【男湯大混乱!? 桃井琉生、禁断の変身作戦】
【男湯大混乱!? 桃井琉生、禁断の変身作戦】
東京都内某所。スノー本社ビルの地下。
防魔法コーティングされた壁に囲まれた、完全プライベートな豪奢な大浴場。
湯気が静かに天井へ昇っていく。
そこには、今日一日を命懸けで戦い抜いた五人の男たちが、疲労と充実感の入り混じった身体を湯へと預けていた。
ピチャッ……。
合気武道部主将の門蒼真が、隆起した大胸筋まで湯に浸かりながら、指先から微量の魔力を放出して湯温を最適な状態に保っていた。
「ぷはーっ! いやぁ、やっぱりここの魔力充填成分入りの湯は最高ッスね!」
副主将の佐藤陽翔が、湯船の縁に腕を乗せ、器用に自身の『影』を伸ばして洗い場からタオルを引き寄せて顔を拭った。
「ああ。筋肉の繊維一本一本にまで、持子先輩から受け継いだ『極黒の魔力』が染み渡るのが分かる。俺たちの肉体も、着実に進化しているな」
「分かるッス。俺も影のコントロールが、前よりずっと省エネで広範囲に展開できるようになってるッスよ」
元気いっぱいに自身の成長を確かめ合う二年生の傍らで。
湯船の浅瀬では、文字通り「死に体」となっている一年生たちの姿があった。
「……桐生……生きてるか……押忍……」
「はぁ……君も半分死んでるじゃないか、大文字……僕の美しい顔が、お湯に溶けていく……」
「んふふぅ……二人とも、くたびれた顔も可愛いですよぉ……♡」
身長175センチ、体重120キロの巨漢である大文字鉄平が、無意識に筋肉をピクつかせると、それだけで湯船の水流がブワッと変わる。
容姿端麗な若手俳優の桐生蓮は、無駄に芝居がかった悲壮な表情で湯船の縁に首を預け、絶世の美少女(男の娘)である桃井琉生が、ゾンビのように二人を撫でていた。
「……たく。だらしないッスねぇ、あいつら」
「仕方ない。今日の合気武道と魔力制御の複合稽古だけで、ここまで消耗するのは当然だ」
門が厳つい顔でため息をつく。だが、その声には確かな愛情が込められていた。
そして、ふと湯面を見つめ、ポツリと本音をこぼした。
「……実はな、佐藤。俺は少し怖かったんだ。才能溢れるあいつら一年生を、俺たちが預かって、本当に正しく導けるのかってな」
「何言ってんスか、門」
佐藤がいつになく真剣な表情になり、副主将としての顔を見せた。
「門の教え方は間違ってないッスよ。今日だって、桐生の足運び、かなり良くなってたじゃないッスか。相手の攻撃を最小限で『受ける』感覚を掴み始めてる」
「……ああ。大文字も力任せな打撃が減り、相手の力を利用する『崩し』の理合を理解しつつあるな」
「ッス! だから大文字には『自己の肉体強化』に頼らない技術を、桐生には『動体視力と遠視』を活かした回避を徹底的に叩き込むんスよ。桃井の『変身能力と身体強化』も、使い所次第で最強のジョーカーになるッス」
「……おす……右足から、崩す……押忍……」
「……紗良の……ツンデレな視線……見切る……すやぁ……」
寝落ち寸前になりながらも、一年生たちがブツブツと今日の稽古を反復しているのを見て、門の口元がわずかに緩んだ。
「一年後には、こいつらも最前線だ」
「その前に、地獄の稽古で死ななきゃいいッスけどね!」
二年生二人が頼もしく笑い合った。
……しかし、そんな真面目な空気を、佐藤自身がニヤニヤと意地悪な笑みでぶち壊した。
「……ところで、門。ぶっちゃけ聞くッスけど」
「なんだ?」
「もう高橋(玲央)とは、エッチしたのかッス?」
ピタッ、と。
門の動きが止まった。厳つい顔が、一瞬にして茹でダコのように真っ赤に染まる。
「し、していないッ!! な、何を急に馬鹿なことを……!」
「ええ〜!? まだッスか!? あんなにラブラブなのに! 玲央は絶対誘われるのを待ってるッスよ!」
「ま、まだ早い! 俺たちは武道を極める身……そ、そういうのは、もっと、こう、順序というものがだな……!」
しどろもどろになる主将を見て、佐藤は呆れたように大きなため息をついた。
「ヘタレ! 門のド天然ヘタレ! この筋肉ダルマの朴念仁ッス!」
「なっ……! お前な、そういうデリケートな問題は……!」
ぎゃーぎゃーと言い合いを始めた、その時だった。
スゥッ……。
「ひやっ!?」
不意に、佐藤の尻を『柔らかい手』が撫で上げた。
振り返ると、いつの間にか背後に忍び寄っていた桃井が、トロンとした目で佐藤を見つめていた。
「や、やめろ桃井! お前に男に触られる趣味はないッス!!」
佐藤がバシャン! とお湯を跳ね上げて距離を取ろうとする。
しかし桃井は妖艶な笑みを浮かべたまま、妖しい声で囁いた。
「……男に触られるのが嫌なら……女になればいいんですよね? 攻めとしては不本意ですけど……佐藤先輩が相手なら、わたし、受けでもいいですぅ♡」
ボンッ!!
桃井の身体を魔力の煙が包み込んだ。
そして煙が晴れた直後――そこにいたのは、桃井ではなく、合気武道部が崇拝してやまない絶対的な存在、**『恋問持子』の姿(全裸)**であった。
「なっ……!? 持子先輩ッ!?」
「ば、馬鹿野郎!! 恐れ多いにも程があるぞ桃井!!」
驚愕する二人の前で、変身した桃井(見た目は完全な持子)は、高橋先輩直伝の『恋問持子のモデルポーズ』をキメた。
指先まで洗練された完璧なS字カーブ。濡れた髪から滴る雫。
さらに、蠱惑的な流し目で『魅了のポーズ』まで繰り出す。
「佐藤センパァイ……わたしと、稽古……し・ま・す・か?♡」
ドクンッ……!!
そのあまりにも神々しく、そして暴力的なまでの色気の前に。
過酷な稽古で鍛え抜かれた屈強な心身を持つ二人であったが……悲しいかな、彼らは健全すぎる男子高校生であった。
『『――――ッッ!!?』』
凄まじい破壊力。
二人の下半身の『モノ』が、主人の意思を完全に無視して、ものすごい勢いで天に向かって屹立した。
「「うおおおおおおおおおおッ!?」」
理性を吹き飛ばされそうになった二人は、完全にパニックに陥った。
ザバババババッ!! とものすごい水しぶきを上げて湯船から飛び出すと、両手で股間のテントを必死に隠しながら、脱衣所へと全速力で後退する。
「やべえええッ! 抑えきれねえッス!! これはただの桃井だ! 桃井なんだッ!!」
「走れ佐藤! 見るな! 直視するな!!」
ズルッ!
「あだっ!?」
濡れた床で佐藤が盛大にすっ転んだが、痛みよりも股間の熱暴走への恐怖が勝り、一瞬で立ち上がって再び猛ダッシュした。
脱衣所に逃げ込み、バタンッと扉を閉めて息を切らす二人。
しかし、扉の向こうから、持子の声と姿のままの桃井が、楽しげに追撃を放ってきた。
「あっ、あ〜。佐藤センパァイ♡ 逃げないで〜♡」
「バカ、お前!変身早く解け!!」
「開けるな! 絶対に開けるな佐藤!!」
男湯の脱衣所に、二年生たちの悲鳴が虚しく響き渡る。
一方、彼らが去った後の湯船では。
桐生と大文字の二人が、ピクリとも動かずに横たわっていた。
「……すやぁ……」
「……おす……」
地獄の稽古の疲労により、二人は完全に体力が底を尽き、立ち上がることも、逃げることもできずに意識を失っていた。
しかし。
先ほどの桃井の『持子の魅了ポーズ』の余波をモロに食らった彼らもまた、健全な男子である。
全身の筋肉は完全に沈黙しているにもかかわらず。
お湯からひょっこりと顔を出した二人の『アソコ』だけは、立派に、そして力強く起立し続けていたのだった。
⸻⸻
数分後。
なんとか正気を取り戻した(物理的に)二年生二人は、脱衣所でタオルを巻き、大きく息を吐き出していた。
「……はぁ、はぁ……寿命が縮むかと思ったッス……」
「……全くだ。だが……」
門は、ガラス戸の向こうでアホな騒ぎを繰り広げる一年生たちを見つめ、フッと力強い笑みを浮かべた。
「一年後が楽しみだ」
「絶対、化け物になるッスよ。色んな意味で」
佐藤も満足げに頷く。
しかし、感傷に浸る時間は終わりだ。門が、主将としての鋭い眼光を取り戻し、ガラス戸を開けて風呂場全体に響き渡る声で叫んだ。
「よし! 今日の休息はここまでだ! 気を抜くな! 明日も五時起床で早朝稽古開始だ!!」
ビクッ!!
湯船で気絶していたはずの一年生たちが、本能的な恐怖で跳ね起きた。
「「「えええええええええええッ!?」」」
絶望の悲鳴が、夜の地下浴場に響き渡る。
合気武道部の笑いと熱気、そして筋肉と魔力が交差する戦いの日々は、まだまだ終わらない。




