【出陣の誓いと、開戦の咆哮】
【出陣の誓いと、開戦の咆哮】
「ルートの計算、完了しました」
薄暗い拠点の結界内で、桐生蓮は地面に描いた魔界の森のマップを枝の先でトントンと叩いた。
眼鏡の奥で、C級覚醒能力『全周囲視界』と『光の霊視』がフル回転し、金色の魔力の残滓が火花のように散っている。
「僕の眼が捉えた『安全な金色の道』……根脈感知を避け、特級怪異の巣を避ける最短ルートです。この道なき樹海を駆け抜けるとして、走って十分くらいでしょうか」
「五分だね」
「五分だ」
桐生の論理的な予測を、阿部凛花と佐藤陽翔が一切の躊躇なく、秒で半分に切り捨てた。
「……は?」
桐生が目を丸くする。
「五分ッス。敵の本陣でボスを仕留めて帰ってくるまで、往復で十分。それ以上はかけないッス」
佐藤は自身の右手に極黒の魔力をドロリと練り上げながら、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。阿部も首の骨をゴキリと鳴らし、長い脚の筋肉をバネのように引き絞っている。S級の身体能力を全開にすれば、彼らにとって一キロの悪路など、庭先のスキップに等しい。
「千歳ちゃん! 門!」
佐藤が振り返り、拠点に残る防衛組へと声を張り上げた。
「往復十分! それまで、この城を絶対に死守しろッス!!」
「おう。任せておけ」
主将の門蒼真が、分厚い胸板を叩き、静かに、しかし盤石の威圧感で頷いた。
「信じますわ。あなたたちが最深部を穿つことを」
高橋玲央が、女優の完璧な微笑みを浮かべながら両手に『光の神術』を纏わせる。
「十分なら余裕です。……十五分以上かかれば、一年生が死にますよ。私の計算を狂わせないでください」
南原紗良が眼鏡を押し上げ、冷徹な理詰めの中に強い信頼を滲ませた。
「押忍ッ!! 自分の『光の金剛武身』、十分間全開で耐え抜くでありまッス!!」
大文字鉄平が、黄金のオーラを纏って雄叫びを上げる。
「絶対に死にませんわ。……佐藤先輩が無事に帰ってきて、この手で先輩のキュートなお尻にピーッ♡するまではね!」
桃井琉生が、両手から光のワイヤーを発生させながら、放送コードすれすれの変態的なウインクを飛ばす。
「凛花先輩……! 帰ってきたら、ぎゅーっとしてください! 頭撫でて、いっぱい褒めてねっ!」
神品蘭が、両手に黄金の雷をバチバチと迸らせながら、涙目で阿部におねだりをした。
「もっちろん! 蘭ちゃんがいい子でお留守番できたら、よしよししてあげる!」
阿部がニシシと笑ってサムズアップを返す。
そして、陣形の中央。
全てを背負う最強の囮、雨宮千歳が、大きく、深く深呼吸をした。
「阿部先輩、佐藤先輩、桐生君。……わたし、信じますね」
千歳の瞳に、恐怖の涙はもうなかった。
あるのは、仲間を信じ抜くという、何よりも強固な覚悟。
彼女は両手を天へと掲げ、A級能力『境界支配』のストッパーを完全に解除した。
『ピキィィィィィン……ッ!!!』
拠点を覆っていたカモフラージュが解かれ、生と死の境界が歪む強烈な波長が、魔界の森全体へとフラッシュのように炸裂した。
『グルルルルルルルッ……!!』
『ギャァァァァァァッッ!!!』
次の瞬間、森の奥深くから、空気を震わせるほどの数千、数万の怨霊たちの咆哮が木霊した。
極上の特異点(千歳)の存在を察知し、森中のすべての悪意が、恐ろしい勢いで拠点に向かって殺到してくる音が響く。
「佐藤先輩! 敵の先陣、来ますッ!」
桐生が叫ぶ。
「任せろッス! ……桐生、先導頼んだッスよ!」
佐藤は自身の身体と、阿部、桐生の三人を、圧縮した『極黒の魔力』で完全に包み込んだ。周囲の闇と瘴気に完璧に同化する、S級のステルス迷彩だ。
「こっちですッ!!」
桐生が腕を伸ばす。
「しっかり捕まってなよ、蓮くん!」
阿部が桐生の細い手をガシッと力強く握りしめ、『ドンッ!!』と地面を蹴り飛ばした。桐生の身体が文字通り宙に浮き、弾丸のごとき速度で森の闇へと射出される。佐藤もまた、極黒の魔力を足裏に展開しながら、一切の遅れをとることなく並走した。
合気武道部が誇る、最強の暗殺部隊の強襲が始まった。
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【血染めの防衛線と、絶望の無限供給】
強襲組が森へと消えた直後。
雨宮千歳たち防衛組が残る拠点は、文字通り『地獄の底』と化していた。
「ひっ……! あ、あああ……っ!」
千歳が、悲鳴を押し殺して両腕を突き出す。
A級『境界障壁』の透明なドームの外側には、視界を完全に黒く塗り潰すほどの、おぞましい数の特級怪異の大軍が群がっていた。
猿型、狼型、巨大な蜘蛛、そして不定形の怨霊。樹海の緑すら見えなくなるほど、数百、数千の黒い肉塊が、結界を破って中の極上の獲物(千歳)を喰らおうと、爪を立て、牙を剥き、呪いの体液を撒き散らしている。
『ガリガリガリガリッ!!』
『ギチチチチィィィッ!!』
障壁が軋む音。恐怖で千歳の鼻からツゥッと鼻血が流れ落ちる。魔力の過負荷と、特異点としての呪いの逆流が、生身の彼女の肉体を容赦なく蝕んでいく。
「わたし、負けない……! 佐藤先輩たちが帰ってくるまで……絶対に、ここを……っ!」
涙で視界をぼやけさせながらも、千歳は歯を食いしばり、決して膝を折らなかった。
その薄氷の防衛線を、合気武道部の仲間たちが死に物狂いで支えていた。
「オラァァァッ!! 触るな、塵共ォォッ!!」
大文字鉄平が、黄金のオーラ『光の金剛武身』を纏った両腕を振り回す。
彼の巨体が動くたびに、障壁に取り付こうとした骸狼の群れが、光の浄化作用を伴った物理打撃によって次々と粉砕されていく。
「あははっ! 近寄らないでよね、臭いから♡」
桃井琉生が、両手の指先から無数の『光のワイヤー』を放ち、空から急降下してくる黒翼鴉や血猿の首に巻きつけては、次々と絞め殺していく。
「いきますっ! 【黄金退魔・雷鎖】っ!!」
神品蘭は、自身から放った黄金の雷を網目状に展開させ、地面から這い寄る腐泥の怪異を一網打尽に焼き焦がし、硬直させていた。
一年生たちの『光の神術』は、魔界の瘴気に対して特効の役割を果たしていた。彼らは傷を負い、迷彩服を血と泥で汚しながらも、必死に千歳を守り抜いている。
だが、それでも数が多すぎる。一年生たちの魔力が底を突きかけた、その時だった。
「——退がりなさい、一年生。ここから先は『絶対領域』よ」
高橋玲央が、優雅にターンを決めると、右手から『光の神術』、左手から『極黒の魔力』を同時に発生させた。相反する二つのS級魔力が竜巻となって吹き荒れ、数十メートルに群がっていた怪異を一瞬で塵一つ残さず消し飛ばす。
「計算終了。座標(x:34, y:12)から(x:50, y:80)の空間を完全封鎖します」
南原紗良が、全自動の魔力弾迎撃システムを構築し、後続の怪異を近寄る端から爆散させる。
「群れるしか能のない雑魚共が。……俺の部員に、容易く触れられると思うな」
主将・門蒼真が地面に拳を叩きつけ、巨大な「漆黒の城壁」を隆起させて数百体の怪異を圧死させた。
これが、S級。二年生たちのダントツで桁違いの暴力。
だが——それでも、彼らの顔に余裕はなかった。
「キリがないですわね……!」
玲央が忌々しそうに、頬に飛んだ血を拭う。
門が吹き飛ばした端から、地面のドス黒い瘴気が泡立ち、新たな怪異が次々と産み落とされていくのだ。
ボスの胸で脈打つ『瘴気の心臓』が機能している限り、地脈を通じて魔界の森には無限に特級怪異が補充され続ける。いくら二年生が規格外に強くても、魔力には限界がある。このままではいつか必ず押し潰される。
だからこそ、強襲組が制限時間内にボスの心臓を止めることが、彼らに残された唯一の生存ルートだった。
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【光の眼と、暗殺者の蹂躙】
防衛組が血みどろの無限防衛戦を繰り広げている頃。
森の奥深くへ向かう強襲組は、圧倒的なスピードで障害物を排除していた。
「右前方、三十メートル! 地面は『腐泥』です、跳んでください!」
桐生の指示に阿部が即座に反応し、巨大な倒木をトランポリンのように蹴り渡る。
「上空! 『黒翼鴉』が四羽!」
「任せるッス!」
佐藤が走りながら右手を振り抜き、極黒の魔力弾で音もなく鴉を撃ち落とす。
敵の『根脈感知』も、桐生の『全周囲視界』が的確に死角となるルートを指定することで完全に無力化されていた。
「前方五十メートル! 『血猿』の群れです! トラップを張っています! 弱点は右目の上のコブ!」
桐生の解析が終わるや否や、佐藤は先ほど回収しておいた『風魔裏隠衆の爆薬』を全力投球した。
ヒュッ——!
真っ直ぐに伸びた爆薬は、ボス格の血猿のコブにクリティカルヒットし、大爆発を起こす。
「これでトドメッ!!」
怯んだ群れのド真ん中を阿部が閃光のように駆け抜け、極黒の魔力を纏った手刀で次々と急所を切り裂いていく。
一切の反撃を許さず、彼らは魔界の森を一直線に駆け抜け、わずか二分半で最深部の盆地へと到達した。
「……ッ、ここです! 止まってください!!」
桐生が叫び、阿部が急ブレーキをかける。
眼下の中央に鎮座していたのは、もはや「樹木」とは呼べない、おぞましい冒涜的な怪物だった。
全長、およそ四十メートル。
黒く立ち枯れた幹には、巨大な肉塊と無数の怨霊が融合し、人間の腕や苦悶の顔がひしめき合っている。そして——数百個の『赤い眼球』が、ギョロギョロと周囲を睨み回していた。
特級怪異『百眼怨樹』。
胸部には『瘴気の心臓』が剥き出しになり、ドクン、ドクンと鼓動するたびに、地中に張り巡らされた根を通じて森全体へ無限の怪異を送り出している。
「あいつ自身は動かない代わりに、森全体を兵隊として指揮してるッスね。長期戦になれば防衛組が持たない、時間制限付きボスってことッス」
佐藤が冷静に分析した、その時。
『ギョロリッ』
百眼怨樹の幹に埋め込まれた数百個の眼球が、一斉に桐生の方角を睨みつけた。
「見る者」を逆に見返し、精神と視神経を焼き尽くす絶対的なメタ呪い。
「……ッッッ!!!!」
桐生は、声にならない絶叫を上げて両目を押さえた。
「桐生! 眼を閉じろッス!!」
佐藤が極黒の魔力シールドで桐生の顔を覆おうとするが、桐生はそれを手で制した。
「だ、ダメです……ッ! 僕が、眼を閉じたら……ッ!!」
ポタポタと、桐生の鼻から、そして固く見開かれた両目から、真っ赤な血の涙が止めどなく溢れ出した。
視界が、文字通りガラスのようにヒビ割れていく。脳髄に直接焼きゴテを押し当てられるような激痛と、精神が崩壊するほどの悪夢の幻覚が、桐生の理性を根こそぎ奪い取ろうとする。
「蓮くん!! もういい、私が適当にぶっ壊すから!!」
「ダメだと言っているでしょうッ!!」
桐生は血反吐を吐きながら、阿部を怒鳴りつけた。
「僕の眼が……完璧な弱点を、見つけるまで……ッ! 僕は、絶対に、眼を閉じないッ!!」
生身の最弱。守られるだけの存在だった彼が、自らの命を削って「眼」を開き続ける。それが、強襲部隊の頭脳としての、桐生の意地だった。
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【魔王の顕現と、蹂躙される大地】
『オォォォォォォォォォォォッッ!!!!』
百眼怨樹が、自分を覗き見続ける不遜な侵入者(桐生)の存在に完全にブチ切れ、激怒の咆哮を上げた。
ズゴゴゴゴォォッ!!
地響きが鳴り、盆地の周囲の地面が次々と爆発するようにひび割れる。
百眼怨樹は森の防衛ネットワークを解除し、地中に張り巡らされていた全ての根を自らの巨体へと回収し始めた。無数の根が足や腕のように絡み合い、盆地の中央で四十メートルの巨大な「人型」の魔神へと変貌を遂げたのだ。
ただの「森の心臓」だった存在が、明確な殺意と圧倒的な暴力を持った「魔王」へと成り果てた。
『ガアァァァァァァッッ!!』
魔神が咆哮を上げた。ただの音ではない。それは物理的な衝撃波を伴う暴風となり、盆地の周囲に生えていた大木を根こそぎ吹き飛ばし、佐藤たちの鼓膜を容易く破ろうとする。
「【極黒・大防壁】ッ!!」
佐藤が両手を突き出し、S級の闇のシールドを展開して衝撃波を防ぐ。
だが、防壁越しでさえ、魔神から放たれる百眼の呪光が彼らの精神を抉ってきた。
「ぐっ……、おえぇッ……!!」
佐藤が顔を歪め、激しい吐き気に襲われる。阿部も一瞬、視界がグラリと歪み、自分が肉片になって死ぬ悍ましい幻覚がノイズのようにフラッシュした。
これこそが『百眼』の真の恐怖。桐生は今、この精神汚染を一人で、しかも防壁なしで正面から受け止め続けているのだ。
『ズドォォォォンッ!!』
百眼怨樹が、丸太を何百本も束ねたような巨大な両腕を、大地に向かって勢いよく叩きつけた。
ドゴゴゴゴゴゴッ!!
地面が波打ち、盆地の底から何千本もの極太の『根の津波』が、地形そのものを粉砕しながら三人を飲み込もうと迫り来る。一撃でも触れれば、即座に肉片となる圧倒的な質量攻撃。
「させないよッ!!」
阿部が幻覚を気合で振り払い、血塗れになった桐生を小脇に抱え、佐藤の襟首を掴んだまま人間離れした跳躍で空へと舞い上がる。直前まで彼らがいた場所は、根の津波によって原形を留めないほどにすり鉢ごと削り取られていた。
だが、空中に逃げた彼らを待ち受けていたのは、百眼怨樹の巨大な『右拳』だった。
ビルをも粉砕するであろう巨大な腕が、空中の三人ごと、ハエを叩き落とすように振り下ろされる。
「阿部先輩! 右腕の軌道、死角は肘の下です!!」
両目から血の涙を流し、視界が崩壊寸前の桐生が、空間の魔力波長だけを頼りに完璧な回避ルートを叫ぶ。
「りょーかいっ!!」
阿部は空中で極黒の魔力を足場にして空を蹴り、巨大な腕の薙ぎ払いを間一髪で回避した。
圧倒的な質量。地形を変える津波。精神を削る呪光。
絶望的な猛攻。しかし、彼らの間に焦りは一切なかった。桐生の命懸けの解析、佐藤の的確な防御、阿部の規格外の回避。三人の完璧な連携が、特級の理不尽をわずかに上回っていた。
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【逆転の爆殺コンボと、晴れゆく魔界】
「完全に人型になって移動を開始されたら、拠点が危ない! そうなる前に、あの心臓をぶち抜くッスよ!!」
佐藤が空中で姿勢を立て直しながら吼える。
「蓮くん、弱点へのルートは!?」
桐生は血まみれの顔を上げ、ヒビ割れた視界の奥に輝く「一筋の道」を捉え、叫んだ。
「見つけました……! ボスの胸部、瘴気の心臓のすぐ下です! 三番目の太い枝の付け根……そこだけ、肉壁が薄く、内部への『道』が開いています! あの枝を折れば、心臓まで一直線です!!」
限界をとうに超えていた桐生の意識が、ついに暗転する。阿部は気を失った桐生を優しく抱きかかえた。
「よくやったッス、桐生! ……阿部! トドメは任せたッスよ!!」
佐藤はポーチから、最も巨大な『風魔の爆薬』を取り出した。自身の持てる限りの『極黒の魔力』を限界まで圧縮し、爆薬の表面に何重にもコーティングしていく。
「鮎先輩直伝、『おもてなしの逆・極大チャージ』ッス!!」
佐藤は空中で大きく振りかぶり、その漆黒の爆弾を百眼怨樹の胸部へと全力投球した。
ヒュゴォォォォッ!!
魔力の推進力を得た爆弾は、桐生が指定した「三番目の枝の付け根」へと真っ直ぐに飛んでいく。
『ギィィィィィィッ!!』
百眼怨樹は迫る危機を察知し、無数の腕や枝を交差させ、爆弾の軌道上に鋼鉄より硬い分厚い肉の壁を十数重にも形成した。
——その絶対防御を、一陣の暴風が理不尽に粉砕した。
「どけぇぇぇぇぇッッ!!!」
阿部凛花である。
極黒の魔力を全身に纏った彼女の身体は、もはや最強の人間ミサイルだった。
交差する十数本もの丸太のような枝と、分厚い肉の壁。そこに、S級の脚力から放たれる必殺の回し蹴りと手刀の暴風雨が叩き込まれる。
ドバァァァァァァッ!!
極黒の魔力が接触した瞬間に枝を塵に変え、十数枚の肉壁を細胞レベルで粉砕していく。だが、百眼怨樹も魔王としての異常な再生能力を見せ、瞬時に新たな肉の網を蠢かせ、傷口を強引に塞ごうとする。
「甘いっ!! 再生なんか、追いつかせるかァァッ!!」
阿部は空中でさらに加速した。ボスの再生スピードすら置き去りにする、目にも止まらぬ乱舞。細胞レベルで再生を阻害するほどの圧倒的な暴力の嵐が、百眼怨樹の絶対防御を完全に引き裂き、心臓へと続く大穴を強引に抉り開けた。
「もらったァァッ!!」
阿部がその場から離脱した直後。
開いた大穴に、佐藤の投げた『極黒コーティング爆薬』が見事にホールインワンした。
『……ッ!?』
百眼怨樹の数百の眼球が、驚愕に見開かれる。
「……爆ぜろッス!!」
佐藤が指を鳴らした瞬間。
『ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッ!!!!!』
盆地全体を揺るがす、極大の閃光と轟音。
内部に侵入した爆薬が、佐藤の極黒の魔力と共に『瘴気の心臓』のド真ん中で炸炸裂した。
内部から膨張したエネルギーの奔流が、魔王の巨体を内側から木っ端微塵に吹き飛ばす。無数の眼球が破裂し、赤い血と黒い瘴気が花火のように上空へと撒き散らされた。
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「……え?」
一方、拠点の防衛組。
無限に湧き出る大軍の前に魔力が尽きかけ、結界がいよいよ破られようとしていた、まさにその瞬間だった。
ピタリ、と。
結界に取り付いていた無数の怨霊たちの動きが、一斉に停止した。
森の奥から、心臓が破裂するような不気味な轟音が響き渡る。同時に、彼らを統率していた「魔王からの命令」と「魔力の無限供給」が完全に途絶えたのだ。
『ギャ、ギャアアアアッ!?』
パニックを起こしたのは、怪異たちの方だった。
指揮系統を失い、絶対的な魔力の供給源が消滅したことで、彼らは目の前の獲物(千歳)への執着を忘れ、蜘蛛の子を散らすように森の奥深くへと逃げ去っていった。
一分も経たないうちに、拠点周辺を黒く染めていた大軍は、嘘のように一匹残らず消え失せた。
「……勝ったの、ですね」
南原紗良が、ふうっと小さく息を吐いて眼鏡を押し上げた。
千歳は緊張の糸が切れ、その場にぺたりと座り込んで、安堵の涙をぽろぽろと流した。
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パラパラと、枯れた木片と黒い灰が雪のように降り注ぐ盆地。
そこには、跡形もなく消え去った巨大な怨樹の残骸だけが残されていた。
「……はっ!?」
意識を失っていた桐生が、阿部の腕の中でハッと目を覚ます。
眼から流れていた血の涙は止まり、焼き切れそうだった視界もクリアに戻っていた。
「イエェェェーイッ!! 大勝利ぃぃっ!!」
阿部が満面の笑みで、佐藤と桐生をまとめて強く抱きしめた。
「ぐぇっ!? ちょ、凛花、苦しいッス!」
「……阿部先輩、胸が、当たって……っ」
三人の時計の針は、「出撃から四分五十秒」を指していた。
五分という宣言通りの、完璧な暗殺劇。
敵の罠を敵に返し、己の長所を極限まで噛み合わせた、泥臭くも圧倒的な勝利だった。
ふと見上げると、分厚い葉の天蓋に覆われていた魔界の森から、黒い瘴気が急速に晴れていくのが分かった。
雲が切れ、木々の隙間から、眩しい本来の「朝日の光」が幾筋も差し込んでくる。
魔界が、ただの美しい森へと還っていく。
彼らの死闘を祝福するかのようなその温かい光に包まれながら、三人は血と泥にまみれた顔で、晴れやかに笑い合った。
少し離れた場所で、スレンダーな美羽が愉しそうにクナイを回しながら、彼らの真の「独り立ち」を静かに見届けていた。




