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こちらとあちらのそれぞれの思惑

 梅田のビル群が百メートル級の龍に破壊される状況は、衝撃的だった。

 ただでさえ社会不安が広まり、世界的な経済の行き詰まりからいつ大戦が起きても不思議ではないという時期である。実際、火種となる事件は世界各地で発生していて、第三次世界大戦の開始は既に秒読み体制に入っていた。

 それでも日本が直接戦火に巻き込まれることはまだないと国内での政争に明け暮れていたら、大都市のど真ん中が焼け野原である。まったく想像もしていなかった方向から横っ面をはたかれたようなものだった。


 死者二百十五人、重軽傷者は五百三十六人。

 コフュースのトリアル国から転移してきた五人の冒険者によって龍が退治されるまでの間に、それだけの被害者が発生した。場所の割に被害者が少ないのは、まだ早朝であったのと夜間外出禁止令のせいで夜間列車すら運行されていなかった為である。

 しかし被害者はすべて魔法で蘇生され治療されているので、人的被害についてはあまり話題になっていない。

 当たり前ではあるが、人が死んだことより生き返ったことの方が遙かに話題性があったのだ。


 当時の日本政府は梅田に現れた冒険者達を力ずくで拘束しようとした。アメリカにそう指示されたのも理由の一つだが、彼らの魔法の力を政治的に利用しようという意図もあった。

 冒険者に助けられた大阪の人々は、この政府の姿勢に大いに反発し彼らを守ろうとした。

 だが街一つを破壊した龍を、たった五人で退治したのが彼らである。熟練の冒険者は攻撃呪文一つで戦車を粉砕し、防御呪文で砲弾すら受け止め、回復呪文で死んでも生き返る。

 実際には当時の日本が全戦力を投入したとしても、梅田に現れた異世界の冒険者を捕らえることなど不可能だったろう。だが大阪の人達の心意気は、彼ら冒険者の信頼を勝ち取るという大きな成果を上げた。


 もともと政権与党より地域政党が優勢な土地柄である。東京優先の政策には以前から不満があり、それが経済崩壊後には更に大きくなっていた。

 この件がきっかけとなって、関西地方に独立の機運が高まる。冒険者を通じて、彼らの出身地であるトリアル国と友好関係を築いたこともそれを後押しした。


 魔物出現による魔力崩壊によってそれまでの魔法中心のやり方に疑問を抱いていたトリアル国と、経済崩壊で今までの政府のやり方に大きな不満を抱いていた関西地方。

 この二つが、今までとは異なる新しい未来を夢見て積極的に手を組んだのは、ある意味自然な流れであった。

 ただし、これは関西だけが良ければいいという独善的なものでは無く、上手くいけば最終的に日本中に広めるつもりであり、その為のテストケースであるという位置づけでもあった。

 だから独立時には日本中に有志の協力を呼びかけており、トリアル国との協力で得た情報は惜しみなく公開した。そのテストケースの最先端の一つが、ロロルトの配属された区役所である。実はトリアル人だけでなく、日本各地の公務員も同時期に配属されている。


 その時の苦労の甲斐もあって、ヤマトリアル連邦の設立時には、関西以外にも多くの地方が日本から独立してヤマトリアルに加わった。ロロルトとしては、むしろヤマトリアルに参加しないという地方が存在したことに驚いたくらいだった。ただこれはもう少し後の話である。


 ちなみに世界の方はというと、フランスがヤードゥ神国に瞬く間に奴隷支配され、その後も進行が続いたことから、世界大戦どころでは無くなっていた。

 ただし下級言語しか習得していない者を隷属魔法で片っ端から奴隷化していくというヤードゥの戦法が、秒読み体制に入っていた世界大戦よりも遙かに死者の少ない平和的な支配であったのは紛れもない事実であった。それを幸運だと判断する地球人は、特に欧米には皆無だったが……

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