表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
56/208

第 56 話 兄弟対決

リサはすぐに人脈を使い、午前中にノエルたちの試合を見ていた生徒を二人見つけ出した。


二人はアーガとリサの姿を見ると、興奮した様子で駆け寄ってきた。


「リサ先輩! アーガ先輩! こんなに近くでお会いできるなんて思いませんでした!」


ポニーテールの女子生徒が、弾んだ声を上げる。


「ぼ、僕は一年生のユノです。お会いできて光栄です」


小柄な男子生徒も、緊張しながら自己紹介した。


リサはすぐに本題へ入った。


「午前中、ノエルの試合を見たんですよね?」


「見ました!」


ポニーテールの女子生徒が何度もうなずく。


「すごく見応えがありました! ノエル先輩たちは、たった二分で勝ったんです!」


アーガとリサは視線を交わした。


リサがさらに尋ねる。


「あのフーカという人は、どのようなカードを使っていましたか?」


ユノは興奮したまま、両手を使って説明した。


「試合が始まってすぐに、二人ともカードの力を使ったんです!」


「紫色の線が現れて、フーカ先輩と対戦相手の一人がつながりました。ノエル先輩の身体からも同じ線が伸びて、もう一人の相手とつながっていました!」


「紫色の線?」


アーガが眉をひそめる。


「そうなんです!」


今度はポニーテールの女子生徒が話を引き継いだ。


「でも不思議なことに、フーカ先輩本人は、特別強いようには見えませんでした」


「確か四年生の中でも、順位はほとんど最下位だったはずです。試合でも、目立った攻撃はしていませんでした」


「なのに対戦相手が……急に弱くなったみたいに、実力をまったく発揮できなくなったんです」


リサは考えるようにうなずいた。


「分かりました。ありがとうございます」


「あの……」


ユノが突然、顔を赤くして両手を擦り合わせた。


「先輩方と、あ、握手してもらってもいいですか?」


アーガとリサは顔を見合わせ、笑いながら手を差し出した。


二人の後輩は、手を震わせるほど興奮していた。


「絶対に試合を見に行きます! 頑張ってください!」


二人が遠ざかると、アーガはリサへ尋ねた。


「何の能力か分かった?」


リサの深青色の瞳に、鋭い光が宿っていた。


「大体は分かりました。別に大した能力ではありません」


「三級カードの《共有魔法》です」


アーガも納得したように言葉を続ける。


「なるほど。あれか」


「自分の体力と魔力を、相手と共有する能力だ」


「フーカ自身は四年生の下位だから、つながれた相手の体力と魔力も、無理やりフーカに近い水準まで引き下げられる」


「強い相手を、自分と同じ泥沼まで引きずり下ろすようなものだな」


「ただ、二対二の試合では、それほど強い能力でもないでしょう」


リサが何気なく言った。


「そうだね。確か、第三者が紫色の線を切ることもできたはずだ」


リサは眉を寄せる。


「では、ノエルの魔法は?」


「ノエルは分身魔法だよ」


アーガは答えた。


「自分とまったく同じ姿の分身を作れる」


リサは少し考え、二人の戦術を組み立てた。


「つまり、ノエルが前方で分身を使って混乱させるか、直接攻撃して相手の注意を引きつける」


「その間、フーカは後ろへ隠れ、相手が気を取られた瞬間に《共有魔法》を使う」


「一度つながれてしまえば、相手はまともに戦えなくなるということですね」


アーガはうなずいた。


「二人の能力は、かなり相性がいい」


「一人が撹乱して、もう一人が隙を突く」


リサは軽く鼻を鳴らした。


顔を動かすと、金色の馬尾が後ろで小さく揺れる。


「それでも、問題ありません」


「能力が分かった以上、対策は簡単です」


「試合が始まったら、私が真っ先にフーカへ向かいます。あなたはノエルの分身を相手にしてください」


「フーカに《共有魔法》を使う隙さえ与えなければ、あの二人は何もできません」


アーガは笑った。


「それでいこう」


二人は対戦表の前へ並んで立っていた。


陽光が掲示板の下へ影を落とし、二人の影はすぐ近くで重なっている。


遠くから、次の試合が始まる笛の音が聞こえた。


見物していた生徒たちから、再び大きな歓声が上がる。


二人の試合も、もう間もなくだった。


————


午後の闘技場は、立つ場所すらないほど大勢の観客で埋め尽くされていた。


金色の陽光が中央闘技台へ降り注ぎ、木製の床を輝かせている。


耳を震わせるほどの歓声の中、アーガとリサはゆっくりと闘技台へ入った。


反対側からは、ノエルとフーカも同時に姿を現す。


観客席には、見覚えのある人物が何人もいた。


ミロ・ホークは最前列へ陣取り、太い腕を柵へ載せていた。


戦士クラスの訓練着は、鍛えられた筋肉によって張り詰めている。


反対側では、マールー・ホルトが一段高い席へ座り、長い脚を組んでいた。


その隣には、先ほど話を聞かせてくれた一年生のユノもいる。


「ただいま入場したのは――」


審判の声が拡声魔法によって会場全体へ響き渡った。


「これまで何度も『王都日報』の一面を飾り、学年首席の座を維持するアーガ・ラインハルト!」


「そして、騎士団長を務めるベルマン家の令嬢にして、学年二位のリサ・ベルマン!」


「二人の組は、『金色の剣刃』!」


審判は、反対側へ手を向けた。


「対するは、本大会最大の伏兵!」


「フーカ・クライストとノエル・ラインハルトによる、『影の双子』!」


観客席から、地面を揺らすような歓声が上がった。


「フーカって、四年生で二百位より下だったよな? ノエルも四、五十位くらいだろ?」


「それで十三組まで残ったから、最大の伏兵なんだよ」


「アーガ先輩! リサ先輩! 頑張ってください!」


ユノも周囲の声に混じり、興奮した様子で叫んでいた。


アーガは、無数の熱い視線が自分へ集まっていることを感じた。


憧れ。


期待。


そして疑い。


一度深く息を吸い、腰につけたカードケースの位置を整える。


今日のノエルは、漆黒の戦闘服を着ていた。


胸元につけられた銀製の家紋が、陽光を受けて冷たく光っている。


彼はアーガを激しく睨みつけていた。


その瞳には、執念に近い炎が燃えている。


「アーガ・ラインハルト。俺は全力でお前を倒す」


興奮によって、声がわずかに震えていた。


「優勝するのは俺だ!」


アーガは兄を静かに見返した。


「本当に、そこまで俺が気に入らないの?」


ノエルは冷たく鼻を鳴らし、答えなかった。


その隣に立つフーカ――細身で陰気な顔立ちの貴族の青年が、ノエルの肩を軽く叩いた。


「俺を失望させるなよ」


その声には、耳にまとわりつくような不快な滑らかさがあった。


リサは落ち着いた声でアーガへ告げる。


「アーガ。予定どおりに」


「うん」


「試合――開始!」


審判の声が響いた瞬間、最初に動いたのはノエルだった。


足元の影が揺れ、身体が鏡に映った像のようにぶれた。


次の瞬間、五つの同じ人影がノエルの隣から分裂する。


本体を含め、六人のノエルが異なる方向へ同時に散開した。


全員が短剣を握っている。


銀白色の刃が陽光を反射し、どれが本物なのか簡単には見分けられなかった。


観客席から驚きの声が上がる。


「六人だと!?」


「あれが分身魔法か!」


アーガは後退しなかった。


右手をカードケースへ置く。


掌の奥から、慣れ親しんだ温もりがすぐに目を覚ました。


(先にフーカを潰す)


試合前から決めていた戦術だった。


リサの方が、一歩早く飛び出した。


爪先で床を蹴り、金色の影となって一直線に駆ける。


細剣を抜くと同時に、淡緑色の魔力が剣身を覆った。


細かな葉が刃の上へ幾重にも広がり、最後には薄く鋭い葉の刃を形成する。


ノエルの分身三体が、すぐに側面から襲いかかった。


短剣が、それぞれリサの肩、脇腹、膝の裏を狙う。


攻撃の角度は鋭く、速度も決して遅くない。


単に相手を脅かすための幻影ではなかった。


「邪魔です」


リサは冷たく言い放ち、細剣を横へ薙いだ。


葉の刃が空気を切り裂き、淡緑色の弧を描く。


最前方の分身が剣を受け、身体を霧のように揺らした。


しかし、すぐには消えない。


短剣を使い、無理やりリサの細剣を受け止めた。


その隙に、残る二体が両側から接近する。


短剣が、眩い光を反射した。


「防御魔法」


アーガが手を上げる。


淡白色の光盾が、リサの左側へ展開された。


ガキン! ガキン!


二本の短剣が、ほとんど同時に光盾へぶつかった。


耳障りな金属音が響く。


リサはその隙に一歩踏み込み、細剣の先端をフーカへ向けた。


フーカは慌てなかった。


ノエルの半歩後ろへ立ったまま、右手の二本の指を軽く持ち上げる。


指先から、一筋の紫色の線が垂れ下がった。


「来るぞ!」


アーガが鋭く声を上げる。


リサは即座に身体を横へずらした。


紫色の線が耳のすぐそばを通り、闘技台の床へ触れる。


ジュッ、と小さな音がした。


線が触れた木板には、傷一つ残っていない。


だが、人間へ触れれば話は別だった。


一撃を外したフーカは、手首を返した。


床へ落ちた紫色の線が、突然生き物のように跳ね上がり、リサの足首へ絡みつこうとする。


同時に、ノエルの分身二体が背後から迫った。


リサを紫色の線が待つ方向へ押し戻そうとしている。


二人の連携は悪くなかった。


ノエルへの対応だけに集中すれば、《共有魔法》へ捕まる。


紫色の線だけを避けようとすれば、背後から短剣で追い詰められる。


だが、彼らの相手は普通の生徒ではなかった。


「蔓」


リサが左手を床へ向けた。


闘技台の木板の隙間から、数本の緑色の蔓が勢いよく伸びる。


縄のように分身二体の足首へ絡みついた。


分身の動きが止まる。


リサは身体をひねり、細剣を逆方向へ振り抜いた。


葉の刃が、二体の胸元を横一文字に切り裂く。


パンッ! パンッ!


分身は二体とも黒い霧となって弾け、空気の中へ消えていった。


同時に、アーガも動き出していた。


「加速魔法」


足の動きが一気に速くなる。


左右の刀を前後にずらして抜き、刃先を床すれすれへ走らせた。


二本の銀色の軌跡が描かれる。


残ったノエルたちが、一斉に飛びかかった。


短剣が交差し、逃げ道を塞ぐ網を作る。


アーガは正面から突っ込まなかった。


左手の刀で最初の短剣を跳ね上げ、右手の刀を横へ振って二体目の分身を後退させる。


続いて掌に、青白い光が浮かんだ。


「磁力魔法」


低い振動音が響く。


六本の短剣が、同時にわずかに軌道を変えた。


分身が持つ短剣は魔力によって作られているため、ほとんど動かない。


しかしその中の一本だけが、明らかに強く引かれた。


握る手から半分ほど浮き、刃先がアーガの掌へ向かって傾く。


(見つけた)


アーガの目が鋭くなる。


足へもう一度力を込めた。


分身を追うことなく、短剣が最も大きく動いたノエルへ一直線に突進する。


ノエルの顔色が変わった。


すぐに二体の分身を前へ出し、盾として立ちはだからせる。


しかしアーガは、すでに左手を上げていた。


掌の上へ、複数の魔力弾が形成される。


「飛弾魔法!」


魔力弾が唸りを上げ、扇状に飛び出した。


二体の分身が正面から攻撃を受け、身体を激しく揺らす。


アーガは爆発した魔力の煙を突き抜けた。


右手の刀を、ノエルの肩へ振り下ろす。


ノエルは歯を食いしばり、短剣を持ち上げた。


ガキン!


刀と短剣が正面からぶつかる。


ノエルの身体が半歩後退し、靴底が床へ短い跡を残した。


「お前――」


言葉を口にしたときには、すでにアーガの二撃目が迫っていた。


ノエルは慌てて身体を横へそらす。


刃が襟元をかすめ、黒い戦闘服へ一本の切れ目を刻んだ。


観客席から、大きな歓声が爆発する。


「完全に押してるぞ!」


「さすがアーガとリサだ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ