冬の花 7
*たくさんある作品の中から見つけていただいて、お読みいただきありがとうございます*
王城でのお茶会は暫くは無くなって、ジェイド殿下とのお茶会は伯爵邸でということになった。これできっと殿下も落ち着いて時間を過ごせるだろう。
とか思ってたんだけど…どうも違ったらしい。まぁそれは置いといて。
「アイリスお嬢様、精霊草の鉢植えはいかがですか?」
イケオジ庭師のジャックが話しかけてくれた。まだ殿下がお茶会に到着する前のこと。今日は天気もいいし庭にあるガゼボでお茶会をするつもりだったこともあり、早めに庭に出ていたからだろう。
私は相変わらずのオジサマ好きなので、ジャックとの会話も楽しみの一つだった。
精霊草の鉢植えは、今の所大きな変化はなくて、そんな話をしていた。でも、少しだけトワ様に無理矢理作らされた魔石を根元に置いている精霊草はちょっと元気な気がする。勿論そういう話もしていたんだけど、そういうタイミングで殿下が到着したと執事が伝えてくれた。
お茶会の準備を終えた庭園のガゼボに急ぐ。なんとか殿下よりも先に間に合って到着できた。
暫くして殿下がガゼボにやって来た。うん、相変わらずキラキラしてるなぁ、なんてことを思いながら友達を迎える気分の私だった。いや、婚約者なんだけど。
「アイリス、招待ありがとう。今日も僕の婚約者様は可愛いね」
「ジェイド殿下、よく来てくださいました。ありがとうございます」
殿下の褒め言葉をスルーしつつ、挨拶をする。うん、いつものことなのでスルーするのです。ええ、スルー案件ですよ。だって…友達にそういうこと言われても困るだけだもの。
さて、お茶会開始です。
「殿下、今日もいつものお茶で良かったですか?」
「そうだね、いつものでいいかな」
「分かりましたわ。お茶の準備お願いね」
私はお茶会のために控えている侍女にお茶をお願いした。
ガゼボ内に置かれた丸いテーブルには中央に小さな切り花を活けた小さなボウルを置き、紅茶を入れるためのカップはカップのふちにラインを描くように小花が散らされたもので、ケーキスタンドも花柄が描かれた皿が目に入る。その皿の上に置かれたサンドイッチやスコーン、それに一口大の可愛らしいケーキには花を模した飾り付けがされていた。きっと生クリームやマジパンみたいなものでパティシエが頑張って作ってくれたものだと思う。うん、目に可愛い! それだけでお茶会の時間が楽しみなのだ。花尽くしのテーブルに私はにっこにこである。
侍女がお茶をカップへ注ぎ、殿下の前へ置く。私もその様子を見ながら、自分の前に置かれたカップを手に取り口にする。ある意味毒見みたいなものだけど、基本的にもてなす側が最初に口にするのが、マナーだ。毒は入ってないよ、大丈夫だよ、ってのを示すことになる。でも、殿下…。毎回私がお茶を口にしただけで、ケーキスタンドのマフィンに手を伸ばすの。まだまだお子様な年齢だし、色気より食い気か? やっぱり男の子だし食い気が勝つか? なんて思ったりするんだけど違うんだな。
「このマフィンはいつも僕が持って来るものだし、僕が先に口にしないとね」
ということらしい。マフィン限定でお土産として殿下が毎回お茶会用に持ってきてくださる。だから、自分が先に口にするのがマナーだよね、ってことらしい。いや、違うから! それ、違うから! いくらお土産だからって、殿下が先に口にするのはなんか違うでしょ!? って思うんだけど、殿下にそれを何度言ってもやめるつもりがないらしい。だから、私は諦めた。諦めるしかなかった。
「僕の持ってきたものがアイリスを害するなんてことがあったら困るから」
なんだそうな。えーっと、これは殿下に私は大事にされているという認識でよろしいでしょうか? 多分そうなんだろうな。私には殿下は友達でしかないけど、殿下は………違う、のかな? とか思う瞬間もあるんだけど、よく分からない。分からないものは分からないよねー、殿下がせめて十五歳以上年上だったらめちゃくちゃ射程範囲だったろうな、とは思う。本当はもっと上がいいけど。やっぱり男性って三十代後半からだよねー、渋くてかっこよくなるのって。…多分に偏見があるのは自覚してるけどいいの! いいったらいいの!
殿下とのお茶会は、さすがに王城とは違って陛下方の突撃がないので落ち着いたものになっていた。…うんやっぱりね、陛下に妃殿下、王太子殿下なんて気軽にお茶会の席を共にする方達じゃないのよ。ジェイド殿下は婚約者だから、別枠ってことになるわけだけど…私の中では雲上人なのよ。前世の…あやめさんの記憶で言うなら、某皇族の方々ってことになるのかな。うん、そうだね、私は精霊様の加護を頂いてるから気軽に…声を掛けていただける立ち位置らしいけど、緊張しないほうがおかしいのよ! そもそも接点もなかったもの。…シトリンお兄様くらいでしょ、エディお兄様だってほぼ接点はないってことだし。
…でもお父様とお母様は、陛下と妃殿下と仲良かった…。うん、これはなんだろう、別の意味で逃げ道がないのかもしれない、とぼんやり思った。あはは、は。力なく笑うしかない案件だったのかなぁ。ま、いいか! 考えても仕方ない! 私で対処できないことはスルー案件てことで、忘れよう。
きっとこんな考え方をしてしまうのは、仕方なかったと私は思う。
「やぁ、また会えたね!」
爽やかな空気を纏い、にこやかな笑顔をこちらに向けた王太子殿下が、何か言ってる。うちの家で。
なんでシトリンお兄様は連れてきちゃうかなぁ。
「…兄上、どうして?」
「おやおやおやぁ? ジェイドは私が来ては迷惑だったかい? あ、二人の逢瀬の邪魔をしてしまったかぁ…申し訳ない。でも、未来の妹と交流したいと思うこの兄の気持ちを許しては貰えないかい?」
「……」
何て言うか…ジェイド殿下の逃げ道を塞ぐような物言いはよろしくないんじゃないかなぁ、とぼんやり思います。でも、シトリンお兄様曰く『王太子殿下はそういう方だから』とのことだし、お兄様も苦労されているみたい。
「もし、私が邪魔だというのなら後日アイリス嬢と二人きりで交流を持つ方向でもいいんだけどね」
「それはご遠慮ください! アイリスは僕の婚約者ですよ! 二人きりになんてさせられる訳がないじゃないですか!」
「それじゃ、今日二人一緒の時間で交流をするほうがジェイドは安心だよね。ということで、お邪魔させてもらうね」
「……わ、かりまし、た」
うわー…殿下が気の毒だなぁ。それに巻き込まれてるのは私だけど、でも殿下が気の毒で仕方ない。シトリンお兄様の言う王太子殿下のそういう方というのは…こういうことか、と思う。なんか色々丸め込まれてしまいそうで、絶対相手にしたくないタイプの人だなと思う。怖い。
でも、私に向ける笑顔はひどく優しい。時々ジェイド殿下へも同じ笑顔を向けてる事を知ってる。本当にジェイド殿下のことは可愛いんだろうな。弄りたくなる気持ちの方が上回るだけで…。ジェイド殿下、がんばって!
二人のやり取りの間、王太子殿下の背後で控えていたシトリンお兄様に目をやると、さり気なくこちらへやって来た。
「ごめん、アイリス。殿下がどうしてもアイリスに会いたいって我儘言い出して。多分ジェイド殿下がいるから、少し悪戯心出したんだと思うんだけど…」
「ううん。お兄様は悪くないもの。というか…ジェイド殿下が少し気の毒というか…そういう気持ちかしら」
「それでも、せっかくの二人のお茶会だから…。本当王太子殿下には困ったものだよ」
お兄様は私の頭を優しく撫でてくれる。その間もジェイド殿下は酷く嫌そうな顔をしながら、王太子殿下に頷いていた。
うん、王太子殿下は絶対に敵に回さない! というか、これからの長い時間王太子殿下が私に対し一度も敵意を見せるなんてことはないのだけれど、やっぱり正しく為政者として上に立つであろう彼のことを私は怖いなぁ、あまり近付きたくないなぁなんて思うのだった。




