【夜明けの格技場と、五人の深刻なる沈黙】
【夜明けの格技場と、五人の深刻なる沈黙】
「……というわけで、昨夜のうちに雪社長から、一年生の育成方針に関する正式な通達が下りたッス」
午前五時。私立聖ミカエル学園の片隅に佇む合気武道部の専用道場。
まだ太陽の光すら届かない薄暗い空間の中で、副主将の佐藤陽翔は、自身のスマートフォンに表示された電子書類を掲げながら、重々しい口調で告げた。
いつもの早朝であれば、この時間は鉛入りの重い木刀を千回振り下ろし、道場が揺れるほどの受け身を千回叩きつける地獄の朝練が始まっているはずだった。
しかし今日に限っては、五人の二年生たちは道着姿のまま、道場の中央に置かれた長机を囲んでパイプ椅子に腰掛けていた。
午前七時になれば、あの強烈極まりない一年生五人が一斉にこの道場の引き戸を開けてやってくる。
それまでの二時間、彼らに課せられたのは、肉体を苛め抜く稽古ではなく、脳髄を極限まで酷使する「緊急育成戦略会議」であった。
「地上の軽微な依頼をこなさせ、現場での実戦経験を積ませる……」
主将の門蒼真が、腕を組んだまま、岩のような巨体を微動だにさせず瞑目した。
「雪社長の判断は合理的だ。あいつらを今すぐ東京ダンジョンの深層に連れて行けば、アモン戦のような極限状態を前に一瞬で精神を破壊される。だが、地上任務をこなさせるにしても、まずは俺たち二年生が個別に指導し、最低限の能力の底上げとコントロールを教え込まねばならん」
「問題は、そこですわね」
高橋玲央が、新しい眼鏡のブリッジを人差し指で美しく押し上げながら、深いため息を漏らした。
「あの子たちの能力の偏りとアクの強さは、裏社会の一般的な常識すら超越していますわ。誰が誰を教え、導くのか。それを今ここで決定しなければ、七時からの合同朝練で道場が物理的にも精神的にも崩壊いたしますわよ」
「ええ。すでにTIAと各クランから共有されている、一年生五人の最新の能力データをここに提示します」
南原紗良が、手元のタブレットを操作してホログラムの画面を長机の上に展開した。
ピキィン、と電子音が響き、青白い光の中に五人の顔写真と詳細なステータスが浮かび上がる。
#### 【聖ミカエル学園・合気武道部新入生 能力個別データ】
* **桃井琉生**:変身能力C級(自身の身長・体重の範囲内という厳重な制限あり)および魔力による肉体強化。
* **神品蘭**:電気発生D級(現状の最大出力は家庭用家電を過負荷で破壊する程度)。
* **桐生蓮**:超人的な動体視力および広域遠視のE級。
* **大文字鉄平**:自己の骨格および筋肉を鋼鉄化させる「剛体化」のC級能力。
* **雨宮千歳**:念力、結界、霊視、短距離テレポート等の多種多様な高密度異能を持つB級。ただし本人の精神性が極度のビビリ。
画面を見つめる五人の間に、どっと重苦しい沈黙が流れ込んだ。
怪異の王座の間を徒手空拳で制圧したはずの修羅たちが、データシートを見ただけで冷や汗を流している。
「……改めて見ても、偏りすぎっスよねぇ」
佐藤がポリポリと頬を掻きながら苦笑いした。
「雨宮のB級っていう数字はぶっちゃけ俺たちの覚醒当初より上だと思うし、多種多様な能力のデパート状態っスけど、いかんせん本人が小鹿みたいにプルプル震えてるっスからね。大文字の剛体とか桃井の身体強化は前衛としては申し分ないっスけど、とにかく全員のシステムがバラバラすぎるっス」
「まずは、最も話の早いところから決めていきましょう」
南原がホログラムの画面を一つタップした。
「一般科の大文字鉄平くん。彼は能力者C級で、純粋な肉体強化と合気武道の親和性が最も高い人物です。門主将、どうされますか?」
「ああ、大文字は俺が担当する」
門が間髪入れずに太い声を響かせ、力強く頷いた。
「あいつの『もっと強い奴と戦いたい』という愚直なまでの武道バカ精神、嫌いではない。それに、あいつはすでに俺の技の理合と筋肉の構造に心底惚れ込んでおり、犬のように懐いているからな。肉体派同士、拳と拳、筋肉と筋肉の対話で導くのが最も効率が良い。異論はないな」
「うわぁ、ブレないッスね主将……。あの暑苦しい大文字を完璧に手懐けてるの、世界中で門くらいっスよ」
佐藤が呆れ顔でサムズアップを送ると、門は腕を組んだまま不敵に微動だにしなかった。
大文字の筋肉脳の計算式は門主将のそれと完全に一致しており、ここは満場一致の最適解であった。
### 【第二の議題:暴走する百鬼夜行と、電気の理不尽】
「では次です。芸能科の神品蘭さん。彼女は能力者D級で電気発生ですが、最大の問題は能力ではなくその精神性……いえ、阿部さんに対する異常なまでの狂信的執着です」
南原がそう告げた瞬間、長身の美少女、阿部凛花の肩がビクゥッ!と激しく跳ね上がった。
「ひ、ひえぇぇぇ……っ! 神品ちゃんはダメ! ダメだよぉ!」
阿部は180センチの完璧なプロポーションを縮こまらせるようにして、ブンブンと猛烈な勢いで首を横に振った。
「あの子、朝練の時だって『お姉さまの温もりぃぃぃ!』って私の胸にダイブしてきて、顔をぐりぐり押し付けて勝手に昇天しかけてるんだよ!? 私がちょっとでも指導しようとしたら、鼻血出しながらバチバチ静電気を放って、私の道着を焦がしそうになるの! 怖い! 純粋に物理的にも精神的にも距離感が近すぎて怖いの!」
「ですが阿部さん、神品さんはあなたを崇拝しているのですから、あなたの言うことなら最も素直に聞くのではないですか?」
南原が理詰めのジト目を向けるが、阿部は涙目でパイプ椅子の背もたれにのけぞった。
「聞かない! 聞くわけないでしょ! あ、あれは指導を仰ぐ目じゃないの、獲物をねっとり舐め回す肉食獣の目なのよ! それにさぁ! 私、大体『電気』の発生のメカニズムなんて1ミリも分かんないよ! 私は持子様を信仰する美しきモデルであって、発電機じゃないんだから! 百合でもないし!!」
「『百合じゃない』の主張のキレが凄まじいっスね、凛花……」
佐藤が苦笑いしながら口を挟んだ。
「でも、ぶっちゃけ凛花の言う通りでもあるっスよ。俺たち二年生は持子先輩の理不尽な魔力で覚醒したから、お互いの魔力の流れはなんとなく感覚で分かるっスけど、神品ちゃんの電気の流し方なんて、俺たちの合気の感覚じゃ絶対に論理的な指導ができないっス」
「……確かに。異質のエネルギーを感覚派の阿部さんに丸投げするのは、教育方針として非効率的の極みですわね」
高橋が顎に手を当てて冷静に分析する。
「神品くんの電気は、感情の高ぶりによって暴発するシステムのようですわ。であれば、まずは彼女の精神的な出力を論理的にコントロールさせる必要があります。……南原さん、あなたの冷徹な頭脳で、仮の担当として彼女の魔力構築を理詰めで監視して差し上げたらどうかしら?」
「私ですか?」
南原は僅かに眉をひそめたが、手元のタブレットを高速でタップしながら小さな息を吐いた。
「……致し方ありませんね。電気の発生効率と、感情の波形による電圧の変動率。数式化して管理する分には、私の脳細胞の計算式の範疇です。阿部さんが神品さんに襲われて道場が全損するリスクを避けるためにも、私が『仮の担当』として、彼女の導火線を理詰めで制御しましょう」
「紗良ちゃん、命の恩人! 大好き!」
阿部が女神のような笑顔で南原に抱きつこうとしたが、南原は「(エロに振り切ったノリは指導対象です)」とノートで冷酷に阿部の額を小突いた。
「よし、異論なし。神品は南原、お前が手綱を握れ」
門が重々しく頷き、主将としての決定を下した。
### 【第三の議題:貞操の危機と、舞台裏の女優】
「さて、ここからが本番です。芸能科の桃井琉生くん。身体強化と変身能力。……佐藤くん、あなたの出番です」
南原の視線が、さらに不穏な輝きを帯びた。
ガタガタガタガタ!!!
その瞬間、佐藤の全身が凄まじい擬音を立てて震え出した。彼はパイプ椅子ごと後ろに下がり、自身の腰とお尻を両手で必死にガードしながら叫んだ。
「嫌だッス!! 絶対に嫌だッス!! 死んでも拒絶するッスよぉぉぉ!!」
「何をそこまで見苦しく取り乱しているのですか、副主将」
南原の冷徹な声。
「取り乱すに決まってるだろっス!! あいつ、変身能力持ちの男の娘のくせに、俺のお尻をねっとり舐め回すように見て、『先輩のお尻を見てたら立っちゃいました♡』とか真顔で言ってくる本物の変態っスよ!?
朝練の時なんて、背後から音もなく忍び寄ってきて『愛情表現の演舞しましょう♡』ってガッチリホールドしてきたんスからね!?
肉体的な勝負で俺が負けるわけないっスけど、問題は『心がやられる』の!!
あんな絶世の美少女の見た目をした男の娘に、毎日毎日熱っぽい視線で迫られ続けたら、俺の健全な男子高校生としての精神が内側からガガガッと削られて、修復不可能なレベルで完全崩壊するっスよ!!
頼むから俺のメンタルを労わってくれっス!」
佐藤の悲痛極まる魂の叫びが道場に響き渡る。門は腕を組んだまま、呆れたようにため息をついた。
「お前のあの極まった受け身と危機回避の体捌きがあれば容易く捌けるはずだが……。精神ダメージは別問題か」
その時、すっと美しい白魚のような手が上がった。
「――それなら、多分私が担当するのが最適解だと思いますわ」
声の主は、高橋玲央だった。完璧主義の女優は、眼鏡の位置を直し、凛とした所作で五人を見渡した。
「玲央ちゃんが、桃井を……っスか?」
佐藤が希望の光を見出すように、潤んだ目で高橋を見つめる。
「ええ。桃井くんの能力は『変身』。他者や異なる姿を模倣し、演じる技術の本質ですわ。そして私の本業は『女優』。
これまでに数え切れないほどの役柄を演じ、人間の骨格の動きから表情の機微、その舞台裏の心理コントロールまでを完璧に統制してきました。
桃井くんの変身に伴う肉体の違和感や、演技としての身のこなしの癖を見抜き、論理的にアドバイスするにあたって、私の女優としての演技と彼の変身能力は、これ以上ないほど相性が良い(マッチしている)はずですわ。
完璧な舞台には、完璧な指導者が必要。あのアクの強い桃井くんを、私の演技論の檻の中で美しく飼い慣らして見せますわ」
「玲央……っ!」
門が、自身の恋人でもある高橋のあまりにも完璧で気高い提案に、深く感銘を受けたように目を輝かせた。
「素晴らしい。玲央の演技指導なら、桃井の変身に伴う癖や精神のブレも完全に統御できるはずだ。佐藤、お前の防衛線もこれで守られたな。桃井の担当は高橋で決定だ。異論はない」
「玲央さま〜! ありがとう!一生ついていくっス!!」
佐藤は長机に額を擦り付けんばかりの勢いで五体投地した。
### 【第四の議題:神速のアタッカーと、最凶のビビリ】
「これで、残る一年生は二人。桐生蓮くんと、雨宮千歳さんですね」
南原がホログラムの画面を操作し、残る二人のデータを中央に配置した。
「桐生蓮か……。あいつ、南原の幼馴染のイケメン俳優志望のくせに、武道に関しては本当にビックリするくらい弱いっスからね。朝練の時も、十五回の腕立てで子鹿みたいにプルプル震えて突っ伏してたっス」
佐藤が思い出すように言うと、南原が「ハァ」と深い、深い、ため息をついた。
「桐生くんの能力はE級の『目がいい(超動体視力・遠視)』だけです。本人の筋力と魔力量が圧倒的に不足しているため、せっかくの視覚情報を肉体が処理しきれずに自滅しています。……これに関しては、私が教えるのは個人的な感情が最大のノイズになりますので、却下します」
「あはは、紗良ちゃん、桐生くん相手だと毒舌のキレが倍増するもんね!」
阿部がゲラゲラと笑いながら手を挙げた。
「じゃあさ、桐生くんは私が担当するのはどうかな?」
「凛花が、桐生を……っスか?」
「うん! 桐生くんの長所は『圧倒的な目の良さ』でしょ? でも、自分から攻撃を仕掛ける筋力がない。
だったらさ、圧倒的なスピードとリーチで戦場を引っかき回す、私みたいな『アタッカー』の動きを後ろから見せるのが一番だと思うんだよね!
桐生くんの目で私の魔力の流れや神速の入り身の軌道を見切らせて、それに自分の肉体を合わせる訓練をすれば、彼の『目の良さ』と私のアタッカーとしての能力の相乗効果で、絶対に戦闘センスが跳ね上がると思うの!」
「……なるほど」
門が深く頷いた。
「阿部のダイナミックな体捌きは、動体視力を鍛える教科書としては最適だ。桐生自身も芸能科のトップモデルである阿部の上質なオーラなら、素直にその動きを目に焼き付けるだろう。非常に理にかなっている。桐生の担当は阿部、これで決定だ」
「決まりね! 桐生くん、私のランウェイ(戦場)を特等席で見せてあげるからねー!」
阿部がドヤ顔でサムズアップを決める。
「……ということは、最後に残った『雨宮千歳』さんの担当は――」
南原の冷徹な視線が、ゆっくりと佐藤陽翔へと向けられた。
ピキィン、と雨宮千歳 の顔写真がホログラムの中心で明滅する。
「佐藤くん。あなたしかいませんね」
南原が淡々と告げた。
「ええっ!? 俺っスか!? 嫌だっスよ、俺は可愛い女の子とイチャイチャしたいだけで、あのガタガタ震えてる雨宮の相手は――」
「文句を言わないでください」
南原の言葉は、シベリアの永久凍土よりも冷たかった。
「雨宮千歳さんは、能力者B級という規格外のポテンシャルを秘めながら、念力、結界、霊視、果ては短距離テレポートまで扱う、多種多様な高密度異能の塊です。しかし、本人が極度のビビリが故に、魔力と感情の出力が全く噛み合わず、無自覚に力の暴発を引き起こしている。
――この、制御不能な『多種多様な能力の暴走』を導けるのは、我が部において、あなた以外の適任者は存在しないのです。
あなたは、あの『極黒の魔王・恋問持子』から分け与えられた無限に近い魔力を、ただの身体強化だけでなく、『闇の霧の手』や索敵の糸など、状況に応じて極めて器用に、かつ『多種多様な魔力の扱い方』に変形させて戦場をコントロールしています。
理屈ではなく、感覚と戦術の柔軟性において、あなたの右に出る者はいません。
雨宮さんのバラバラな能力の引き出しを、あなたの多種多様な魔力操作の応用力で一つずつ受け止め、制御のコツを感覚的に教え込む。――この二人の組み合わせこそが、雪社長の言う『個人の素質に応じたクランへの個別対応』の極致です」
「……」
佐藤はホログラムの中の、度の強い丸眼鏡をかけてオドオドと怯えている雨宮千歳の写真を見つめた。
朝練の時、彼女が必死になって百回の腕立てをやり切り、俺たちの回復の魔力をスポンジのように吸収して「まだやれます!」と健気に立ち上がった時の、あの直向きな瞳が脳裏をよぎる。
「……はぁぁぁぁ。分かったっスよ」
佐藤は頭を後ろにのけぞらせ、盛大なため息をついた。
「あいつ、力が暴発するとめちゃくちゃな衝撃波を放ってくるっスからね。でもまぁ、俺の極黒の魔力の防壁ならそよ風みたいに無効化できるし、あいつのビビリな性格を、俺のこの溢れんばかりの包容力と爽やかな笑顔で、優しく癒してあげるっスかねぇ」
「後半のセリフに下心が滲み出ていて嫌悪感を禁じ得ませんが、担当決定ということでよろしいですね。門主将」
南原が虚空をスワイプし、緊急会議の全データを確定させた。
門は力強く腕を組み、重厚な威厳を放ちながら長机を叩いた。
「よし、異論なし。雨宮の担当は佐藤だ。これで一年生全員の指導方針が固まったな。この組み合わせで、新章の育成カリキュラムへと移行する!」
#### 【合気武道部・一年生指導担当一覧(確定)】
* **大文字鉄平** ―― 担当:**門蒼真**(肉体派・筋肉の同調)
* **神品蘭** ―― 担当:**南原紗良**(仮・電気波形の理詰めの制御)
* **桃井琉生** ―― 担当:**高橋玲央**(女優の演技論と変身の融合)
* **桐生蓮** ―― 担当:**阿部凛花**(神速アタッカーの軌道見切り)
* **雨宮千歳** ―― 担当:**佐藤陽翔**(多種多様な魔力操作による暴発抑制)
「よし……! これですべての配置が完了いたしましたわね!」
高橋がパンッと扇子を叩き、大きく息を吐き出した。
その瞬間、長机を囲んでいた五人の身体から、一斉に「どぉぉぉっ……」という、凄まじい疲労のオーラが黒い靄となって立ち昇った。
時計の針は、午前六時五十五分を指している。
正確な二時間の激論、飛び交う無数のボケとツッコミ、貞操の危機を巡る攻防、開示された世界観と緻密な能力分析の応酬。
「……はぁ。マジで、アモン戦の後の祝勝会より、一億倍くらい脳みそが疲れたっスよ……」
佐藤が長机に完全に突っ伏し、泥のように溶けている。
「同感ですわ。通常の地獄の稽古をこなしている方が、どれほど肉体的に楽だったか分かりませんわね……っ」
高橋も眼鏡を外して目元を両手で押さえ、完璧主義の仮面を完全に崩して疲弊していた。
「門主将と大文字くんの筋肉同盟が一瞬で決まった前半に比べ、後半のエネルギー消費量が異常でしたね。私の脳内計算式がオーバーヒート寸前です」
南原もタブレットを放り出し、パイプ椅子に深く沈み込んでいる。
「ふぅー……。でも、これで七時からの合同朝練は、完璧に後輩たちを迎え撃てるね!」
阿部が腕を伸ばして背伸びをするが、その顔にも隠しきれない疲労の色が滲んでいた。
主将の門すらも、岩のような肉体を僅かに丸め、「ああ……。稽古よりも、人を導く方針を決める方が、遥かに重労働だな……」と、深く、深くため息をついた。
ガララララッ!!!
その時、道場の重い木製の引き戸が、凄まじい勢いで開き、朝焼けの眩しい光が場内に差し込んできた。
「おはようございますッスーーー!!! 門主将、自分、今日も一番乗りであります!! 押忍ッ!!!」
地響きのような大声を上げて突撃してきたのは、道着を完璧に着こなした大文字鉄平だった。
「お姉さまぁぁぁ! おはようございますぅ! 今日の蘭ちゃんも、お姉さまのために男を徹底的に排除する準備は万端ですぅ!」
その後ろから、バチバチと微弱な静電気を放ちながら、阿部を目がけて目をトロンとさせた神品蘭が滑り込んでくる。
「さ・と・う・セ・ン・パ・イ♡ 会いたかったですぅ! 今日のわたし、先輩のお尻を攻め落とすために、すっぽんエキス増し増しで来ましたよぉ♡」
艶っぽい声を出しながら、早くも肉食獣の目で佐藤をロックオンする桃井琉生。
「紗良、おはよう。……あぁ、やっぱり朝の道場は僕の繊細な肌には刺激が強すぎるよ……」
プルプルと早くも小鹿のように震えながら入ってくる桐生蓮。
「ひ、ひぃぃぃっ!? せ、先輩たち、おはようございます……っ!」
一番後ろの陰から、丸眼鏡をガタガタと震わせながらオドオドと入ってくる雨宮千歳。
アクの強すぎる、五人の問題児たちの襲来。
長机に就いたままの二年生五人は、滝のような冷や汗を流しながら、互いに顔を見合い、そして、静かに覚悟を決めるように力強い視線を交わした。
一年生たちを守るため、そして何より自分たちの平和(と、佐藤のお尻の貞操)を守るため。
「――新生・合気武道部、合同朝練、始めッ!!!」
門の裂帛の気合いが道場に響き渡り、二年生たちの、真の「地獄の指導者」としての果てなき戦いが、今、ここに本物の幕を上げるのであった。




