4.53.146 真・修羅の戦場
ポンコツ幼女の衝撃発言により、世界が凍りついたように動きを止める。
息をするのすら苦しくなるような、張り詰めた空気に包まれる。
そんな中、ぎこちなく動きだしたユウナが沈黙を破った。
「ハルト、これはいったいどういうことですのっ!」
顔を真っ赤にさせた涙目のユウナが、俺の襟首を掴んで荒々しく揺さぶりながら問い詰めてくる。
「いつの間にけけ、結婚だなんてっ!それもこんな幼女とっ!!」
ユウナさま、落ち着いてください!
なぜそんなにお怒りのご様子なのでしょうか?
俺のせいじゃないんです!
こっちだってわけがわかわかわかわかあ゛ぁぁっーっ!
落ち着け、俺!
「おい、ハルト。これはさすがに冗談では済まないぞ」
えぇぇっ、リリナさん?
息をつく暇もなく、今度はリリナまで参戦してきた。
3人の鬼気迫る女性陣に詰め寄られて、、、
これは俺の人生超級最大の危機なんじゃないだろうか?
っていうか、これって俺が悪いのか?
なんで俺が責められてるの?
妻だとか勝手に言い出したのはケイだ。
リリナさんだって、さらっと恋人だとか嘘ついてたよね!?
とにかく今はなんとかして弁明しないと!
だけど気が動転して頭が真っ白になり、何をどう言えばいいのか分からない。
「リィちゃんとユウちゃんは愛人なんらから、ちゃんと正妻のケイに気を使うんらよっ!」
だからもう黙ってくれっ!!!
俺に説明させる時間を与えず、ケイがさらに燃料を投入する。
ってか、王女様を勝手に愛人扱いしてんじゃねーよっ!!
恐れ多すぎて特級死罪だこれっ!!
「あ、あっ、愛人だなんてっ、そんなわたしはっ!」
だがユウナは急にあたふたと慌てふためき、火照ったように真っ赤になっていた。
正直言って超級かわいい。
えっ、ユウナ様、愛人でもいいのでございまされますのですか?
いやだけど、ユウナが良くてもリリナが怒り狂うだろ?
「確かに私は愛人と言えなくもないが、ケイ、お前が正妻ってとこには異議があるぞ」
いや、愛人ってとこにも特級異議があるけどなっ!
だけどリリナさんも愛人でいいと申されましてございまするのですか?
ユウナ様とリリナさんが愛人っ!?
何それ、天国なのか?
まるで夢のような、、、
って、そうか、これは夢か!
なるほど、夢なんだな。
はぁー、良かった。
「リィちゃんが何を言っても、もう決まってるの。ケイはハルちゃんに求婚されて夫婦になったんらから!」
なってねぇよ!!
「求婚だと!?」
「そんっ、、、」
リリナが鬼の形相で声を荒げる。
ユウナが呆然として立ちすくむ。
「うん、ハルちゃんとケイは死ぬまでいっしょ。そう情熱的に告白されたんらもんっ!」
「ハルトぉぉっ!お前って奴はぁぁっ!!」
リリナが俺の頭を両手で挟み込み、ガンガンと揺らして問い詰めてくる。
凄まじい圧力で頭が割れそうに痛いんですけど!
もし本当にこれが夢だったら、この痛みで目が覚めるよな。
ってことは、あぁ、うん、これ、夢じゃねぇわ。
知ってたよ、チクショー。
俺はもう超級終わった。
完全に進退極まった。
どうやってもここからみんなを納得させられるとは思えない。
どう考えても詰みだ。
「ハルト、正座」
リリナが凍えきった怒りの声で命令してきた。
もちろん反論などできるわけがない。
大人しくその場に正座する。
むしろ土下座くらいはした方がいいかもしれない。
「ちゃんとお前の言葉で説明しろ」
俺を冷たく見下ろしながら、リリナが言い放つ。
まじで聖級恐いんですけど。
とはいえこれは、ちゃんと弁解するいい機会だ。
きちんと最初から説明すれば、きっとみんな分かってくれるはずだ。
「えーとこれ、、、」
「言い訳するなっ!!」
だが俺の言葉は一瞬にして遮られた。
リリナさん、俺まだ何も説明してないんですけど。
声を出しただけで怒られるとか、超級マジ理不尽。
少なからず傷ついていた俺だったが、そこにユウナが追い打ちをかける。
「ハルト、あなたがこんな人だとは思いませんでした。もう大っキライです、、、」
そんなユウナっ!!
これはぜんぶ間違いなんだ!
悲痛な声で絞り出したユウナの『大っキライ』が、俺の心臓を刺し貫く。
胸が張り裂けそうに苦しくなる。
ちゃんと話せば分かってくれると信じたいけど、衝撃で目の前が真っ暗になる。
だというのに状況はますます悪化していく。
「それじゃ王女様はここでお別れだな」
再びリリナとユウナの苛烈な争いが始まったのだ。
「勝手に決めないでくださいっ!それよりあなたこそハルトにぜんっぜん相手にしてもらえてないんじゃないですか?」
ケイの『妻』発言に取り乱すリリナを見て、ユウナはリリナの『恋人』という話に疑問を持ったのだろう。
リリナの嘘、というか誇張表現に、ユウナの反撃が見事に突き刺さった。
「ぐぅっ、、、」
一気に追い詰められるリリナ。
「そ、そんなわけないだろっ!ハルトは私との口づけが大好きなんだぞっ!!」
ちょ、リリナさん、あれはリリナから強引にっ!
苦しくなったリリナが、とんでもないことを曝露してくれた。
「うそっ、、、嘘ですよね、ハルト!?」
「言ってやれよ、ハルト。どれだけ情熱的に舌を絡めてきたか」
「からめっ!!こ、答えてくださいっ、ハルト!」
涙目で取り乱したユウナが、鬼の形相で飛びかかってくる。
聖女様、どうかお鎮まりくださいっ!!
恐るべき女の戦いの火中に立たされ、俺は絶体絶命の危機に追い込まれた。
そんな俺に温かい手が差し伸べられる。
正座中の俺の頭を、ケイが2人から庇うように優しく抱きしめてくれたのだ。
「可哀想なハルちゃん。恐い女の子たちにイジメられて。ケイが守ってあげるからね」
ケイさま、、、あなたは天使なのか?
いや、ほんとに天使だったよ。
ケイが俺を救ってくれる。
大事にしてくれる。
俺にとって最も大切な人は、やっぱりケイなんだよ、、、って、ん??
そもそも元はと言えばぜんぶケイの嘘のせいじゃねーかっ!!!
やっぱりこいつは天使じゃない。
むしろこんなの堕天使だろ!
って、うん、本物の堕天使でした。
合ってるね。
「おい、ケイ。勝手にハルトに抱きつくな。私はお前が正妻だって認めたわけじゃないからな!」
「そうです。わたしは恐くなどないですし、いじめたりなんてしていませんっ!」
ポンコツ堕天使に向かって、リリナとユウナが口々に言い返す。
そんななか当のケイは、2人の言葉などまともに取り合おうとしない。
完全に無視したまま、火照った顔で俺を見つめながら、、、
「それよりハルちゃん、口づけって、あのぶちゅ〜うってやつらよね?ケイ、まらやってもらってないよ!」
とんでもないことを言い出した。
「さぁ、ハルちゃん。今すぐ妻のケイに口づけするのっ!情熱的にやるのっ!」
こんな状況でできるかっ!!
まぁこんな状況じゃなくてもしないけど。
なんて冷静にツッコんでいる余裕はどこにもない。
唇を突き出してくるケイを必死に避ける。
さらにリリナとユウナも、そうはさせじと組み付いてきて。
「ハルトから離れろっ!」
「こんなのダメですっ!」
「ハルちゃん、ぶちゅうっ!!」
口々に騒ぎ立てながら、取っ組み合いを始める3人。
間に挟まれた俺は手足を乱暴に引っ張られて、、、
っていうか本気で力を込めるなケイっ!!
超級マジで腕が千切れるからっいたイタマジでいた「ギャがっ痛いイダぁあーアぁぁ゛アぁっ!!!」
全身が引き裂かれそうな激痛が走り、辺りをはばかる余裕もなく悲鳴を上げる。
俺の本気の絶叫に、一瞬手を緩める3人だったが。
「ハルト、叫んでないで、いい加減ちゃんと説明しろよ」
「そうですハルト、実際のところどうなんですか?」
「ハルちゃん、ケイが一番ってちゃんと言うのっ!」
うぅっ、本当にもう泣きそう。
こんなの理不尽すぎます。
怒り、不安、好意。
様々な感情がドロドロに入り混じった強烈な視線に取り囲まれて。
俺の答えをじっと待つ3人。
救いを探し求めて周囲を見回すが、そこにあるのは凶暴な3人の視線だけ。
こんな状況、何を言っても破滅だ。
完全に詰んでいる。
そしてもう逃げ場はない。
何処にも救いなどない。
天は俺を見捨てたのだ。
ハルカ、お兄ちゃんはここで朽ち果てます。
俺が死を覚悟したそのときっ!!
「みんなっ!!!」
それに気づいた俺は咄嗟に叫ぶ。
助けを求めてあたりを探っていた俺は、同時にマナの探知も行っていた。
そのおかげでいち早く発見できたのだ。
「誰かが来るっ!話は後だっ!!」
急いで立ち上がりつつ、みんなに呼びかける。
「魔物かっ!?」
最初に反応して即座に戦闘態勢に切り替えたのはリリナだった。
「いや、たぶん人間、、、けっこう強い」
この感じだと、高級くらいの力がありそうだ。
しかも1人じゃない。
「4人、、、いや、5人か」
「近いのか?」
「あぁ、すごい速さで登ってきてる。もう出てくるぞ!」
この原っぱの下に広がる森を指差して叫ぶ。
謎の集団は間もなくその森を抜けて出てきそうなのだ。
俺の言葉を受けて、リリナはすぐさま刀を抜いて構える。
山を全速力で駆け上ってくる相手だ。
クソウタの手下かもしれないし、油断はできない。
そうしてその一団は姿を現した。
遠目にぱっと見た感じだと、みな普通の冒険者っぽい出で立ちをしている。
そして向こうもこちらにすぐに気づいたようだ。
その中の1人の女性が、大声で呼びかけてきた。
「姫さまぁーーーっ!ご無事ですかぁーっ!!」
姫さま??
ユウナの仲間なのか!?
ユウナの参戦により、ついに正妻戦争が勃発。
ちなみにケイがハルトにプロポーズされた(と思い込んでいる)のは60話の出来事です。
それ以後、ケイはずっと夫婦のつもりでした。
ちゃんと誤解を説かなかったハルトが悪い!、、、はず。




