ひとり上手
日々、勉強に励んでいる。
秋以降の数か月間で、この2年分以上の勉強をしたかもしれない。
友人たちから、これ以上置いて行かれるわけにはいかないという焦燥感、そして金銭的な負担をかけている父への申し訳なさが、僕を勉強へ向かわせた。
もしかしたら、あの猫の死も静かに背中を押していたのかもしれない。
みっともない真似は出来ない。そんな気持ちになっていた。
予備校の授業が終わっても、毎日のように自習室に残った。
窓の外が夕日で赤く染まり、やがて真っ暗になるまで問題集を解く。部屋に帰ってからも机に向かう。
夜中のラジオを聴くこともめっきり減った。
そして、冬になるころには、模試でもA判定が出るようになっていた。
2月も終わろうとしていた。
大学の二次試験も、もう終わった。
合格発表は3月にならないと出ないが、合格している自信はある。
後期の試験もあるが、多分、受ける必要はないだろう。
安心したとか、満足したとか言うより、ただ虚脱して、畳に寝転がっていた。
長い坂道をやっとの思いで上りきって、頂上で足が止まってしまったような。
張りつめていたものがふっと抜けて、身体のどこから力を使えばいいのか分からないような、そんな状態だった。
起き上がるのも億劫で、ただ、天井の古い染みを眺めている。
しばらくバイクに乗っていないな、と思う。
合格発表が済んだら、大学のそばへ引っ越す準備をしなければならない。
引っ越しの時、バイクは持っていけない。
友人に譲るつもりだったが、その前に、一度、遠出をしておきたいと思った。
まずは丁寧に整備をする。磨いて、きれいにしてやる。
日の当たる縁側にバイクを運び出す。
洗剤をかけて隅々まで洗ってやる。カウルやタンクだけでなく、フロントフォークも磨くようにスポンジでこする。スイングアームについたグリースや、ホイールのブレーキ滓もきれいに落とす。
そのうえで、ワックスをかけて磨き上げる。タンクにワックスを塗ると、滑ってニーグリップがし辛くなる。でも、今日は念入りにワックスで磨き上げた。
オイルの残量を点検し、チェーンに新しい油をさす。
仕上げに、新しいスパークプラグに交換してやった。
キャブレターから生えたチョークレバーを引いてから、キックスターターを踏み下ろすと、50CCのエンジンは、軽やかに回り始める。
チャンバーから排気音とともに白い煙が吐き出される。
冬の空気の中に、2ストロークのオイルが焼ける匂いと、白い煙がゆっくりと溶けていった。
夜になって、道がすいたころを見計らって出発する。
行き先は、もう決まっている。
あの、青い朝だ。
冷たい夜の風の中を走り出した。




