表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白紙の転生者 ~なかったことにできる最強チートで、みんなを幸せにします~  作者: とろたま愚鈍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/7

第二話「救ったはずだった」

ハルカの村までは、歩いて二日かかるらしい。


エイシアさんと並んで、街道を歩く。

天気は良かった。

風が気持ちよくて、空が高かった。


誰かと並んで歩くというのは、こんなに心地いいものなのか。

前の世界では、知らなかった。


「渕。あんた、ほんとに新人なの?」

「はい。なりたてです。」

「魔法、使えるんでしょ。さっきの宿でも、店主の腰痛なおしてたじゃない。」


——白紙化ホワイトアウトのことだ。

昨日の宿で、店主のおじいさんが腰を痛そうにしていたから、その痛みをなかったことにした。


「治せるなら、治した方がいいかなって。」

「ふぅん。お人好しね。」


エイシアさんは、少し呆れたように笑った。







しばらく歩いて、エイシアさんが、ぽつりと言った。


「あんたさ。なんで、そんな必死に人助けすんの?」

「必死……ですか?」

「うん。さっきのおじいさんも、頼まれてもないのに治してたし。」


考えたことが、なかった。


「困ってる人がいたら、助けたいので。」

「それだけ?」

「それだけ、です。」


エイシアさんは、少しの間、黙っていた。


「……あんた、自分のことはどうでもいいタイプでしょ。」


——どきり、とした。


「な、なんでですか?」

「なんとなく。そういう目、してるもん。」


エイシアさんは、前を向いたまま言った。


「人のためなら頑張れるけど、自分のためには動けない。そういう奴、たまにいる。だいたい、無理してる。」


何も、言えなかった。

図星だったから、ではない。

そんなふうに、誰かに見られたことが、なかったからだ。


『……いい子ね。その子。』


リーネさんの声がした。


『あなたのこと、ちゃんと見てる。』


そうなんだろうか。

でも、僕は、その視線が少しだけ、怖かった。


「ま、いいけど。」


エイシアさんが、伸びをした。


「あんたが無理してるなら、私が見ててやるよ。バディだしね。」

「……すみません。」

「だーかーら。なんで礼じゃなくて謝罪なのよ。変な奴!」


エイシアさんが、笑った。


——その笑顔は、本物に見えた。

僕には、本物に見えたんだ。







「そういえば、エイシアさん。」

「ん?」

「この世界って、平和なんですか?」


聞いてみたかった。

もう一度生きる世界が、どんなところなのか。


エイシアさんの顔が、少しだけ曇った。


「……平和とは、言えないわね。」

「そうなんですか?」

「魔王がいるのよ。」


——魔王。

物語の中だけの言葉だと思っていた。


「北の方に、魔王の軍勢がいてね。じわじわ、人間の土地を侵してきてる。村がいくつも焼かれた。私の故郷も……まあ、いいや。」


エイシアさんは、そこで言葉を切った。

触れちゃいけないことだと、なんとなく分かった。


「じゃあ。」

「ん?」

「その魔王を倒せば、みんな幸せですか?」


エイシアさんが、こちらを見た。

それから、少しだけ困ったように笑った。


「……簡単に言うわね。」

「ダメ、ですか?」

「ダメじゃないけど。魔王を倒すって、勇者でも無理なことよ。何百年も、誰もできてない。」


そうなのか。


でも——と、僕は思った。


倒せなくても、いいんじゃないか。

魔王を、なかったことにすれば。


その時の僕は、まだ、それを名案だと思っていた。







ハルカの村が見えてきた頃、悲鳴が聞こえた。


「助けてください!!」


街道の脇から、一人の男の人が駆けてきた。

顔が、真っ青だった。


「娘が、娘が盗賊に!!」

「落ち着いて。場所は?」

「そ、そこの森です! お願いします、娘を、娘を——!」


エイシアさんが、剣を抜いた。


「渕、行くよ。」

「はい。」


森に駆け込むと、すぐに見つかった。


数人の男たち。

汚れた服。

手には、刃物。


その真ん中で、小さな女の子が、震えていた。

まだ、十歳くらいだろうか。


「おいおい、邪魔が入ったぞ。」

「冒険者か?ついてねぇな。」


盗賊たちが、こちらに気づいた。

エイシアさんが、剣を構える。


「渕、あの子を——。」

「大丈夫です。」


僕は、前に出た。


「何が大丈夫——。」

「すぐ、終わりますから。」


盗賊たちを、見た。


刃物を持っている。

あの女の子を、傷つけようとしている。


——なら、消せばいい。

この、盗賊たちを。


「——白紙化ホワイトアウト。」







盗賊たちが、消えた。


音もなく。

跡形もなく。


さっきまで刃物を握っていた手も、にやついていた顔も。

全部、白く塗り潰されて、なくなった。


森に、静けさが戻った。


「……は?」


エイシアさんが、構えた剣を下ろせずにいた。


「今の、何。盗賊、どこ行った。」

「白紙化しました。」

「白紙……え?待って、消した、の?あいつら全員?」

「はい。」


エイシアさんは、しばらく言葉を失っていた。

それから、ふっと笑った。


「……あんた、とんでもないわね。」


女の子が、駆けてきた。


「お、お父さん——!」

「リル! リル! 無事か!」


父親が、女の子を抱きしめた。


「ありがとう!ありがとうございます、冒険者様!本当に、本当に……!」


何度も、頭を下げられた。


——よかった。


間に合った。助けられた。


胸の奥が、じんわりと温かくなる。


これだ。

これが、したかったことだ。


僕のいる意味が、あった。







女の子は、まだ、震えていた。

父親の腕の中で、小さく、ずっと震えていた。


「……怖かったね。もう、大丈夫だよ。」


父親がそう言っても、震えは止まらない。


盗賊は、もういない。

刃物も、もうない。

傷だって、一つもついていない。


それなのに、その子は、まだ怖がっていた。


——そうか。


襲われたことは、覚えているんだ。

盗賊が消えても、怖かった気持ちは、消えていない。


なら。

その恐怖も、消してあげればいいんじゃないか。


そうすれば、この子は、もう怖がらずに済む。

笑って、家に帰れる。


「この子の、恐怖を——。」

『——やめなさい。』


リーネさんの声が、鋭く飛んだ。


「え?」

『それは、やめなさい。平良渕。』

「でも、苦しそうです。」

『苦しそうだからって、全部消していいわけじゃないわ。』


——どうして。


僕には、分からなかった。


苦しいなら、消した方がいい。

怖いなら、消した方がいい。


その子のためなのに。


「……分かりました。」


リーネさんが言うなら、やめておく。

でも、納得は、できていなかった。


震えている女の子を見ながら、僕は、もやもやした気持ちを抱えていた。

なんで、消しちゃいけないんだろう。







ハルカの村は、僕を英雄みたいに迎えてくれた。


盗賊に襲われた商人たち。

怯えていた村人たち。


みんなが、笑顔になった。


「あんたのおかげだ!よかったら、もっといてくれよ!」

「困ったことがあったら、なんでも言ってくれ!」


——役に立てた。


その実感が、嬉しかった。

それから、僕は、いろんなものを白紙化した。







病気を、白紙化した。


「ありがとう!! 本当に、本当に!! ありがとう!!!」


寝たきりだった子どもが、走れるようになった。

母親が、泣きながら、僕の手を握った。







家畜を襲っていた魔物を、白紙化した。


「これで、冬を越せる。あんたには、なんて言ったらいいか……。」


老人が、何度も頭を下げた。







畑を荒らす害獣も。

壊れた井戸の不具合も。

おばあさんの、長年の腰痛も。


困っている人がいれば、消した。

全部、なかったことにした。


そのたびに、誰かが笑顔になった。

そのたびに、僕は、役に立てた気がした。


僕は、やっと、誰かの役に立てていた。

そして、僕の隣には、エイシアさんがいた。


「あんた、昨日も夜遅くまで村の人治してたでしょ。」

「はい。」

「馬鹿。倒れるわよ?」

「……すみません。」

「謝るな。心配してんの。」


エイシアさんが、僕の額を、指で軽く弾いた。


「あんたは、人のことばっかり。たまには、自分を労りなさいよ。」

「……はい。」


心配してくれる人がいる。


ただ、それだけのことが、こんなに嬉しいなんて。

前の世界では、知らなかった。


『…………。』


リーネさんは、何も言わなかった。

僕は、その沈黙にも、気づかないふりをした。


幸せだったから。

今が、幸せすぎたから。







全部が、上手くいっていた。


村は平和になって。

人々は笑顔になって。

僕には、隣にいてくれる人ができて。


何もかもが、思い通りだった。


——ある日、報せが届くまでは。


「聞いたか?北の外れの村が、滅んだらしい。」

「滅んだ?魔王軍にやられたのか?」

「いや、それが……飢えと病だとさ。誰も助けに行かなかったらしくてな。」


僕は、その話を、何気なく聞いていた。


可哀想に、とは思った。

でも、僕の知らない、遠い村の話だった。


「どこの村だったんですか?」


何気なく、聞いた。

商人は、少し考えて、言った。


「ええと……たしか、グレンって村だ。前に、盗賊が根城にしてた村だよ。」


——盗賊。


その言葉に、心臓が、小さく跳ねた。


『……平良渕。』


リーネさんの声がした。

いつもの、沈黙の前の声じゃなかった。


「リーネさん。今の話って……。」

『えぇ。あなたが消した盗賊。あの人たちにも、帰る場所があったのよ。』


僕は、何も言えなかった。

隣を見ると、リーネさんが、ひどく悲しそうな顔をしていた。


——救った、はずだった。


僕は、誰も傷つけていない、はずだった。


第二話、お読みいただきありがとうございます!


盗賊退治、成功です。


困っている人を助けた。

女の子も助けた。

村の人にも感謝された。


渕、完全に英雄ですね。


……本当に?


という第二話でした。


この力で消したものは、消したままでいいのか。

そもそも「悪い人」なら消してもいいのか。


このあとも10分おきに更新予定です。


よければ最後までお付き合いください!


ブクマやコメントをいただけると、エイシアが「だから言ったでしょ」と言いながら隣に立ちます。


よろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ