第八十三話 根津家
「伊賀国に入ったでチュ」
抜け道なのか山道の景色は変わらず、霞に言われなければ分からない。
「地形から想像できないけど、どんな城があるのかな。やっぱりカラクリとかあるの?」
「隼人はバカだな。そんなものあるわけないでチュ」
「うっ」
「それに城には行かないぞ。うちに行くのだから」
「あー、そうなの?」
「根津家は一家臣に過ぎないし、遺跡の調査も依頼の一つに過ぎない」
話の通りとはいえ、着いた場所は普通の家……いや、茅葺き屋根に土壁と、ちょっと時代錯誤の家であった。
地元の有力者らしく広さはあるから人員輸送車も楽々入れるけど、この建物の前にこの車は似合わない。
降りて眺め、そう思うのである。
「泰政様がお待ちです」
「うむ」
家の者がこちらに話しかけてくると、霞が小さく頷き答える。そして、俺たちを広間まで先導する。
こういう部屋はちゃんとあるんだな。
「おまたせしました」
若い男が入ってくると、その者は一段高くなっている畳敷きの場所ではなく、俺たちと共に板の間に座った。
「どうぞ、足を崩してください」
実は、松永と会った部屋とは違い客人が座る側は板敷きなので、足が痛いなと思っていたところであった。
「兄様、戻りました」
「うむ」
霞がかしこまった挨拶をしていてるのがおかしくて吹き出しそうだ。
「みなさん、霞がお世話になっております。私は三男で根津泰政と申しまして、松永様からの依頼を担当しております。また、当主の昭政は城での勤めにあるので挨拶はまたの機会にさせていただきますことご了承願います」
しっかりしてるなー。それに霞と違って顔もきりっとしてるし。
「では早速で申し訳ないのですが、依頼について話をさせていただきます。まず、調べていただきたい風の塔と呼ばれる建物のことです。それは昔からあり、どう見ても木造の塔なのですが、長い年月を経ても痛んだり崩れたりしない特別な力が働いている遺跡なのです」
「意外ですね」
堀田先輩が口にする。
「塔と呼ばれるのは隠語ではなくて、本当に塔だからなのですね」
「はい。しかし、大きさも高さも桁違いで普通ではありません。ですが、外から見る限り塔としか言いようがないのです」
「でしたら、調査は十分されていそうなものですけど? 昔から存在も知られ、外から見えるというわけですから」
「それが……構造は現地で見ていただければわかると思いますが、端から端まで調べても門が見つからないのです」
門? 吹雪さんもそんなこと言ってたよな。
火の鳥が門番で、門と言われる結界のようなものがどうとか。
「なるほど。では、その門を探すのが依頼なのですね?」
「はい、堀田さん」
「しかし、瘴気の方はどうなのでしょうか?」
「わかっている範囲ですが、瘴気はあまり濃くありません。統合局の装備でしたら十分かと」
まあ、火の洞窟ときは耐えられたんだから、門まではいけるってことなんだろうな。と、そう言えば、あの後どうなったんだろうか?
ちょっと聞いてみることにした。
「あのー、門を探せば門番と会う可能性もありますよね?」
「もちろんあるね。でも門の場所が分かればいいから戦う必要はないよ」
「そうですか。それで参考までに聞きたいのですがあの後、火の鳥との戦いはどんな感じになったのでしょうか?」
「聞いたところだと、特に問題なく倒せたみたいだよ」
聞いたところ? みたい?
「隼人、あの時戦ったのは、隆政兄様だぞ」
「そうだったけ? ほら、頭巾被ってたからわからなかったんだよ」
「隼人、お前はバ……、うっうん。まあ、そのための頭巾だからな」
あれ? 霞、咳払いをして納得したんだけど。
「それで中条君、何か気になることでもあったのかい?」
そこにいなかったのか。でも、とりあえず確かめるかな。
「火の鳥が現れてからはすぐそこを離れてしまったのでわからないのですけど、その前に青い光りを見たんです」
「ほぉ」
「光りの中に人型の影があって、それが俺たちに話しかけてきたようなんです。でも、途切れ途切れで聞き取れなくて」
「なるほど。たぶんそれは、別の神の使いだろうね。火の鳥が現れる前にと接触したかったのか、逆にその青い光りが接触しようとしたので火の鳥が現れたのか」
「何かを伝えようとしたからですか?」
「もちろんそうだろうけど、姿を見せたり話したりする理由が君たちにとって良いものかはわからないよね」
ふむ、確かに。何か神秘的でいいやつっぽいというだけで、正しいことを言うかはまた別だもんな。
一通り説明が終わったところで、泰政さんが同行させたい者がいると言う。
泰政さん来ないっていうから他に案内役かな?
「失礼します」
礼儀正しくハキハキした口調で挨拶すると、彼は広間に入ってきた。
河田!
小綺麗に感じるのは、前に会ったとき盗賊だったからか場所があそこだったからか……。
「まるでお化けでも見るようだな、中条」
「そりゃ河田、あんなところで一人になれば心配にもなるさ」
「心配か。何にしても、今回は隆政様の命令だから同行させてもらうからな」
様って、どうやら仕えているようだ。盗賊のときといい、どうしたらそうなるんだ?
翌日、霞の家の人員輸送車を借りて風の塔へ移動していた。
今日は三輪車の追走はなく、名実ともに堀田先輩が隊長であった。それは、泰政さんから風の塔の魔物は瘴気が薄いからか弱いと聞いて、橿原の駅に学校の迎えが来なかったことを調べたいと山中教官が抜けてしまったからである。
厳島もそうだったけど教官たちって、ここ一番という大きな時に限って調査に参加しないよな。




