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剣も魔法も苦手です。そんな俺は銃で魔法をぶっ放す。  作者: まろじろう
第1章「落ちこぼれは異端と走る」

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第5話「六発」

鍛冶屋の裏手。


 石壁に囲まれた細長い試射場の奥に、木製の的が立っていた。


 表面には無数の傷。


 剣。


 矢。


 魔法。


 何度も攻撃を受けてきたのだろう。


「ここで撃つの?」


「そう」


 ヒロが答える。


「店で調整した杖を試す場所」


「思ったより狭いな」


「普通の杖なら十分」


「銃型杖は?」


「それも十分」


「じゃあ何で言い直した?」


「細かいな」


「細かいこと苦手だけど、人の言い方は気になる」


「一番面倒なタイプだ……」


 カッツは聞こえなかったふりをした。


 視線はすでに、手の中のカートリッジへ向いている。


 六発。


 たった六発。


 なのに。


 妙に重く感じた。


「で?」


 カッツが振り返る。


「どうすんの?」


「まず貸して」


「はい」


 ヒロが銃型杖を受け取る。


 カートリッジを確認し、そのまま本体へ差し込んだ。


 ガチャン。


 金属同士が噛み合う音。


「おお……」


 カッツの顔が緩む。


「これで撃てる?」


「まだ」


「まだ?」


「安全装置」


「そんなのあるの?」


「なかったら怖いだろ」


「確かに」


 カチッ。


 ヒロが操作を終え、銃型杖を差し出す。


「これでいい」


 カッツが受け取った。


「さっきより重いな」


「カートリッジ入れたから」


「なるほど」


「大量に持つとその分重くなるって、説明しただろ」


「思い出した」


「忘れてたんだ……」


 カッツは銃型杖を握り直す。


「構え方は?」


「両手」


「こう?」


「肘伸ばしすぎ」


「こう?」


「肩に力入りすぎ」


「細かいな!」


「銃だからね!」


 ヒロに言われるまま、カッツは姿勢を直す。


「次。魔力を流す」


「一気に?」


「駄目」


「なんで?」


 ヒロが銃身を指した。


「中で魔力を整える必要がある」


「整える?」


「銃身に魔力を流すと、内部で螺旋状の渦ができる」


 ヒロが指を回す。


「その流れが弾丸に作用して、まっすぐ飛ばす」


「へえ」


「だから雑に流すと乱れる」


「なるほど」


 ヒロがじっと見る。


「……本当に分かった?」


「なんとなく」


「だと思った」


 カッツは的を見る。


 息を吸う。


 銃型杖を構える。


「じゃあ」


「ゆっくり魔力を流して」


 グリップの魔石が淡く光った。


 魔力が銃身へ流れる。


 弾丸へ。


「そのまま」


 ヒロが言う。


「狙って」


 カッツの指が引き金へ。


「撃て」


 ――バンッ!


 乾いた音。


 銃口が跳ねた。


「うおっ!?」


 弾丸が飛ぶ。


 ――ガッ!


 的の端。


 ぎりぎり当たった。


 一瞬。


 沈黙。


 カッツは的を見る。


 銃を見る。


 そして。


「……」


「どう?」


 ヒロが聞いた。


 カッツの口角が上がる。


「すっげえ!」


「近い!」


「撃った!」


「見れば分かる!」


「魔法撃った!」


「そういう杖だって言っただろ!」


 カッツは銃型杖を眺めた。


 胸が高鳴る。


 剣を振った時とは違う。


 十二年。


 何千回。


 何万回と。


 剣を振った。


 でも。


 こんな感覚はなかった。


「もう一発」


「待って」


「なんで?」


「今の反動確認して」


 ヒロがカッツの腕を指す。


「撃つ瞬間、腕が上がった」


「ああ」


「次は力で押さえつけすぎないで」


「押さえないと上がるだろ?」


「力で止めようとすると、今度は照準がズレる」


「難しいな」


「簡単ならもっと流行ってる」


「それもそうか」


 二発目。


 ――バンッ!


 外れた。


「外れた!」


「知ってる」


 三発目。


 ――バンッ!


 右端。


「おっ!」


「少し良くなった」


 四発目。


 ――バンッ!


 また外れる。


「戻った」


「うるせえ!」


 五発目。


 ――バンッ!


 中央近く。


「今の!」


「悪くない」


 カッツが笑う。


 あと一発。


「最後」


 ヒロが言った。


「分かってる」


 カッツは銃型杖を構える。


 五発。


 少しだけ。


 感覚が分かってきた。


 魔力を流す。


 狙う。


 撃つ。


 でも。


 ふと思った。


 止まって。


 構えて。


 撃つ。


 それなら。


 今まで見てきた魔法使いと、大して変わらない。


「……なあ、ヒロ」


「何?」


 カッツは構えたまま聞いた。


「動いて撃っていい?」


「は?」


「最後の一発」


「やめて」


「一回だけ」


「やめろ」


「試射だろ?」


「試していいことと悪いことがある!」


 だが。


 カッツはすでに笑っていた。


「じゃあ」


 脚へ。


 魔力を流す。


「カッツ!」


「いくぞ!」


 地面を蹴る。


 ――ドンッ!


 一瞬。


 カッツの姿が消えた。


「っ!?」


 ヒロが目で追う。


 速い。


 予想以上に。


 カッツが数メートル横へ移動する。


 その途中。


 銃型杖を的へ向けた。


「ここ!」


 ――バンッ!


 弾丸が飛ぶ。


 だが。


 ――ガンッ!


 的ではない。


 横の石壁。


「危なっ!」


 ヒロが叫ぶ。


 カッツが止まった。


「……外れた」


「外れたじゃない!」


「難しいな」


「当たり前だろ!」


 ヒロが駆け寄り、銃型杖を奪い取る。


「動きながらなんて想定してないんだよ!」


「でも撃てた」


「撃てただけ!」


「じゃあ当てられるようにすればいい」


「……は?」


 カッツは自分の脚を叩く。


「俺、脚だけなら速い」


 次に。


 銃型杖を指差す。


「でも剣だと、近づかないと攻撃できない」


 ヒロは黙る。


「これは離れてても攻撃できる」


「……」


「だったら」


 カッツが笑った。


「走りながら撃てたら強くない?」


 ヒロの視線が、銃型杖へ落ちる。


 普通。


 銃型杖は止まって撃つ。


 足を固定して。


 魔力を安定させて。


 照準を合わせる。


 それが前提。


 でも。


 高速で移動しながら。


 次々と射線を変える。


 敵に狙わせず。


 自分だけが撃つ。


 そんな使い方。


 ヒロは知らない。


 両親からも。


 親方からも。


 教わっていない。


「……無理?」


 カッツが聞く。


 ヒロは反射的に答えようとした。


「無理――」


 そこで。


 止まる。


 本当に?


 無理なのか?


 それとも。


 ただ。


 誰もやっていないだけなのか?


「……もう一回」


「え?」


「脚力強化」


「弾ないぞ」


「弾はいらない」


 ヒロが銃型杖を持つ。


「走ってみて」


「なんで?」


「いいから」


 カッツの顔が笑う。


「見たい?」


「データが欲しいだけ」


「はいはい」


 カッツが位置につく。


 ヒロの目が、さっきまでと変わっていた。


「どのくらい速く動ける?」


「全力?」


「まず半分」


「細かいな」


「必要なんだよ」


 カッツが笑う。


「じゃあ」


 脚へ魔力。


「いくぞ!」


 地面を蹴る。


 走る。


 ヒロはその姿を追った。


 さっきまで。


 ただの変な客だった。


 銃型杖の欠点も知らない。


 説明しても。


 それでも使いたいと言う。


 細かい管理は苦手。


 射撃も下手。


 なのに。


 ヒロの中に。


 一つ。


 今までなかった疑問が生まれていた。


 ――もし。


 この速度で。


 本当に弾を当てられたら?


 銃型杖は。


 どうなる?


「ヒロ!」


 遠くからカッツが叫ぶ。


「次、全力いくぞ!」


「待て!」


「いく!」


「人の話聞けよ!」


 カッツが笑う。


 ヒロも走った。


 まだ。


 二人は相棒ではない。


 カッツは銃型杖をまともに扱えない。


 ヒロも。


 この男をどうすればいいのか分からない。


 ただ。


 この日。


 欠点だらけだった《銃型杖》に。


 剣士としては使いづらかった《脚力強化》が。


 初めて。


 噛み合う可能性を見せた。


 そしてヒロは。


 久しぶりに。


 答えを知らない問題に出会った。

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