【古びたビルの地下迷宮と、一着百万の極薄スーツ(と、男女別・戦慄と羨望のフィッティングルーム)】
【古びたビルの地下迷宮と、一着百万の極薄スーツ(と、男女別・戦慄と羨望のフィッティングルーム)】
高田馬場の裏通り。
ネオンの喧騒から一本路地に入ったその場所には、ツタが不気味に絡まり、壁の塗装も剥げ落ちた、どう見ても廃墟一歩手前の古びた雑居ビルがひっそりと佇んでいた。
「えええっ!? 嘘でしょ……ここが、裏社会を統括するTIA(対異界防衛機関)の拠点の一つなの!?」
茶髪でイケメンの桐生蓮が、怪しすぎるビルの外観を見上げて素っ頓狂な声を上げた。
「押忍! なんというか……非常に歴史を感じる佇まいッスね!」
175センチ、120キロの巨漢である大文字鉄平も、目を白黒させながら周囲をキョロキョロと見渡す。
「静かにしなさい、一年生。ここはあくまでカモフラージュ。遠足に来たわけではありませんわ」
はしゃぐ後輩たちに、二年生の南原紗良が極寒のシベリアのような声で冷たく釘を刺す。
「へへっ、驚くのも無理ないッス。俺たちも最初は腰を抜かしたッスからね。ほら、こっちッス」
副主将の佐藤陽翔が先輩風を吹かせて得意げに笑い、薄暗いビルの一角にある、錆びついた業務用エレベーターのボタンを押した。
東京ダンジョンの深層ではなく、まずは地上の軽微な依頼から実戦経験を積むことになった一年生五人。しかし、相手が怪異である以上、一歩間違えれば命を落とす危険な戦いであることに変わりはない。
彼らの生存率を極限まで引き上げるための「装備」を整えるべく、合気武道部の面々はTIAの装備開発フロアへと足を運んでいた。
『プシュゥゥゥッ……!』
重厚な気密音と共にエレベーターの扉が開いた瞬間。
「「「「「うおおおおおっ!?」」」」」
一年生たちは一斉に目を丸くして感嘆の声を漏らした。
外の汚らしいボロビルからは想像もつかない。地下に広がっていたのは、白と黒を基調とした無機質で広大な、まるでSF映画の秘密基地のような最新鋭のフロアだった。
入り口はここ一つしかなく、奥には無数のモニターと、謎の機材がずらりと並んでいる。
「――いらっしゃい! 持子お姉ちゃんたちの後輩だね!」
トテテテッ、と少しヒールのある可愛らしい靴音を立てて、一人の少女が出迎えてくれた。
13歳になり、ほんの少し背伸びをし始めた『天才電脳少女』、風間高子だった。
以前のキッズラインの服とは違い、今日は大人っぽい秋の新作コーデに身を包んでいる。しかし、胸元や手首には自作のウェアラブルデバイスがチカチカと光っており、サイバー感が隠しきれていない。
「……コホン。今日の私のコーデ、どうかな? 流行りを完全解析して取り入れてみたんだけど!」
高子がクルッと回ってポーズを決め、大人ぶった視線を送る。
「な、なまら可愛い……っ! なにこの天使! 大人の色気まで出そうと頑張ってるのがたまらないッス!」
佐藤が胸を押さえて悶絶する。
「お疲れ様です。よく来てくださいましたね」
高子の後ろから、白衣に耐薬品加工のエプロンをつけた細身の青年が、穏やかな笑顔で歩み寄ってきた。
霊子素材錬成士の天城結人だ。彼は目に見えない魔力を実体化させる、素材開発のスペシャリストである。
「天城さん、今回も俺たちの装備、よろしくお願いしますッス!」
佐藤が深々と頭を下げる。
「ええ、お任せください。高子ちゃんがAIで設計したインナースーツの霊子コーティングは、私が完璧に仕上げておきました。……こちらです」
天城が手元のケースを開くと、中には黒く鈍い光沢を放つ極薄の布地が入っていた。
「これが、一着百万の勝負下着……!」
一年生たちが息を呑む。
「伸縮性と通気性はすっごく高くて、下着みたいに肌にピッタリくっつくの! 結人お兄ちゃんの魔力素材のおかげで、悪霊の『呪い』も自動で完璧に弾き返すわ!」
高子が胸を張って解説する。
「さあ、まずは身体にしっかりフィットするか、試着と採寸を——」
天城がそう言いかけた、その時だった。
『プシュッ』
フロアの奥にあるフィッティングルームの扉が開き、一人の女性が歩み出てきた。
「あ、みんな早いね。お疲れ様」
そこにいたのは、スレンダーな体躯に儚げなオーラを放つカルトシンガー――花園美羽だった。
しかし、一年生たちの、特に男子たちの視線は、彼女の「服装」に完全に釘付けになった。
彼女は今、出来上がったばかりの『一着百万の対怪異用インナースーツ』を試着し終わったところだったのだ。
アウターも何も羽織っていない、極薄の黒い布地一枚の姿。
伸縮性が極限まで高められたそのスーツは、美羽のスレンダーで無駄のない美しいプロポーションを、恐ろしいほどにピタリと浮き彫りにしていた。引き締まった腹筋のライン、しなやかな足の曲線、そして小ぶりながらも形の良い胸の起伏が、包み隠さず露わになっている。
ほとんど「全身タイツ」か「セクシーな最新鋭のランジェリー」にしか見えない、破壊力抜群の姿だった。
「ぶ、ぶふぉっ!?」
真っ先に致命傷を受けたのは、イケメン俳優志望の桐生蓮だった。
スレンダーな体型がどストライクな彼は、顔をトマトのように真っ赤にして鼻を押さえ、その場にガクンと膝をついた。
「(美羽先輩の……っ、無防備すぎる極薄スーツ姿……っ! スタイル良すぎだろ……っ! 目が……E級の視力がこんなところで限界突破してるぅぅっ!!)」
「お、押忍ゥゥゥッ!! じ、自分は! 何も見えていないであります!!」
大文字鉄平が顔から滝のように汗を流し、天井の一点を見つめて直立不動の姿勢をとる。
「め、目のやり場が……ッス!」
佐藤も慌てて視線を逸らそうとするが、ついついチラチラと美羽の美しいボディラインを見ては顔を赤くしている。
当の美羽は、顔を赤らめる男子たちを見ても、全く動じる様子がなかった。
「ん? どうしたの、みんな顔赤いよ? ……ああ、これ? すごく動きやすくて最高よ。本当に着てないみたい」
美羽はそう言って、コキッ、コキッと首を鳴らしながら、その場で軽くストレッチを始めた。しなやかな肢体が伸びるたびに、極薄のスーツが官能的に引き伸ばされる。
かつての過酷な忍術修行の中で、彼女は『羞恥心』という概念をとうの昔に地獄の底へ捨て去ってきていた。見られようが何だろうが、実戦で動きやすければそれでいいのだ。
「あはぁん♡ 美羽先輩、すっごくセクシーですぅ♡ でもでも、スタイルの良さならわたしだって負けてませんよぉ!」
一人だけ全く別のベクトルの対抗心を燃やしたのは、変身能力を持つ男の娘・桃井琉生だった。
その後、天城と高子の知的好奇心の犠牲(実験台)となり、筋肉増強から超絶爆乳化まで限界テストを繰り返された桃井のデータ採取が無事に終了する。
「よし! データは完璧だよ! じゃあみんな、男女別に分かれて試着と最終チェックをしよう!」
高子がパンッと手を叩いた。
「男子は右のフィッティングルーム! 女子は左ね! 結人お兄ちゃんは男子のチェックをお願い! 私は女子の方を見るから!」
「承知しました。では男子の皆さん、こちらへ」
天城に促され、二年生と一年生たちは、それぞれのフィッティングルームへと足を踏み入れた。
ここからが、彼らにとっての『真の試練』の始まりであった。
### 【男子フィッティングルーム:筋肉の狂宴と、迫り来る戦慄のホラー】
「うわっ……これ、本当に下着みたいに薄いッスね……」
男子更衣室。
渡された黒いスーツを手に、佐藤がゴクリと生唾を飲み込んだ。
「……着るぞ。モタモタするな」
主将の門蒼真が、一切の躊躇なく道着を脱ぎ捨て、屈強な肉体を晒してスーツへと袖を通した。
『シュルルルルッ……! ピタァァァァッ!!』
「おおっ……!?」
スーツは門の体に触れた瞬間、まるで意思を持つ液体のように全身へと吸い付き、筋肉の隆起に合わせてミリ単位で密着した。
「こ、これはすごいッス! 全然締め付け感がないのに、筋肉の動きが100パーセント伝わってくる!」
大文字もスーツを着込み、その驚異的なフィット感に雄叫びを上げた。
「……しかし、これ、めちゃくちゃ恥ずかしいッスね……」
佐藤も着用を終え、全身鏡の前に立って顔を赤らめた。
ごまかしが一切効かないのだ。筋肉の筋一つ、腹筋の割れ具合、果ては下半身のシルエットに至るまで、全てが露わになってしまう。まさに『全身タイツ』の極みである。
「フンッ!!」
バキィィィッ!!
門が鏡の前で、突如としてダブルバイセップス(両腕の力こぶを見せるポーズ)を決めた。
「おおおっ!! 門主将、見事な大胸筋と上腕二頭筋ッス!! このスーツ、筋肉のカットをこれでもかと際立たせる至高の逸品であります!!」
大文字が鼻息を荒くして賞賛し、自らもサイドチェスト(横向きで胸の筋肉を強調するポーズ)を決める。
「俺も剛体化でパンプアップさせるッス!! シュッ! シュッ!!」
「お前たち……ここは更衣室だぞ。だが、筋肉の動きの確認は重要だな」
「いや、確認のレベル超えてるッスよ! ただのボディビル大会になってるッス!」
佐藤がツッコミを入れるが、筋肉バカ二人のポージングは止まらない。
そんなむさ苦しい熱気の中、部屋の隅で一人、ガタガタと震えている男がいた。
桐生蓮である。
「うぅっ……な、なんだよこれ……っ」
桐生は鏡に映る自分の姿を見て、泣きそうになっていた。
顔は誰もが振り返る超絶イケメン。しかし、この極薄スーツを着た彼の身体は、門や大文字のような隆起した筋肉などなく、佐藤のような引き締まった細マッチョですらない。
ただの、ひょろひょろの『もやし』であった。
「……桐生」
ズシン、ズシン。
門と大文字が、鬼のような形相で桐生の背後に立った。
「ひぃっ!?」
「細すぎる。なんだその頼りない腹筋は。俺たち合気武道部の看板を背負う男が、そんな小枝のような身体でどうする」
門が低い声で威圧する。
「押忍!! 桐生、お前はまず肉をつけろッス!! プロテインを一日五杯飲んで、限界まで追い込むッスよ!! その細さじゃ、スーツの霊子コーティングが泣いてるッス!!」
大文字が桐生の細い肩をバンバンと叩く。
「い、痛い痛い痛いっ!! 僕は俳優志望なんだよぉっ! ゴリマッチョになったら役の幅が狭まるだろぉぉっ!」
桐生が涙目で抗議するが、筋肉の信奉者たちには全く通じない。
「あはぁん♡ 大丈夫ですよぉ、桐生くぅん。筋肉がなくても、わたしが優しーく愛してあげますからぁ♡」
『ヌルゥゥゥッ……』
突如、背後から生温かい声が響いた。
振り返ると、そこには170センチのスレンダーな身体に黒い極薄スーツを纏った桃井琉生が立っていた。
しかし、その表情が、完全に常軌を逸していた。
桃井の視線は、桐生ではなく、その奥で引き締まった肉体を晒している『佐藤陽翔』に完全にロックオンされていたのだ。
「ハァ……ハァ……ッ♡ さ、佐藤センパイぃぃ……♡ そのスーツ、センパイの素敵なお尻のラインが……筋肉のピクピク動く様子が……全部、ぜぇんぶ丸見えじゃないですかぁ……♡」
「っ!?」
佐藤の全身の毛穴が、恐怖で一気に全開になった。
桃井の目が、ヤバい。
文字通り『ハートマーク』が浮かんでいるレベルではなく、獲物を絶対に逃さない深海魚のような、光を完全に失った真っ黒で粘着質な瞳。
「あぁっ……♡ センパイのそこ、触ってもいいですかぁ? いえ、触りますぅ……♡ スリスリして、もっと大きくしてあげますぅ……♡」
ズルリ、ズルリと、桃井がゾンビのような足取りで佐藤へと這い寄ってくる。
薄暗い更衣室の中で、それは完全にパニックホラー映画のワンシーンであった。
「く、来るなぁぁぁぁっ!!」
佐藤が悲鳴を上げて後ずさる。
「お前のその目、マジでヤバいッス!! 完全にイッちゃってるッス!! ホラーだ! リアルホラーゲームの化け物ッス!! 誰か助けてくれぇぇっ!!」
「佐藤センパイぃぃ……逃げないでぇぇ……♡ 一つになりましょうよぉぉ……♡」
「ギャアアアアアアッ!! 天城さぁぁぁん!! 早くチェックしてくれッス!! 俺の貞操が物理的に食われるぅぅぅッ!!」
「ええ、魔力回路の同期は正常ですね。……佐藤さん、逃げる速度と筋肉の収縮率のデータもバッチリ取れていますよ」
天城は助けるどころか、タブレットを構えて「素晴らしいホラーチェイスのデータだ」と保護眼鏡を光らせながらメモを取り続けていた。
男子更衣室は、筋肉の宴と絶望のホラーチェイスが入り交じる、地獄の空間と化していた。
### 【女子フィッティングルーム:完璧なプロポーションと、隠された真実(着痩せ)】
一方、女子更衣室。
「きゃああああっ!! やだ、これ恥ずかしすぎるっ!!」
阿部凛花の悲鳴が、部屋の中に響き渡った。
「落ち着きなさい、凛花。ただのスーツですわ」
高橋玲央がため息をつきながらたしなめるが、阿部は顔を真っ赤にして自身の身体を両腕で必死に隠そうとしていた。
『シュルルルッ……ピチィッ!!』
180センチの長身。現役のトップモデルとして世界を舞台に活躍し始めた阿部の肉体は、一年前のギャル時代とは比べ物にならないほど美しさに磨きがかかっていた。
無駄な脂肪が一切ない引き締まったウエストから、豊かに張り出した胸元。そして長くしなやかな足のライン。それらすべてが、極薄のブラックスーツによって一寸の狂いもなく浮き彫りにされている。
「だ、だって! これ本当に何も着てないのと同じじゃない! 胸の形も、お尻の形も、全部クッキリ出ちゃってるよぉっ!」
阿部が涙目でしゃがみ込む。
「仕方ありませんわ。精神防壁を張るには、肌への密着度が命なのですから」
そう言う高橋玲央自身も、スーツ姿であった。
彼女は女優として常に人に見られることを意識しているため、恥じらいよりも『美しく見せる』ことに重きを置いていた。背筋をピンと伸ばし、凛とした姿勢を保つその姿は、まさに『完璧なバランス』。一切の破綻がない、黄金比を体現したような見事なプロポーションであった。
「……私の止まっていた成長期が再開されたようですね」
さらに鏡の前で、タブレットを持ちながら冷静に己の身体を分析しているのは南原紗良だ。
圧倒的な童顔で、かつては「ツルペタ」と一部の愛好家から呼ばれていた彼女だったが、一年が経過し、その身体には確かな女性らしい丸みが帯び始めていた。スーツが張り付く胸元や腰回りは、明らかに以前よりもスタイルが良くなっており、知的で小悪魔的な魅力を放っている。
「う、うおおおお……っ!!」
その三人の二年生の先輩たちの極薄スーツ姿を、部屋の隅から血走った目で見つめている人物がいた。
神品蘭である。
彼女の能力は電気発生だが、今の彼女の目からは物理的な静電気ではなく、強烈な『百合的な熱情』がバチバチと放たれていた。
「(が、眼福……っ!! まさに眼福ですぅぅっ!!)」
神品は両手で口を覆い、荒い息を吐きながら妄想の世界へと旅立っていた。
「(お姉さま(凛花)の、あの神々しいまでのプロポーション……っ! スーツ越しでも分かるあの柔らかさ……! そして高橋先輩の芸術的なバランス、南原先輩の成長した色気……! ここは天国ですか!? 女の園の極致ですか!?)」
神品は鼻血を出しそうになりながら、ふと、鏡に映る『自分の姿』に視線を移した。
「…………」
ズーン。
神品の背後に、真っ黒な絶望のオーラが立ち込めた。
身長160センチ。少女体型。
極薄のスーツを着ているというのに、胸元には見事なまでに『起伏』が存在しなかった。ストン、と真っ直ぐに落ちるそのラインは、まるで小学生のスクール水着のようである。
「(……なんで。なんで僕だけ、こんなに……ぺったんこなんだ……っ)」
神品はガクッと膝から崩れ落ち、床を両手で叩いた。
「(こんな子供みたいな身体じゃ、お姉さまの隣に並び立つ資格なんてないっ……! お姉さまのあの豊満な胸に抱きついた時、僕の貧相な胸じゃ弾き返されてしまうぅぅっ! 神様は不公平だぁぁっ!!)」
天国から一転、完全な地獄へと突き落とされて凹みまくる神品。
「神品さん、何を一人で百面相しているのですか。早く数値を安定させなさい」
南原が呆れたようにツッコミを入れる。
「……あのぉ。私も、着替えました……」
その時。
フィッティングルームのカーテンの奥から、オドオドとした声が響き、一人の少女が姿を現した。
ポニーテールに分厚い丸眼鏡。いつもはダボッとした制服やジャージを着て、猫背で怯えている一般科の雨宮千歳である。
彼女が、恐る恐る極薄のブラックスーツ姿を晒した瞬間。
「「「「——えっ?」」」」
阿部、高橋、南原、そして凹んでいた神品の四人の動きが、ピタリと静止した。
『ブルンッ……!』
千歳が一歩前に踏み出した瞬間、黒いスーツに包まれた『それ』が、重力に逆らうように豊かに揺れたのだ。
身長165センチ。普段は目立たないが、極薄スーツによって露わになったその肉体は——驚くべきことに、阿部凛花に勝るとも劣らない、いや、ある部分においてはそれを凌駕するほどの『超絶・曲線美』であった。
細くくびれたウエスト。そこから暴力的なまでに張り出した豊かな胸と、女性特有の柔らかく大きな骨盤のライン。
彼女は典型的な『着痩せするタイプ』だったのだ。ダボッとした服で隠されていただけで、その下には、男なら誰もが目を奪われるであろう、極上の女性らしい体型が隠されていたのである。
「あ、雨宮ちゃん……っ!?」
阿部が目を限界まで見開き、千歳の胸元を指差した。
「な、なにそのスタイル!? 普段どこに隠してたの!? めちゃくちゃ大きいじゃない!!」
「えっ!? あ、いや、その……っ」
千歳は顔を真っ赤にして、両腕で必死に自身の胸を隠そうとするが、その腕の圧力によってさらに胸の谷間が強調され、黒いスーツがはち切れんばかりに引っ張られる。
「こ、これは計算外ですわ……っ」
高橋が扇子を落としそうになりながら、愕然と呟く。
「あれだけ猫背で怯えていたのに、これほどの質量を隠し持っていたとは……。まさに『能ある鷹は爪を隠す』、いえ、『隠れ巨乳』というやつですわね……!」
「……私のデータにもありませんでした。骨格と脂肪のつき方が、奇跡的なバランスを保っています。憎たらしいほどに完璧な女性のシルエットです」
南原がギリッと歯を噛み締め、タブレットを持つ手に力が入る。
「うわぁぁぁん!! なんで雨宮までそんなにスタイルいいのぉぉっ!! 僕だけ、僕だけ仲間外れじゃないですかぁぁっ!!」
神品が完全に心が折れて、床をゴロゴロと転げ回り始めた。
女子更衣室の空気は、千歳の想定外のプロポーションによって、一気に『激しすぎる女子トーク』へと移行した。
「ねえねえ雨宮ちゃん! なに食べてるの!? 毎日牛乳飲んでる!? それともお肉!?」
阿部が千歳に詰め寄り、興味津々で質問攻めにする。
「ひぃっ! 特には何も……普通にご飯を食べてるだけで……っ!」
「胸の形を保つための特別なマッサージや、大胸筋のトレーニングをしているのかしら!? 答えなさい!」
高橋まで目を輝かせて迫ってくる。
「してませんっ! なにもしてないですぅぅっ!」
「嘘です。遺伝子レベルでの解析が必要ですね。ちょっと触らせてください」
南原が真顔で千歳の胸に手を伸ばす。
「きゃあああっ! 南原先輩、ダメですぅぅっ!!」
「お姉さまぁっ! 僕の胸も揉んで大きくしてくださいよぉぉっ!」
神品が阿部にしがみついて泣き叫ぶ。
「わー! 女子の波長が乱れまくってる! オペレーションシステムがエラー吐きそうだよー!」
フィッティングルームの端で端末を操作していた高子が、パニックを起こす女子たちのカオスな感情データに頭を抱えていた。
極薄の一着百万のスーツは、怪異から身を守るだけでなく、思春期の男女の隠された真実と欲望を暴き出す、恐ろしいアイテムでもあった。
筋肉の狂宴とホラーチェイスが繰り広げられる男子陣と、着痩せ巨乳の発覚で女子トークが爆発する女子陣。
TIAの地下装備開発フロアは、彼らの若さと熱気によって、かつてないほどの騒がしさに包まれていた。




