【薄闇の朝食と、迫り来る決断】
【薄闇の朝食と、迫り来る決断】
「——戻ったッス! 結界を一時的に開けてくれ!!」
佐藤陽翔の切羽詰まった声が、薄暗い樹海の空気を切り裂いた。
雨宮千歳が慌ててA級『境界障壁』の波長を操作し、拠点の一部を解く。そのわずかな隙間から、佐藤、阿部凛花、そして息も絶え絶えの桐生蓮が弾かれたように結界内へと転がり込んできた。
三人が拠点に入り込んだ直後、南原紗良が即座に『魔力偽装』を再展開し、周囲の空間を再び完璧なカモフラージュで覆い隠す。
「ハァッ……ハァッ……、す、すみません……僕の体力が……っ」
桐生が地面に両手をつき、肺が破れそうなほど荒い息を吐いた。インナースーツによる身体補正を失った生身での全速力撤退は、体力最低値の彼にとって文字通りの死の行軍だった。
「気にするな。無事に戻ったことが最優先だ」
主将の門蒼真が、桐生の背中を力強く、だが優しく叩く。
「……見つかったッス。八百メートル先の盆地にいる、バカでかい『主』にな」
佐藤がボロボロになった迷彩服の襟元を仰ぎながら、車座になった部員たちを見回して告げた。
「俺たちの索敵に気づいて、わざわざ『目線を合わせて』きやがった。完全にロックオンされてる。多分、今頃森中の怨霊どもに号令をかけて、こっちに向かわせてる途中ッスよ」
その報告に、一年生たちの間にピリッとした緊張が走る。
探索フェーズは終了した。ここから先は、喰うか喰われるかの討伐フェーズだ。
現在時刻は、土曜日の朝。
分厚い樹冠に覆われた『魔界の森』には、直接的な太陽の光は届かない。それでも、完全な漆黒だった昨夜に比べれば、苔むした木々の輪郭がぼんやりと浮かび上がる程度の「薄明るい緑色の闇」へと変化していた。日の光が、森の瘴気をわずかばかり抑え込んでいるのだ。
「作戦会議をするわよ。まずは、食べながら」
阿部がそう言うと、南原、大文字、神品、桃井の『確保組』が集めてきた野草と水が中央の石の上に広げられた。
桃井が器用にナイフで刻んだ『毛の生えた野草(安全確認済み)』の即席サラダと、水筒に汲まれた冷たい湧き水。味付けなど一切ない、青臭くて苦いだけの草だが、今の彼らにとっては命を繋ぐ貴重なエネルギー源だった。
「……にげぇッスね。でも、目が覚めるッス」
佐藤が野草をバリバリと咀嚼しながら言う。他のメンバーも無言で草を飲み込み、水を胃の腑へと流し込む。極限状態のサバイバルにおいて、「食」は闘争本能を直接的に呼び覚ます儀式でもあった。
「状況を整理するッス」
佐藤が湧き水で口を潤し、鋭い目つきで口を開いた。
「タイムリミットまでまだ丸一日ある。普通に考えりゃ、ここで結界を張ってやり過ごすのがセオリーだ。だが、ここは敵のど真ん中。夜になれば瘴気は今の数倍に膨れ上がり、怨霊どもの活性化もピークに達する。防衛戦(ジリ貧)になれば、絶対に押し切られる」
「つまり、こちらから打って出る、ということですね」
南原が眼鏡を指先で押し上げながら、冷静に結論を導き出した。
「その通りッス。日が昇っていて、敵の力がわずかでも削がれ、かつ俺たちの体力がまだ残っている『今』。この日の出ている間に、速攻をかけて勝負を決める」
「賛成よ。向こうが群れを集めて包囲網を完成させる前に、本陣を叩き潰すわ」
阿部が拳をバキリと鳴らし、好戦的な笑みを浮かべる。論理的な分析から導き出された、最も勝率の高い決断だった。
「ただ……ここから最深部までは、およそ一キロ弱あります」
桐生が呼吸を整えながら、地面の土に枝で簡単なマップを描き出した。
「平地の一キロなら数分ですが、ここは道なき魔界の樹海です。無数のトラップ、地形の悪さ、そして絶え間ない怪異の襲撃。それらを突破しながら一キロを進むとなれば……体感としては、十キロ以上の行軍に匹敵する負荷がかかります」
「各々、絶対に体調を崩さないように気をつけろ」
門が重々しい声で全体に注意を促す。「道中で倒れれば、そこが墓場になる。だが、俺たちには『アレ』がある」
門の言葉に、部員全員の脳裏に、ゴールデンウィークの地獄の合宿の記憶がフラッシュバックした。
——『光の神術』である。
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【光の神術と、二年生の圧倒的安定感】
「……ふぅっ」
高橋玲央が、静かに目を閉じ、細く長く息を吐き出した。
彼女の美しい身体の表面を、柔らかな黄金色の魔力が淡く包み込む。それは、極黒の魔力に侵食されていた彼女の肉体の「ノイズ」を洗い流し、疲労物質を強制的に浄化していく光の波だった。
「すごい……高橋先輩の顔色が、みるみる良くなっていく……」
神品蘭が、その神秘的な光景を食い入るように見つめた。
「合宿の賜物ですわね」
玲央はゆっくりと目を開け、完璧な女優の微笑みを浮かべた。
「以前の私たちは、魔王様から与えられた『闇の魔力』に頼りきりで、回復の手段を持っていなかった。でも今は、自身の内に『光の正中柱』を構築することで、自己回復の効率が段違いに跳ね上がっていますの」
「全くだ。俺も、随分と身体が軽くなった」
門が分厚い胸板を叩く。彼や阿部のような純粋な物理・戦闘特化のタイプは、佐藤や高橋ほどの繊細な魔力操作はできないため、回復の「効率」自体は少し悪い。それでも、無骨ながらも力強い光を身体に巡らせることで、昨晩からの疲労を確実に抜き去っていた。
「俺や玲央、紗良ちゃんみたいな操作系のタイプだと、さらに恩恵がデカいッスね」
佐藤が立ち上がり、軽くシャドーボクシングをしてみせる。その動きは、先ほどまでの疲労を感じさせないほどキレていた。
『光の神術』をマスターしたことで、二年生たちは「自己完結できる無尽蔵の戦士」へと進化を遂げていたのだ。これが、幾多の死線を潜り抜けてきた経験値の差だった。
だが、問題は一年生たちだった。
「……ごめんなさい、佐藤先輩。僕の光じゃ、自分と、あと一人くらいしか回復に回せそうにないです」
桃井琉生が、申し訳なさそうに眉尻を下げる。一年生の中で、他者への回復術として『光の神術』を実用レベルで扱えるのは、魔力操作に長けた彼(彼女)だけだった。
「気にするな、桃井。俺たち二年生は自己回復できるから、お前の光は一年生のために使ってくれ」
門が力強く頷く。
「……知識や経験はあっても、それじゃあ僕たちはただ先輩たちに守られながら森を歩くだけのお荷物になってしまいます」
桐生が、奥歯を噛み締めながら呟いた。回復ができない。武器もない。そんな状態で、特級怪異がひしめく一キロの死線をどう戦い抜くのか。
その時、完璧な姿勢で座っていた高橋玲央が、スッと立ち上がった。
「勘違いしないでちょうだい。光の神術は、何も『傷を治すためだけ』のものじゃありませんわ」
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【光の武器化と、結界内の実戦証明】
「桃井さん。あなたの『魔導ワイヤー』の代わりを、その光で作るのよ」
玲央はそう言うと、自身の右手をスッと前方に突き出した。
「合気武道の真の達人はね、指先から目に見えない『レーザー』が出ているイメージで気の流れを制御するって言う人がいるの」
シュルルルッ……!
玲央の五本の指先から、漆黒の『闇の霧の手』が極細の糸のように伸び、数メートル先の倒木に巻きついて、それをメキッと締め上げた。
「こんな風にね。ただ、これは極限まで魔力を細く編み込むから数秒しか維持できないし、消耗も激しすぎて実戦向きじゃないわ。でも……あなた達一年生が学んだ『光』の魔力なら、もっと自然に、そして強靭に形にできるはずよ」
「……指先から、光のレーザー(ワイヤー)……」
桃井は両手を胸の前に構え、自身の中に眠る黄金色の魔力を「線」としてイメージした。
チリチリッ、と桃井の指先から、細く強靭な『光のワイヤー』が伸びる。
「よしっ、自分もッ!! 門主将、アドバイスを!!」
「大文字、お前はインナースーツの代わりに、己の筋肉そのものを光の鎧にしろ! 『金剛武身』に、光の波長を上乗せして内から溢れさせるんだ!」
「押忍ッ!!」
『ゴオォォォォッ!!』
大文字が全身の筋肉を硬直させると、彼の鈍い金属光沢の皮膚が、眩い黄金色へと変色した。
「神品さん、あなたは『電磁支配』の雷に光の神術を付加するイメージです。黄金の雷なら、瘴気ごと空間を浄化できます」
南原の理論的な助言に、蘭も両手のひらを合わせ、青白い雷を神々しい黄金色の雷へと変質させていく。
その時だった。
『ギギャァァァァッ!!』
突如、結界の一部が『ジュッ』と不快な音を立てて溶け、小型だが凶暴な四つん這いの怨霊が一匹、強引に拠点内へと侵入してきたのだ。主からの号令を受け、先走った斥候の怪異だった。
「ひっ!」
千歳が悲鳴を上げる。二年生たちが反射的に動こうとした瞬間、
「先輩たち、手を出さないでくださいッス!」
大文字が雄叫びを上げ、前へと飛び出した。
『ゴガァァァンッ!!』
光の金剛武身を纏った大文字の右ストレートが、怨霊の顔面に直撃する。以前なら生身で触れれば瘴気で火傷を負っていたが、光の鎧が呪いを完全に弾き返した。
「おおっ!? 力が、弾き……おっととっ!」
しかし、光の装甲の反発力と重量感にまだ慣れていない大文字は、殴り抜いた直後につんのめるように体勢を崩した。
「大文字くん、危ない!」
「はいはーい♡ 僕が止める!」
体勢を立て直して大文字に飛びかかろうとする怨霊の四肢に、桃井の指先から放たれた『光のワイヤー』が絡みつく。
「くっ……ちょっと、魔力の編み込みが甘い、かも……!」
初めての実戦出力。ワイヤーがチカチカと明滅し、暴れる怨霊の力に引っ張られそうになる。桃井は奥歯を噛み締め、必死に指先に光を注ぎ込んで出力を強引に安定させた。光の浄化作用により、拘束された箇所から怨霊が「ギャアアッ!」と苦痛の声を上げる。
「蘭ちゃん、今です!」
「いきますっ! しっかり狙いを、定めて……【退魔の雷】っ!!」
ブレスレットの補助がないため、蘭は一瞬のタメを作ってから黄金の雷撃を放った。狙い澄ました一撃が、怨霊の胸板を正確に貫く。雷の物理的破壊力と、光の神術の浄化力が融合した一撃は、怨霊をドス黒い灰すら残さずに消滅させた。
「……ふぅっ」
三人の一年生が、荒い息を吐きながらも確かな手応えを感じて顔を見合わせる。
完璧ではない。小さな試行錯誤と綻びはある。それでも、新たな能力の獲得が机上の空論ではなく、確かな『実戦の武器』として証明された瞬間だった。
「……素晴らしい。ですが、僕には放出系の魔力も、物理的な力もありません」
桐生蓮が、自嘲気味に眼鏡を押し上げた。「光を武器に転用することは不可能です。だからといって、諦めはしませんがね」
「そんな事ないと思うよ〜」
ふわりと、阿部凛花が桐生の隣にやってきて、彼の肩を軽くポンと叩いた。
「……阿部先輩。慰めなら結構です。僕は論理しか信じないので」
「慰めじゃないよ。蓮くんの目、さっきからすっごくキラキラ光ってるもん」
「え……?」
桐生が驚いて阿部を見上げる。
「ホラ、その眼鏡の奥。蓮くんの『全周囲視界』や『霊視』って、目の神経に直接魔力を通してるんでしょ? そこに無意識に光の神術が混ざってる。だから、今の蓮くんの目は、普通の霊視じゃ見抜けないような『怨霊の急所』や『瘴気の薄いルート』を、光のラインとして視認できてるはずだよ」
桐生はハッとして、自身の視界を再確認した。
阿部の言う通りだった。先ほどの索敵の時よりも、視界に入る情報がクリアで、森に漂う淀んだ魔力の流れの中に、細い「安全な金色の道」がはっきりと見えている。敵が絶対に潜んでいない、完全な死角。
「……阿部先輩は、本当にいい加減ですね。論理をすっ飛ばして、感覚だけで真理を突いてくる」
桐生は呆れたように息を吐き、しかし嬉しそうに口角を上げた。
「良い加減、だよぉ」
阿部はニシシと笑って、Vサインを作った。「なんでも『良い』方に変わるんだから、これでいいのだ!」
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【霊を呼ぶ特異点と、分かたれる二つの陣形】
部員たちが次々と己の新たな役割と武器を見出す中。
雨宮千歳だけは、ひとり膝を抱え、地面の土を見つめてガタガタと震えていた。
結界の維持を南原に任せているため、今の彼女は完全に魔力をオフにしている。それでも、彼女の周囲の空気だけが、不気味に歪んでいた。
「……千歳ちゃん」
佐藤が、優しく声をかけて千歳の前にしゃがみ込んだ。
「わたし……」
千歳は、大粒の涙をポロポロと零しながら、顔を上げた。
「わたし、薄々気づいてたんです。……昨日の夜から、なんでこんなに次から次へと怪異が集まってくるのかって。わたしのA級能力『境界支配』……この力、生者と死者の境界線を曖昧にしちゃうんです。だから、わたしがここにいるだけで、森中の霊を引きつけちゃう……わたしが、みんなを危険に晒してるんですぅ……っ!」
彼女自身が、怪異を引き寄せる「呪いの特異点」だった。
その事実に、千歳は罪悪感と恐怖で押し潰されそうになっていた。
だが、佐藤は笑った。
「わかってるッスよ。昨日から感づいてたッス」
「え……?」
「じゃあ、それを利用しようッス」
「……えっ?」
千歳は涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、ポカンと口を開けた。
「千歳ちゃんが怪異を引き寄せる体質なら、それは最高の『餌(囮)』になるってことッスよ」
佐藤はニヤリと笑い、千歳の背中をバンッと叩いた。
「俺たちの陣形を二つに分ける。一つは、千歳ちゃんを中心とした『防衛・囮組』。もう一つは、ボスの首を直接獲りに行く『強襲アタッカー組』だ」
その突拍子もない提案に、門と南原が目を見開く。
「千歳ちゃんはここで能力を全開にして、森中の怨霊のヘイトを全部自分に集める。そして絶対に壊れない城を作って耐え抜く。門主将、高橋、南原、大文字、神品、桃井。この六人が千歳ちゃんを護衛し、押し寄せる群れをこの拠点で食い止めてくれ」
「なるほど……本隊が囮となり、敵の群れを引きつけている隙に、別働隊ががら空きになった手薄な本陣を強襲するのですね」
南原が眼鏡を押し上げ、その戦術の合理性を瞬時に理解する。
「その通りッス」
佐藤は立ち上がり、阿部と桐生を見た。「強襲組は俺、阿部、桐生の三人で行く」
「ちょっと待て、佐藤」
門が険しい顔で口を挟んだ。
「お前と阿部のアタッカー性能は文句ない。だが、桐生を連れていくのは危険すぎる。ただでさえ体力が持たない上に、少人数での強行突破となればカバーしきれないぞ」
「だからこそ、桐生の目が必要なんッスよ」
佐藤は自信ありげに言い切った。
「桐生、さっき見えた『安全な金色の道』……完全に敵のいないコースを、俺たちにナビゲートできるッスか?」
「……可能、です。僕の全周囲視界と光の霊視があれば、敵の死角だけを縫って最深部まで到達するルートを完璧に引けます」
桐生が論理的に即答する。
「でも、いくら死角を歩いても、ボスの懐に飛び込めば絶対に気づかれるわよ? さっきの索敵でも目が合っちゃったんだし」
阿部が疑問を呈する。
「そこは俺に任せてほしいッス」
佐藤は自身の右手に、先ほどの明るい黄金の光とは対極の、漆黒の『極黒の魔力』をドロリと練り上げた。
「さっき目が合ったのは、俺たちの魔力波長が目立ってたからッス。前回の失敗は活かす。俺のこの極黒の魔力で、俺たち三人の存在を、森の『瘴気』と完全に同化させるッス。見えなくしてやる」
桐生の「目」による絶対安全ルートの確保。
佐藤の「闇の魔力操作」による完全ステルス迷彩。
そして、阿部凛花という一撃必殺の「S級アタッカー」。
それが、合気武道部が導き出した、最強の暗殺部隊だった。
「……阿部先輩。ルートは僕が指示しますが、この道なき樹海を走り抜ける脚力が、今の僕にはありません。足手まといになります」
桐生が悔しそうに言うと、阿部はニカッと歯を見せて笑った。
「なーに言ってんの! 足がないなら、私が引っ張ってあげるよ!」
阿部はガシッと、桐生の細い手を力強く握りしめた。
「本当は蓮くんのこと、おんぶして走りたかったんだけどねー」
「……お断りします。合理性の前に、僕の男としての尊厳が死にます。手で結構です」
桐生は顔を赤くして眼鏡を押し上げ、そっぽを向いた。
「よし、決まりだな」
門が主将としての最終決断を下す。
「千歳、お前が俺たちの命綱だ。お前がヘイトを集めきれるかどうかに、佐藤たちの命がかかっている。やれるか?」
「……はいっ!」
千歳は立ち上がり、両手で自身の頬をパンッと叩いて気合を入れた。
「わたし、やりますっ! 最高のエサになってみせますぅっ!」
そのやり取りを、少し離れた岩の上から見ていた花園美羽が、妖しく、そしてスレンダーな美しさを際立たせて口角を上げた。
(……フフッ。なるほど、ただの総力戦じゃなくて、囮と暗殺部隊に分けるか。いい判断だねぇ)
美羽は手元のクナイの切っ先を指でなぞりながら、愉しげに目を細めた。
(さあ、ここからが本当の試験だよ。あんたたちのその泥臭い陣形が、魔界の圧倒的な物量と主の暴力にどこまで通用するか……特等席で見せてもらうよぉ♡)
「よし、配置につけ!」
門の号令が響く。
南原紗良が、拠点を隠していた『魔力偽装』のカモフラージュを完全に解除した。
同時に、雨宮千歳がA級の『境界支配』を全開で空間に解放する。
『ピキィィィィィン……ッ!!!』
生と死の境界が歪む、強烈な魔力の波長が、魔界の森全体へとフラッシュのように広がった。
『グルルルルルルルッ……!!』
『ギャァァァァァァッッ!!!』
次の瞬間、森の奥深くから、空気を震わせるほどの数千、数万の怨霊たちの咆哮が木霊した。極上の獲物(千歳)の気配を察知した怪異の群れが、四方八方から津波のように押し寄せてくる音が響く。
「頼んだッスよ、門主将!」
「ああ。ボスの首、必ず獲ってこい!」
群れが拠点に殺到するその喧騒の裏側。
佐藤の極黒の魔力に包まれた強襲組の三人は、森の瘴気と同化し、影のように最深部へと滑り出していった。
魔界の森の主が待ち受ける盆地を目指す、命懸けの二面作戦が幕を開けた。




