表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
90/201

第90話 クロードとの対決

屋敷の裏にある訓練場は、陽光を浴びて銀白色に輝いていた。


クロードは無造作に立っている。


だが、その右腕はすでに細長い湾刀へと変形していた。


「来い」


アーガは深く息を吸い、赤いカードを一枚抜き取る。


「赤の一――《火》!」


灼熱の炎が手のひらから噴き出した。


炎は空中で長い蛇のような形を作り、クロードへ襲いかかる。


しかし、クロードは避けようともしなかった。


左腕が突然変形し、無数の金属刃を重ね合わせた盾となる。


炎が盾へ激突した。


轟音とともに火花が四方へ飛び散る。


「遅すぎる」


その声は、突然アーガの背後から聞こえた。


「《尖刃突き》!」


アーガは勢いよく振り返った。


クロードの右脚が、鋭く尖った長刀へ変わっている。


すでに刃先は、目前まで迫っていた。


アーガは慌てて黄色のカードを抜き取る。


「黄色のヒグマ!」


両腕の筋肉が一瞬で膨張した。


アーガは腕を交差させ、正面から刃を受け止める。


――ガァン!


重い金属音が訓練場へ響き渡った。


攻撃そのものは防いだ。


だが、凄まじい衝撃までは殺し切れない。


アーガの身体が数メートルも後方へ滑り、砂利の地面に二本の深い溝を刻んだ。


「力は悪くない」


クロードは淡々と評価した。


その間にも、身体が再び変形していく。


背中が大きく隆起し、脊椎から鋭い骨が皮膚を突き破った。


やがて、背中へ禍々しい骨刃の列が形成される。


「だが、力任せでは俺には勝てない」


言葉が終わるのと同時に、背中の骨刃が一斉に外側へ開いた。


クロードがわずかに前傾姿勢を取る。


次の瞬間。


足元の砂利が左右へ弾け飛んだ。


クロードの姿が、アーガの視界から消える。


アーガは即座に黄色のヒグマを解除し、後方へ飛び退いた。


直後。


先ほどまで立っていた場所を、三本の骨刃が薙ぎ払う。


地面には、長さ半メートルを超える深い亀裂が刻まれた。


(速い!)


アーガが着地するよりも早く、クロードは右側へ回り込んでいた。


湾刀へ変化した腕が、腰を狙って横薙ぎに振るわれる。


「っ!」


アーガは身体を大きく後ろへ反らした。


刃は衣服を切り裂き、腹部へ浅い血の筋を残して通り過ぎる。


クロードは追撃しなかった。


その場に立ち、軽く手首を回す。


「一年前よりは、ずいぶん反応が速くなった」


クロードは口元を歪めた。


「それでも、まだ遅い」


「だったら――」


アーガは一枚のカードを地面へ押しつけた。


「お前の方を遅くする!」


赤色の魔力紋様が、手のひらを中心として周囲へ広がっていく。


「赤の三《草》!」


地面が激しく揺れた。


次の瞬間、数十本もの太い蔓が土を突き破って現れる。


蔓は別々の方向から、クロードの両脚へ絡みついた。


成長速度は凄まじい。


瞬く間に腰まで這い上がり、正面へ回り込んだ数本が両腕まで縛り上げる。


アーガは蔓が完全に締まるのを待たなかった。


即座に緑色のカードを抜き取る。


「緑の一《穿刺》!」


緑色の魔力が右腕へ集中した。


圧縮された力が、長さ二メートル近い鋭利な杭を作り出す。


アーガは地面を蹴った。


狙うのは、クロードの胸。


だが、拘束されたはずのクロードには、焦りの色がまったくなかった。


彼は身体へ巻きついた蔓を一度見下ろす。


緑色の杭が胸へ届く、その寸前。


クロードの全身から、無数の細かな刃が飛び出した。


絡みついていた蔓が、一瞬で数十個の断片へ切り刻まれる。


クロードは身体を横へずらし、杭を回避した。


そのままアーガの手首をつかみ、勢いを利用して目の前へ引き寄せる。


「相手が本当に動けないのか、確認もせずに飛び込む」


クロードが冷たく笑う。


「あまりいい癖じゃないな」


膝が変形した。


鋭い刀錐となり、アーガの腹部へ突き上げられる。


アーガは即座に黄色のヒグマを発動した。


強化された両腕を交差させ、身体の前へ構える。


――ドゴン!


鈍く重い衝突音が響いた。


アーガの身体が、地面を削りながら後方へ押し戻される。


両腕には、二本の深い傷が刻まれていた。


鮮血が指先を伝い、地面へ滴り落ちる。


アーガは歯を食いしばり、どうにか踏みとどまった。


すぐに青いカードを取り出し、胸へ押し当てる。


「青の一《治癒体》」


淡い青色の光がカードから広がった。


光は両腕を通り、全身へ流れ込んでいく。


傷口の周囲にある筋肉が、わずかに蠢いた。


流れ出していた血も、すぐに止まる。


「傷そのものは、すぐには治らないのか?」


クロードが眉を上げた。


「これで十分だ」


アーガは青の一《治癒体》を戻す。


続いて、赤の五《氷》を空中へ放り投げた。


カードを中心に、凄まじい冷気が爆発する。


白い霜が空中へ広がった。


クロードの足元が瞬く間に凍りつく。


氷は急速に厚みを増し、両脚を地面へ完全に固定した。


アーガは右手で赤の一《火》を強く握った。


炎が手のひらから腕へ、さらに肩まで絡みついていく。


しかし、アーガはクロードへ向かって突進しなかった。


代わりに、正面の氷へ炎を叩きつける。


灼熱の炎と極寒の氷が激突した。


「――ッ!」


大量の白い蒸気が一気に噴き上がる。


濃密な白煙が広がり、訓練場の中央を完全に覆い隠した。


クロードは視界を奪われたまま、氷の中に立っている。


それでも、すぐに足元の氷を壊そうとはしなかった。


目を閉じ、静かに耳を澄ます。


数秒後。


クロードの右腕が、突然背後へ振るわれた。


湾刀が白い蒸気を切り裂く。


その刃は、背後から迫っていた緑色の杭を正確に受け止めた。


二つの力が衝突し、耳障りな摩擦音を立てる。


「気配はうまく隠したな」


クロードが振り返った。


「だが、足音を消す技術はまだまだだ」


左肩の皮膚が、突然裂ける。


内側から細長い骨の棘が飛び出し、アーガの顔へ向かって射出された。


アーガは頭を横へ傾ける。


辛うじて直撃は避けたものの、棘が頬をかすめ、一本の血の筋を残した。


直後。


クロードの足元を固めていた氷が、轟音とともに砕け散る。


クロードは身体を回転させ、その勢いのままアーガの胸を蹴りつけた。


アーガは両腕を構え、正面から受け止める。


それでも、圧倒的な力までは防ぎ切れない。


身体が宙を舞った。


地面を何度も転がり、訓練場の端にある石壁へ背中から激突する。


壁全体が震え、積もっていた埃が大量に落ちてきた。


「ぐっ……」


アーガは石壁にもたれ、地面へ座り込んだ。


胸の奥から、鈍い痛みが広がっている。


黄色のヒグマで身体を強化していたにもかかわらず、肋骨には亀裂が入ったらしい。


息をするたび、胸の傷が鋭く痛んだ。


「まだまだ未熟だな」


クロードは首を横に振った。


アーガは顔を上げた。


クロードは、最初から今まで余裕を失っていない。


その姿を見たアーガが、突然笑い始めた。


「……何がおかしい?」


アーガは膝へ手をつき、ゆっくりと立ち上がる。


口元から流れた血を拭った。


その顔には、どこか奇妙な笑みが浮かんでいる。


「お前の言うとおりだ」


「カードを一枚ずつ使っていたら、遅すぎる」


クロードが目を細めた。


アーガは腰へ手のひらを当てる。


体内の魔力が、瞬時に同じ場所へ集中した。


異なる色の光が腰から左右へ伸びていき、徐々に一本の黒い魔力ベルトを形作る。


ベルトの中央には、四つのカードスロットが横一列に並んでいた。


さらに左右には、それぞれ一つずつ独立したスロットがある。


表面に余計な装飾はない。


細い魔力の紋様が、六つのスロットすべてをつないでいた。


まるで、本来は別々に存在する六つの魔力回路を、無理やり一つへ組み上げたかのようだった。


「……何だ?」


クロードが、初めてはっきりと驚きを表した。


「そんな物を使うところは、今まで見たことがないぞ」


「当然だ」


アーガは答えた。


「俺も、最近ようやく完成させたばかりだからな」


アーガは四枚のカードを指の間へ挟み、腰の中央に並ぶスロットへ目を落とす。


「ずっと前から気づいていた」


「数字札一枚が持つ力は弱い。けれど、異なる四種類のカードを同じ回路へ入れれば――」


「それぞれに欠けている部分を、互いの力で補える」


アーガは一枚目のカードを差し込んだ。


「赤の一――《火》」


二枚目。


「黄色の一――《ヒグマ》」


三枚目。


「青の一――《治癒体》」


そして、最後のカード。


「緑の一――《穿刺》」


四枚目のカードが差し込まれた瞬間。


中央のスロットが、同時に強烈な光を放った。


赤、黄、青、緑。


四種類の魔力が、ベルト表面の細い紋様を高速で流れていく。


別々だった力が、中央で完全につながった。


重く、濃密な魔力がアーガの足元から立ち上った。


最初に赤い装甲片が腰と胸へ集まり、形を作る。


装甲は肩、両腕、両脚へ向かって急速に広がっていった。


だが、その鎧は身体を完全に覆い隠す物ではなかった。


半透明の魔力が、身体の表面を包み込んでいる。


流動する赤い光によって編み上げられた外殻。


甲冑の輪郭を持ちながらも、薄い魔力の奥には、衣服や鍛えられた筋肉の形がかすかに透けて見えた。


まるで、燃え続ける光の幕を全身へまとっているかのようだった。


半透明の装甲の内側では、真紅の紋様が炎のように流れ続けている。


両肩と腕の装甲は、ほかの部分よりも厚く形成されていた。


それでも、内部を流れる魔力の輝きは失われていない。


胸部の中央には、脈打つ青色の光が浮かび上がった。


透明な結晶の中へ、心臓を封じ込めたかのようだった。


両手の甲と、脛の外側からは、緑色の鋭利な装甲刃が伸びている。


刃の縁には冷たい光が宿っていた。


圧縮された魔力によって作られた刃は、透明な光と実体の間を揺れ動くように明滅している。


アーガは拳を強く握り締めた。


四種類の力が、同時に体内を巡っている。


《火》が爆発力を生み出す。


《ヒグマ》が肉体を強化する。


《治癒体》が、強大な魔力によって傷つく身体を絶えず修復する。


そして《穿刺》が、外へ放出されるすべての力を一点へ圧縮していた。


「これが、俺の考えた数字札の新しい使い方だ」


アーガは顔を上げた。


半透明の赤い装甲の奥で、その瞳が鋭く輝く。


「融合変身――」


魔力が爆発し、訓練場全体が激しく震えた。


「《炎熱形態・一一一号》!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ