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第14話 あの日の夕日①

 夕日の中、二人は歩いていた。背後には無限に伸びる影。正面には我々を熱する灼熱の太陽。背後に戻る訳にも行かずに正面の太陽に向かって一歩一歩、歩く。


 雪憐とのモールでの買い物と食事を終えて、家が目の前の俺達は今日の余韻に浸かりながら帰路に着いていた。そして、俺はそんな光景を4年前の思い出と重ねながら感傷に浸る。


 服屋の後、小物店と書店、ファーストフードを回り、雪憐は買ったブラウスと小物と小説を袋に持っている。ブラウスの袋にまとめてそれらを入れており、服の買い物袋は大きく見えるため余計な事を言ってしまった。


「雪憐重いなら持とうか?」


 俺は言うと手を伸ばす。本来、人の持ち物を持つのは気が引けるが、重いのを持たせるのも良くない。しかし、雪憐は首を振った。


「大丈夫ですよ。大きいだけで軽いですから」


 雪憐は笑ってそう言うと、俺はうなずく。雪憐が持ちたいのであれば、それは雪憐の物だから雪憐の選択を尊重するべきだ。


「分かった」


 雪憐は付け加えるように言う。


「その、ありがとうございます」


 雪憐にそう面と向かって言われるのが凄く恥ずかしく、俺は雪憐の方を見る事が出来ず照れ隠しのように雪憐から目を逸らす。


 そして、俺は気が付いた。ここが4年前のあの草原の前である事に。


「先輩」


 雪憐は先程の4年前に近い声とは違い凛とした今の声で俺を呼び止める。


「寄って行きませんか?」


 どこに、と聞くまでもなかった。雪憐、夜彩、そしてこの草原。それは4年前と関わりがある何かである事は良く理解していた。


 俺が答えに窮していると、雪憐が草原に入る。真っ赤の夕陽に照らされ、何もない草原を歩く白色のワンピースの少女は4年前のあの頃のように。無数の思い出と強烈な初恋の思い出が頭を駆け巡る。俺は飲み込まれるように草原へ入っていった。


 淀みが無く一歩一歩しっかりと進んでいく雪憐に対して、俺は進む毎に後悔と不安に襲われていく。雪憐が何をしようとしているか分からない。とても告白や何か喜ばしい事をしようとしているようには見えない。雪憐の背後を振り向かない歩き方は過去と決別するかのような、覚悟のあるものだったから。


 雪憐が不意に止まる。俺もどうしてここで止まったか良く分かった。俺たちの場所は4年前の場所と同じ場所だったから。


「先輩」


 草原に入る前と同じ声色と問いかけ。決して逃さないと俺を真っ直ぐと視線に捉えていた。


「ここへ来たのは先輩と話をするためです」


 雪憐と俺達の間を夏の風が通り過ぎていく。話をするために来たのくらい察しの悪い俺でも分かる。


「ああ、分かってる」


 そして、何を話すのかも。


「4年前の話と…これからの話だろ」


 言ってしまえば、後戻りが出来なくなるのは理解していた。しかし、言わなければ、雪憐から話を切り出されるのだろう。4年前の事の俺の責任を放棄して、それを雪憐に押し付けるのは許されない。


「ええ、その、先輩には辛い話なんですけど…」


 雪憐は申し訳なさそうに言う。それは確定した過去をどうする事もできない目で見ているような、そんな印象を受ける。でも、本当に辛いのは俺なのだろう?4年前で本当に苦しんでいるのは誰だ?


「雪憐に比べたら全く辛くないから安心しろ」


 きっと、4年前の親友だったクリスタを傷つけられて、俺が裏切った行為をして、一番傷ついたのは雪憐だ。


「…だから」


 これ以上、雪憐を傷つけてはいけない。それは今の俺の願いであり4年前の願い。


「先輩」


 だが、雪憐は俺の言葉を遮った。その声色は低く、誰に何を言われても揺るぎはしなそうだった。


「私は話しますよ。辛いですけど、ちゃんと話さないと伝わらないから」


 雪憐はそう言う。雪憐は淀みの無い純粋で輝いている気持ちを持っていた。雪憐が覚悟をして自分で考えて選択したのであれば俺が干渉はできない。雪憐の選択だ。


「そうか。悪かった」


 俺は端的に謝る。雪憐の選択を邪魔した事、そして雪憐の選択を止める勇気がなかった事を。


「いえ、こちらこそ…」


 雪憐はそんな俺を見て言う。何か見るに耐え難いものを見るような目で。


 雪憐は軽く深呼吸をすると切り出した。これは4年前の続きだ。


「先輩はどうしたいですか?この私達の今の関係を」


 "今""言う事をわざわざ雪憐はつけ、強調したのは昔があるからに違いない。連続的では無い4年の歳月がぽっかりと開いた、昔の関係と今の関係。


「俺は…」


 俺は思考をフル活用させて考える。どれが正解かは分からない。だが、どれが俺の本心かはなんとなく分かる。ならば、本心に出来る限り近い回答を俺はするべきだ。


「雪憐が望んでくれるなら、この関係を続けたい」


 それが俺の回答で本心。シンプルでありきたりな物だが、今はそれに物凄く価値と重みを感じる。


「そうですか…」


 雪憐はそう言う。まるで聞きたい答えが聞けなかったような声色。雪憐が聞きたかった質問は実は別の事なのだろうか。


「あの、先輩…」


 雪憐は言い淀み、これで良いのかと苦悩した顔で俺に聞く。4年前とは違う色っぽい女の子の唇が動く。


「4年前、私が好きでしたか?」


 雪憐が開けたのは俺たちのパンドラの箱だった。開けたら最後、俺は事実を直視しなければならない。4年前雪憐がどう考えていたか、そして、今4年前を雪憐はどう考えているのかを。


 きっと、逆も同じなのだろう。この問いは雪憐が俺の本心を知る事になるんだ。


 これで、後戻りは出来なくなる。

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