【新たなる挑戦と、圧倒的なる特級の洗礼 〜氷川神社分社道場でのGW合宿〜】
【新たなる挑戦と、圧倒的なる特級の洗礼 〜氷川神社分社道場でのGW合宿〜】
ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
早朝の澄み切った空気を切り裂くように、本多鮎が運転するマイクロバスが、舗装されていない険しい山道を力強く登っていく。
やがて視界が開け、木々に囲まれた広大な土地にバスが滑り込んだ。
プシューーーッ!
「さあみんな、到着よ! 降りてちょうだい!」
運転席から元気よく飛び出した鮎の声に促され、合気武道部の面々が次々とバスから降り立つ。
そこは、周囲を深い森に囲まれ、外界から完全に隔離されたような静寂な空間だった。敷地の奥には古びた巨大な木造の道場があり、さらにその奥には岩で作られた露天風呂へと続く小道が見える。
「……最高ッスね! 去年もここで合宿したけど、またこうして来られるなんてワクワクしてくるッス!」
一般科二年生・副主将の佐藤陽翔は、目の前にそびえ立つ道場を見上げて、期待と喜びに満ちた笑顔を見せた。
その隣で、阿部凛花もモデルのような長身を弾ませて、深く深呼吸をする。
「ええ! 去年の夏、ここで徹底的に鍛えられたのが私たちの原点だもの。こうして二年生になって、また帰ってこられたことが本当に嬉しいわ!」
二年生の門蒼真、高橋玲央、南原紗良の三人も、佐藤たちと同じように感慨深く、そして嬉しそうに周囲を見渡している。彼らにとってここは、青春の汗と涙が染み付いた、自分たちを大きく成長させてくれた「特別で大好きな場所」なのだ。
「うおおおおッ!! なんという澄み切った空気! そして漲る霊的エネルギー!! 自分、この大自然の道場に感動いたしましたッ!!」
究極の武道バカである一年生の大文字鉄平も、先輩たちの空気に当てられたのか、テンションを爆発させて太い両腕を天に突き上げた。
「さあ、感動している暇はないわよ! 全員集合! これから四日間の合宿スケジュールを説明するわ!」
パンパンッ! と鮎が手を叩き、部員たちを整列させる。
「まず、早朝から昼までは、影安先生と合気武道部部員のみんなで、道場にてみっちりと合気武道の基礎稽古よ! そして昼食後は、私とルージュで『風間流の禊』の伝授、兼、『光の神術』の講義を行うわ」
鮎の言葉に合わせるように、彼女の足元の影がゆらりと揺れ、ゴシックドレスに身を包んだ吸血鬼の少女――使い魔のルージュが姿を現した。
「補足いたしますわ」
ルージュが優雅に扇子を広げ、一年生たちを見渡す。
「昼食後、影安先生は『完全なお休み時間』となりますの。先生が奥の温泉に入っていようと、お酒を飲んでいようと、はたまた一人で登山に行っていようと……あなたたちは絶対に不平を言ってはいけませんわ! 先生は、貴重なゴールデンウィークの休みをあなたたちのために浪費させられたのですから、心から感謝なさい!」
「「「「「押忍ゥゥゥッ!!」」」」」
大文字をはじめ、部員たちが力強く返事をする。影安先生はニコニコと穏やかに微笑んでいた。
「よろしい。そして三時のおやつの後は、いよいよ『実戦形式での訓練』よ。夕食後は、光の神術を使って自分たちで回復しなさい。その後は温泉に入って自由時間とするわ」
鮎がビシッと指を突きつける。
「いいこと? 私も昼から回復までは指導してあげるけれど、それ以外の時間は自由時間なんだから、絶対にめんどくさいことを言ってこないように! どうしてももの緊急事態の時は、ルージュに声をかけなさい!」
そのスケジュールを聞き、大文字が一歩前に出て大声を張り上げた。
「押忍ゥゥゥッ!! 鮎先輩、質問であります! その『実戦形式での訓練』というのは、魔物などを想定したものでありますか、押忍ッ!!」
「ええ、その通りよ。魔物はもちろん、対人戦も想定して行うわ」
鮎が頷くと、桃井琉生が首を傾げて可愛らしく手を挙げた。
「センパァイ。その対人戦の指導って、誰が相手をしてくれるんですかぁ?」
「私とルージュが行うわ」
鮎が事もなげに答える。
その瞬間、一年生たちの間に、ほんのわずかな「戸惑い」と「侮り」の空気が流れた。
若手俳優の桐生蓮が、少しキザに前髪をかき上げながら、苦笑まじりに口を開く。
「……失礼ですが。いくら伝説のOGとはいえ、タレントの鮎先輩や、その可愛らしいルージュさんでは……厳しい言い方ですが、能力者である僕たちには敵わないかと」
桐生の言葉に同調するように、雨宮千歳も丸眼鏡の奥で涙目になりながら、どもりながら訴えた。
「わ、わたしも……もし能力が暴走しちゃったら……鮎先輩を、こ、壊しちゃうかもしれませんぅっ……!」
ピキッ。
その言葉が出た瞬間。
(((((あっ、終わった)))))
佐藤、阿部、門、高橋、南原。
二年生全員の顔から、スッと血の気が引いた。彼らは知っている。目の前の華やかなピンク髪の美女が、どれほど理不尽で凶悪な『極黒の狂戦士』であるかを。
「……ふぅん」
鮎は全く怒る様子もなく、むしろ妖艶な笑みを浮かべて一年生たちに近づいた。
「能力はあっても……あなたたち、まだ相手の『本質』を見破ることはできないのね」
スッ、と。
鮎は大文字の前に立ち、その大きな頭にポンと手を乗せた。
「踏ん張りなさい」
「押忍ッ!!」
大文字は即座に能力『剛体』を発動。全身の筋肉を鋼のように硬化させ、脚を大きく開いて大地に根を張るように踏ん張った。ダンプカーが突っ込んできても微動だにしない、彼が誇る絶対の防御体勢だ。
「いくわよ」
鮎が、頭に乗せた片手に、スッ……と体重を乗せた。
ドゴォォォォォォンッ!!!
「ごっ、がはぁぁぁぁッ!?」
痛みはなかった。ただ、天が落ちてきたかのような『圧倒的すぎる質量』。
大文字の巨体が、抵抗する間もなく一瞬で地面に這いつくばらされ、道場の前の固い土に深くめり込んだ。
「なっ……!?」
桐生が驚愕して目を見開いた、その次の瞬間。
「見えた?」
「えっ……?」
桐生の真横、耳元で鮎の声がした。いつの間にか移動していたのだ。
「……み、見えませんでした……」
動体視力を極限まで高める『千里眼』を持つ桐生ですら、鮎の移動の軌跡を1ミリも捉えることができなかった。
鮎はそのまま、震えている雨宮の前にスッと立つ。
「さあ、雨宮さん。私を壊すつもりで、暴発させてみなさい」
「ひ、ひぃぃぃっ……!!」
「させないわ!」
雨宮を守るように、桃井が前方に飛び出し、両手から無数の『魔導ワイヤー』を放って鮎を拘束しようと試みる。
シュルルルルッ!!
しかし――ワイヤーが鮎に触れる直前。
ゴオォォォォォォォォッ!!
鮎の身体から、太陽の光すら飲み込むような、おぞましく濃密な『極黒の霧の魔力』が爆発的に噴き出した。
「なっ……!?」
ワイヤーは極黒の魔力に触れた瞬間、ジジジッ! と音を立てて溶け落ち、全く届かない。
「邪魔よ」
ドンッ!!
鮎が魔力をほんの少し放つと、それだけで桃井の身体が木の葉のように吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がった。
「あ、あ、あああ……っ!!」
残された雨宮は、極度の恐怖に顔を引き攣らせ、持てる絶大な『念動力』のすべてを限界まで引き出し、鮎にぶつけようとした。
空間が歪み、見えない巨大な壁が鮎を押し潰そうと迫る。
だが。
「――弱い」
鮎が極黒の魔力を纏った手で軽く空間を薙ぎ払うと、雨宮の限界の超能力は、まるで薄いガラスが割れるようにパリンッ! とあっけなく粉砕され、霧散した。
「ひっ……!」
能力が届きもしない。次元が違いすぎる。
一年生五人は、地面に這いつくばり、あるいは尻餅をつきながら、見上げるほどの圧倒的な『恐怖のどん底』へと叩き落とされていた。
絶望的な沈黙が流れる中。
極黒の魔力をスッと収めた鮎は、華やかなトップモデルの顔に戻り、楽しそうにコロコロと笑った。
「ふふっ。どう? 私、ちょっと強いでしょ。……あなたたちを『指導』しても、良いかしら?」
恐怖でガクガクと震えながら、一年生五人は。
無言のまま、首がもげるほどの勢いで、何度も何度も激しく頷いたのだった。




