【リュクスの魔法と、覚醒する被写体たち】
【リュクスの魔法と、覚醒する被写体たち】
都内最大級の広さを誇る『スタジオ・アルタイル』のメインスタジオ。
巨大な白いホリゾント(背景用の曲面壁)の前には、数千万円は下らない最新鋭の照明機材と巨大なストロボ、そしてレフ板が幾重にも立ち並んでいる。スタジオ内には、焦げるようなオゾンの微かな匂いと、アップテンポで洗練された洋楽が響き渡り、非日常の極みとも言える空間が完成していた。
「さあ、まずは阿部さんからいきましょう! パリの熱気を、そのままこのスタジオに持ってきてちょうだい!」
カメラを構えるのは、スノーが手配した業界トップクラスのカメラマンだ。
「はーい! よろしくお願いしまーす!」
阿部凛花が、軽い足取りで白いホリゾントの中央へと歩み出る。
彼女が身に纏うのは、リュクス・アンペリアルの今期の象徴とも言える、深紅と漆黒が複雑に交差するロングドレスだった。180センチの圧倒的な長身と、豊満に発育したプロポーションを、最高級のシルクとベルベットが完璧なまでに包み込んでいる。
「——いきます」
バシャッ!
最初のストロボが焚かれた瞬間、スタジオの空気が【凍りついた】。
先ほどまで無邪気に笑っていた女子高生の姿は、そこにはない。
阿部の表情から一切の愛嬌が消え去り、代わりに現れたのは、かつてこの聖ミカエル学園を支配した絶対的なカリスマ——『魔王』恋問持子を彷彿とさせる、見下すような冷徹で傲慢なオーラだった。
「おおっ……! 素晴らしい! その目! その圧倒的な存在感!」
シャカシャカシャカシャカッ!!!
カメラマンが興奮の声を上げながら、狂ったようにシャッターを切り続ける。
バシャッ! バシャッ!
フラッシュが瞬くたびに、阿部は滑らかに、しかし力強くポージングを変えていく。バレエで培われた完璧な体幹から生み出される、指先から足先まで一ミリの狂いもない美しいシルエット。少し顎を上げ、見下ろすような流し目は、見ている者の背筋をゾクゾクさせるほどの『支配力』を持っていた。
「す、すげえ……」
見学用のモニターを見つめていた佐藤陽翔が、口をポカンと開けて呆然と呟く。
「あれが、凛花……? いつも『おっぱいのエアー揉み』とか言ってふざけてるあいつが……完全に、世界を股にかけるスーパーモデルじゃねえか……」
「押忍……。まるで、別次元の生き物を見ているようであります……」
大文字鉄平も、信じられないものを見るように目を丸くしている。
阿部凛花という規格外の原石が、リュクス・アンペリアルという最高級の鎧を纏ったことで、完全に別次元の神々しさを放っていた。
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「次は、高橋さん! お願いします!」
阿部の圧倒的な撮影が終わり、次にスタジオの中央へ進み出たのは高橋玲央だった。
彼女が纏うのは、玲央のクールビューティーな美貌を極限まで引き立てる、純白のタイトなパンツスーツ。襟元には黄金の刺繍が施されており、気高さと洗練された美しさが同居している。
「ふぅ……」
玲央は目を閉じ、小さく息を吐くと、カッと目を見開いた。
バシャッ!
「ビューティフル! 完璧な型だ!」
完璧主義の女優である玲央は、カメラのレンズがどこを捉え、照明がどう当たっているのかを瞬時に計算し、自身が最も美しく見える角度を寸分の狂いもなく提示していく。その洗練された所作は、まるで氷の彫刻のように研ぎ澄まされていた。
「玲央……綺麗だ」
モニターを見つめていた門蒼真が、無意識のうちに熱を帯びた声で呟く。その言葉は小さかったが、周囲にいた部員たちにはしっかりと聞こえており、後で玲央がそれを聞いて顔を真っ赤にして茹でダコになるのは確定だった。
続いて、南原紗良の出番である。
「南原さん、その知的な雰囲気を全開で!」
紗良の衣装は、ミッドナイトブルーのアシンメトリーなドレスだった。彼女の圧倒的な童顔と、それを引き締める冷たい知性を宿した眼鏡。そのアンバランスさが、リュクスの前衛的なデザインと見事に融合している。
バシャッ!
「いいね! その冷たい視線、すごくクールだよ!」
紗良は、極寒のシベリアのような冷たい視線をカメラに向け、理詰めで計算された「最も知的に見える角度」を作り出す。
(……佐藤くんが、見ている。絶対に、無様な姿は見せられません)
内心の焦りや乙女心は一切表に出さず、紗良は完璧な「クールで知的な女優」を演じきった。その姿に、佐藤は「紗良ちゃん、いつも怒ってる時の顔だけど、今日はなんかスゲェかっこいいッス!」と頓珍漢ながらも素直な感嘆を漏らしていた。
「次は僕の番ね。……ふふっ、佐藤先輩、よく見ていてくださいね♡」
桃井琉生が、妖艶な笑みを浮かべてホリゾントへ進み出る。
桃井の衣装を見て、佐藤をはじめとする男子陣は息を呑んだ。
彼女(彼)が着ているのは、なんと『男性用』の、黒を基調としたスリーピースのタキシードだったのだ。
バシャッ!
「最高だ! その中性的な魅力、たまらないね!」
美しすぎる絶世の『女顔』と、細身でありながらもしっかりとした筋肉と骨格を持つ『男のスタイル』。
その激しいギャップが、メンズのタキシードを着ることで爆発的な色気を生み出していた。女性が男装しているのとは違う、男性が女装しているのとも違う、完全に性別の壁を超越した『魔性の美』。
「ひぃっ……!」
佐藤は、モニター越しに桃井の獲物を狙う深海魚のような瞳とバッチリ目が合い、背筋に悪寒を走らせて一歩後ずさった。
「フッ……桃井くんもやりますね。では、僕も続かせてもらいましょうか」
桐生蓮が、キザに前髪をかき上げながら登場する。
桐生は、元々の素材が誰もが振り返るほどの『超絶イケメン』である。彼に与えられたのは、ボルドーカラーのベルベットジャケットに、黒の細身のパンツという、大人の色気が漂う衣装だった。
バシャッ! シャカシャカシャカッ!
「おぉっ! 視線の使い方が天才的だ! 次、こっち向いて!」
桐生はC級能力『超高速思考』と『全周囲視界』をフル活用し、カメラマンの動き、ストロボのタイミング、スタッフの視線を完全に把握。自らの最も魅力的な角度を、流れるような連続動作で見せつけていく。子役時代から培った本物の『魅せる技術』が、リュクスの衣装と完璧な相乗効果を生んでいた。
「し、神品さん、お願いします!」
芸能科の最後を飾るのは、神品蘭だった。
蘭の衣装は、黒いレースと重厚なフリルがあしらわれた、ゴシック調のショートドレス。
「あ、あのっ、僕、こんなフリフリの服……っ」
バシャッ!
「いいね! その困ったような、でも気の強い感じ!」
蘭の少女のようなツルペタ体型と可愛らしい顔立ちが、重厚で大人びたリュクスのブランドイメージと強烈な『ギャップ』を生み出していた。阿部お姉さまに見られているという緊張感から、時折見せる雷のような鋭い睨みが、写真に極上のスパイスを与えている。
芸能科のメンバーたちの撮影は、まさに「プロの仕事」だった。
彼らの圧倒的な表現力と美しさに、スタジオのスタッフたちからも感嘆の溜息が漏れ続けていた。
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「はい、それじゃあ次は一般科の男の子たち、いってみようか!」
カメラマンの明るい声が響く。
「……えっ。お,俺たちの番ッスか?」
「押忍……。ついに、死地へ赴く時が来たであります」
「……行くぞ」
佐藤陽翔、大文字鉄平、門蒼真の三人が、ガチガチに緊張したロボットのような歩みでスタジオの中央へと進み出た。
彼らは裏方や純粋な武道家であり、カメラの前でポーズを取るなどという経験は皆無である。
「はい、じゃあまずは門くんから! もっとリラックスして、ポケットに手を入れてみて!」
「……こうか?」
バシャッ!
「うーん、なんか固いなぁ! もっと自然な感じで!」
門は、ダークグレーのダブルブレストのスーツを着こなしていた。鍛え上げられた巨躯と分厚い胸板がスーツのシルエットを完璧に引き立てているのだが、いかんせん表情が「これから怪異を殴りに行く」ような険しいものになってしまっている。
「ぷっ、あははははっ! 何あのみんな! 木の棒みたいに突っ立ってて、ウケるんですけどー!」
見学席から、阿部凛花が腹を抱えて大笑いし、容赦のないちゃちゃを入れる。
「門先輩! 相手はS級の怪異じゃないんですよ! もっと肩の力抜いて!」
「くっ……。言うのは簡単だが……」
門が冷や汗を流して固まっていると、見学席から、澄んだ、しかし力強い声が響いた。
「門くん!!」
声の主は、高橋玲央だった。彼女は両手を口元に当て、真っ赤な顔をしながらも、必死に恋人へと声援を送っていた。
「門くんは、いつものように堂々としていれば……誰よりも、素敵ですわ!! だから、自信を持って!!」
「……玲央」
その声を聞いた瞬間、門の顔から余計な力みがスッと消え去り、彼は小さく息を吐くと、合気武道における『自然体』の構えへと移行し、スッとポケットに片手を突っ込んだ。
バシャッ!
「おおっ!? いいね、今の! すごくいい!!」
愛するタレント(恋人)を守る、包容力と強さを兼ね備えた『大人の男』。
門蒼真の硬派でストイックな内面が、リュクスの重厚なスーツと見事にリンクし、シブくてカッコいい、まるでマフィアのボスの休日のような極上のワンカットが生まれた。
「次は大文字くん! そのジャケット、もっとラフに羽織ってみて!」
「押忍ッ!! こうでありまッスか!!」
バシャッ!
大文字の衣装は、ヴィンテージ加工が施された重厚なレザーコートに、胸元が大きく開いたインナー。
鍛え上げられた巨大な大胸筋と、ワイルドに束ねられたトップノット(髷)、そして鋭い眼光。細かいポージングなど彼には不可能だったが、ただ仁王立ちしてカメラを睨みつけるだけで、まるで荒野を駆ける『アメリカンヒーロー』のような、理屈抜きの圧倒的なワイルドさが写真に収まっていた。
「よしよし、いいよ! じゃあ次、佐藤くん!」
「ひゃいッス! よ、よろしくお願いしますッス!」
佐藤は、黒を基調としたモード系のストリートスタイル。幾重にもレイヤードされた複雑なシルエットの服を、彼特有の細身だが引き締まった体格が見事に着こなしている。
バシャッ!
「佐藤くん、もっと顎引いて! 目線はカメラのレンズの奥を見る感じで!」
「レンズの奥……? こ、こうッスか?」
プロのメイクによって精悍さを増した顔立ち。ヘアセットで前髪を上げ、額を出した佐藤の顔は、普段の「煩悩の塊のサル」とは完全に別人の、クールで鋭い『遊撃手』の顔になっていた。
「……ッ」
見学席の南原紗良が、息を呑んでモニターを見つめる。
(さ、佐藤くん……? あれが、本当にあのバカなサルですか……? ……悔しいけれど、すごく……かっこいい、です)
紗良は顔を真っ赤にして、必死に手で顔を扇ぎながら、自身の高鳴る鼓動を抑え込んでいた。
男たち三人は、カメラマンの的確な指示と、持ち前のポテンシャルの高さ(と、仲間たちの応援)によって、なんとかこの過酷な撮影を乗り切ることに成功した。
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「よし、じゃあ個人撮影の最後! 雨宮さん、入って!」
「ひゃ、ひゃいぃぃぃっ!」
スタジオの端で、ずっとガタガタと震えていていた雨宮千歳が、生まれたての小鹿のような足取りでホリゾントへと進み出た。
その姿を見た瞬間、スタジオ内の全員——スタッフも、合気武道部のメンバーたちも——完全に言葉を失い、静まり返った。
千歳が纏っていたのは、リュクスの象徴的なカラーであるペールホワイトの、極めて身体に密着するタイトなマーメイドドレスだった。
分厚い眼鏡は外され、プロのメイクによって本来の『超絶美少女』としての清純で儚げな顔立ちが完璧に引き出されている。
だが、何よりも全員の視線を釘付けにしたのは、そのドレスが容赦なく描き出している、彼女の『超絶・曲線美』だった。
細くくびれたウエストから、暴力的とも言えるほどに豊満に張り出した胸の膨らみ、そして女性らしい柔らかな骨盤のライン。普段のダボダボの制服に隠されていた彼女の真のプロポーションが、最高級の生地によってこれでもかと強調されていたのだ。
清楚で大人しい、怯えたような上目遣いの美少女。
それなのに、身体のラインは直視するのも躊躇われるほどの、セクシーダイナマイト。
「……すげぇ……」
佐藤が、完全に魂を抜かれたような顔でポツリと呟く。
「あれが……千歳ちゃん……? 今までに見たことないタイプッス……。バグってるッス……色々と……」
バシャッ!
「……ッ! 雨宮さん、そのままで! その怯えたような表情、すごくアーティスティックだ!」
カメラマンのシャッター音が、静寂を切り裂いて鳴り響く。
「ひゃうっ!? フラッシュ、眩しいですぅっ! こわい、こわいですぅぅっ!」
千歳は涙目になりながら、胸元を両腕で隠そうと身体をよじる。だが、その隠そうとする仕草自体が、彼女の豊満な胸の谷間をさらに強調させ、写真に信じられないほどの『背徳的な色気と純粋さのギャップ』を生み出していた。
「千歳ちゃん! そのままで大丈夫ッス! メチャクチャ綺麗ッスよ!!」
佐藤が、我に返って全力で声を張り上げる。
その声を聞いて、千歳はビクッと肩を震わせ、少しだけホッとしたようにカメラの向こうの佐藤を見つめ返した。
バシャッ!
その一瞬の、安堵と恥じらいが入り混じった奇跡の表情を、プロのカメラマンは決して逃さなかった。
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全員の個人撮影が終わり、熱気冷めやらぬスタジオ。
そこへ、最後にゆっくりと歩み出てきたのは、スノーの社長である立花雪だった。
「さあ、私も撮ってもらおうかしら。エレーヌへの義理もあるしね」
雪が纏うのは、深いネイビーブルーに黄金の糸で複雑な幾何学模様(それは陰陽道の呪符にも似ていた)が施された、重厚なパンツスーツ。
「よろしくお願いします、社長!」
バシャッ!
フラッシュが光った瞬間、立花雪の周囲の空気が一変した。
小柄な体躯からは想像もつかない、千年を生きる大陰陽師としての、重く、深く、そして慈愛に満ちた絶対的なオーラ。
ポージングの一つ一つが、まるで長い歴史を切り取った一枚の絵画のように洗練されており、その場にいる全員が「プロのスーパーモデルが混ざっている」と錯覚するほどの完璧な仕上がりだった。
「社長……半端ねぇッス。俺たちとは積んでるエンジンが違うッスね」
佐藤が感嘆の息を漏らす。
「ええ。立花社長は、私たちスノーの誇りですわ」
玲央もまた、尊敬の眼差しでその背中を見つめていた。
「よし! 最後は全員で集合写真を撮るよ! 真ん中に立花社長と阿部さん、他のみんなはその周りに自由に立って!」
カメラマンの指示で、十一人全員が巨大なホリゾントの中央に集まる。
圧倒的なカリスマを放つ雪と阿部を中心に、洗練された芸能科の面々と、見事に服を着こなした(着せられた)一般科の面々が、リュクス・アンペリアルの最高級の衣装を纏って並び立つ。
「みんな、最高の笑顔でね! いくよ! スリー、ツー、ワン!」
バシャッ!!!
極秘のスタジオ撮影がすべて終了し、「お疲れ様でした!」の声がスタジオに響き渡った時、時計の針はすでに深夜を回っていた。
「はぁぁぁ……終わったッス……。怪異と戦うより、百倍疲れたッス……」
佐藤が、メイクを落とす前にソファへと崩れ落ちる。
「押忍……。自分の精神力も、限界であります」
大文字も白目を剥いて天井を仰いでいる。
「……フッ、お疲れ様でした、先輩方」
桐生が、まだ余裕のキザな笑みを浮かべて近づいてくる。その後ろでは、阿部や玲央たちが、写真の仕上がりをモニターで確認しながらキャーキャーと楽しそうに盛り上がっていた。
「……桐生。お前ら芸能科って、いつもこんなプレッシャーの中で仕事してんのか?」
門が、ネクタイを緩めながら深く息を吐いて尋ねる。
「ええ、まあ。これが僕たちの『戦場』ですから」
その言葉を聞いて、門、佐藤、大文字、そして震えが止まらない千歳の一般科の四人は、心からの尊敬を込めて、煌びやかな芸能科の仲間たちを見つめた。
(((((芸能科って、マジですげー!!!)))))
彼らの心に深く刻まれた、最高級のブランドと仲間たちの輝き。
それは、血生臭い戦闘とは全く違う、彼らの青春のもう一つの『戦いの記憶』として、色鮮やかに残ることになったのだった。




