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スノーローズ~転生した精霊の愛し子は唯一と何度でも巡り合う~  作者: ありや


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冬の花 8

*たくさんある作品の中から見つけていただいて、お読みいただきありがとうございます*

 王太子殿下が我が家にやって来てから、数日。

私は精霊草に変化があったことで、庭師のジョンと庭園で話し込んでいる最中だった。


「それで、精霊草の根元に魔石を置いたものと、そうでないものと比較しながら水やりをしてたんだけど…」

「魔石、ですか」

「ええ」

「…そういう育て方は、全く頭にありませんでした」

「でね! 魔石を置いてないものは変化なしなんだけど、魔石を置いたものはこうなったの」


私はジョンに精霊草の植えられた鉢を差し出して見せた。

ジョンは驚いた顔を見せたから、やっぱり精霊草に大きな変化があるんだなと思っただけだったんだけど、ジョンにとってはかなり画期的なことだったんだと後で気付く。


「お、お嬢様…。これは、奇跡ですよ!」

「え?」

「花芽などつけないことが定説の精霊草が! 花芽をつけてるではないですか!!」


おーっと驚愕の声って言うんだろうか、落ち着いた優しいジョンおじいさんていうイメージしかなかったジョンが、大きな声を出して感動に打ち震えている。うん、そっかそっかぁ。いやー、私いい仕事したかも! などと思った次第。

 そうなのだ。魔石を根元に置いた精霊草には花芽が付いた。やった! これで、どんな花が咲くのか分かるぞー! 前世のクリスマスローズみたいな花だったら嬉しいなぁ。色んな色があったし、一重咲もバラ咲きもあった。所謂八重咲になるのかな。本当楽しみすぎるー! クリスマスローズという名前はこの世界では使えないというか、意味が分からないだろう。クリスマスの頃に咲く薔薇という意味合いになるのだから。クリスマスの元になってる…つまりキリストは地球での存在でしかないから、この世界では意味はない。だから、精霊草と呼ばれていることには不思議はない。ただ、花が咲かない植物扱いだったことには驚いたけど。まぁ確かに竹とか滅多に花を咲かせない植物もあったけど。

そんなことをつらつらと思いながら、目の前のジョンの様子を微笑ましく見てしまったのだった。イケオジが感動してる。うむうむ、ひどく可愛らしくて最高!! 私は思わず眼福と心の中で唱えてしまった。

え? 普段温厚なオジサマが感情を露にして、はしゃぐ様は最高では? 誰に訴えてるんだか、とセルフ突っ込みを入れつつ、ジョンとしばし時間を過ごすのだった。




 そうして今私はドナドナされている。王子妃教育というものを受けるために、週に三回の登城だ。正直他の事をしたいから、行きたくない。でも行ってしまえば、なんだかんだといい意味で学びがあって、面白いなぁなんて思えるから、結局は王子妃教育の時間も嫌なわけじゃない。この体、相当ハイスペックなので、勉強そのものがとーっても理解し易くて、スルスルと頭の中に入ってくるし、こうも理解が早いと勉強楽しいわ! ってなるのも頷ける。前世の自分にも少しくらいこの地頭の良さがあれば…! 学校の成績も少しは揮っただろうに…。まぁ、そのおかげであの大学に入ったんだし。翡翠くんにも逢えたわけだし…決して悪い結果ではなかったのかなぁ。

……んんん? 翡翠くんて誰だろう? そう言えば以前にもそんな名前を思い出しかけてたような。んー、知らない名前だけど、あやめさんの友達? あ、もしかして彼氏とか? …今一つピンとこないかも。気のせいかしら。

今世も短命になりそうだし、なんだかな。まぁいいんだけど! 生きることに悔いが残らないようにがんばる。でもって、残りの人生楽しみ尽くすんだ! イエイ、ポジティブ! 人生前向き―! って思ってないとやってらんないからね。あやめさん風に言ってみた。

ま、実際そういう感じだから、嘘じゃない。悲観的にはもうなれない。だって、二度目の人生なんだもん。悲観してても意味なくない? だったら楽しんだ者勝ちでしょ? 短い人生だとしても、前世と足したって、前世で大往生とか言われる人達より尚短命なんだからさ。楽しまなきゃ、損だよね。私はそう思う。

 生きることは、尊い。ただ、そこにいるだけで尊い。私みたいに短い人生しか経験してないとね、長く生きてる人たちのことが心底羨ましい。でも妬ましいわけじゃない。大切な人達に悲しい思いをさせない生き方って言うのかな。そういうのが、羨ましいっていうのかな。自分が短命なことは仕方ないって思ってるし、諦めてる。でもさ、残していく家族とか…友達とか…周囲の人達とか……、そういう自分に関わってくれた人達の気持ちを考えると、辛くはなるからね。そういうことだけが、切ないなって。でも自分の事はそれほどでもない。毎日が楽しいから。…はっ! 何一人で心の中で語っちゃってるんだろ! まぁいいか。今世も短命でも、満足して生きたいと思ってるし、心残りなく逝くつもりですよっと。そのためにも、精霊草の開花を確認して、色んな精霊草の花を見たいと思う。前世で大好きだったクリスマスローズそっくりの葉の形だから、期待しちゃうでしょ。


 とか考えてたら、馬車が王城に到着。誰もが入ることが出来る城門からすぐの入り口ではなく、王家の方々が住まう場所に近い方の入り口なんだけど。まだジェイド殿下の婚約者でしかないけど、精霊様の加護を得た者だということと王家の皆様から「未来の王族」という扱いをされてるのも大きいのかな。

 馬車の扉が開くと、そこにはジェイド殿下がいた。私を見ると爽やかな笑顔を向けてくれた。そして、手を私に差し伸べてくれる。


「アイリス、手を」

「はい」


 殿下の手に自分の手を置き、馬車を降りる。

手はそのまま殿下のエスコートで、王城の中へと入る。


「今日はどうしてお出迎えしてくださったのですか?」

「時間が少しあって、アイリスに少しでも早く会いたかったから」

「…そうなんです、ね」


 思わず照れる。私が照れた様子を見せたせいか、殿下も少し頬を染めていた。…気のせいかもしれないけど。まだお子様な二人が仲良く並んで歩く様は、きっと私が前世の自分が見たなら「か、かわいいー!」とか思ったんだろうな、とふと思って少し周囲に視線を移したら、微笑ましそうにする使用人や騎士達の視線に気付いた。うーわー…恥ずかしい…。自分が可愛いって思うのは全然気にならないけど、自分がそう思われる側というのは、居た堪れない気分にもなる。


「今日の王子妃教育の内容はどんなものなんだ?」

「今日は国史と周辺諸国の歴史ですね」

「そうか。もし分からないことがあれば聞いてくれ。私はその辺りは兄上と一緒に学んでいるんだ。だからアイリスよりは進んでいると思うよ」

「まぁ! アレクシス殿下と一緒に勉強されているのですね。私がお兄様達と一緒に勉強と考えたら、絶対についていけません。殿下は熱心ですごいですね! 分からないことがあれば、頼らせていただきますね」

「遠慮なく、聞いてくれ」

「はい」


 殿下の親切な提案に、私は迷いなくお願いすることを伝えた。うん、こういうのは遠慮しないよー! 分からないところは聞いて、自分でも調べてってすると案外理解が早くなるしね。自分だけで調べただけだと、分からないことも多い。でも、ちゃんと分かってる人から聞くと、自分だけじゃ理解できてない部分を知ることが出来るし、楽しい。前世の自分と違って、すぐ忘れるってことがこの体はないから、それも嬉しいし。

 いつも王子妃教育で利用している部屋へと殿下が送り届けてくれた。扉の前で私が殿下にありがとうと言おうと口を開く前に、ずっと殿下の手に置いていた私の手に殿下が唇を触れさせた。思わず驚く私に、少しだけしてやったりな表情を見せた殿下。


「アイリス、少しの時間だけど会えて良かった。本当は一緒に過ごしたいけど、私もこの後用があるから残念だよ。でも…お互い用を終えたら、少し時間をくれないか?」

「はい。私も殿下にお会い出来て良かったです。…殿下もお勉強ですか? それとも剣術の鍛錬です? どちらにしても頑張ってくださいね。それと…勉強の後の時間ですけど、はい。殿下のお気持ちのままに」

「ありがとう。私も勉強だよ。お互いがんばろう」

「はい」


 そう言ってまた殿下が私の手にキスをする。また私は動揺してしまう。当然のように私の顔は赤い。よくよく見れば殿下の耳も赤くなってる。そんなことになるならしなきゃいいのに、と思わずにはいられないけど、我慢我慢。私にとって殿下は友達だけど、殿下は私を婚約者として扱ってくれてる。大切にしてくれてる。だから文句は言っちゃダメ。…お互いまだ十代になったばかりなんだから、もう少し子供らしくいてもいい…わけないか。王族だもんね。うん、殿下ごめん。あやめさんの感覚がそれなりにあるから、つい思っちゃいました。


 殿下は私の手をもう片方の手でも握ってくる。両手で握られて少し驚いた私は、思わず目を瞠る。殿下はまだ耳を赤くしたままで、私に微笑む。


「それじゃあね。また後で」

「…はい」


たったそれだけの言葉だけど、私はあやめさんの気持ちが思い切りグラグラと揺れた気がした。そうだ…翡翠くんが別れ際にいつも言った言葉だったから。…翡翠くん、名前だけ思い出せた人。


『それじゃあね、またね』


 そんな記憶が私の中で巡ったせいだろうか、目が潤んでしまった。涙が落ちることはなかったけど、ああそうか、と私は思った。あやめさんにとっての彼は本当に大好きな人だったんだろう。アイリスの私はまだ好きな人はいない。多分現れないと思ってる。でも、あやめさんのおかげで恋というものがどういうものなのかは、なんとなく理解出来る。理解は出来ても、自分の感情とは違うから本当の意味では理解出来てないと思ってる。殿下のことを私はやっぱり友達としか思えないけど、あやめさんにとっては彼を思わせて、気持ちが揺らぐんだなって思った。…まぁ殿下が翡翠くんてわけじゃないんだから、というか…転生者がそんなたくさんいるとも思えないし、ただ偶然だよね。


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