【大型二種免許まで取るOGの愛が重すぎます!】
【大型二種免許まで取るOGの愛が重すぎます!】
五月二日、土曜日。
世間が大型連休――ゴールデンウィークの甘やかな空気に浮かれ、まだ多くの人々が深い眠りについている早朝五時。
私立聖ミカエル学園の校門前には、そののどかな世間の空気とは完全に断絶された、異様な熱気と緊張感が漂っていた。
今日から五日までの四日間、合気武道部の『緊急ゴールデンウィーク合宿』が幕を開ける。ちなみに最終日の六日は完全休養日として設定されている。まさに地獄と天国がセットになった、極端すぎるスケジュールだ。
「……ふぁぁぁ。いくらなんでも、朝五時集合は早すぎるッスよ……」
「文句を言わないの陽翔。これも私たちの更なるステップアップのためよ」
冷たい朝の空気の中、欠伸を噛み殺す一般科二年生・副主将の佐藤陽翔を、同級生の阿部凛花がピシャリと嗜める。
その周囲には、南原紗良、門蒼真、高橋玲央ら二年生の面々と、桃井琉生や大文字鉄平をはじめとする初々しい一年生たち五名。合わせて十名の部員が、大きなボストンバッグやリュックを足元に置いて整列していた。
そして彼らをまとめるのは、穏やかな笑みを浮かべた顧問の影安先生だ。
「皆さん、おはようございます。早朝からご苦労様です。……おや、噂をすればお迎えが来たようですね」
影安先生がふと視線を向けた先。
ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
静まり返った早朝の道路に、重低音のエンジン音を響かせながら一台のピカピカなマイクロバスが滑り込んできた。
プシューーーッ!
エアブレーキの音と共に自動ドアが開き、そこから颯爽と降りてきたのは――。
朝焼けの光を弾く華やかなピンク色の髪。ハリウッドセレブの休日を思わせる、ラフでありながら完璧に洗練されたファッション。そして、サングラス越しでも隠しきれない圧倒的なオーラ。
「おはよう、みんな! 早い時間から偉いわね!」
学園の伝説的卒業生にして、今や国民的トップモデル・女優として君臨する絶対的OG――本多鮎その人であった。
さらにその背後からは、鮎の親友であり使い魔でもあるルージュが、呆れたようなため息をつきながら降りてくる。
「ひゃあああっ!? ほ、本物の本多鮎先輩ッス!?」
「美しすぎます……! まさか直接お目にかかるなんて……!」
テレビや雑誌の向こう側の存在であるトップスターの登場に、一年生たちは目をキラキラと輝かせて歓喜の声を上げた。
そんな熱狂をよそに、鮎はパチンとウインクをしてから実務的な指示を飛ばす。
「マイクロバスは荷物が入るところが少ないから、車内に直接いれてね。正座席は二十名分あるから、荷物を置いてもゆったりできるわよ!」
「鮎さん、お忙しい中、我々合気武道部のためにわざわざ運転手まで買って出ていただき……本当にありがとうございます」
影安先生が丁寧にお辞儀をして感謝を述べる。そして、ふと気になったように問いかけた。
「しかし、念のための確認で縮小……じゃなくて念のためですが、鮎さん、免許は……?」
すると鮎は、自慢げにふふっと胸を張り、眩しい笑顔で答えた。
「ええ、大丈夫よ先生! こんなこともあろうかと、去年の合宿が終わったあとに大型免許を取ったの。それと、念のため中型二種免許もね!」
「押忍ゥゥゥッ!!」
その言葉を聞いた瞬間、一年生の大文字が直立不動でビシッと敬礼を決めた。
「トップモデルでありながら大型・二種免許まで取得されるその飽くなき向上心……自分、激しく尊敬いたしますッ!!」
「わぁ、鮎先輩すごーい! わたしも大型免許取ったら佐藤先輩乗せてドライブできるかなぁ♡」
男の娘である桃井琉生も、両手を組んでうっとりとため息をつく。(佐藤は「俺は絶対乗らねえからな!」と即座に身を引いた)
「「「「「……」」」」」
そんな純粋な感嘆の声を上げる一年生たちとは対照的に、佐藤たち二年生五人の顔は見事に引きつっていた。
(……いやいやいや!)
(なんでトップ女優が、合気武道部の合宿の送迎をする『かもしれない』って理由だけで、わざわざ大型・二種免許まで取ってんだよ!?)
二年生たちは全員、念話を使わずとも完全に心を一つにしていた。
本多鮎の、極黒の魔王――『恋問持子』先輩に対する狂信的でドMな愛情は、常軌を逸している。
そして恐ろしいことに、その愛と忠誠心の余波は、持子先輩が気にかけていたこの『合気武道部』全体にも向けられているのだ。
(俺たちを気にかけてくれるのはメチャクチャ感謝してるッスけど……やっぱりこの先輩の愛の重さ、色々と怖すぎるッス……!)
佐藤は背筋に冷たい汗が流れるのを感じていた。
そんなドン引きする二年生たちの前で、ルージュが頭を抱えながら鮎に小言を言い始めた。
チュンチュン……と鳥のさえずる早朝、ルージュは鋭い声で言った。
「ちょっと鮎! アナタ、今月の末にはハリウッドでの大型撮影が控えてるのよ!? こんなところで部活の運転手なんてしてないで、少しは程々になさい! ちゃんと休まないとダメじゃない!」
ルージュの至極真っ当なツッコミ。
しかし、鮎は全く悪びれる様子もなく、ケロッとした表情で言い放った。
「もー、心配性ねルージュは。私、ちゃんと休んでるよ? これからも休むし大丈夫大丈夫!」
太陽のように明るい笑顔で、親指を立てる鮎。
その姿を見た瞬間、ルージュ、そして佐藤たち二年生五人の心の中に、全く同じ激しいツッコミがハモるように響き渡った。
((((((いや、絶対大丈夫じゃないから!!!))))))
GWの早朝。
カオスな合宿の幕開けを予感させるには、十分すぎるスタートアップであった。




