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あちらの世界の医療事情

 結局、制度としてはトリアル国のものを基本にして、両世界の実情をすりあわせをしていくことに決まった。

 これはトリアルの生活水準が百年以上も変化しておらず、制度もトリアルの実情に合わせて最適化されていることに対して、日本では技術の進歩が激しくて制度の方がそれに追いついていないことが大きな原因であった。それこそロロルトが激怒していた原因であるし、経済崩壊を引き起こした原因の一つであるタックスヘイブンのように地球の制度のあちこに抜け穴があることは、ニュースに目を通していた人なら誰でも知っていることである。

 一部の既得権益を死守したがる輩以外は、この決定を素直に受け入れた。

 むしろ当時はこれに異を唱えるのは腐敗した奴だと叩かれる風潮すらあった。

 魔法という強大な力を持ちながら、日本にやってきたトリアル人のほとんどが礼儀正しかったのもこの流れを後押ししていた。口うるさいと煙たがられていたロロルトだって、口うるさいだけで礼儀はわきまえていたからこそ、簡単に評価が反転したのである。

 初期の段階で地球に来るようなトリアル人はほぼ間違いなくエリート層であるということをさっ引いても、トリアル人は当時の日本人より清廉潔白に見えた。

 魔力のある世界で上級言語を使っている彼らには、まず嘘というものが通用しない。上級言語とは意味を伝える言語であり、話者の意図が発する言葉と大きくかけ離れていれば音しか伝わらなくなる。本気でなければ言霊にはならないのだ。

 地球のような魔力枯渇地帯でも、トリアル人自体が魔力を保持しているので、魔力切れを起こさない限り事情は変わらない。彼らの前では日本人だって正直にならざるを得ないのだ。上級言語である日本語ならではの苦労と言えるだろう。

 ただ下級言語話者なんてコフュースではただの奴隷でしかないので、苦労はしても日本の方が遥かにマシだった。


 また回復系魔法のおかげで、トリアル人の健康寿命は百歳を超えている。その分だけ多く学べるし、その知恵を後進に伝える時間もとれるということだ。結果として教育水準も上がっている。

 志半ばで病や凶弾に倒れた偉人なんて地球では珍しくもない話だが、トリアルにはそれがないのだ。その恩恵がどれほどのものか想像するのは難しくないだろう。

 魔法と科学という手段こそ違え生活水準はほぼ変わりないトリアル国と日本だが、トリアルの方が百年以上前からその水準に達していたのも当然と言えた。


 その回復系魔法だが、蘇生呪文があるからと言って残念ながら永遠に生きられる訳では無い。

 そもそも魔法は絶対では無い。どれだけ呪文精度を上げても失敗する可能性はゼロにならない。呪文が発動しないなら幸運な方で、意図した効果と全く異なる結果になることもある。

 蘇生呪文の場合、どれだけ成功精度を高めても三万回に一度は致命的失敗を起こす。致命的失敗とは、対象の喪失である。呪文をかける対象が消失してしまえば、もう二度と呪文をかけることは出来ない。某ゲーム的に言うなら、「灰になった」という状況だ。

 また回復系の魔法は、対象の「生命力」によって成功率が左右される。「生命力」は生まれた寸前は低く、二十代後半でピークを迎え、その後は緩やかに減少していく。個人差は大きいが、百歳を超えた辺りで「生命力」は誕生時より低くなるのが一般的だ。赤ん坊と老人が死にやすいという事情は地球もコフュースも変わりないのだ。

 つまり歳をとれば死にやすくなり、蘇生の成功率も下がる。だからトリアルではある程度「生命力」が下がった老人は蘇生させず寿命として処理をすることが多い。トリアルでは百三十歳くらいが長寿と呼ばれる境目だ。

 また「生命力」は死んだ後でもすぐにゼロにはならないが、三日目から大幅に下降する。だから三日以上経った死者も蘇生は出来ない。

 そうした事情を熟慮しても、生命に対する状況は地球よりトリアル国の方が遙かに恵まれているといえるだろう。

 トリアルの基準に一日でも早く追いつくためにも、日本はトリアルの制度を受け入れる必要があったのだ。

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