冬の花 6
*たくさんある作品の中から見つけていただいて、お読みいただきありがとうございます*
誰も私の気持ちに気付きもしない。
それに私の気持ちよりも自分の気持ちを優先してる気がする。というか、絶対そう!
なぜそんなことを思うかって? だって! 今私の隣ににっこにっこしてるジェイド殿下から、私が陛下にされていたような…お茶やお菓子を口にした後、ハンカチで口を拭うという『お世話』をされているから。
言ったのよ? 自分でちゃんと出来るから、そういうことはしなくても大丈夫だって。でも、殿下は頑としてお世話を止めなかった。泣いていい?
「今日は父上がごめん。どうしても君のことを可愛がりたかったんだと思う。ほら、お互いの父上同士が幼馴染みで仲が良いでしょ? どうも君の父上から君のことを聞いていて、ずっと会いたいって言ってたから…。だから、本当ごめん」
「それは、全然気にしてません。ですから、謝らないでください」
「ありがとう。アイリスは本当に優しいね。次のお茶会は伯爵邸でだから大丈夫だけど…。その次はまた誰か来そうで心配だよ…」
「……もし、殿下が無理でなければなのですが、暫くは私の屋敷でお茶会をしますか? それなら、陛下や王妃殿下、王太子殿下の御心配をされることもないと思うのですけど」
「…いいのか?」
「はい」
ジェイド殿下は私の言葉を聞いて、少し考えたようすだったけど、すぐにぱあっと表情を明るくしていた。私は深い意味を考えずに発した言葉だったから、即答していた。
どうも、殿下は父親に私達のお茶会を邪魔されたような気持ちだったようだ。その陛下は時間がきたということで、あっさりと戻っていかれたけど。
「…これで父上や母上、兄上に邪魔されずに済むよ」
そう殿下から零れ落ちた言葉に私はおやぁ? と思う。
(もしや私との時間をご家族に邪魔されてたという受け止め方をされていた?)
なんて思うと、今までのジェイド殿下のホッとしたような表情に納得も出来たかも。そうだ…翡翠君も…。あれ? 翡翠君て…誰、だっけ? ……まぁいいか! あやめさんの記憶が私と同期してるはずなのに、まだはっきりしない記憶があるみたいだとは思いつつ。
あ、あやめさんが背後でまた何か言ってる気がする。気がするけど、聞こえないからいいや。気にしない。
「アイリス、暫くそちらのお屋敷でのお茶会になると、負担をかけると思うんだ。でも、君がそれを許してくれるから、僕はとても嬉しい。ありがとう。二人だけの時間をちゃんと持てるのは、本当に幸せだなって……あ、えっと、うん……」
何と言うか非常に照れる言葉を投げかけられた。思わず私は頬を染めてしまう。気付けば、言葉にしてしまったことにめちゃくちゃ照れている殿下が視界に入る。
「えっと、私も…殿下とご一緒出来るのは、楽しいので…嬉しい、です」
一応リップサービス込みの本音を伝えてみた。でも、言ってみたものの私まで照れた。しまった、言うんじゃなかった。すごく恥ずかしい! うわーん、こんな照れたのってあの時以来……。あの時? あれ? あの時っていつだっけ? あ、多分前世だ。私じゃなくてあやめさんがめちゃくちゃ照れた時だ。んー? あやめさんが照れるようなことって何だろう? ま、今まだ記憶が全部は共有されてないというか、私が思い出せてないという部分があるかもしれない自覚はあるから、それなんだろうなぁ。と考えて、ちょっと落ち着いた。
気付けば殿下もまだ頬を染めたままだったものの、少し落ち着いた様子だったからホッとした。
「ありがとう。僕もすごく、すごく嬉しいよ。アイリスとの時間は僕にとっての御馳走時間だから」
…あれ? 今の言葉聞いたことがある。誰が言ってたっけ。『僕にとっての御馳走時間なんだ』誰が。…うーん、思い出せないことは仕方ないことだってことで、この疑問は放置。うん、忘れよう。
とか思ってる間に殿下が立ち上がって私の近くに来ていた。そして、私の髪を一筋手にすると、殿下は髪にキスをした。うーわー…こういうことをサラッと出来てしまうなんて、流石王族の方だなぁ、とか思いつつも、やっぱり照れる。私が恥ずかし気にもじもじしてしまって、そんな私に殿下がくすりと笑った。
「うん、アイリスは可愛い。君が婚約者になってくれて嬉しいよ。もっと仲良くなりたい。叶うならお互いに恋が出来たらいいな」
「…えっと、ありがとうござい、ます」
いやいやいやいやいや、仲良くなりたいに関しては私も同意する。友達として、という条件は付くけど。でも恋はないわー。多分、殿下がオジサマな年齢になるまで無理じゃないかなぁ…。だって、あやめさんの記憶がその辺り非常に強くて、私もそうなっちゃってるし。
あやめさんが高校の頃に同級生に告白されたことがあって、付き合う付き合わないという話になって、断ってる。相手があやめさんより二日程生まれた日が遅かっただけで、拒否感が強かったというくらいにはあやめさんの年下相手はないという判断も強い。結局その告白してくれた相手とは友達ということで、ずっと付き合いはあったみたいだけど、あやめさんの理想の男性像を知った後に彼は笑って「それじゃぁ振られるわけだ」と言っていた。その頃には彼にも可愛い彼女がいたし、問題もなかったみたいだけど。
あやめさんて人誑しだったのかなぁ。友達多かったみたいだし。だけど、気が多いわけじゃないから、あやめさんは付き合った人は一人だけ…だった、はず。あれー? その肝心な相手の記憶がないなぁ。どこいった?
思い出せないものは仕方ない。うん、スルー案件だ。
で、殿下が私に迫って来てますよ。なんで? と思う間もなく私は殿下に手を取られていた。そして、髪の次には手の甲にキスをされた。いやぁ、こういうのって挨拶ならキスをする振りだよね。でもそういう間柄じゃないからかなぁ、だから直接触れて……触れ!? 私は頭から一気に噴気が上がったみたいにボンッとなった気がした。顔が熱い。すごく熱い! うわー、これどうやっておさめればいいのー!
「ふっ、可愛い。こんなに赤くなってる。でも、これは誰にも見せたくないなぁ、他の男に君を見られたくない」
いや何この年齢で、色気が漏れ出てるよ? 何て言うか…それ以前に何その発言! いや、この年齢でそういうの言うのはなんか違うんじゃないの!? とか思ってしまうけど、私間違ってないよね!?
私たちまだ十二歳なんですけど!? あ、殿下はもう十三歳だっけ。いやでも、同い年なんだからやっぱりおかしいんじゃないの? え? 貴族だからそういうものなの? 私の認識があやめさんに引っ張られ過ぎかしら? えー、でもやっぱりなんだか…子供らしくなくてちょっと嫌かも。もしね、殿下の年齢がちょーっとばかり年上の…素敵なオジサマだったらもうねーすごくねー、キュンキュンしてた自覚があるけれど。
まだ…見た目だけなら幼気なと言える部分もある十代だからね!
というか、あやめさんの甥っ子ちゃんて殿下よりもちょっと年下だったと思うけど、今の殿下みたいには到底なれないような気がする。やっぱり育ちが違うのかな。あやめさんは庶民だったしね。
むぅ。
「ジェイド殿下! あの、こういうのは…慣れない、ので……」
私が精一杯の気力を振り絞って言えたのはここまでだった。顔だけでなく首まで赤くなってる自覚のある私に追い打ちをかけるように、殿下は私の肩をそっと抱き締めてきた。なんでだ!?
「僕は、もうずっと君と過ごすのが当たり前だと思って生きてきたからね。君を逃がすつもりなんて、1ミリもないよ」
私ははたと気付く。殿下は1ミリと言った。この世界の単位は前世とよく似てはいる。でも、同じ言葉はない。例えばよく使う重さや長さの単位で、ミリって前世では使っていた。けど、こちらではミリじゃない。エノだ。ミリと同じ意味だけど、ミリじゃない。
え? 殿下も転生者? いやいや、それはないか。何かの言い間違いっていうほうが正解な気がする。うん、きっとそうだ。そうに違いない! いやぁ、それが私の心の平安というものよね。ということで、私は殿下の言葉をスルーすることにした。そのおかげでクールダウン出来て、体の火照りも落ち着いたし、なんだったら顔の赤みも消えたと思う。
「ありがとうございます」
取って付けたような礼を言って、なんとかその場を誤魔化したのだった。




