝と戦います」

 これに横木校長は平然と答える。

「非公式ながら、あなた方が逆賊と手を組み来るだろうとは聞いていました。しかしそれは、我々には関係のない話です」

「生徒が巻き込まれ、学校内で起きているのにですか?」

「学校は統合局の下位機関ですし、我々はただの職員です。敷地の一部を使用すると通知を受ければ従うだけですし、あなた方についても任務で派遣されている最中ということだけです」

「これから戦が起き、教え子の命が危険に晒されるのに教官として何もなさらないのですか?」

「他の生徒たちは寮で自習ということになっています。戦いに関わらないことが彼らにとっての安全です」

「では、飛山雷鳥隊や沙羅双樹の二人は見捨てると?」

「いいですか晴親殿。あなた方が任務中で学校の指揮下にないから何をやっても学校にお咎めがないのです。我々にできることはありません。お帰りください」

 つまり、教官や他の生徒が手を貸せば、学校全てが天帝や統合局に離反したことになってしまうから力は貸さないということだ。教官たちの保身のようで納得はできないけど、他の生徒を巻き込みたくはない。

 俺たちは、得るものもなく来た道を帰ることになった。

「浅井教官まで無視かよ! わかってくれると思ったのに」

 帰りの車内で長三郎が怒っている。

「しょうがないよ長三郎。彼らは雇われの身。言われたことを教えるのが務めなのだから」

「だけど兄さん……」

「門衛が車を止めなかったのもそこだろうね。おそらく、学校が中立であることで生徒に手を出せないんだよ」

 天帝の兵が生徒に手を出せば、学校側が天帝と戦う理由がついてしまうから見逃したらしい。俺たちを通したことで安全が保障されればますます学校はこちらに協力しづらくなるというわけだ。

 腑に落ちないまま、隆政さんのいる本陣まで戻るしかなかった。


 本陣では、作戦会議のために見たことがない装備の者たちが集まっていた。

 緊張感があふれる中、堀田先輩が報告をする。

「やはり協力は得られなかったか」

 その後は、地図上に駒が並べられていくのを見ているだけである。

 伊賀と甲賀の部隊が前面に並んで、僧兵の部隊が後詰か……。

 おまけの俺たちは当然駒にすらなっておらず、伊賀本体正面の部隊について行くだけである。そして、殻先輩と保田先輩は岩根さんに引き続き協力することになった。

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