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高天ヶ原学園十三組  作者: 村正
第一章
24/25

「暑い・・・・・・死ぬ・・・・・・」by一真 「じゃあ、組んず解れつ涼しいところで愛し合いましょう」by一美 『させるかぁぁぁぁぁ』by千歳・アッシュ

どうも、村正です。

ここ最近は酷暑に豪雨に、日本はどうなってるんでしょうね。

自分は暑いのが苦手なので、基本は室内で過ごしております。そんな室内でようやく完成させた最新話。

それではお楽しみください。

   1



 鈴蘭が一美に対し邪魔をするな、と言い放った直後まで遡る。

 目の前には神無の側に行きたくて焦っている桔梗ききょうの姿。しかし鈴蘭にとってはどうでもいいこと。

 今大切なのは、相対している人物が初めて見る『神話武具レジェンディア・デバイス』の持ち主であり、自分を楽しませてくれる存在であるかどうか、だけである。

 現状桔梗は鈴蘭にとっては楽しめる存在と認識されているため問題ないが、違うと判断された場合どうなってしまうのか。今ままで『暴走ビースト』が発動してきて、そんな判断が彼女の中で行われなかったため分からない。だが起きてしまった時、とんでもないことになると兄・一真は直感で感じていたためにこうなった時点ですぐに気絶させていた。

 だが、今はブレーキ役は存在しない。

 ブレーキをかけることの出来るだろう楓も、鈴蘭の援護をしながら桔梗の相手をすることに精一杯でありそちらに意識を回すことが出来ない。


「はぁ!」


 さっきから鈴蘭は振り下ろされる刀身に対して自分から突っ込んでいくように見える。いや、突っ込んでいる。

 未だに『神話武具』の力を発揮させていない桔梗に対してそれは悪手なのだが、鈴蘭にとっては関係ない。

っては関係ない。刀身に対しても避けることはなく、拳をぶつけて弾くという無茶を続けている。

 何度も何度も大きく響く金属音に、桔梗はいらつき始めていた。

 決定打もなく、目の前に鈴蘭を退けられない。

 いくら聖女(神無)の妹であっても、邪魔するのならば容赦はしない。


「そんな物なの、『神話武具』ってのは!?」

「煽るんじゃない、神童鈴蘭! 桔梗が本気を出す前に終わらせるんだ!」

「うるさいなぁ。約束だから、一緒に戦ってたけど・・・・・・邪魔するなら、貴女も敵だよ?」


 向けられていた楓もだが、それを見ていた桔梗でさえゾッとした。

 あれが味方に向ける視線なのか。

 視線で人を殺せる、なんて言葉がある。今、鈴蘭が楓に向けていたのはそういった意思が向けられていた。そんな物を視たからこそ、桔梗は冷静になることができた。

 ふぅ、という息を吐く音が鈴蘭の耳に届いた。


「あは、その眼だよ! そんな貴女と戦いたかった!」


 桔梗の瞳にはさっきまでの焦りは存在していない。あるのは、目の前の敵を確実に倒さなければならないと言う確固たる意思。

 興奮していく鈴蘭とは全く対照的な雰囲気を纏っている。

 姉の楓はこれを恐れていた。

 何故桔梗が『神話武具』の適正を持っていたのか。それは、


「ふっ!」


 気配を感じさせず、予備動作もない。更には音もなく鈴蘭の懐まで、一瞬にして迫っていた。

 外で見ていた楓さえ桔梗の動きを捉えることが出来なかった。正しくは見ているのに、次に現れるまで桔梗から他の物に意識を外されていたような感覚。

 すぐにそれが自分の技だと気がついた。

 これが桔梗が天羽斬あまのはばきりに選ばれた理由。彼女の吸収力という、他の誰にも出来ない天賦の才だ。

 一度見た魔法、技は自分の能力内で可能であれば再現してしまう。姉ですら知らなかった妹の技量に驚愕を感じた。

 鈴蘭に取っては、さっきとは違う攻め方をしてくる相手に笑みを押さえることが出来ない。

 だがそれよりも気にしなければならないのは、下からッ逆袈裟切りにしようと迫ってくる刃。

 バックステップするにも近すぎて、どうやっても当たってしまう。さっきまでは刀身に対し拳で防ぐ、という荒技を繰り返していたが、それも間に合わない。

 何をすればダメージを減らすことが出来るのか。

 選択は簡単だった。


「っ!」


 下から上がってくる刀の切っ先に対して、右の掌を突き出した。

 利き手は左。

 攻撃の資本となる身体にはダメージを受けることをよしとしない。となると、削るのはバランスは悪くなるが右腕一つ。

 天羽斬の切っ先が掌を完全に貫く。が、これも予定通りのこと。

 貫いた、ということはそのまま掌を押し込んで近づくことが出来る。


「止めろ、神童鈴蘭! 完全に右手を潰すことになるぞ!」


 桔梗の制止にも耳を貸さない鈴蘭は、痛みに対しても笑顔を浮かべたまま。

 左手には拳を作り、


「こんなにハラハラ出来るのは、お兄ちゃんと依頼だよ!」


 腹部、顔面と殴り、吹き飛ばす。

 距離を開けてしまったことにため息をついたが、籠手には追撃用の魔法を放つための魔力が集まっていた。

 振り上げた左腕を確認すると、桔梗は足場を作り体勢を立て直すと防御の態勢を取る。

 これが正しい動きなのだが、今は不正解。

 他の動きも予測して、どんな動きにも対応できる体勢を取るべきだった。

 いつもの鈴蘭であれば真面目で戦闘経験も少ないことから、桔梗であれば完全とは言わないでも正解出来ていた。しかし今は予測困難で、自身が戦いを楽しむことを中心に行動する。

 どのような攻撃をして、どのような防御をして、どのような選択をするのか。

 一つではなく複数の回答を用意しておかなければならない。

 光っていた左腕は発光を止める。


「え?」


 次に発光するのは鈴蘭の両足。

 まさかと思った時には既に遅い。


「今度は私!」


 その声は目の前で聞こえ、視界は光で覆われた。


「『魔王の衝撃ディアボロス・ストライク』」


 突き出された足から放たれたのは、先に神無を打ち抜いた『魔王の一撃ディアボロス・ブレイク』に似た魔法攻撃。

 だがあれと違う点があるとしたら攻撃の形。

 前の物は物理と魔法による二段階攻撃。

 しかし今回は魔力で威力を底上げした、物理一辺倒の攻撃。

 上からの衝撃に備え顔を庇っていたことから、鈴蘭の右足底は桔梗の腹部に突き刺さる。再度後方に吹き飛んだ彼女を、獣は追う。

 自分の獲物にトドメを刺すため。


「あはっ!」


 足に魔力を巡らせ高速移動を行っている鈴蘭は簡単に追いついてしまう。

 覆い被さるように現れた彼女の左手は既に引いてあり、いつでも突きを出せる状態にある。

 その狙いはまだ一撃しか叩き込むことの出来ていない顔面。


「終わりっ!」


 容赦なく、全力で打ち出された拳。

 攻撃した鈴蘭はもちろん、遠くで見ていた楓も決まったと確信した。

 それは彼女の技能を忘れていたからだ。

 拳は何かに阻まれ止まっており、直撃はしていなかった。それは神無が得意とする防御壁に似た何か。


「ぐっ・・・・・・もう一回!」

「ダメだ! 逃げろ!」

「何を言って――――――っ!」


 かえでの言葉にほんの一瞬のだけ桔梗から眼を離していた、離してしまっていた。

 だからこそ桔梗に立て直す時間を与えてしまうこととなる。

 ほんの少し、とも言えないほどの短い時間。

 桔梗はその間に楓の技能で距離を取ると同時に、天羽斬に魔力を巡らせていた。その姿は鈴蘭の魔法を放つ直前に酷似していた。

 いや酷似ではない。

 完全に同じ攻撃魔法が今放たれようとしていた。


「『ヘルズブリンガー』!」


 上から下へまっすぐに振り下ろされた刀と同時に、魔力圧が鈴蘭を襲う。

 急遽に放たれたことにより未完成なのだろうが、威力に関しては鈴蘭のそれを上回る。天羽斬という『神話武具』がブーストを掛けているのだ。

 いくら鈴蘭の魔力色が黒と白の2色だとしても、その力に大きな差がありすぎた。

 鈴蘭も耐えようと魔力の足場に更に魔力を込めていくが、圧は徐々に強くなっていく。


「ぐっ・・・・・・がぁ!」

「堕ちろぉぉぉぉぉ!」


 足場は完全に崩壊。

 再度足場を構築するどころか、意識を持って行かれそうになるところを何とか持ちこたえようとするがそれも時間の問題。

 薄れそうになる視界の端で見えたのは自身が邪魔と切り捨てていた遠山楓の姿。

 桔梗の意識が完全に鈴蘭に向いていいたからこそ、彼女は近づくことが出来た。

 囮に使われた、そう理解した瞬間だった。


「邪魔を・・・・・・するなぁぁぁぁぁぁ!」


 轟いたのは女子中学生の口から発せられたとは思えないほどの咆哮。

 自分を囮にされたことが、この戦いの邪魔されたと感じ怒りが一瞬にして頂点に達した。本来の鈴蘭であればこれは正しい判断と理解出来るだろうが、今は違う。

 沸点は一真よりも低く、戦いを邪魔されたということとなれば尚更低くなる。

 そして、鈴蘭の怒りに呼応するかのように魔力が膨れ上がる。

 しかし膨れ上がるだけでは、『神話武具』を使用している桔梗に対抗するには足りない。


「はぁっ!」


 膨れ上がった魔力に対抗するため、桔梗も更に魔力を流し込む。だが、小さな弱点を大きな物へと変化させてしまう。

 この魔法を放っている当の本人桔梗も、急遽真似することに成功した物。だからこそ穴が存在した。

 魔法の威力は、魔法その物に込められた魔力量によって決まることが多い。しかし殆ど同じ魔法がぶつかった時、どちらの魔法が強いのか。それは魔力と魔力の結合力が大きな差となる。

 今、楓が真似をしている『ヘルズブリンガー』とオリジナルの『ヘルズブリンガー』。この二つでは魔法構成に使われている魔力量は圧倒的に楓の方が多いだろう。しかし魔力結合力に関して言えば圧倒的にオリジナルが勝つこととなる。それはこの魔法を使い慣れていないことだ。

 どんな物であっても慣れてくれば質が向上していく。

 そんな簡単な理由であるが、大きな差が出来上がってくる。

 いつも一真や隆浩、千歳が相手の魔法を破壊しているのはそんな穴を付いているからである。

 そして今、魔力結合が緩い状態で桔梗は魔力を更に流し込んでしまった。そうすることにより魔力結合がより必要となってしまい、さっきまでよりも脆い物が出来上がってしまう。

 つまり既に完成している魔法に対して魔力を追加、威力を上げるには魔力結合がより必要であった。


「がぁぁぁっ!」


 鈴蘭は『暴走ビースト』状態の魔力を左手へ集中。

 この状態の魔力は半暴走状態にある。そんな魔力を普通は安定するどころか、まとも魔法をつかうことなんてできやしない。

 だが鈴蘭にとっては障害にすらならない。


「『ヘルズ――――――』」

「させるか!」

「『ブリンガァァァァァ!』」


 鈴蘭に魔法を打たせまいと魔力を更に込めるが、桔梗にとって半暴走状態の魔力を押さえ込む方法など知るよしもない。こんな物、初見殺しにも程がある。

 更に言えば暴走した魔力は、周りの魔力に大きな影響を及ぼす。

 それがどんな物なのか。

 簡単だ。

 暴走した魔力に触れた魔力は、同じように暴走を始める。


「っ!」


 自分の意思に反して暴走を始めたそれに、桔梗は適応することが出来ない。

 目の前の鈴蘭が半暴走にある魔力を完全にコントロールしている。なのに、なんで自分はそれが出来ないのか。

 そんなのは当たり前である。

 鈴蘭は生まれてきてから今まで、『暴走ビースト』状態になると当たり前のように半分暴走状態にある魔力に当たり前のように触れ、更には制御してきた。だが、桔梗にとって半分とは言っても暴走状態にある魔力になって触れるのは今日が初めてのこと。

 いくら相手の能力を見て真似ることが出来るとしても、それは目に見えて初めて出来ること。今まで相手が感覚で行ってきたことを真似るなんて出来るはずがない。


「がぁぁああぁぁああああぁ!」

「ぐっ!」


 ここで更に大きくなる、鈴蘭の魔法に込められた魔力量。これが鈴蘭の限界だと思っていたのだが、それが誤算。

 魔力には限界という物はある。それは自身が無意識に身体を守るために行っている限界と、それを超えた先にある本当の限界。今の鈴蘭はそこに到達した。

 はっきり言ってこれは身体への負担が大きすぎるため、誰もが無意識的にセーブしている。たまにそんなリミッターを意識的にON、OFF出来る者もいるが、それは例外中の例外。

 鈴蘭は更に身体を酷使する『暴走ビースト』の状態であるため、身体が悲鳴を上げ始めていた。

 身体中から何かが切れるような音している。

 激痛に始まり、内出血、鼻血なども見られるようになっていた。


「あああぁぁぁ――――――――」


 ブチィッ!

 大きな音で身体の中から聞こえ、鈴蘭の意識は闇に堕ちた。



   2



「ようやく捉えたぞ」


 突如身体にのしかかる重力。

 重力を操る魔法は茶色の魔力色を持つ物の魔法。

 桔梗はそんな人間をたった一人、姉の遠山楓しか知らない。

 上から掛かっていくGに背後に立つ楓に、首を回して視線を向けることも出来ない。


「っ!?」


 暴走した魔力で作られた一撃。

 自身の魔力も暴走したことによって、防ぐことも出来なかったが鈴蘭が限界を超えたことによって堕ちることはなかった。

 だが鈴蘭の予想以上の反撃により意識を全て注いでいたことから、姉の存在が頭から完全に抜け落ちていた。

 振り向いた先にあったのは覚悟を決めた姉の瞳。

 妹を斬るという覚悟。

 妹と共に罪を被るという覚悟。

 様々な感情を読み取ることが出来たが、桔梗はそれを許すことが出来なかった。

 今まで桔梗にとって、姉の楓はコンプレックスでしかなかった。

 生まれた時は二卵性双生児であり、全てにおいて大きなさは存在しなかった。しかし小学生のころからか、それは現れた。

 何をするにも姉に劣り、誰からも姉と比べられる。

 初めの頃は頑張れば姉に追いつくことが出来る、自分も褒められる。そう思っていたが、そんな日はやってこなかった。

 だからこそ桔梗は家を出た。

 家族からも、周りの人間からも逃げるかのように、楓が進学した学校とは別の学校に。

 それでも家族からは比べられるようなことには変わりなかったが、学校では比べられることもないため楽しかった。

 転機に、いや全ての始まりとなった日が訪れた。

 その日、自分はたまたま創立記念日ということで休みとなっていた。そして姉は本来ならば通学していなければならないのだが、昨日から体調を崩して寝込んでいた。

 どうしてだろうか。

 本当に何となく、理由は分からないが姉の学校に行ってみたい。どんなところなのか、気になってしまった。

 本当にただの気まぐれだった。

 そのことを楓に話すと、本人もバレないと思ったのだろう。すんなり了承を得てしまうことが出来た。

 登校した先のクラスではもちろん知り合い等いない。だから楓からは自分はのどの調子が悪い、という体で動くこと。その他にも学園生活で支障がないよう、ある程度の知識を受け取っていた。

 登校後から昼休みまで問題なく高天ヶ原学園で過ごしていた。おそらく友人達も違和感があっても、調子が悪いことが原因程度しか理解していないだろう。

 そして昼休み、彼女は出会ってしまった。

 食堂へ向かう最中、この学園の生徒会長である神童神無に。

 完全に一目惚れ。

 女の人に、なんて思われてしまうかも知れないが彼女は生まれて初めて恋、いや心酔のようなものだった。

 その後、姉の友人から聞いたのは彼女には弟と妹がいること。

 そしてその中の二人が、例の『十三組』に在籍しているということだった。

 『十三組』。

 この学園以外にも存在している。もちろん普通の生徒がその存在理由を知るはずもない。

 なぜあのような人にそんな存在が近くにいるのか。

 何であの人から、そんな奴らが寵愛をうけているのか。

 何でそれが私じゃないのか。

 私ならあの人を幸せに出来るのに。

 何で、何で、なんで、なんで、ナンデ、ナンデ――――――。

 そんなことを考えているウチに授業は全て終了しており、教室には誰もいない。

 いや、誰もいないわけではなかった。見たことのない教師が一人いた。

 何故いるのか、なんて分からない。

 ただ理由は分からないが気持ち悪さを感じた。

 早く帰って終わりにしよう。そう思い、教室を出ようとしたときだった、


『遠山楓・・・・・・いや、桔梗さん』


 意味が分からなかった。今日一日、誰にも気づかれなかった。誰にも気づかれると思ってもみなかった。

 いや、気づかれていたのだとしても名前まで言い当てられること自体がおかしい。


『どうして妹の貴女がなんてことは言いませんよ。名前を言い当てられたのは、ちょっとした理由がありますが、今はそんなことは動でもいいですよね。さっそく本題ですが――――――あなたは神童神無さんが、欲しいとは思いませんか?』


 欲しい・・・・・・あの人と一緒にいたい。

 そんなことをずっと考えていた。

 でも心の中だけであって、誰にもそんなことは言っていない。

 なのに初めて会ったこの男は、それを言い当てた。


『なぜ分かったのか? そんな顔ですね。今日はもう遅いですから、後日にしましょう。もし先程の思いが本当に叶えたいのならば、こちらに連絡をください』


 その後のことはあまり覚えていない。

 気づけば家のベッドで電話をかけていた。

 自分の中にあるある欲望が、あの男の中に言われた言葉で後押しされたからだ。

 あの人を救い出して、私があの人を幸せにする。

 普通に考えたらあり得ない思考だが、桔梗に迷いはなかった。


『昨日会った時には言えなかった、私の計画をお話しましょうか。それはですね、私が研究している『人工契約獣』という物が必要となってきます』


 初めて聞く単語に警戒はあったが自身に必要な物。

 そう言われた彼女は、『人工契約獣』を受け入れることを決めた。更にその男が提案してきたのは、今通っている学校ではなく聖岩戸女学院に転入することだった。

 その日の夜には家族に転入することを伝え、転入までに彼女は男の言っていた『人工契約獣』と契約することとなった。

 なぜ聖岩戸女学院に転入するように言われたのか。 

 理由は簡単。彼女が契約した『人工契約獣・レギオン』の能力は、他人に寄生させて操ると言うもの。意識を残すのか、残さないは本体を持っている思いのまま。

 そんな人外の力をコントロールし、自分の兵隊を作ることが目的だった。

 あの人のためならば何でもする。悪魔に魂を売ってでも、あの人をあんな奴から救い出して見せる。

 桔梗はそんな覚悟を、歪んだ覚悟を秘めながら。

 聖岩戸女学院に入学から数ヶ月、桔梗は帰省することになる。姉である楓を自分の駒とするため。

 そこにもあの男は同伴していた。

 須藤弘史が。

 そして時間は進み、現在となる。


「もう私はお姉ちゃんの知っている私じゃない! あの人を救うために!」

「救う? 神童会長をか?」

「そう。あんな落ちこぼれで、出来損ないなんかがあの人の人生を狂わせている! だから――――――」

「だから殺すのか? それを神童会長が望んだか? 桔梗にそうして欲しいと、あの人が言ったのか?」

「言った、言ってないじゃない! あの人は言えないだけで、心の中ではそう思っている!」


 思っている。

 だから自分があの人の希望になって、こんな世界から救い出してあげなければならない。

 覚悟は使命感に変わり、自分の思いと神無の思いは同じであると感じていた。

 そんな彼女の感情に呼応して、天羽斬の刀身が赤く染まる。


「させるか!」


 地面に叩きつけるつもりで重力を強く掛けるが、天羽斬によってブーストされた桔梗の魔力によって重力魔法は弾かれてしまう。

 予備動作なく瞬動により距離を詰めると、下から逆袈裟に切り上げる。

 だが楓の双剣型アーマメントデバイス『岩鷲ガンジュ』の刃を滑らせることとなってしまい、完全に受け流されてしまうこととなる。

 いくら瞬動を真似されてしまったとしても、やはり攻撃の時点で差が出てしまう。

 本来両手で振るう大剣を片手で振るったことにより威力は半減。もし両手で斬りかかっていれば受け流される、なんてことは無かっただろう。

 だが、桔梗にとってはそれは予定通り。

 むしろアーマメントデバイスで防がせることが目的だった。

 姉の身体にゆっくりと触れる桔梗。


「何で『レギオン』を入れなかったと思う? まさか、一度入れた相手にはもう入れられないとでも思ってた?」


 今の告白に楓は何を言っている、と思ってしまった。

 自分の中にあった『レギオン』は既に消失してしまっている。そうでなければ、親である桔梗にこうやって逆らうことなど不可能。

 もちろん、再度埋め込まれていても同じだ。

 そして楓が言っていたように、2度目はないと思っていた。


「ホント、単純だよね。私がここに来てから使わなかったのは、そこを完全に考えないようにするため。だからお姉ちゃん、もう一回一緒に戦うよ。あの人のために」


――――――もう、誰にも邪魔させない。あの人は、神無様は絶対に――――――


   《次話へ続く》

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