5.1.149 新たなる戦いの始まり
■カムナ3019年 5月8日 火曜
◎ハルト
4つの拳を預けあって、、、
隣りに立つ美少女の姿を横目にうかがいながら、俺は幸せを噛みしめていた。
再び憧れのユウナの横に立てる日が来るなんて、諦めてしまっていたのに。
しかもこの様子だと、ユウナも俺のことを、、、
ーーーーー
伝説のダンジョンで見つけた天恵のポーションを誤って使ったことで生まれた第5勇者の偽物。
それが俺だ。
勇者の力も、聖女ユウナのパートナーの座も、自分自身の存在すらも全て失って。
何度も何度も死ぬような思いをして。
それでもユウナのために、みんなのために、世界を救うんだって足掻いてきた。
仲間は天界から堕天させられたケイと、教会から破門されたリリナの2人だけ。
力を失った3人で世界に抗って、少しずつ戦う術を探して。
そうして魔王まで倒すことができた。
だけどそれは多くの犠牲を出した上での奇跡でしかなく、もう一度やれと言われて出来ることではない。
俺が倒すへぎき人類の宿敵、千年魔王に届く未来は全く見えなくて。
だから俺の胸の中は不安でいっぱいだった。
そんな中で俺は再会できたのだ。
大好きなユウナに。
いやユウナといっても、本物のユウナではない。
俺と同じく天恵のポーションによって生まれた偽物のユウナだ。
俺たちはシンラ正教国のリンネ様から依頼を受けて、伝説のダンジョンを目指していた。
そしてミカグラ大火山の頂上へ向けて登っていたところ、危機的な状況にあるユウナに遭遇した。
ユウナは第2勇者のクソウタの暴行を受けていたのだ。
結局はクソウタのパーティーと戦うことになって。
ユウナがヒドい目に合っているのに、ちゃんと守ってあげられなくて、、、
それでも何とか俺たちは勝利することができた。
その後俺はユウナから全てを打ち明けられた。
ユウナがカムクラ王国第3王女のユナ姫だったこと。
ユウナが神託の巫女姫で、俺が千年魔王を倒すという予言を受けたこと。
そして俺の道を共に歩むという使命を果たすためにパートナーになったこと。
俺のこれまでの努力は決して間違いではなかったのだ。
何とか前を向こうと足掻きながらも、不安でいっぱいだった俺に、、、
誰よりも大切な人が教えてくれたのだ。
ーーーーー
そうして真の聖勇者と至聖女である俺とユウナは、ケイとリリナを加えた4人で進み出すことを決めた。
千年魔王を倒し、この世界を救うという1つの目標に向かって。
4人の拳を預けあって、仲間の誓いを交わしたのだ。
この4人なら、何だって出来そうな気がしてくる。
やがて誰からとなく拳を戻して。
みんなで顔を見合わせて。
話したいことが山ほどある。
だけどまず始めに、、、
「あの、ユウナ。これからはユナ王女様って呼んだ方がいいのかな、あ、いや、ですか?」
「ふふっ、何ですかそれ。そういうときは王女殿下って言うんですよ」
満面の笑みを浮かべながら答えるユウナ。
これからはやはり、ちゃんと王女様として接しないといけないってことなのかな?
だけどそう考える間もなく、ユウナは俺の左腕に抱きついてきた。
だから当たってる!
当たってるって、ユウナ!
微かにしか感触はないけど、、、って、そんなこと考えている場合じゃなくて!
あたふたする俺を、ユウナは幸せいっぱいといった様子の笑顔で見上げる。
「ユウナと呼んでください。いつも通りに話してくれると嬉しいです」
それだけ言って瞳を閉じると、ユウナはまたしても俺の左肩にスリスリと頬ずりを始めた。
何この聖級かわいくて神級あがめざるを得ない生き物っ!
もう心臓がバクバクと鳴って、頭の中がどうにかなりそうだ。
やっぱりユウナも俺のことを!?
ユウナのためだったら、、、
今なら俺はどんな壁でも乗り越えられそうな気がする。
みんなとなら、きっと何だってできる。
この世界最高の4人のパーティーならっ!
そう思ったんだけど、、、
それは勘違いだったと気づいたのは、その直後のことだった。
「おい、王女様。いつまでハルトに抱きついているつもりだ」
苛立ちのこもった声でリリナが割り込んでくる。
だがユウナはそんなリリナの冷たい視線に怯むことなく、正面から受け止める。
「もちろん、ずうぅ〜っとですよ」
「さっきまでは久々の再会だろうからって見逃してやってたが、もう落ち着いただろ。いい加減離れろよ」
「どうしてですか?わたしは離れたくありません」
ユウナっ!
離れたくないだって!?
それってやっぱり、ユウナも俺のことを??
っていやいや、そんな場合じゃなくて、、、
なんだかユウナとリリナの間でバチバチと火花が散っている気がする。
「ふざけるなよ。誰に断ってハルトに触ってるんだ?」
「あなたこそ何様ですか?あなたにそんなことを言う権利があるのですか?」
言い争ううちにどんどんと過熱していくリリナとユウナ。
そしてリリナがとんでもないことを言い出した。
「あるとも。私はハルトの恋人だからな」
ちょっ!!
リリナさん!???
「どういうことですっ、ハルト!?」
ユウナが抱きついたままの腕を強く引っ張って問い詰めてくる。
だけど聞きたいのはこっちなんですけど!?
「どうもこうも私とハルトは未来を誓いあった仲なんだ」
誓いあってねぇぇーっ!
って、ないよね?
確かにリリナとそういう雰囲気になったことは、昨日までに何度もあった。
だけど俺はリリナの好意に対して、まだはっきりと答えていない。
時間をかけていいからと昨日言われて、考えていたところだ。
いや、ついさっきまでずっと悩み続けていたというのが正しい。
だって、、、まさかユウナと再会できるなんて、夢にも思っていなかったんだから。
ユウナが隣りにいてくれる今、自分の気持ちなんて決まりきっている。
だけど今までリリナに曖昧な態度をとってきたことは確かだ。
そんな俺のせいで、リリナは変に勘違いしちゃったってことなのだろうか?
だったらはっきりと断ることが俺の責任だろう。
とはいえユウナが現れたから、リリナはもういいって、それって大事な仲間に対してあまりにも不誠実じゃないか?
これはすぐに答えを出せるような問題じゃない。
だけど悩む時間もないまま、場の雰囲気はどんどん険悪になっていく。
「それよりハルト、やはり一国の王女様がこんなパーティーにいるのはおかしいだろ。街まで送り届けたら王国に引き渡した方がいいんじゃないか?」
「良くありませんっ!わたしは真の聖勇者ハルトを導く聖女として、行動を共にすることが定められているのです」
「それはお前が勝手に言ってるだけだろ。お前たち王族は前の聖戦で私たちを見捨てた。そんなお前たちに、今さら私たちと共に戦う資格があるのかっ?」
「それは、、、」
リリナの強い拒絶反応に、ユウナが思わず口をつぐむ。
確かにリリナにとっては、アオイだけでなくユウナも仇には違いない。
北東部を見捨てた王国首脳陣の決断によって、リリナは愛する人たちを失ったのだから。
自分たちの行いによる犠牲を突きつけられて、ユウナは言い返す言葉もないのだろう。
表情を暗く曇らせて唇を噛むユウナは、少し震えていた。
これ、、、このパーティーって人間関係に致命的な問題があるんじゃ、、、
「リィちゃん、気持ちは分かるけろ、ユウちゃんは真の至聖女に選ばれたの。らからユウちゃんも一緒に行くのは、けってーじこーなのっ!」
そこに助け舟を出してくれたのはケイだった。
天の声には逆らえないのか、リリナもしぶしぶと反論の言葉を飲み込む。
まさかケイが場を丸く収めてくれるなんて。
いつもポンコツだなんて思ってて特級ごめんなさい。
「ケイちゃん、、、」
ユウナがほんのりと表情を和らげる。
認めてくれたのがよほど嬉しかったのだろう。
だがユウナが安心できたのは一瞬のことだった。
「らけろっ!」
急に語気を荒げたケイが、突然動いた。
バッと飛びかかってきて、いきなりユウナを乱暴に突き飛ばしたのだ。
「きゃっ!」
たまらずユウナは俺の腕から引き剥がされ、悲鳴を上げて倒れこんだ。
「ケイ、何するんだっ!」
すぐさま怒鳴りつけたものの、ケイは俺のことなど見ちゃいなかった。
怒ったように頬を膨らませ、ユウナを冷たく見下ろしている。
「ユウちゃんもついて来るなら、ちゃんと立場をわきまえるのっ!」
「立場ですか?ケイちゃん、いえ、天使さま?」
「うん、そうらよ。ケイがいちばんお姉さんれ偉いんらから、ちゃんと敬うのっ!」
ユウナが天使さまと言い直すと、露骨に機嫌を直したポンコツ幼女。
もしかして子ども扱いされて怒っていただけなのか?
「それからハルちゃんに触るなら、ちゃんとケイに許可をとってからにするの!」
「許可ですか?天界からの遣いである天使さまが偉いことは分かるのですが、、、」
いや、分からないって!
ぜんぜん偉くないから!
ユウナ、ぜったい騙されてるから!
というツッコミの言葉を辛うじて飲み込む。
「ハルトに触れるのにすら許可が必要というのはさすがにおかしくおりませんか?」
「おかしくないもん。ハルちゃんはケイのなんらからねっ!」
「ケイのって、天使さまはハルトの何だと言うのですか?」
そう問われたケイは、薄い胸をせいいっぱい張ると、得意満面の笑みを浮かべながら答えた。
「妻れすっ!」
嘘だぁあぁぁぁぁっ!!!




