【最強の魔力を受け継いだら、乙女たちが大変なことになりました】
【最強の魔力を受け継いだら、乙女たちが大変なことになりました】
東京都内某所。スノー本社ビルの地下。
そこに設けられた超高級ホテル顔負けの豪奢な大浴場は、防魔法コーティングされた壁に囲まれた、完全プライベートな癒しの空間であった。
チャプチャプ……。
疲労回復と魔力充填のための特殊な成分が溶け込んだ広大な湯船に、合気武道部女子たちの艶やかなため息が溶けていく。
「はぁ〜……極楽、ですわね……」
高橋玲央が、結い上げていた美しい黒髪からこぼれる雫を拭いながら、湯船の縁に滑らかな背中を預けた。
「ほんとだねー! 地獄の稽古の後のこれがあるから、なんとか生きてられるって感じだよー!」
阿部凛花が、180センチの長身を持て余すように手足を伸ばし、バシャバシャとお湯を跳ねさせる。
「……阿部さん、静かに入りなさい。お湯が跳ねますよ」
南原紗良が、湯気で曇るのを防ぐために外した眼鏡の代わりに、少し目を細めて注意した。
ここは現在、女子だけの貸切状態。
日々の命懸けの任務や殺伐とした特訓から解放された、まさに『サービス回』にふさわしい、湯気と豊かな肌色に包まれた癒しの時間であった。
だが、高橋はふと自身の豊満に育った胸元を見下ろし、隣で無邪気に笑う阿部へと視線を向けた。
「……前から少し疑問に思っていたのですが。阿部さん、またプロポーションが……その、良くなりましたわね?」
「え? そうかな?」
「ええ。あなたは元々高身長でスタイル抜群でしたけれど……なんというか、女性としての身体がより魅力的になったというか、明らかにその……」
完璧主義で普段は隙のない高橋が、珍しく言葉を濁す。
「ああ、オッパイとお尻のこと? うん、大きくなってるよ!」
阿部が全く恥ずかしがる様子もなく、自身の手で豊かなバストを揉みしだきながらあっさりと肯定した。
「ウエストもめちゃくちゃ細くなってるしね! 普段のジムのトレーニングとか、暇な時に自分でオッパイ揉んだりしてたから大きくなったんだって思ってたんだけどさ」
「……私も、実は自覚がありましたわ」
高橋が、白魚のような指で自身の鎖骨から胸の谷間へと触れる。
「日々の鍛錬の賜物だと思っていましたが、明らかに『努力以上の結果』が出ているのではないかと」
二人の会話を黙って聞いていた南原が、チャプン、とお湯から身を乗り出した。
「……実を言うと。私も、その件については確信に近いデータを持っています」
「紗良も?」
「ええ。私はもう、年齢的にも骨格的にも成長期は終わっていたはずなのですが……」
南原は、自身の胸元にそっと両手を添えた。
「以前は、桐生くんや佐藤くんたちに『ぺったんこ』だの『まな板』だのとバカにされていましたが……見ての通り、今は最低でもCカップくらいには成長しています」
南原が言う通り、彼女の胸には、以前のフラットな状態からは想像もつかないような、ふっくらとした美しい双丘が形成されていた。
南原は、自分の全身をゆっくりと手で触り確かめる。
なめらかな肌、くびれたウエスト、丸みを帯びた腰回り。
「原因は、おそらく一つしかありませんわね」
高橋が、核心を突くように目を細めた。
「私たちが、持子先輩……いえ、偉大なる『魔王』から魔力を直接もらい、それを日常的に行使するようになったこと」
「うんうん! 神の魔力がお肌と発育に合ってたってことだね!」
つまり。
「これって……私たちが『魔王化』している、ということでしょうか?」
南原の推論に、三人の間に一瞬だけ沈黙が落ちた。
魔王化。
文字面だけを見れば、人間をやめて恐ろしい化物になりつつあるような、悪い響きに聞こえる。
だが――。
「えへへぇ……♡ 私、神(持子先輩)の身体に近づけてるってことだよね? 嬉しすぎる〜! もっと神の魔力ちょうだい〜っ!」
阿部は、自身の絶対的な信仰対象である持子に近づける喜びに、頬をすりすりとお湯にこすりつけて悶えた。
「……フフッ。魔王化、ですか。悪い気はしませんわね」
高橋も、艶然とした笑みをこぼす。
持子先輩の持つ、あの絶対的で圧倒的なカリスマ性と、神々しいまでの美貌。完璧を追い求める高橋にとって、それは喉から手が出るほど欲してやまないものだった。
そして、高橋は自身の柔らかな胸元と、くびれた腰つきをそっと撫でる。
(この身体……門くんに、触ってほしいな……)
ぽっ、と。
高橋の胸の奥で、恋人である門蒼真への熱く甘い感情が燃え上がった。
完璧な自分を保つため、決して表情には出さず、ポーカーフェイスを装う高橋。
ビリィィィィン……ッ!!
だが、その瞬間。
「「……っ!?」」
阿部と南原の身体が、ビクッと大きく跳ねた。
「……え、ちょっと玲央。なに今の、すっごく熱くてエロい想い……」
「……ええ。直接、頭の中に流れ込んできましたね。玲央さん……門くんのこと、強く考えていましたね?」
「なっ……!?」
高橋が、完璧なポーカーフェイスを崩して顔を真っ赤にした。
同じ『魔王の魔力』を体内に宿している者同士。高橋の門に対する想い――念が強すぎたせいで、魔力のパスを通じて二人にダイレクトに伝播してしまったのだ。
「あ、あれは……っ、その……っ!」
高橋が珍しく慌てふためき、お湯に顔を半分沈めてブクブクと泡を立てる。
「ふふっ。玲央、すっごく幸せそうだねー!」
阿部がニヤニヤと笑いながら高橋の肩をつつく。
「ええ。幸せそうで何よりですが……少しあてられすぎて、嫉妬してしまいますね。でも、祝福しますよ」
南原も、からかうようにクスッと笑いながらお湯をすくった。
そんな高橋の幸せな念にあてられてか、南原も自身のふくよかになった胸に手を当てる。
(……私も。この身体なら、佐藤くんに振り向いてもらえるかもしれない……)
幼馴染の桐生ではなく、いつも副主将として背中を預け合い、時にバカをやるあの男。素直に好意を伝えるのはまだ難しくて、つい意地悪をしてしまうけれど……この身体なら、女として見てもらえるかもしれない。もっと自分磨きの努力をしたいと、心から思えたのだ。
「南原さん、ちょっと質問です」
不意に、阿部が口を開いた。
「……はい、どうぞ」
「今の南原さんを見たら、桐生くんはさらに惚れていると思います」
「そうなのですか?」
高橋が興味深そうに相槌を打つ。
「……そうかもしれませんが、彼は幼馴染ですから。恋と勘違いしているんじゃないですか?」
南原は平静を装いながら、少し目を逸らして答えた。
「じゃ〜、南原さんの本命は佐藤君?」
高橋が、先ほどの意趣返しとばかりにニヤリとからかうような笑みを浮かべる。
「……っ!」
図星を突かれた南原は、限界まで赤くなった顔を隠すように、ボコボコッとお風呂のお湯の中に潜ってしまった。
「あははっ、逃げた!」
阿部がお湯を跳ねさせながら楽しそうに笑う。
一方、阿部もまた、自分に魔力を与えてくれた『神』への想いを馳せていた。
(私は神に近づけて嬉しい! ああ、神……持子先輩……♡)
阿部が恍惚と目を閉じた、その時だった。
自身の心の中――そのはるか奥底に、ふと『誰か』の気配が横切った。
(……え?)
ドクンッ!!
阿部の心臓が、大きく跳ねた。
はっきりとは見えなかった。だが、確かに見えた気がしたのだ。
(今の……? 誰……?)
全く見覚えのないような、見ていたような。阿部は胸の奥がざわつくのを感じながらも、その正体を掴むことはできなかった。
「……んん……すぅ……」
そんな三人の思考と交錯する念のすぐ傍らで。
湯船の浅瀬には、地獄の稽古の疲労のあまり、完全に体力の限界を迎えてスヤスヤと眠りこけている一年生二人の姿があった。
「……ふふっ。よく寝ていますわね」
高橋が、気を取り直すように赤みを引かせ、神品蘭と雨宮千歳の無防備な寝顔を見て微笑む。
だが、次の瞬間、二年生三人の視線は、自然と彼女たちの『身体』へと吸い寄せられた。
まずは、神品蘭。
彼女の体型は、なんというか……以前の南原をさらに下回る、見事なまでの『ぺったんこ』であった。もはや小学生体型と言っても過言ではない(酷い)。
稽古前の更衣室で発覚したことだが、彼女は極厚のパッド入りブラジャーを使用し、脇の肉から背中の肉までありとあらゆるお肉を『寄せて寄せて寄せて、あげてあげて』、無理やり胸らしきものを形成していたのだ(さらに酷い)。
そして、雨宮千歳。
こちらは神品とは対極に位置する、まさに反則級の『ダイナマイトボディ』であった。
湯船の浮力によってこぼれんばかりに揺れる双丘は、同性である二年生たちが見ても息を呑むほどの質量と美しさを誇っている。
「……ねえ」
阿部が、悪戯っ子のように目を輝かせた。
「神品ちゃんと雨宮ちゃんにもさ、これから私たちが神の魔力をガンガン与え続けたら、どうなると思う?」
その言葉に、南原の計算回路がフル稼働する。
「……私たちの『魔王化現象』を当てはめるなら。神品さんは、この絶望的な幼児体型から、女としての魅力的な身体へと急成長を遂げる可能性がありますね」
「あの偽装パッドの山から解放されるわけですわね。それは彼女にとっても救いでしょう」
「じゃあ、雨宮ちゃんは?」
阿部が、すでに完成されすぎている千歳の豊満な身体を指差す。
「……この反則的なダイナマイトボディが、さらに魅力的になる……? いえ、これ以上の質量は逆に日常生活や戦闘に支障が出るレベルですわ」
高橋がゴクリと生唾を飲む。
「だとしたら、肉体ではなく『精神』に影響が出るかもしれません。あのオドオド、ビクビクした子羊のような性格が、魔力の影響で魔王のように……絶対的なカリスマ性を持った女王様っぽく変貌するとか……」
「女王様になった雨宮ちゃん……想像できないけど、なんかヤバそうだね!」
「……いずれにせよ」
南原が、スヤスヤと眠る後輩たちを見つめながら、ポツリと呟いた。
「「「魔王(持子先輩)から受けた魔力って……凄まじくヤバいですね(わね、だね)」」」
偉大なる魔王の恩恵は、戦闘力だけでなく、乙女たちのプロポーションと未来をも劇的に変えようとしていた。
スノーの大浴場には、女子たちの艶やかな笑い声と、今後の成長への期待が、温かい湯気と共にいつまでも漂っていたのである。




