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ライク・ア・ハリケーン前日譚 (ライク・ア・ハリケーンⅣ)  作者: ままま


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風になれ

結論から言おう。次の春も受験に失敗した。


昨年の春、鬱々として過ごしていた実家を出て、一人暮らしを始めた。一人暮らしの部屋に顔を出す友人たちや、傍若無人な野良猫のおかげで、僕は少しずつ息ができるようになった。そして、あの青い朝、僕は生まれ変わった。


正確には、生まれ変わった気がした。


残念ながら、人間はそう簡単には変われないらしい。予備校にもちゃんと通い、それなりに勉強もしたつもりだ。でも、不思議なほど成績は上がらなかった。


案の定、大学に落ちた。


同じ予備校にいた友人たちは、ちゃんと合格して大学のそばへ引っ越していった。実家から大学へ通う者は、たまに顔を出すが、相変わらずやってくるのは猫だけになってしまった。


沈黙が、当たり前になっていく。

僕はいったい何をやっているんだ。こんな事でいいのかと、焦燥ばかりがつのる。

予備校の費用や、生活費を出してくれている父にも申し訳ないと思う。

空回りしている自分への焦りばかりがつのっていく。


その焦燥の隙間から、ふいに、あの青い朝がよみがえる。


小諸の展望台で見た、薄紫から蒼へ、そして碧へ変わる空。山の影がゆっくりと浮かび上がってくる、静謐なあの朝。

一人で夜を歩いて、迎えた、あの朝。


また、あの朝を見たいと思った。

父の仕送りで、細々と生きている浪人生の身で、そうそう旅に行けるわけもない。でも、予備校と部屋の往復をしているだけでは、自分がすり減っていく。



ある日の夕方、予備校からの帰り道だった。

いつもは通り過ぎるバイク屋の前で、足が止まった。


事務所横に並んだ中古のバイクたち。

その中の1台に目が留まる。赤と白のタンク。白い文字でYAMAHAと書いてある。サイドカウルにはTZRの文字。


250CCや400CCのバイクたちが並ぶ中で、ひときわ小さい。小さいが、形は他のバイクたちと同じだ。レーサーのようなフルカウルが付いている。

速さを誇るような、大きなバイクたちの群れの中に、1台ぽつんと佇んでいた。


翌日の帰り道、店の同じ場所に、そのバイクはあった。


実は昼間のうちに、コンビニの雑誌で調べた。

ヤマハのTZR50というバイクらしい。峠道を走る写真も載っていた。

峠道を走るTZR50は、小さいながらも一人前の存在感を放っていた。誰にも負けないという気迫が感じられる写真だった。

なんとなく、いつもうちに来る野良猫を思い起させる。



値札を見ると、16万5千円とある。

迷った挙句、少ない貯金を下ろして買ってしまった。


通帳の残高は一気に心細くなった。貯金だけでは足りなくて、父の仕送りも、かなり使い込んでしまった。

父はこんなことに使うためにお金を送ってくれている訳ではない。

それは痛いほど分かっている。思い返すたびに、強い罪悪感がある。

でも、その一方で、わくわくする気持ちも抑えきれない。

ふたつの気持ちの間を、行ったり来たりしている。


明日からは、食費を思い切り削ることになるだろう。当分の間、カップ麺と、安いレトルトで食いつなぐしかない。それでも何とかなるだろう。そう思うことにした。

そして、「勉強もちゃんとします」心の中で父に謝った。


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