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剣も魔法も苦手です。そんな俺は銃で魔法をぶっ放す。  作者: まろじろう
第1章「落ちこぼれは異端と走る」

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第13話 「初攻略の夜」

ギルドの扉が開いた。


「ただいま!」


「声でかい」


 カッツが堂々と入っていく。


 その後ろを、ヒロが少し疲れた顔でついていった。


 巣穴を出て。


 街まで戻って。


 ようやくギルドへ到着した。


 身体は重い。


 カッツの脇腹には、ホーンラビットの角が掠めた傷もある。


 それでも。


 二人の足取りは軽かった。


「ヒロ」


「何?」


「俺たち、攻略したんだよな?」


「したよ」


「本当に?」


「何回聞くんだよ」


 カッツが笑う。


「なんか実感なくてさ」


「僕もだけど」


 二人は受付へ向かった。


 登録した時と同じ女性が、二人に気づく。


「あら」


「帰ってきた!」


「見れば分かるよ」


「お帰りなさい。今日はどうされました?」


「報告!」


 カッツが胸を張った。


「ホーンラビットの巣穴、攻略した!」


「え?」


 受付の女性が一瞬止まる。


 それから、ヒロを見る。


「本当ですか?」


「なんで僕に確認するんですか」


「だって……」


 視線がカッツへ戻る。


「なんで!?」


「いえ、何でもありません」


「絶対なんか思っただろ!」


 ヒロが横から口を挟む。


「討伐証明、出した方がいいですよね?」


「あ、はい。お願いします」


「カッツ」


「おう」


 カッツが腰を見る。


 止まる。


「……」


「どうしたの?」


「ヒロ」


「何?」


「角」


「僕が持ってる」


「そうだった」


「何しに腰見たんだよ」


「いや、なんとなく」


 ヒロは周囲を確認する。


 ここではアイテムボックスを使えない。


 巣穴を出る前に取り出しておいた袋を、受付へ置いた。


 中から。


 一本の大きな角。


 ホーンラビットの主から折れたものだ。


「こちらです」


 受付の女性が角を見る。


「これは……」


 手に取る。


 重さを確認する。


 根元を見る。


「少々お待ちください」


「また?」


「まただね」


「俺たち来るたび待たされてない?」


「珍しいことばっかりするからだろ」


「俺のせい?」


「ほぼ」


「ヒロもだろ」


「僕は巻き込まれてるだけ」


「一緒に戦ったじゃん」


「それはそうだけど」


 少しして。


 受付の女性が戻ってきた。


 隣には。


 冒険者登録の時にも対応した、年配の男性職員。


「君たちか」


「おっちゃん!」


「職員さんね」


 ヒロがすぐ訂正する。


 男性は苦笑しながら、角を見る。


「確認した。ホーンラビットの主個体の角で間違いない」


「じゃあ?」


「巣穴の魔素濃度低下も確認されている」


 男性職員が二人を見る。


「E級巣穴、一件攻略だ」


「……」


 カッツが止まった。


「カッツ?」


「ヒロ」


「何?」


「今、攻略って言った?」


「言った」


「一件って?」


「言った」


「俺たち?」


「僕もいたからね」


 カッツの顔が。


 ゆっくり。


 笑顔になる。


「よっしゃあああああ!」


「だから声!」


 ギルド中に響いた。


 周囲の冒険者が一斉にこちらを見る。


「すみません!」


 ヒロが頭を下げる。


「何で謝るんだよ!」


「カッツがうるさいからだよ!」


「初攻略だぞ!」


「分かってる!」


「もっと喜べよ!」


「喜んでるよ!」


「顔に出てない!」


「出し方は僕の自由だろ!」


 そんな二人を見て。


 男性職員が小さく笑った。


「初めての攻略なら、まあ嬉しいだろう」


「ですよね!」


「ただし」


「はい」


「次からはギルド内では少し静かにな」


「はい」


「返事だけはいいんだから……」


 ヒロが呟いた。


 ◇


「報酬!」


「急に元気になったね」


「大事だろ」


「まあ、大事だけど」


 受付の女性が報酬の入った袋を置く。


「こちらが依頼達成報酬です」


 カッツが袋を見る。


「おお……」


「それから、討伐したホーンラビットの素材についても買い取りできます」


「肉は?」


「そこ?」


 ヒロが振り返る。


「食えるの?」


「ホーンラビットは食用にもなりますよ」


「マジ!?」


「カッツ」


「何?」


「目が冒険者じゃない」


「じゃあ何?」


「腹減った人」


「正解」


「認めるんだ……」


 受付の女性が笑う。


「素材の買い取り分を合わせると、こちらになります」


 さらに。


 報酬が追加される。


 カッツが袋を持ち上げた。


「重い!」


「そりゃお金だからね」


「冒険者って稼げるんだな!」


「待って」


 ヒロが袋を取り上げる。


「なんで取るんだよ!」


「カートリッジ代」


「……」


「食料」


「……」


「医療用品」


「……」


「魔石灯」


「……」


「銃型杖の整備」


「……」


「それから消耗品の補充」


 カッツの顔から。


 どんどん笑顔が消えていく。


「ヒロ」


「何?」


「冒険者って稼げないな」


「現実を見るの早すぎるよ!」


「もっと残ると思った」


「初回だから必要な物も多かったんだよ」


「肉買える?」


「そこは譲らないんだ……」


 ヒロは報酬袋を見る。


 必要経費。


 次のための補充。


 それを考えて。


 残る金額を頭の中で計算する。


「まあ」


「お?」


「今日くらいなら」


「肉?」


「肉」


 カッツの顔が。


 一瞬で戻った。


「行こう!」


「まだ報告終わってない!」


 ◇


 夜。


 鍛冶屋近くの食堂。


「乾杯!」


「乾杯」


 ――カンッ!


 二つの杯がぶつかった。


 カッツが一気に飲む。


「うまっ!」


「飲むの早いよ」


「今日くらいいいだろ!」


「まあね」


 テーブルには。


 肉。


 パン。


 スープ。


 そして。


 また肉。


「食いすぎじゃない?」


「魔力使った」


「それ便利な言い訳になってない?」


「本当だぞ」


「分かってるけど」


 カッツが肉へ齧りつく。


「うま!」


「それ何回目?」


「うまいものは何回食ってもうまい」


「それはそうだけど」


 ヒロも料理へ手を伸ばす。


 食べる。


「……うま」


「だろ?」


「なんでカッツが作ったみたいな顔するの?」


「俺が選んだ」


「注文しただけだろ」


 カッツが笑う。


 ヒロも笑った。


 しばらく。


 二人は食べた。


 飲んだ。


 今日の戦いを。


 何度も話した。


「主が壁に突っ込んだ時、すごかったよな!」


「あれ当たってたら笑えないからね」


「避けただろ?」


「結果論!」


「でも避けた」


「だからって次もやるなよ」


「分かってる」


「本当に?」


「たぶん」


「帰ろうか?」


「ごめんなさい」


 また。


 杯が鳴る。


 少しして。


 カッツが言った。


「なあ」


「何?」


「俺さ」


 手元の杯を見る。


「昨日まで、剣士になるつもりだったんだよな」


「そうだったね」


「十二年やって」


「うん」


「向いてないって分かって」


「うん」


「銃型杖見つけて」


「うん」


「ヒロに会って」


「うん」


「今日、魔物倒した」


 ヒロが。


 カッツを見る。


「変な感じだな」


「……そうだね」


「剣士になれなかったのに」


 カッツが。


 少し笑った。


「冒険者にはなれた」


「まだE級だけどね」


「いいじゃん」


「うん」


 ヒロも。


 自分の右腕を見る。


 バディ刻印。


 今まで。


 誰かと一緒に魔物と戦うなんて。


 考えたこともなかった。


 空間魔法を。


 誰かのために使うことも。


 それを見せて。


 笑っていることも。


「ヒロ」


「何?」


「楽しかった?」


「……」


 ヒロは少し考えた。


 怖かった。


 何度も。


 カッツが死ぬと思った。


 自分も死ぬと思った。


 それでも。


 敵を見て。


 考えて。


 試して。


 二人で答えを作った。


「……楽しかったよ」


「だろ?」


「なんでカッツが嬉しそうなんだよ」


「俺も楽しかったから」


「そっか」


「おう」


 ――カンッ。


 また。


 二つの杯がぶつかった。


「ヒロ」


「何?」


「肉追加していい?」


「ダメ」


「なんで!?」


「今日の報酬なくなるよ!」


「また稼げばいい!」


「そういう問題じゃない!」


「すみませーん! 肉追加!」


「カッツ!」


「あと酒も!」


「人の話聞けよ!」


「初攻略だぞ! 今日くらいいいだろ!」


「限度がある!」


「じゃあ肉だけ!」


「減ってないよ!」


「すみませーん!」


「勝手に頼むな!」


 カッツが笑う。


 ヒロが怒る。


 料理が増える。


 杯が鳴る。


 また笑う。


 剣士になれなかったカッツ。


 付与術師になれなかったヒロ。


 まだ。


 E級冒険者。


 まだ。


 一つの巣穴を攻略しただけ。


 それでも。


 今日だけは。


 そんなこと。


 どうでもよかった。


「ヒロ!」


「今度は何!?」


「乾杯!」


「何回目だよ!」


「初攻略!」


「それも何回目!?」


「いいから!」


「もう……」


 ――カンッ!


 二つの杯が。


 またぶつかった。


「よっしゃあ!」


「声でかい!」


 二人の初攻略の夜は。


 笑って。


 食べて。


 飲んで。


 また笑って。


 大騒ぎのまま。


 更けていった。

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