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第八十二話 多聞山城

 赤い顔、盛り上がった髪は後ろに風でなびくかのごとく。

 それは移動中、霞から聞いた話よりも鬼の様相であった。

 俺たちは今、大和の守護・松永まつなが長久ながひさの前に座っている。

 一段高くなった殿様の場所から話してくる態度から、俺たちが対等に扱われていないと感じる。

「お前たち、山縣のところへ忍び込んだんだろ?」

 松永と話すのは堀田先輩である。

「はい」

 一通りのできごとは知っているようだし、否定することもないのだろう。

「大渕が抱えている忍びの者で十分なのに、言われておかしいと思わなかったのか?」

「思いましたがそれは、僕たちにやらせたい理由があったからですよね」

「その通りだ」

 松永は口元がニヤっと動いた。

「お前たちに、盛文の嫁にあったことを伝えたかったわけだ」

「えっと……どうしてですか? あ、すいません。その私、盛文の娘で穂見月と申します」

 黙っていられない穂見月が勝手に喋る。

「なるほど、貴様が娘か。まあそれは少し待て」

 そう言うと松永が再び堀田先輩の方へ顔を向けるので、堀田先輩が質問をし直す。

「しかし、それも真実ではないというお話ですから僕たちは呼ばれたのですよね?」

「ああ、だが他に知ったこともあっただろ?」

「はい」

 事故死であるということが嘘であるとわかったとき、俺たちは瘴気の存在を知ることになった。そしてそれは、警察学校で教えられなかった属性装備の意味を知ることになり、神や神の使いなどの話になっていった。

「そしてお前たちは、遺跡探しに任命されることになるわけだ」

 松永の口から遺跡探しと言われ、堀田先輩は言葉に困り硬直している。

 不自然な沈黙の後、堀田先輩は言葉を返した。

「そういった任務があるとしたら、大渕議員により知ったことが真実と異なるという話はないと思うのですが」

「その通りだ。だが、順番が違うのだ。天帝も柳沢もそんなに暇じゃない。大渕ごときが動いたからと焦ってお前たちを取り込んだりはしない」

「どういうことですか?」

「最初から天帝側も、お前たちを使うつもりでいたということだ。神宮院の大渕、そして元老院の俺、皆考えることは近いということだ。同じことをしようとするから相手の行動を非難できない」

 だから俺たちが事務所に忍び込んだこととか、武器を持ち出したことは不問だったのか。

「で、娘の話になるわけだ」

「なるほどな」

 山中教官がいきなり声を出し、そして続ける。

「その道世という者、神がわざわざ生き返らせたぐらいだ。何か特別な理由があるはず。そう考えた各勢力の政争の具になったわけだ。そして、神託部の警察学校にいる娘を利用しようとなる」

「尼子家の山中か。教官として黙ってられないとでも?」

 一般市民の穂見月ならともかく、他家の家臣である山中教官が大名の前で取る態度ではないようだ。

「まあよい。それで俺からの話だが、盛文から聞いているように自分たちで母親を助けに行けということだ」

「助けにですか? 僕たちも助けたいとは思いますが、何故松永様がそのようなこと?」

 堀田先輩が聞くように、今までの流れだと松永も得るものがあって言ってるはずだ。

「俺たち元老院の基本的な考えはな、神に頼らない世界なんだよ。もちろん使える力は使う。だが、やつらの下で動くという事ではない。これを接点とし、神を後ろ盾にして実権を握ろうとする神宮院とは違う」

 正直、穂見月のお母さんを助けられれば元老院の都合などどうでもいい。でもやっぱり、穂見月をそれで危険にさらすのはおかしい。

 俺は反論する。

「しかし松永様。その行動は天帝の意思ではなく、逆賊になる可能性があります」

「いいのか? 天帝やお前のとこの柳沢は、世界を維持するためには神とのつながりが必要だと考えている。つながりを捨てられない奴らは、救出のための行動は絶対に取らないぞ」

 助け逆賊になるか? 安寧を守る天帝の忠臣になるか? それを選べということなのか。

 迷う俺たちを松永は押してくる。

「知ったからには、いる場所が分かれば行くだろ?」

 脅されたからではなく、もう行かざるを得ない状況だと認めろということだ。

「松永様。わかればと仰るが、わからないのですか?」

 くじけない山中教官がまた突っかかっていくけど、松永も場所を知らないのか?

「ッハッハッハッ。そうよ、山中。だがな、協力はできる。そして、逆賊にもならない理由がそこにある」

 自信たっぷりの松永も知らなかったとは驚いたが、逆賊にならないとは?

「盛文の嫁がいるところは瘴気あふれる場所で、今まで探索が進んでいないところだと思われる」

「松永様それは!」

「そうだよ堀田。土の遺跡さ」

 天帝の勅命は土の遺跡を探すこと。救出の先も土の遺跡なら見つけるまでは天帝に背いたことにならない。だから逆賊にならないのか。でもそれでは、松永たちは何をするんだ?

 山中教官も不思議がる。

「しかし、遺跡探しならそちらでもやっているでしょう? それに協力とはこの話のことでしょうか」

「山中、協力とは、お互い様ということだろ? 土の遺跡の場所を探すこと自体は俺の願いを聞いたわけではあるまい。盛文の嫁を助けることが、この情報を与えた意味だ」

「では、この先の協力とはなんでしょうか?」

「物資だ。先ほども言ったように、俺たちは神の下につくつもりはない。だから瘴気に対抗すべく研究や開発をしている」

 そういや厳島で桃さんに言われたな。装備は不完全だって。

「つまり助けるための装備や道具ということですか。それでそれは何と引き換えたいのですか?」

 これじゃあ協力と言っているけど取引だよな。

「そうだな、風の塔の調査に協力して欲しい。まあそれもお前たちの予定の内だろうが」

 松永は山中教官の話を否定せず、俺たちの行動を知ってると言わんばかりだ。

 けど、前から確認されている風の塔なら、それこそ自分たちでも調査しているのでは?

「では調査のために装備を支給していただきたいのですが」

「風の塔の濃度なら、持っている装備で耐えられるはずだ。むしろ今、人や物を直接動かしては逆賊になってしまい捜索できんだろう。それに救出活動をやるためには、もっと性能を上げる必要があると考えている」

 先に貰っておこうとする山中教官の話を松永は断った。

 どうやらまだないらしけど、本当にそんなものが作れるのだろうか?

 そして松永は最後に、

「風の塔の調査は伊賀の根津家が指揮を取っている。そこで我々が開発した装備の能力の一端を見ることができるだろう。合流して調査をしてくれ」

と付け加えた。


 この日、俺たちは城下町の旅籠で休むことになる。

 しかし盛文さんは「私にも、やる事がある」と城に残り、もう会いに来ることはなかった。

 そして翌日、塗装が違う新たな人員輸送車が旅籠まで迎えにくる。根津家からの迎えの車であった。

 車は、俺たちが乗り込むと伊賀に向けて発車する。

 幌に囲まれた荷台から、後ろを眺め穂見月のことを思う。

 何も言わないけど、もっと盛文さんと話したかったに違いない。

 そんな穂見月と顔を合わせるのが怖く、ちょっとだけ視線を動かせば霞が見える。

 だが霞も、松永の口から家のことが出たからか、いつものようには喋ってくれなかった。

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