こちらの世界の事情について
区役所でのロロルトの評判が良くなかった理由の一つが、組織での立ち位置がよく分からないというものであった。ヤマトとトリアルのどちらでも運用できる制度を作る、その為の先発隊であるが、具体的にどういう制度にしていくかの青写真がその時点でないのだから、立場があやふやなのも仕方がない。
ロロルト達先発隊が情報を収集することで検討材料が蓄積され、今後の方針が決まったのはロロルトが地球に来てから三ヶ月後のことだった。
そもそも何故近畿地方が日本から独立しなければならなかったのか、その事情を説明しなければ新しい制度の必要性も理解しにくいだろう。
地球とコフュースが繋がる前、コフュースは魔物が世界各地に出現するという災厄に包まれていた。
同じ頃、地球もまた大規模な災厄で壊滅寸前の憂き目に遭っていた。
それは天災で無く、人災である。リーマンショックやギリシャ危機すらかすんで見える、世界的規模の経済崩壊だった。
発端は、中国が他国からかき集めていた資金が本来の目的に使用されず、その大半が個人の資産として着服されていた事実が暴露されたことだった。
その後の混乱で現在では詳しい資料が残っていないが、それは中国政府が組織的にやったことでは無かったと言われている。プロジェクトに関わっていた個人や小規模なグループが、これくらいならばれないだろうとそれぞれ別個に少しずつ着服していたのだが、その人数が膨大であった為に資金の大半が消滅していたという。あまりにも杜撰な話であるが、一件一件は(あくまで全体の規模と比較して)少額であったことと、それぞれが別々の手段でごまかしていたことで、誰も全容を把握出来なかったのだ。
それはタックスヘイブンでの資金の流れ調査していた時に、偶然発覚した。一件一件は特にたいしたことの無いありきたりな不正であった為、初めは誰も気にしていなかったという。だがタックスヘイブンが問題視され、暴露や情報公開によって調査が進むにつれ、噂として人々の口にのぼるようになり、徐々に確信に変わっていったという。
あまりに規模が大きな案件であった為に、落としどころを決めてから慎重に話を進めるべきであった。
だが関わっていた人数があまりにも多く、足並みを揃えることにも無理があった。
ある日、南米の一国が中国系企業と資産家の口座を凍結し、少しでも多くの資金を取り返そうしたことが崩壊へのスイッチらなった。その動きはあっという間に世界中へ広がり、中国は海外での資産を事実上失うことになった。中国経済という大きな資金の流れが突然消失したのだから、それだけでも世界経済への打撃は計り知れない。
更に中国政府が、自国が所有する他国の国債を売り払ってその穴埋めをしようとしたものだから、主要通貨が軒並み暴落することになった。特に大量の国債を発行していた日本にとっての影響は大きく、ぶっちゃけ、万札が紙くずになった。
この時、日本政府が経済対策は大きく二つ。一つは銀行口座の引き落とし上限を定めて資金の流出を防いだこと、もう一つは大幅な財政出動で国内の経済を安定させようとしたことだ。
前者は国民から猛反発をくらい、後者は海外の投資家を落胆させてインフレを加速させた。この時期どうすることが正解だったかは今でもよく議論されているが、結局は税収を大幅に上回る国債を発行していた時点でどうあがいても詰んでいたというところに行き着く。
金庫が空になるほどの横領に気づかなかった中国政府が愚かなら、自国の資金繰りが事実上崩壊していたことに気づいていなかった日本政府は阿呆だったと言うことだ。
次から次へと企業が倒産して失業者があふれ、円の暴落で輸入が滞り物資が不足した。国民の不満が高まり、各地でデモが連日のように発生し、足りない物資を求めて店舗や倉庫が襲われることも珍しくなくなった。夜間外出禁止令やネットへの書き込み制限などで締め付けを強化をしても警察だけでは手が足りず、ついに自衛隊までが治安維持にかり出されることになった。
この自衛隊の治安出動が、この時の政府の最大の悪手だったと言われている。
左寄りの勢力の挑発もありデモが激化して、ついに自衛隊員の発砲による死者が出たのである。
どんどん悪くなっていく経済状況のせいでただでさえ悪化していた政府への感情が、これで決定的なものとなった。
見かねて防衛大臣が今後の自衛隊の国内での治安出動を拒否し、総理大臣はこれを事実上のクーデターと批判して彼を更迭しようとしたが、世論と幕僚の大半が防衛大臣を支持している状況の為に不問とした。彼を引きずり下ろしたところで、この状況ではどうあがいても自分の派閥から次の大臣を選べないと判断したのである。
これによってデモは更に激化するかと思われたが、むしろ組織化が進んで不満のはけ口としての騒動や略奪行為は減少した。防衛大臣の判断を見習って、国民同士で傷つけ合うことより、政府に頼らず自分達の手で問題を解決する方法を模索し始めたのである。
大阪の梅田付近にコフュースとのゲートが開き、そこから出現した百メートル級の龍によって半径一キロの繁華街が破壊されたのは、そんな時であった。




