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ライク・ア・ハリケーン前日譚 (ライク・ア・ハリケーンⅣ)  作者: ままま


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月の裏側

そんなある日、縁側に猫がいた。


洗濯物を干そうと窓を開けたら、サッシのところに、灰色の塊が座っていた。日の当たる縁側の板の上で、目を閉じている。


片方の耳が、かぎ裂きになっている。


「…おい」

声をかけると、かぎ裂きの耳がぴくりと動いた。起きていることは分かったが、僕のことなど気にしていないようだ。


痩せているが、骨太で、毛並みはざらざらとしている。顔のあちこちに、古い傷があり、歴戦の風格を漂わせている。

いちど顔をあげたが、興味のなさそうな目つきで僕を見ると、また丸まってしまった。


「遊びに来た風じゃないね」


独り言に、猫は答えなかった。その代わりに、目を閉じたまま、のびを一つした。日向ぼっこの権利を、断固として主張しているようだ。


それ以来、猫は時々来るようになった。


来るといっても、遊びに来るのではない。縁側で勝手に日向ぼっこをして、飽きると勝手に帰っていく。

まるで、自分のなわばりだと言わんばかりに、ごく当然のような顔をしてやってくる。


そのうち、気が向くと、部屋の中に入ってくるようになった。

いちばん日当たりのいい畳の真ん中で、腹を見せて、無防備に眠っていたりする。

多分、僕の存在など、気にもしていない。



今夜も深夜のラジオから、みゆきの声が流れてくる。


「こんばんにゃー」


緑のランプの灯りの中で、いつもの様にはしゃいでいる。他愛のない話、はがきの紹介、かける曲の解説。

その声を聞きながら、昼間の猫のことを考えていた。


縁側で、一人で日向ぼっこをしている猫。

陽の当たる猫の背中が、ゆっくりと膨らんで、ゆっくりと縮む。誰にも媚びることがない背中だった。


あの猫は、たぶん、孤独を引き受けている。

耳のかぎ裂きも、顔の傷も、一人で戦ってきた証だ。

だから誰にも媚びる必要が無い。

僕よりもずっと、あの写真の狼に近いだろう。群れを捨てて、雪の上を一人で歩いていた狼に。



みゆきの声が、今夜の最後の曲の紹介に移った。

僕は、言い訳をかき消したくて、ラジオの音を少しだけ上げた。

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