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高天ヶ原学園十三組  作者: 村正
第一章
23/25

「GWに旅行なんてリア充のすることじゃぁぁぁぁぁ! 今からリア充を潰す! まずはウチのハーレムキングからじゃぁぁぁぁぁ!」by十三組嫉妬委員会(男子達) 「ほう・・・・・・」by一真

「あなたと共闘となるなんて、思いもよらなかったわ」

「そうだな。神童一真には迷惑をかけたと思っている。これが終わったら、姉妹揃って詫びを入れさせて貰いたい」

「そんなこ――――――」

「うれしいことじゃない、鈴蘭」

「? そ、そうか」


 言葉をしっかりと妨害されてしまった鈴蘭。

 この時、鈴蘭は思った。間違いなく詫びなんてことをしたら、長男は何かしらとんでもないことを言ってくるのだろうと。

 一美もそれを予想できたからだろう。妹の言葉を遮ってまでその恐ろしい光景が見たかったのだろう。

 そんな会話をしながらも準備を整えていく三人に対し、上空よりその動きを眺めているだけの桔梗と神無。

 神無はどうかは分からないが、桔梗は姉と戦うのに余裕があるように感じる。


「そろそろ準備終わ――――――っ!?」


 桔梗が言葉を言い終わるまでに楓が動き始めていた。

 姉が妹に引導を渡すための初撃は蹴り。

 寄生されていたとしても神無ですら反応出来ないほどの隠密行動で近づいていたために、風での防御壁を張ることが出来なかった。

 楓の目的は桔梗を神無から引きはがすこと。

 意識を楓に持って行かれていた神無は妹達の攻撃に対しての対処に遅れた。

 既に目の前に迫っていた数十本の魔力矢。

 とっさに風で防御するが、次に近づいていたのは魔力の込められた拳。


「はぁぁ!」


 鈴蘭の一撃は魔力矢によって脆くなっていた部分を的確に打ち貫く。

 すかさず籠手に覆われた右手でのボディ。

 しかし今度は完璧な対応だった。

 拳を止める風の防御と、鈴蘭の手首を縛る捕縛魔法。

 捕縛魔法がなければ衝撃だけが神無の身体を突き抜けたことは間違いない。だが動き自体を止めることによってそれを発生させないようにしたのだ。

 右手を固められた状態で動くことの出来ない鈴蘭。

 全方位に風による刃を展開させる。

 鈴蘭もそれに対して防御壁を作るが止めきれないと分かっていた。

 もちろん自分の攻撃も届かないことも初めから想定済み。だからこそもう一人いる。


「これまで予想していたかしら?」


 風の刃より外に出現した風の刃の数を優に超える矢。

 全てを放つと鈴蘭に直撃してしまうが、そんなことを気にしていて勝てる相手ではない。

 一美が弓型アーマメントデバイス『黒姫』の弦を指から離すと、矢は一斉に動き始める。

 突如神無を中心にして吹き荒れる暴風。

 その風は矢を全て無効にした。

 そして決まる最初の一撃。

 喰らったのは神無。

 一撃を入れたのは右手を止められたままの鈴蘭だった。


「言ってたよね、お姉ちゃん? 相手の想定外からの一撃は最高の攻撃だって」

「っ・・・・・・!」


 神無の腹部を貫く灰色の光、突きつけられている籠手型アーマメントデバイス『ディアプトラ』の装着されていない左手。

 左手から伸びるのは魔力にて作られた刃。

 もちろん血は出ていない。

 与えたのは魔力よるダメージのみ。

 これは例え寄生されて人形になっている神無にとっても衝撃だろうと考えたのだが、大きな間違いであると知ったのは次の瞬間。

 神無は自分の腹に突き刺さっている物を気にすることなく、二人へ風刃を振らせる。

 もちろん一美、鈴蘭の攻撃とは違いそこに容赦はない。

 一美の提案により常時魔力を身体の周りに張ってダメージを減らすようにしていたが、それをも貫いて刃は二人を切り刻む。

 出血。

 頭の中で二人は思っていたのだろう。

 魔力によるダメージだけしか来ないと。

 しかし今の神無は人形も同然。

 桔梗による邪魔者には容赦はするな、という命令を実行しているだけ。


「ぐっ・・・・・・鈴蘭!」


 風刃の雨の直後に神無が作り上げたのは、巨大な刃。

 それは鈴蘭の頭上に出現していた。

 あれを見れば誰も引くことを考えるだろう。しかし鈴蘭が取った行動は全く別物。

 刃が落下を始めると同時に、


「まだ、まだぁぁぁ!」


 神無を貫いていた刃を消すと、両手に魔力を流し込む。

 更には身体強化の魔法を一段階上げる。

 籠手のある左手で神無を殴ると、そのまま右、左、右と始まったのはラッシュ。それにより動くことのなかった神無が後ずさり始める。

 拳から感じる感触としては、姉の身体に当たっているような感触はない。だが、止めるような考えはなく、より多く一発を、より深く一撃を決める。


「おぉぉぉぉぉぉぉ!」


 神無が後ずさったことにより、風刃は鈴蘭の背後を掠めて堕ちていく。

 そんな無防備な風刃をただ落として消滅、なんてことを一美が許すはずがない。

 この風刃に込められていた魔力、そして空気中に漂っている微量の魔力を一点に集中。それにより本来一美が一度に使用できる魔力量を超える魔力が収束された、協力な一本の魔力矢がここに完成した。

 完成して放つのではなく、一美が行ったのは付加魔法エンチャントの行使。

 神無の身体の周りには風の防御壁が存在している。鈴蘭の攻撃により削れているにしても、風の防御壁は神無の魔力が続く限り再生し続ける。

 更にこの防御壁、普通に魔力を纏っただけの防御壁よりも堅いのだ。風、それに魔力を混ぜ込んであるために魔法と物理のどちらに対しても効果的なのだ。

 そんな防御壁を貫き、確実に直撃させるため、小細工と言われようとも彼女はそれを行う。


「ふぅ・・・・・・お兄ちゃんが来るまでに、お姉ちゃんを落とす必要がある」


 この世で最も愛する兄を落とした、実姉である神無を許すことが出来ない。

 必ず正気に戻して償わせる。

 一真は過去に一美のことをこう言っていたことがある。


『こいつの怖いところは、俺のこととなるとなりふり構わない。特に俺に対して何かしら危害を加えた相手に対してどんな手を使おうが、それが味方、敵、合法、非合法、正攻法、卑怯、あいつ自身が使うことの出来る物全てをす使って壊すだろうな』


 兄が妹に対する評価としてはどうなのか、と思うところでもあるが一真としては最大級に褒めている。

 今の彼女にとっては鈴蘭は妹で味方で、最高の囮である。

 そんな考え方は他の人間が聞けば批難するだろうが、鈴蘭自身もそれを理解していた。だからこそ前線に出て、神無に対して効果の薄い打撃を休むこと無く打ち込んでいた。

 一美が最良の一手を神無にたたき込んでくれることを信じて。


――――――ボクも少し手を出した方がいいかい?――――――

「誰が出てきていいと言ったかしら? 契約破棄した上で、世界そのものから消滅したいのならそういいなさい」

――――――怖い怖い。君のことだからボクのことも道具のようにこき使うのかと思ったけど――――――

「必要になったら呼ぶわ。はっきり言って今回ばかりは、最後にお姉ちゃんの中からあの不純物を処理しなければならないのだから」

――――――そうだね。あれを処分するには高位の契約獣、またはそれに準ずる存在が手を出す必要がありそうだからね。必要になったら声をかけてよ。ボクは君にとっては、利用価値の高い道具なんだから――――――


 確実に当てるつもりなら、この一撃にその力を込めてしまえばいい。

 しかし一美はそれをしなかった。

 その理由は100%当てることが出来る、という自信がなかったからだ。

 今の神無には鈴蘭がラッシュを打ち込んでいると言っても、防御壁によって確実なダメージは溜まっていない。防御も回避も確実に行うことが出来る神無に対して、そんな切り札を切る必要性を感じない。

 今作り出した矢の目的は、神無に対して確実なダメージを与えること。

 ゆっくりと構え、鈴蘭の攻撃を受け続ける神無に矢を向ける。


「鈴蘭っ!」

「分かってるよ! 『ディアプトラ』!」


 灰色の光を放ち始める籠手。

 先のヘルズブリンガ―を見ていたのだろう。距離を取らないで、近づこうと神無は動き始めるがそれは大きな誤り。

 神無の動きには『レギオン』が彼女の記憶も読み取り、動かしていることもあり効率的な回避、攻撃を行おうとしている物もある。

 だからこそだろう、鈴蘭の攻撃を先読みすることが出来なかった。


「貫け! 『魔王の一撃ディアボロス・ブレイク』!」


 今まで遠距離から中距離用の大技しかなかった鈴蘭が近距離用として作り上げた、必殺の一撃。

 単なる打撃技、として視る者は多いだろうがそれは違う。

 神無もそう思って防御壁でしか防ごうとしなかったが――――――、


「ぐふっ」


 くの字に曲がる身体。

 拳はしっかりと風によって防がれていたが、神無の身体に届いたのは挙列な魔力による『衝撃』。

 そう、この攻撃で最も気を付けなければならないのは、次に襲ってくる魔力圧である。もし拳を受けてしまえば拳による物理と、魔力による衝撃の二段階の攻撃を喰らうことになる。しかし拳だけを受け止めても、次のダメージが待っている。

 正しい判断は避けることなのだ。

 風の防御壁。風に魔力を混ぜ込んで作り上げたどちらにも対応し、硬度もある物なのだ。が、鈴蘭の一撃は拳も魔力も一点集中。

 拳を受けたことによって少し散ってしまった防御壁を魔力が完全に貫き、奥の神無の身体を穿ったのだ。

 そんな隙を一美は見逃さない。


「『堕天を呼ぶ矢ディプラヴィティ・アロー』!」


 兄と同じ魔力色。

 大量の魔力が収束されている漆黒の矢が鈴蘭の攻撃により未だに回復できていない神無に向かう。

 一美はもちろん、鈴蘭でさえも矢が神無を刺し貫くことを確信した。


「私の聖女様に触るなぁぁぁぁ!」


 日本刀により真っ二つにされる矢。

 何が起きたのか理解出来ない一美と鈴蘭。そんな二人を暴風が襲う。

 消滅する一撃必殺のために作られた矢を貫いたのは、遠山とおやま桔梗ききょうの持つ日本刀型アーマメントデバイスだった。

 切っ先の欠けた日本刀。

 本来、そんな形のデバイスは存在しないのだが、あれは欠けていても神々しさを放っていた。


「はぁはぁ・・・・・・絶対にこの人は渡さない!」

「お姉ちゃんは・・・誰の物でもないのだけど」


 一美としては今の矢は誰にも止められない、と自負できる物が出来上がっていたはずだ。でも、あの時見たのはバターのように簡単に斬られる魔力矢。

 あれをあんな風に出来るのは神無自身、“九”の契約獣と契約している三人しか知らない。

 その三人と同じことをした桔梗に対し、一美は興味を持ってしまった。

 一美が人に対して興味を持つのは、兄や家族、そしてクラスメイト以外では少ないことであった。


「そのデバイス、何なのかしら?」

「『天羽斬あまのはばきり』。聖岩戸女学院せいいわとがくえん神話武具レジェンディア・デバイス


 彼女の言った神話武具レジェンディア・デバイスとは各学園に一つ存在するデバイスであり、伝説上の武具そのものである。そのため、それ自体が最強の武器となるのだ。

 存在その物が”九”の契約獣に匹敵する。

 つまり災害級の力をもった武器をもし目の前の少女が使いこなしていれば、こちらの勝率は限りなく0となってしまう。

 更には神話武具レジェンディア・デバイスとは、今誰もが持っているアーマメントデバイスの元になった物。力関係では間違いなく彼女の方が上である。


「最悪、ね・・・・・・」

神話武具レジェンディア・デバイスなんて、初めて見たよ」

「私もよ。そもそもあんな代物に選ばれる人間が、そうそういても困るもの。まあ、あれに匹敵するのを三人くらいいるけれども・・・・・・そんなことよりも、遠山さん? あなたはあれについて知っていたのかしら?」


 誰もいない所に話しかけたが、すぐに返答が帰ってくる。

 そして遠山かえでが闇から現れた。

 気配を殺していたのだが、一美は言葉が返ってくるような気がして話しかけていた。信頼などは殆どないが、自分の相手していた者がこちらに移動してきたのだから合流するのは当たり前だろうとう考えからだ。


「いや、私もさっき初めて知った。知っていれば情報共有している」

「まあ、そうよね」


 3対2。

 数的には有利だが、戦力差という点から考えると圧倒的に不利。

 高天ヶ原学園最強と言われる生徒会長神童神無と、どれほどの能力を持っているかも分からない神話武具レジェンディア・デバイスの持ち主遠山桔梗。

 彼女達を詳しく知る実姉実妹達だが、そんなことアドバンテージにもならないほどの差が存在していた。


「大丈夫だった?」


 桔梗と言えば、こちらがそんな状況などと言うこと何て気にすることもなく、最も愛しい人の心配だけをしていた。

 桔梗の言葉に対して、他の感染者と同じように返答はないがそれだけで良かった。


「鈴蘭、あれのスイッチが入るまでどれくらいかしら?」

「え、えっともう少しだけど・・・・・・いいの?」

「使える手札は全部使うわよ。今はお兄ちゃんもいないから、存分にしなさい」

「わ、分かった・・・・・・」

「あれって何だ?」

「使いたくないけど、使わざるおえない奥の手よ。それよりも遠山さん」

「奥の手か?」

「ええ」

「あるにはあるが・・・・・・通じるかどう――――――」

「あるのなら使いなさい。学園最強と神話の存在が敵なのよ。落とすことが出来たら御の字ではあるけど、お兄ちゃん達が来るまで持ちこたえるしか勝率なんて上がらないわよ」

「ちょっと待て、神童妹」

「妹は私だけじゃなくて鈴蘭もいるのだから、どちらのことか分かるように呼んで欲しいわね」


 こんな状況でも一美節は変わらない。

 鈴蘭は一美が呼ばれていることを理解しており発言しないでいたし、一美も自分自身が呼ばれていることを理解してそう言ったのだ。だが、それを目の前の人間は真面目に受け取ってしまった。


「分かった、神童一美」

「フルネームなんて面倒ね、あなた。まあ下の名前で呼ばれるほどの仲でもないし、それで行きましょう。で、何の話かしら?」

「あ、ああ。今、神童一真が来ると行ったが本当なのか?」

「さあ?」

「さあって!」

「でも、間違いなく来ると思うわよ。だってお姉ちゃんをあのままにして、簡単にくたばるような兄ではないもの。ねえ、鈴蘭?」

「うん、お兄ちゃんだもん」

「そ、そうなのか・・・・・・」


 兄に対しての高い信頼感。

 今や楓と桔梗の間には存在しない物に羨ましさを感じていたが、そこには信頼以上の物が隠れていることを彼女は知らない。

 実兄への思い、重い重い、重すぎる愛情。

 この場で兄ですら手を焼いている実姉からの感情を知るのは、今は敵対している姉ともう一人の妹のみ。

 鈴蘭もそんなことを言葉にすることはない。

 この世には知らない方がいいこともある、ということである。


「作戦会議は終わった?」

「ええ。と言うわけで行きなさい下僕A(鈴蘭)下僕B(遠山さん)

「「誰が下僕だ!」」


 しっかりとツッコミを入れてから動き出す二人に合わせ、一美も数発の魔力矢を放つ。

 神無は防御壁で、桔梗は天羽斬から放たれた衝撃波で矢を防ぐ。が、破壊されたそれは爆発する。

 一美はあえて着弾、または破壊されると爆発する矢を放っていた。

 二人の視界を覆い尽く爆煙。

 煙の中には魔力も混じっており、見えなくなってしまった鈴蘭達の魔力を探すことも困難にしていた。

 そんな煙の中から現れた拳と小刀の刀身。桔梗は一瞬だけ対応が遅れてしまうが、神無が防御壁を広く展開したことによって防がれる。

 風が吹き荒れ二人を吹き飛ばすと同時に桔梗も動く。腰に添えていた剣を振り抜こうとするが、鈴蘭達の間を矢が通り抜ける。

 

「ちっ・・・・・・」


 桔梗の持つ神話武具レジェンディア・デバイスの能力は持ち主である彼女しか知らない。そんな得体の知れない物をそう簡単に近づけるわけにはいかない。

 完全に意識を矢に持って行かれていたのだろう、楓がその場から姿を消していたことに気がついていなかった。

 直後、桔梗は真横に吹き飛んだ。

 魔法にて気配を完全に消していた楓が彼女を蹴り飛ばし、それを追いかける。桔梗がいなくなったことで神無までの道が開いたことで、鈴蘭が魔力で作っていた足場を蹴って動き出す。

 再度灰色に発光を始める鈴蘭の籠手。

 先の攻撃、『魔王の一撃ディアボロス・ブレイク』を見せていることで近距離も警戒する必要が出てきた。

 鈴蘭にとってそれはチャンスとなる。

 近づかせないよう風刃を放てば『ヘルズブリンガー』を。それが来ないと判断し防御壁のみの対処となると防ぎきることの出来ない魔力撃に貫かれることとなる。

 もちろん鈴蘭だけではなく後方からは一美の矢もある。全てに対処する必要のある状況に神無は《レギオン》は答えを出す。

 魔力が込められたことによって黄緑に光り始めた神楽を大きく振るった。

 直後広範囲に降り注ぐ風刃。


「『ヘルズブリンガー』!」


 風刃の雨に対して魔力圧で吹き飛ばすが、それは失策。風刃に意識を向けていたために神無が近づいていることに反応出来なかった。

 『ヘルズブリンガー』でも止めきれず自身に向かってくる風刃の対処していたため、鈴蘭のフォローに間に合わない。腹部に突き刺さる閉じた神楽に、


「くふっ・・・・・・」


 基本的に神無は魔法での攻撃、防御がメインだがそれだけで学園内最強と呼ばれているわけではない。

 魔法技量だけではなく、身体能力、肉弾戦でもトップクラスの能力を持っている。そのため、どちらかに特化している場合だとほぼ勝てない。

 鈴蘭の場合、身体強化魔法をメインとした肉弾戦特化の戦闘が基本となる。

 一真のように魔力壁や、神無の風の防御壁も力任せに切り捨てるなんてことができるようなら良いが、そこまでの力も能力も持ち合わせていない。


「このっ!」


 焦って無理な体勢で拳を突き出してしまう。

 これが喧嘩であったり、相手がそんな体勢からの攻撃に驚いたのならば良かった。

 しかし相手は操られていると言っても神無、しっかり対処はする。拳に神楽を合わせて捻ると、その力を使い鈴蘭を地面へ向けて投げ飛ばす。

 完全に予想外であった合気道に対し鈴蘭は対応できない。

 一瞬にして景色が変わったことによってそのまま地面に叩きつけられてしまう。


「かはっ!」


 追い打ちをかけるように降り注ぐ風刃。

 しかしそこには桔梗と戦っているはずの楓が立っていた。

 桔梗と鈴蘭の位置は100m以上あり、一瞬で移動するには遠すぎる。桔梗自身も楓が動いていたことに気がつけていなかった様で、振り下ろしている天羽斬が空を切るのが一美の視界に捉えていた。

 痛みにより動けない鈴蘭を風刃から守るよう、楓は小刀型アーマメントデバイス『月影げつえい』を逆手に構え立ち回る。

 一美も魔力矢で援護に回るが風刃の数が多すぎた。

 地面を叩く風刃、楓によって弾かれて堕ちる刃によって二人は土煙に隠れてしまう。完全に一美の視界から消えてしまった。

 煙の中では攻撃を防ぐことで精一杯の楓と、ダメージによって動くことの出来ない二人が取り残された。そんな動くことの出来ない二人へフリーになってしまっていたもう一人が近づく。

 

「終わ――――――」

「これからだよ」


 響く金属音。

 衝撃によって土煙が一気に晴れる。

 そこには膝立ちで起き上がり、刃を籠手の装着された左拳で受け止めている鈴蘭の姿があった。

 何が起きたのか。

 背を向けていた楓はもちろん、斬撃を受け止めたれた桔梗自身も理解出来ない。神無は表情を変えていないため分からないが、遠目で見ていた一美は笑みを浮かべていた。


「ふふっ・・・・・・あははははは! 楽しいね、最高だよ! 神話武具レジェンディア・デバイスと戦えるなんて、さいっこう」

「神童鈴蘭?」


 突然変化した鈴蘭の雰囲気。

 テンションが上がった、何て言葉だけでは納得することの出来ないほどの変化。

 別人になった、と言われた方が納得できる。それくらいの人格変化が楓の目の前で起きていた。

 雰囲気だけではなく見た目にも変化があった。

 黒かった瞳は真紅へ。

 そして彼女の表情だ。

 笑みを浮かべていた。

 それはとても嬉しそうで、楽しそうで、残酷で、艶やかだった。


「お姉ちゃんも遠山さんもそう思わない? こんなにも強い人に強い武器、本当にイっちゃいそう・・・・・・」


 ウットリとした表情を浮かべるが、笑みはさっきと変わらないまま。

 これが先に一美が言っていた『あれ』である。

 鈴蘭が《暴走ビースト》と呼んでいるこの状態、鈴蘭にとっては使いたくない切り札であった。

 《暴走ビースト》状態になる条件は、自分より強い相手と戦い興奮状態になること。こうなると十三組生徒にも匹敵するほどの戦闘能力を発揮するのだが、鈴蘭自身はこれを好んではいない。

 《暴走ビースト》が始まってしまえば鈴蘭の意思でコントロールも出来ず、正気に戻ることも出来ない。

 いつも一真達によって気絶させられることで止まるのだ。

 自力で制御できないような力を使うことは、鈴蘭にとっては拒否したいことであった。が、今回ばかりはそうも言っていられない。

 大切な姉を取り返すため、嫌っていた《暴走》を自分の意思で使うことを決意したのだ。

 目の前で起きたことに説明もなく、理解出来ず唖然としたままの楓を置いてけぼりにして全てが進んでいく。

 殆ど予備動作なく鈴蘭の姿はその場から消える。

 次に現れた時には神無の目の前で大きく右腕を振りかぶっていた。

 結果拳は防御壁によって防がれることになるのだが即座に破壊。

 隣に立っていた桔梗は鈴蘭の変化には戸惑ったものの、元の彼女を知らないため帰ってくるのは早かった。姉よりも大切な神無に危害が加えられると思った桔梗は、天羽斬を振り抜く。


「遅いよっ!」


 そう遅かった。

 変化に対しての戸惑いからの覚醒までのタイムラグがあったために、攻撃の態勢をとるのが遅れてしまった。これが普通の生徒同士の模擬戦程度ならば遅れた、なんてことはなかったかもしれない。鈴蘭はそんな隙を見逃さない。

 神無を蹴り飛ばすと同時に向かってくる刀身を殴り上げた。それにより両腕が上がってしまい、身体はがら空きになってしまう。

 完全に無防備になってしまった身体へ3発、腕を掴んで背負い投げる。

 飛ばされた先に待っていたのは矢を構えた一美。

 その矢が全て自分に向かうと信じ防御魔法を展開するが、その読みは外れることになる。魔力矢は通り過ぎ、鈴蘭と相対する桔梗を直撃する。


「邪魔しないで! こんな最高な気分、最高な状況、久しぶりなんだから!」


 援護射撃だったのだが、鈴蘭にとっては楽しい戦いの横やりでしかない。

 何かしら言われると思っていた一美にとってはなんともないこと。そんなことよりも気にしなければならないのは、実妹に投げ飛ばされたことによって地面に叩きつけられていた神無。

 起き上がると同時に『神楽』を振るう。

 防御魔法を正面に展開。

 だが風刃は前からだけではなく側面からも飛んで来る。

 一美にとってそれくらいは予想できていた。だてに十三組の生徒をしていないということである。

 あのクラスには教本通り、というものが全く通じない。個性的といえば聞こえはいいが、もっと言えば異常性が強すぎる。

 代表例としてよく上げられるのが一真、隆浩である。もちろん千歳、アリス、アッシュ、一美の一真ハーレムズも含まれるのだが。

 上にの人物達は普通に予想してただけでは行動を読むことが出来ない。数人に至っては喧嘩(殺し合い)をしながら、周りを巻き込むという極めて厄介な性質をもっているからだ。

 そんな異常で個性的な集団の中で生活していれば、そういった予測も数通り思いつくようになる。思いつくようにならなければ生き残ることなんて出来ないからだ。

 一美にとって相手の風刃もトラップ起動の道具となる。


「ありがとう、お姉ちゃん」

「ッ!?」


 ここで初めて表情が変わる。

 一美と神無の間の数十メートルの空間で風刃が通り抜けた道筋に、大量の魔力矢が出現する。

 神無や桔梗認識が完全に一美から離れていた瞬間に仕掛けていた発動条件付きの魔法が展開されたのだ。今回、一美が条件としたのは『魔法が当たること』。

 魔法が直撃した瞬間、その魔法を瞬時に解析し、魔法を放った人物へ向かって飛ぶように仕組んでいた。仕掛けた本人はしっかりと攻撃を防いでいる。神無も防御壁によってしっかりとノーダメージなわけだが、ここで一美の攻撃を読み違えた。

 今の攻撃は囮に過ぎない。

 自身が彼女に近づくための。


「お姉ちゃんならしない読み違えね」


 一美の周囲に浮いた数個の光球。

 これが全て矢に変わり左手に、いや左手に握られていた一本の魔力矢に収束されていく。

 それは強く光り輝く、強力な力を持った魔力矢が完成する。先に放った収束魔法ほどではないが、その威力が高いことは間違いない。

 突き刺さるやじり

 直後、魔法によって集められていた風は拡散し、残ったのは魔力だけの防御壁と神無自身。だが一美はこれだけでは終わらない。

 今度は右手。

 しかし右手には何も握られていない。が、もちろん仕掛けはされている。

 発光する拳。

 それを確認した神無は再度風を纏おうとするが、完全に間に合わない。突き出されたのは拳ではなく、拳底。

 拳での攻撃より威力が劣るのだが、彼女がこれを選んだには理由がある。魔力壁に対して、自身の魔力をしっかりと浸透させ破壊できると判断したからだ。

 その判断は正しく、一美の魔力は防御壁に素早く浸透し破壊した。


「ようやく、届くわね。お姉ちゃん!」


 瞬時に魔力矢を展開し放つ。

 超至近距離からの魔法攻撃に対応が間に合うわけもなく、直撃は間違いない。はずだった――――――、


「そうね、あなたが読み違えしていなかったら――――――」

「えっ!?」


 今まで一言も発することなく、感情も表に出すことのなかった神無が言葉を紡いだ。

 彼女意識は完全に『レギオン』によって押さえ込まれてしまっている物だと思っていた。これが彼女の発した『読み違え』の意味だった。

 思いもよらない出来事に一美は完全に停止。

 魔力矢は魔力の込められた風によって破壊され、


「堕ちるのよ」


 無慈悲にも風刃は一美に向けて降り注いだ。



   《続く》

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