冬の花 10
*たくさんある作品の中から見つけていただいて、お読みいただきありがとうございます*
お二人の精霊様が訪問されて二日後。精霊草があっさりと咲いた。朝起きたら咲いてた!
私は精霊草の花が、もうどこからどう見てもクリスマスローズの一重咲のものと全く同じで、昇天するかと思った。
「か、かわいいー! わーい! やっぱりクリスマスローズと同じだぁ! こんな嬉しいことがあるなんて!!」
思わず大声で叫びたかったけど、貴族令嬢としてそれはアウトだから、我慢して小声で我慢した。でも、心の中ではピョンピョンと跳ね回って、喜びを体中で現してる自分しかいなかった。あやめさんも一緒に跳ねてた。うん、こういう時はあやめさんと私という存在が全く同じ人間で、二人の人格はそれぞれだといつも思うのに完全一致というか、そうあやめさんが私自身だと感じる瞬間でもあった。
それはともかく! 目の前の精霊草のことだ。花そのものは一重咲で白い花弁に紫の縁取りがされている。前世で散々育てたクリスマスローズの一種と全く同じ! やったー! 可愛い―! これは、他の色もあるのかも、と期待してしまう。濃い赤紫に斑の入ったものも懐かしい。八重咲のものも可愛かった。フリルみたいで!
ワクテカで精霊草の鉢に水遣りをしたのは言うまでもない。でも、魔石を置いていないものは全く変化がなかったから、後から魔石を置いた。だって、花を咲かせたいし! というわけでまだ花を咲かせていない鉢植えもがんばって花を咲かせるわよ! あー楽しみ(ハート)
「まぁ! 可愛らしく咲かせてくれたのね!!」
唐突に知らない声が響いた。私しかいないはずの私室に響いた声の後に、空気が揺らぐ。
(あ、これは精霊様がいらっしゃる時に感じる魔力の揺らぎだ)そう思うと同時に、ぎゅっと抱き締められた。
「!?」
「アイリスちゃん、あなたの日本名はあやめ、でいいのかしら?」
「え?」
クスクスと笑いながら私を抱き締める方は、間違いなく精霊様! すぐに私は解放されたけれど、それでも私の手をそっと繋ぐ精霊様。そのお顔を見ると小さな愛らしい唇に、愛らしい瞳は柔らかな青に星が小さく散ったようにも見える不思議な色、髪はゆるくウェーブした黒髪でとても綺麗な精霊様だった。
私が精霊様の仰った言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。
(日本って言った?)
そんな私の思いに気付いていないのか、精霊様は繋いでいる手をきゅっと強く握った。驚いた私に、精霊様が少し悪戯を成功させて喜んでいるような気配を感じた。
その時だった。また空気が揺らぐ。あ、これはいつも感じてるものだ、と思った瞬間にトワ様が私を抱き込んでいた。当然繋がれていた手は離されていた。
「いきなりいなくなるから、慌てたじゃないか! アイリスに何もしてないよね!?」
「やだー、トワったらあなたの方こそアイリスちゃんのこと乱暴に扱ってるじゃないの! こんな可愛らしい女の子を乱暴に扱っちゃダメよ」
トワ様の雰囲気がいつになく荒々しい。
「それなら、カナ様のほうが失礼じゃないですか! いきなり抱きついてるのはどちらです?」
刺々しいトワ様の言葉の向かった先は、カナ様と呼ばれた精霊様だった。トワ様が様付けをして呼ぶ相手ってどんな相手なんだろう?
「…見ていたの? いやだわ、覗き見してるだなんて!」
「違う! アイリスの感情が乱れたから、慌てて様子を見たらカナ様が!」
「もう、アイリスちゃんがいくら可愛いからって…」
「加護を与えた相手のことだよ。自分の妃にしてもいいかなぁって思えた相手だよ。心配して当たり前でしょ。それ以前にカナ様はどうしてここに?」
「うふふ。お礼をね、しに来たのよ」
トワ様とカナ様の言い合う様子は、先日の風の精霊様との様子を思い出させた。精霊様ってみんな仲が良いんだろうか? 私を挟んでいながら、ほぼほぼ私のことを話しているにも関わらず放置されている感が半端ない。でも、カナ様の最後の言葉に、なにか背中に冷たいものが走る。え。何があるのかな。怖いな。
「私もねアイリスちゃんに加護を与えたいなぁって思うのよ。だって精霊草を咲かせてくれたんだもの!」
「……そんなことだろうと思った」
「うふふ。いいアイデアだと思うのよね。私の加護もあればアイリスちゃんも色々便利だと思うの…」
「そんなことより!」
私の話題になっているわけだけど、私は蚊帳の外だった。というか、最初からトワ様は私をカナ様に関わらせたくない様子。
「あのー、私もお話に加わってもいいです?」
ついお二人の会話に割って入ってしまった。はっ! あかんやつー! マナー違反なやつー!
でも、お二人は全くに意に介さず、答えてくれた。
「いいわよ」
「アイリス、何?」
二人そろって私の言葉を待つ姿勢を見せてくれた。
「えっと、カナ様…初めまして。トワ様、こんにちは」
「ええ、初めましてね」
「ああ、アイリスこんにちは」
「あの、私はトワ様の加護をすでに頂いてるんですけど、ほかの精霊様から更に加護を頂くことが可能なのですか?」
「ええ! 大丈夫よ」
「そうなんですね! それではカナ様に加護を頂いた場合、どんなお得なことがありますか?」
ぶっちゃけ気になったのはそこなので、聞いてみた。隠したって仕方ないとも思ったので。
「私の加護の効果というのかしら、…植物に集まってきてる花の精を見たり、意思の疎通が出来るようになるわ。後は…植物との親和性が高まるから植物をうまく育てられるとか、植物の知識が学ばなくても分ったりとか? それとね、良いのか悪いのか私の加護があれば、眠ることが出来るのよ。一時的だったり長時間だったりね。
うーん、例えばだけどね。不眠症になることって誰でもあるじゃない? それを解消出来たり緩和出来たり?
植物の持つ精神的にも肉体的にも癒す力だったり、その人の治癒力を高めたりね、そういうのが魔力に頼らなくても出来るようになるの」
「なんて便利なんでしょう…」
前世の記憶では病気の影響で不眠症で苦しんだ時期があった私。かなり食い気味に加護のことが気になる。というか、欲しくなっている。眠れないと本当ツライのよ、主に体が。
「食いついてきてる? どう? 欲しくない?」
「えっと…、ちょっと心惹かれる私が今います」
「あら、そう? 私これでも精霊王の妃なの! だから私の加護があれば精霊王もあなたを助けてくれるわ」
「!?」
カナ様、ぶっこんでくるー! 精霊王様の妃ですと!? なんてことー! ってあやめさんが、背後で騒いでる気がする。この時点でトワ様の腕から私は解放されていたため、慌てて私はカナ様に礼を取る。するとカナ様が反応する前にトワ様が言った。
「別にカナ様に礼をする必要はないよ。この人好きで精霊妃してるだけなんだし」
「え? でも精霊王様のお妃様なんでしょ? 絶対に私よりも立場が上の方だもの、礼儀として…」
「そんなのは、必要ないわ。私達精霊に連なる者は、ただ精霊に愛されていればいいだけだから。勿論、精霊に対して拒絶したり嫌悪したりなんてのは、論外だけどね」
トワ様の言い方もどうなんだろう? とは思ったけれど、カナ様も礼をする必要はないのだと言う。少し気になったのは、私達精霊に連なる者って言葉。私達って…カナ様と、私? どういう意味? 私が考え始めた直後に、カナ様の言葉が間近で響く。
「というわけで、加護をあげるわね!」
ふとカナ様の手が私の頬に添えられて、気付けば上を向かせられていた。それから、もう片方の手で私の頭を撫でていた。
「本当、愛らしいわ。精霊の皆がアイリスちゃんを独り占めしたくなりそうだわ。トワみたいにね…」
そう言われて直ぐの事だった。私の顔を覗き込むようにしていたカナ様が何の躊躇いも迷いもなく、私の唇にカナ様のそれを重ねていた。
そして、私に魔力が注ぎ込まれたのが分かった。トワ様にはそんなことされなかった!
それからトワ様が慌てて私をカナ様から引き離す。そしてまた私を抱え込んだ。
「カナ様! 今さり気なくアイリスの魔力量を増やしたよね。そういうのは人それぞれで体調不良の原因になるからしちゃダメだよ!」
余裕のなくなったような声を出すトワ様に驚く。私の魔力量を増やした? どういうこと? そんなことをトワ様の腕の中でぼんやりと思うのだった。




