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高天ヶ原学園十三組  作者: 村正
第一章
22/25

「何がハッピーバレンタインじゃあああああ! チョコレート撲滅運動開始じゃあぁぁぁぁ!」by隆浩 「わ、渡しにくい・・・・・・」by??? 「た、隆浩がチョコを貰う日が来るなんて!」by全員

   1



「おぇ・・・・・・」


 マジで吐きそう。

 こいつ(九頭龍)との修行が始まってからしばらく。

 外でどれだけ経ったのか分からねぇけど、体感だと数時間くらいか。

 いくら精神世界で体力、魔力に限界がないからと行ってもそれなりの疲れは存在する。特に魔法、魔力に対しては特にだ。

 俺自身が使う魔力量はクソ狐や千歳はもちろん、一美やアリス、アッシュにも劣る。そんな俺がどうして他の二人の契約者とまともに戦うことが出来ているのかと言うと、九龍クロのサポートがあってこそだ。

 しかし今はこいつのサポートはない。

 だから俺の魔力のみで戦う必要があるわけだ。

 しかも目の前には家族と認めてしまった九龍がいる。

 誓い(ノロイ)が勝手に攻撃をセーブしてしまっている。そんな状況下で疲れがない訳がない。


「・・・・・・」

「どうした、九龍」

「ちょっと気になったことがあってな。休憩ついでに聞いてくれ」

「分かった」

「今更なんだが、お前の使うことの出来る魔力量についてだ。少し違和感があるんだよ」

「違和感だぁ?」

「ああ、はっきり言って少なすぎる。他の二人は2匹の子孫ということも関係してるだろうが、相棒もオレと契約することが出来たんだ。それなりの魔力量を持っていないとおかしい」


 九頭龍の言いたいことは理解出来た。

 『九』の契約獣だけではなく、他の契約獣も含めて契約獣が求める量は存在している。

 九龍と契約する時も俺の魔力量を見られたわけだが、そこに関しては一瞬でクリアしてしまった。この時はこいつの基準量が低いのだと思っていたが・・・・・・。


「最初に聞きたいんだがお前自身、誓い(ノロイ)が使ってる魔力はどこから来てると思ってる?」

「は? そんなもん誓い(ノロイ)が勝手に作り出してるに決まってるだろ」

「やっぱりそう思うのが当たり前だよな。誓い(ノロイ)は相棒が作り出した物で、相棒の中にある。だから他人の魔力を身体の中に宿すことについての最大の問題点、拒絶反応は全く起きていない」


 こいつの言うとおり他人から魔力を譲渡されて使用するとき、誰もが自分の魔力と混ぜて使用する。そうすることでそのまま使用することによって起きる拒絶反応を軽減することが出来る。

 ちなみに拒絶反応は千差万別であり、どんな物が起きるのかは誰にも想像できない。

 簡単な例を挙げると体中に走る強烈な痛みと言うものがある。

 俺自身体験したことはないが、何かしらの異常事態が身体を襲うこととなる。


「そりゃあな」

「だけど、オレは違うと思ってる」

「どう違うんだよ」

「あれの働きは、まず相棒が家族と認めた人物、存在に対して攻撃を仕掛けるときにそれを阻害。そして・・・・・・お前の魔力の何割かを蓄えて、家族を守ろうとする時にその魔力を解放する。それがオレの考える誓い(ノロイ)の力で、相棒の魔力量に違和感を感じた理由だ」

「・・・・・・」

「どうしたよ?」

「いや、そこそこ面倒なもんを作ったんだな、と思ってよ」


 魔力の何割かを持って行かれてる、か。

 持って行かれてる魔力がどこにあるのか、ということも気になる。が。それよりも大切なことに気がついた。

 持って行かれてるとして、その蓄えられている魔力を意識的に引き出すことが出来るようになればいいんじゃねぇの?  まあ、大きな問題点として誓い(ノロイ)を制御することが出来ないから、それ自体も出来ないことが現状で決定してるんだが。


「まあ、話は終わりだ。休憩も出来たしな」


 再度、九龍のサポートなしで『神降ろし』を発動させる。

 こいつのサポートがないということは、俺の中で暴れるこいつの魔力を制御しつつ戦闘する必要がある。

これが完全に制御できるようになったとき、『神降ろし』の完成だという。

 以前に発動させた時、俺の中で暴れていた魔力は九龍が制御していた。この場合、俺自身が制御するよりも魔力にムラが出来てしまうのだという。

 確かに俺が魔法を使うのに、俺以外の誰かがその魔力を制御したらそうなってしまうわな。

 しかし俺が魔力を制御することが出来ればムラもなくなり、『神降ろし』の発動時間も長くなる。そういう仕組みらしい。


「ぐっ・・・・・・」


 体の中で魔力が暴れて、俺の身体をウチから怖そうとしているのが分かる。

 九頭龍が言うにはまだ俺が制御出来ているのはようやく4割程度。本来ならこれは時間をかけてゆっくりなれていくことが必要なのだが、今回は時間がないためこんな荒療治で行っているという。

 荒療治にもほどがあるような気がするが、本当に時間がない。

 おそらく次の襲撃が最後になるだろう。

 俺達三人がいない今、襲撃するに最大の障害がいないのだ。

 このタイミングを逃すと次はなくなるのは、向こうも分かっているだろうな。だからこそ俺もこのタイミングを逃すわけにはいかない。

 次も必ずあの女と姉さんは必ず現れる。


「ふぅーーーーーっ」


 思い出すのはあの時の光景。

 敵となって目の前に立つ姉さんと、その隣に立つあの女。

 思い出しただけで頭の後ろ側、そして自分自身の魔力がザワザワする。更には暴れ回っていた九頭龍の魔力も、今まで以上に暴れ回っている。

 そんな感覚が強くなって行く。

 息を吐いて落ち着いくようにしたが、余計に落ち着かない。

 むしろ気持ちが悪い。自分の奥底にある、一番黒い感情も出てこようとしているのも分かる。


「お、おい、相棒!」


 あー、ヤバい。

 先まででも酷かった吐き気が、更に酷くなる

 その代わりに少なくなっていた魔力が回復して、いつもの最大量を超えて増えたように感じる。

 はっきり言って普通じゃあり得ないことが起きている。

 回復魔法等で他人から魔力を譲渡し魔力が回復することが可能だが、魔力の最大量より回復するなんてことは絶対に起こりえることはない。

 しかし今、俺の中でそれは起きていた。

 更に魔力が増えれば増えるほど九頭龍の魔力が沈静化していくのも体感していた。


「・・・・・・」


 唖然としている九龍の顔が面白い。

 あんまりそんな顔を見せることがないからな、これはこれで楽しいな。

 だが、今はそんなことはどうでもいい。


「行くぞ、九龍。何だか知らねえけど、頭が今ままでで一番すっきりしてるし、身体も軽くてな。少し試すぞ」


 いつも通りに地面を蹴る。

 直後、俺の視界に映る景色はあり得ないほど変化していた。

 眼前に迫る姉さんの姿をした九龍の顔。

 何となく分かる、このまま魔力を使用した攻撃は強制的に霧散してしまうだろう。だとしたら出来るのは黒月を使っての物理攻撃。

 九龍の右下腹部から左肩にかけて黒月を振り上げる。


「ちぃっ!」


 とっさに張られた魔力壁の表面を刃が走る。

 九龍の右掌には魔力球。

 攻撃魔法であることは見て取れた。

 右手を突き出すと同時に俺は左に向かって地面を再度蹴る。今度も一瞬にして光景が移り変わった。

 俺の身体に何が起きてやがる、はっきり言って変化が大きすぎて力加減が難しい。

 地面から顔を上げるとこちらに向かってくる九龍が見えた。先ほどまで使用していなかった魔力製の武器があいつの手に握られていた。

 これも何となくだが、今の状態はあまり長い時間維持できないみたいということも分かった。

 どうやってこんなことが出来ているのか分からないため、次に同じことが出来るかどうか分からねえが。まあ、その時はその時に考えるか。


「ふんっ!」


 大刀の形をした魔力武器が上から振ってくる。

 それを魔力コーティングした右手で受け止め、握りつぶした。

 コーティングは許してくれるのか。

 黒月を使って防ぐと思っていたのだろう、ウソだろとでも言いたそうな九龍の顔があった。が、今は遠慮なんてしない。

 時間がないんだ、終わらせるぞ。

 腹を蹴り、九龍を吹き飛ばす。その瞬間何かを蹴り砕いたような気がしたが、そんなことは頭の隅に持っていき、飛んでいく九龍に追いつく。

 足に力を込めた時に腰に当てていた黒月を、


「はっ!」


 追い越すと同時に抜刀。

 手応えはあった。

 確実に仕留めた、という手応えが。


「いやぁ~、焦った焦った」

「はぁ!?」


 着地と同時に振り向くと、ピンピンした九龍の姿があった。

 ウソだろ・・・・・・今のは割と本気でやったし、完全に意識を奪ったような感覚もあった。なのにあいつは何もなかったかのように立っている。

 自分自身に訳の分からないことが起きた時よりも頭が混乱している。

 いくら精神体だからといってもそれはねえだろうよ。


「おい、クソトカゲ。何普通にしてやがる!」

「予想外のことに焦ったが、あの程度でやられるわけがないだろ。つか、オレの方が聞きたい。相棒、何しやがった?」

「何って、いや知らねえよ。ただ、姉さんがあの女といた時のことを思い出しただけだ」

「そうか・・・・・・今の相棒はオレの魔力を完全にコントロールしてる。そして身体の周りにオレの魔力、身体の中に相棒自身の魔力がある。多分、この戦いが終わったら相棒が今と同じ状態になることは出来ないかもな」

「・・・・・・は?」

「仕組みは簡単だ。相棒がオレの魔力を押さえ込むことが出来たのは誓い(ノロイ)が動いていて、そこから魔力が供給されているからだと思う」


 供給・・・・・・つまりこいつの言うことが正しいのだとすると、今の魔力最大量が俺の使うことが出来る魔力の『本当』の量。

 そうだとしたら九龍が最初に言っていた誓い(ノロイ)が俺の魔力をいくらか持って行っているということが現実味を帯びてくる。

 だからあの時、あんな吐き気のする気持ち悪い感情が出て来てたのか。


誓い(ノロイ)が発動したのはお前が神無のことを思い出したから。それが上手くオレの魔力をコントロールし、今の完成された『神降ろし』に至ったわけだ。そろそろか」


 直後、身体の軽さといつも以上に充実していた魔力量はいつもの量に戻っていた。

 吐き気や気持ち悪い感情も完全に消え去っている。

 つまり『神降ろし』は解除された、というわけか。


「一つ聞いていいか?」

「何だ?」

「この完成された『神降ろし』、クソ狐と千歳に時間制限は――――――」

「無いだろうな。子孫であるあの二人は、相棒と違って自身の中で暴れる魔力自体と相性がいい。自力でコントロール出来ている可能性が高い」

「やっぱりか」

「でも、相棒の方が優れている点がある。瞬間的な火力だ。相棒はオレの子孫というわけじゃない。だから混ざり合った時、強力な力を持った起爆剤になる。だがあの二人の場合は狐、鬼の子孫ということもあり魔力に似通った部分が多い。だから相棒ほど大きな力を持った起爆剤にはならないということだな」

「・・・・・・」

「でも覚えておけよ。時間制限がある分、今回の戦闘では使う場面を考えろ」

「分かった」


 本当に面倒くせえ。

 これが九龍との修行についての感想だ。



   2



「何人持って行かれたかしら?」

「まだ半分までは行ってないと思うけど・・・・・・状況は最悪よね」


 十三組が戦闘を開始してからしばらく。

 既に、十三組の生徒も数人『レギオン』によって敵へとなっていた。

 アリスの行ったとおり状況はよろしくはない。それに今後も敵に変わっていく生徒は増えていくのは割り切っている。

 更に問題はまだあった。

 相手の生徒達は人形の様な物。

 中にいる『レギオン』を取り除くか、最悪の手段としては殺さない限りは何度も動く。殆どゾンビのような物である。


「さて、一応気になるのだけど須藤さんはどこかしら?」

「どうして杏子なの?」

「だってラスボスがあの人の父親なんでしょう。冷静でいられるはずが、邪魔よ!」


 魔力矢が飛びかかってきた数人の生徒を打ち抜く。

 背中を合わせていたアリスも、グローブ型アーマメントデバイス『ゼーユングファー』の指先から出る魔力糸まりょくしを硬化させて貫いていく。

 二人とも魔力を一撃必殺出来るように込めて放ったのだが、


「やっぱりダメか・・・・・・」


 周りを見渡せば先ほどよりも戦っている十三組生徒が減っているように感じる。

 風路ふうろ叶江かなえの姿を確認すれば、まだ寄生されていないように見えた。

 アッシュに至っては一真に会えない欲求不満から、そこら中で寄生されている者達を爆発させている。そして一美が危惧している杏子はというと、父親である須藤すどう弘史ひろふみに近づこうとしているが、周りいる寄生者によって近づけないでいた。


「先生!」

「何かしらぁ、桜ノ宮さん?」

「こないだの襲撃の時、寄生されてたウチの生徒を何人か捕まえたってことでしたけど。どうやったんですか?」

「簡単よぉ。吹き飛ばしたのぉ」

「吹き飛ばした?」

「ええぇ。攻撃魔法をいくらか使ってねぇ。それで動きが悪くなってきたところをぉ、捕縛魔法で捕まえたのよぉ」


 完全に動物を捕まえる時と同じ方法である。

 しかし今回それをしないのには、前回と大きな違いがあったからだ。

 前回、風路を襲撃した者達は学校内の廊下で人数も少ないと言うこともあり、砲撃魔法を何度か放つことで動きを止めることが出来た。だが今回は人数も多く、捕まえたところで救出されてしまえばおしまいである。

 だからこそ鞭型アーマメントデバイス『リリス』による物理攻撃を行っていた。

 伸縮自在であり伸びる距離にも殆ど限界がないのだが、それでも物量の違いは彼女自身も感じていた。


「学園長ぅ」

「何だい?」

「こっちの戦力ぅ、少し増やさないぃ?」

「年寄りにはこの人数は厳しいからね、ありがたいけど誰を?」

「中等部から神童しんどう鈴蘭すずらん阿部あべ晶彦あきひこぉ、それと遠山とおやまかえでよぉ」

「中等部は非戦闘員に認定してるはずで、遠山は今」

「それでもぉ、猫の手も借りたい状況じゃないかしらぁ」

「しょうがないねぇ。今だけだよ! で、いつくるんだい?」

「もう来てるわぁ」

「それ、私に確に――――――」

「波ぁぁぁぁぁぁ!」


 直後聞こえてきた声。

 同時に頭上から堕ちてくる砲撃。

 そんなことをする者を、彼女達は二人しか知らない。

 一人は今行方不明。つまりもう一人しかいないわけで、その者に対して誰もが心の中でツッコミを入れた。


 ((((((晶彦のバカ野郎ぉぉぉぉぉ!))))))


 着弾と同時に爆発。

 これの付随効果としてしばらく身体を麻痺させると言うものがある。着弾地点から十メートル付近にいた寄生者達は、今の攻撃に対応することが出来ず身体が麻痺してしまい動きを止めた。

 だが今のだけでは終わらなかった。

 寄生者達はすぐに警戒を解いてしまったが、応援に来ている人物の名前を聞いてた十三組生徒、風路と叶江は防御魔法を解除しないで維持していた。 

 その理由は簡単。

 神童一真に戦い方を習い、戦闘においては受けてはいけない影響をもっとも受けた人物がまだ攻撃を放っていなかったからだ。


「対大勢の時は遠慮するな、だったよね。行くよ『ディアプトラ』! ヘルズ・・・・・・」


 向かってくる寄生された生徒や教員に対して、寄生されていない者達は心の中で心配していた。

 直撃して無事でいられますように、と。

 何故なら一真の影響を大きく受けているというこは、間違いなく全力で最大魔法をぶつけてくることが分かっているからだ。

 そんなものを防御魔法なしで喰らった場合、身体に大きなダメージがあることは免れない。


「ブリンガァァァァァァ!」


 屋上にいた鈴蘭は籠手型アーマメントデバイス『ディアプトラ』の装着された右手を頭上からまっすぐ振り下ろす。

 地面に叩きつけられる魔力圧。

 彼女の最大魔法である『ヘルズブリンガー』とは、『ディアプトラ』に込められた魔力を腕を振り下ろすことによって放ち、叩きつける最大魔法。

 この魔法の恐ろしいことは彼女の魔力体質である。

 『二色魔法(デュアル)』。

 一真達のような例外も存在しているが、魔力色は一人に一つというのが基本である。

 しかし『先天性魔力器官欠損せんてんせいまりょくきかんけっそん』ほどではないが、稀に生れつき二色の魔力色を持って生まれてくる者がいる。

 それが鈴蘭である。

 鈴蘭の場合魔力色は黒と白。

 『ヘルズブリンガー』はこの二色を混ぜて放つため、どの魔法色の魔法でもダメージ軽減することは困難なのである。

 なので声が聞こえ今度こそ防御しようとした者達の防御壁をことごとく破壊して、攻撃を確実に着弾させていった。


「えっと、私は・・・・・・」

「いいのよぉ。あの二人が、バカ二人の悪影響を受けすぎているだけだからぁ」


 いつの間にか風路の隣に立っていた楓には誰も何も思わなかった。

 風路が転移魔法で連れてきたのだろう、としか。しかしそれは大きな間違いで、彼女が得意としているのは隠密系の魔法。

 音、気配等を全て消して背後、死角から相手を倒す。

 そんな戦いをしているため、クラスメイトなどからはくノ一さん等と呼ばれている。


「何人仕留めたのかしらぁ?」

「10人くらいです。でも、多分もう動き始めてます」

「それはしょうがないわよぉ。だって、あっちはゾンビだものぉ。で。学園長。これなら戦力として問題ないでしょうぅ?」

「はぁ・・・・・・勝つんだよ?」


 上空から降りてきた晶彦、屋上より飛び降りてきた鈴蘭も合流し、状況は一新する。

 気づけば風路の近くに立っていた楓の姿は音もなく消え去っており、次の瞬間には寄生者の側で双剣型アーマメントデバイスを構えていた。

 そして切り伏せると同時にまた姿は消え去っていた。

 しかし数は大きく変わっていない。

 晶彦の攻撃により痺れている者達はまだ回復していないが、鈴蘭の攻撃で一時的にダウンした寄生者達は立ち上がり始めていた。

 だが鈴蘭はそんなことをさせはしない。


「伏せて!」


 今度は縦ではなく右腕を左から右へ振り抜く。

 再度放たれた魔力による圧力は伏せていた十三組メンバー、杏子の頭上を掠めて敵をなぎ払っていく。

 そこへ間髪入れず追い打ちをかけるように、十三組生徒達が魔法を放つ。が、それは着弾直前で何かに阻まれてしまい霧散する。

 誰もが眼を疑うような光景に、一人だけ再度攻撃を放つ。

 それは一度だけではなく、二度、三度とズレなく同じ場所に矢を撃ち込んでいく。

 まるで先に魔法を防いだ何かの対処法を知っているかのようだった。


「ちょっと早いんじゃないかしら、お姉ちゃん?」


 矢を放ち終わった一美が見上げる先には神童家長女、神童神無。

 やはりその顔に表情という者はなかった。他の寄生者と全く同じように人形のようである。

 そしてその横には、


「使えない姉を持つと苦労するよね、お姉ちゃん?」


 遠山楓の妹である遠山とおやま桔梗ききょうが寄り添うように立っていた。

 先ほどだけでも状況は最悪と呼べるような物であった。しかし相手側の増援、それがこの学園内でも最強と呼ばれていた生徒会長である神無という存在。

 最悪から絶望的な状況に変わった瞬間であった。


「どうしますか、皆さん? あなた達も諦めて――――――」

「お父さん!」

「杏子か。何だ?」


 晶彦と鈴蘭の攻撃により寄生者の動きが止まり、いつの間にか相対することが出来る距離まで近づくことの出来た杏子。

 ようやく届いた娘の声に、弘史は冷たい声と表情で答える。

 楓の話を風路から聞いていた杏子は、未だに桔梗の裏から手を引いている人物が自身の父親であると信じ切れずにいた。


「何でこんなことを・・・・・・ここにいるみんなはお父さんの人形じゃないんだよ!」

「私の目的のためには全てが私の駒だ」

「目的?」

「ああ、目的だ。そのためには人道的、非人道的なんてことはどうでもいいこと。ここでの最終実験を終わらせ、目的を、悲願を達成する!」

「お父さんの目的がなんなのか、それは私には分からない。だけどこれだけは分かる、お父さんが絶対にやっちゃいけないことをしていることは! だから、娘の私が止めます!」

「その心意気、いいわね」

「神童さん」

「他にも神童がいるのだから下の名前で呼びなさい」

「おや、神童一美さん。あなたは私のモルモットになる気になってくれたんですか」


 弘史に呼びかけられた一美は笑顔で振り向く。

 しかしその笑顔は友好的な物ではなく、色々な感情が含まれていた。その中でも一番に感じ取ることができたのは怒り。

 表情は変えても、その本意まで読むことが難しい一美。

 だがここまで感情を読みとることが出来ることは珍しいことだった。


「あらごめんなさい。私、ふつうの人間なのよ。だからあなたのような、底辺の底辺を這って生きているような存在の言葉を理解なんて出来ないのよ。もしかして自分が私達より上の人間だと思ってた? そうなのだとしたら笑い事よ。あなた程度のゴミと、そこの女程度の内面も外見も磨くことが出来ないようなブスに負けるわけ無いでしょう? 遠山さん、須藤さん。分かっているわよね?」


 一美の言葉に二人は同時に頷く。

 二人も自分がやるべきことを理解していた。

 杏子は自身の父親を、楓は愛すべき妹を見上げる。

 そして一美は最も愛す兄を落とした、兄が最も守りたい相手である姉に視線を向けた。気づけば一美の隣には鈴蘭が立っていた。


「私もやるよ」

「そう。じゃあ身内の恥は身内で片付けるとしましょうか」

「勝手に決めないでほしいわねぇ。あなた達だけでさせるわけが――――――」

「担任の先生としてはそうかもしれませんが、今回は私達に任してくれませんか? 絶対にお父さん達を止めてみせます」

「それに身内を他の人に任せるなんて出来るわけ無いでしょう、風ちゃん?」

「そうですよ! これくらいで諦めてたら、お兄ちゃんに怒られますよ」

「姉妹でここまで迷惑をかけたんです。本当なら何かあったらいけないから閉じ込められていてもいいのに、こんな場に出させてくれたんです。姉である私が責任を持って止めて責任を取らせます!」


 振り向くこともなく臨戦態勢に移行してく四人の姿を見ていた風路は諦めたようにため息を吐く。

 強い意志で自身の家族と向き合う彼女達に言うことはないようで、振り向くと迫ってきている寄生者達へリリスを構える。

 彼女も自分の役割を理解した。

 四人に近づく寄生者を近かよらせないようにすること。

 戦闘が始まってしまえば周りを気にすることなんて出来ないだろう。そんな彼女達が気兼ねなく戦うことが出来るようにすることが、自分のやることであると。


「と言うわけで後はお願いするわね」

〔任せなさい、一美〕

〔これが終わったらアンタよりあたしの方がカズ君に褒めて貰って、ああぁぁぁ!〕

〔通信で悶えないで! 他のみんなも聞いてるんだから!〕

「結城さん。私達抜きでも、あなたならみんなを纏められるわよね?」

〔変態三人娘の一人が抜けるだけで、ボクの負担も少しは減るんですよ〕

「言ってくれるじゃない。まあ、私達が抜けたとしても絶対に大丈夫よ」

〔その根拠は?〕

「お兄ちゃん達が絶対に帰ってくるからよ」

〔絶対?〕

「絶対ね。お兄ちゃんがお姉ちゃんをあのままにして寝てるんてあり得ないことだから。じゃあ、また全部終わってから会いましょう」


 通信を終えて再度自分の敵に意識を向ける一美。

 姉と本気で戦うのは生まれて初めてのこと。相手が自分より強い、なんてことは分かっている。

 それでも負けられない、負けることなんてないと強く思っている。

 彼女自身、兄・神童一真が神無と上手く戦うことが出来ないことも理解している。だから自分と鈴蘭で絶対に止めなければならない。

 鈴蘭もそれを分かっているだろう。


「それでは始めましょうか」



   《次話に続く》

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