第 52 話 二刀と細剣
リサの表情が、明らかにほっとしたものへ変わった。
しかしそのとき、以前彼女へ話しかけてきた貴族の少年、トールが近づいてきた。
「リサ嬢」
彼は礼儀正しい笑みを浮かべた。
「もう相棒は決まりましたか? 私は最近かなり腕を上げました。よろしければ、私と――」
「お断りします」
リサは最後まで聞かずに言葉を遮った。
トールはアーガを見たあと、諦めきれない様子で尋ねる。
「学年八位の私に、何かご不満でもあるのですか?」
「弱すぎます」
リサは考える素振りすら見せなかった。
「あなたとは組みたくありません」
トールの表情が、たちまち固まった。
その場で数秒間立ち尽くしたあと、肩を落として壁際まで歩き、しゃがみ込んだ。
リサは得意そうにアーガの腕をつつく。
「見ましたか? ほかの人に誘われても、私は断ったんです」
アーガが答えるより先に、教室の入口から再び慌ただしい足音が聞こえてきた。
戦士クラスの訓練着を着たミロが、勢いよく教室へ飛び込んでくる。
額の汗すら、まだ拭いていなかった。
「アーガ!」
アーガの前まで来ると、その肩を力強く叩いた。
「二人一組の大会について聞いたか?」
「今、先生から説明されたところだよ」
「それなら、俺と組まないか?」
ミロは腕を持ち上げ、以前より明らかに逞しくなった筋肉を見せつけた。
「今の俺は、学年五十位だぞ」
アーガは気まずそうに頭をかいた。
「もう相棒が決まってるんだ」
「誰だ?」
アーガは隣にいるリサを指さした。
ミロはリサを見て、それからアーガへ視線を戻す。
顔に浮かんだ驚きを、まったく隠そうとしていなかった。
「お前たち二人が?」
ミロはアーガを少し離れた場所へ引っ張り、声を低くした。
「前はずっと仲が悪かっただろ? どうして今は隣の席に座って、それどころか一緒に組むことになってるんだ?」
アーガは苦笑した。
「話すと少し長くなる」
ミロは振り返り、自分たちをじっと見ているリサを確認した。
賢明にも、それ以上は尋ねなかった。
「分かった。それじゃ、頑張れよ」
朗らかにアーガの背中を叩くと、教室を出ていった。
アーガは席へ戻り、先ほどのリサを真似て得意そうに顎を上げた。
「見ただろ? 俺も人気があるんだ」
リサは一瞬呆気に取られた。
直後、教科書をつかんでアーガへ振り下ろす。
アーガは予想していたため、すぐに席の横へ逃げた。
リサは彼を追いかけ、何列もの机の間を走り回る。
その様子に、近くの生徒たちが次々と振り返った。
————
午後、二人は一緒に教師の執務室を訪れ、参加登録を行った。
受付を担当する教師は、顔を上げずに尋ねる。
「名前は?」
「アーガ・ラインハルト」
「リサ・ベルマン」
羽根ペンが、羊皮紙の上を数回走った。
「組の名前は?」
二人は同時に黙り込んだ。
アーガは少し考えた。
「『臨時組』でいいんじゃない?」
リサは即座に肘で彼を小突いた。
「格好悪すぎます」
彼女は教師の手から直接羽根ペンを取り、用紙へ四文字を書き込んだ。
『金色の剣刃』
「待って。まだ同意してないけど」
「反対は認めません」
リサは羽根ペンを机へ戻し、そのまま出口へ向かった。
「それから、私の名前を先に書くべきです」
アーガは仕方なく、そのあとを追った。
登録を終えると、二人はそのまま訓練場へ向かった。
アーガは武器棚から二本の木刀を取り、左右の手で一本ずつ握った。
そのまま、二刀の構えを取る。
リサは少し離れた場所へ寄りかかり、しばらく彼の動きを眺めていた。
「もう半年も二刀を練習していますよね」
「一体、何という流派なんですか? 父が集めた剣術書にも、そのような動きはありませんでした」
アーガはしばらく黙った。
最後には、正直に答える。
「実は、流派なんてない」
「では、なぜ二刀を練習しているんですか?」
「格好いいと思ったから」
リサは片手で額を押さえた。
「馬鹿ですね」
そう口にしながらも、口元はわずかに緩んでいた。
リサは訓練用の細剣を抜いた。
「少し練習したら、戻って休みましょう。明日は試合です。体力を使い切らないでください」
「分かってる」
間もなく、訓練場へ木製武器のぶつかる音が響き始めた。
アーガの二刀は、まだ十分に使いこなせていない。
右手に集中すると左手を忘れ、左手を動かせば右手の守りが遅れる。
リサは遠慮することなく、一つ一つの問題を指摘した。
二人は夕陽が沈むまで練習を続け、それぞれの寮へ戻った。
————
翌朝。
学院の中央広場は、すでに大勢の生徒で埋め尽くされていた。
広場の中央には、巨大な円形闘技台が臨時に設置されている。
周囲には階段状の観客席が何段にもわたって伸び、最上段には学院の教師や貴族の来賓が観戦するための天幕まで用意されていた。
アーガとリサは試合開始の一時間前に選手区域へ到着し、闘技台に近い席へ腰を下ろした。
アーガは周囲を見回す。
「学院も今回は、かなり金をかけたみたいだな」
リサは懐中時計を取り出した。
「私たちの出番までは、あと四十分あります。ほかの試合を見ておきましょう」
闘技台では、すでに二組が準備を始めていた。
一方は、同じ青い制服を着た双子の姉妹。
もう一方は、背の高い剣士と、小柄で太った魔法使いの組だった。
審判は双方の準備が整ったことを確認し、手にした旗を掲げる。
「始め!」
双子の姉妹は同時にカードを取り出した。
その動きは、ほとんど完全に一致している。
一枚の水の幕が、素早く二人の前へ広がった。
陽光が流れる水を通り抜け、闘技台の上へ何本もの虹色の光を落とす。
背の高い剣士は足を止めなかった。
長剣の表面に炎が燃え上がる。
正面から水の幕へ突進し、一振りで切り裂いた。
大量の水蒸気が瞬時に立ち上り、闘技台の半分を覆い隠す。
姉妹の注意が剣士へ集中した瞬間。
小柄な魔法使いが仲間の背後から姿を現し、カードを地面へ叩きつけた。
鋭い石の突起が、次々と闘技台の下から突き出す。
双子の一人は間一髪で飛び退いた。
しかし、もう一人はズボンの裾を石に切り裂かれ、脚へ細い血の跡が残った。
「お姉ちゃん!」
もう一人の少女が、すぐに魔法を放った。
地面から何本もの細い縄が伸び、小柄な魔法使いの両脚へ素早く絡みつく。
そのまま引っ張られ、彼は大きく体勢を崩した。
観客席にいる三年生たちから、たちまち歓声が上がる。
闘技台では攻防が目まぐるしく入れ替わり、どちらも明確な優勢を得られずにいた。
アーガは四人の連携を真剣に観察している。
リサも先ほどまでの気軽な表情を消していた。
間もなく、二人の出番が訪れる。
そのとき、背の高い剣士は仲間が拘束されたことに気づき、すぐに振り返って助けに向かった。
しかし双子の姉妹は、すでに体勢を立て直していた。
背中を合わせ、同時に水属性の魔法を発動する。
二本の水流が空中で激突し、急速に回転する渦を作り出した。
剣士が近づいた途端、正面から押し寄せた水流によって何歩も後退させられる。
水飛沫が辺りへ広がり、飛び散った水は闘技台の端を越えて、最前列の観客たちの服まで濡らした。
観客席から笑い声が上がる。
「三年生の二人も、かなり強いな」
アーガは闘技台を見ながら言った。
小柄な魔法使いは今も、俯いて縄を振りほどこうとしている。
対する双子の姉妹は、戦えば戦うほど動きが滑らかになっていった。
言葉を交わす必要すらない。
互いの動きを見るだけで、次に何をするべきか理解している。
水の渦はさらに大きくなり、すでに闘技台の半分を覆っていた。
背の高い剣士の足取りも、次第に乱れていく。
このままでは、場外へ押し出されるだろう。
リサは小さくうなずいた。
「一人ずつなら、四年生より強いとは限りません」
「ですが二人の連携は見事です。攻撃するときにも、ほとんど迷いがありません」
そのとき、小柄な魔法使いがようやく足元の縄を引きちぎった。
彼はすぐに反撃しようとはしなかった。
両手を持ち上げ、残っている魔力をすべて掌へ集める。
次の瞬間。
眩い白光が、闘技台の中央で突然炸裂した。
双子の姉妹は完全に不意を突かれ、同時に目を閉じた。
手元の水魔法も制御を失う。
回転していた水流が激しく弾け、大量の水となって闘技台全体へ降り注いだ。
強い光が消えたときには、状況は完全に逆転していた。
背の高い剣士の長剣が、姉の首元へ突きつけられている。
小柄な魔法使いの杖も、妹の背中へ押し当てられていた。
「試合終了!」
審判が、すぐに旗を掲げた。
「四年生組の勝利!」
観客席から大きな拍手が響いた。
四年生の生徒たちは立ち上がって歓声を上げる。
双子の姉妹を応援していた三年生たちは残念そうにしていたが、相手の鮮やかな勝利を認めるしかなかった。
「やっぱり経験の差だな」
アーガは言った。
「無理に水流を破ろうとしなかった」
「姉妹が大きな術式へ魔力を集中させるのを待ってから、強い光で中断させたんだ。完璧なタイミングだった」
リサは小さく鼻を鳴らした。
「私たちの出番になったら、本当の連携というものを見せてあげましょう」
彼女がそう言った直後、拡声術式から次の試合を知らせる声が響いた。
「四年A組、アーガ・ラインハルト、リサ・ベルマン組――『金色の剣刃』」
「ならびに三年D組、マーチ・ホルト、シリン・ウェスリー組は、準備を始めてください」
「試合開始は十分後です」
アーガは立ち上がり、手首を軽く動かした。
訓練用の二本の刀は、すでに腰へ下げてある。
身体を動かすたび、鞘同士が小さくぶつかった。
リサも立ち上がり、金色の馬尾を改めて固く結び直す。
「行こう」
アーガが言った。
「ええ」
リサは闘技台を見つめた。
口元には、はっきりと自信に満ちた笑みが浮かんでいる。
「まずは初戦を勝ち取ります」




