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第41話 雨の中の監視塔

雨脚は、先ほどよりもさらに強くなっていた。


馬の蹄が泥道を踏むたび、大きな水しぶきが上がる。


道の両側に並ぶ木々は雨の幕に覆われ、少し離れるだけで輪郭すら見えなくなっていた。


「ヴィエンは昨日、何か言っていましたか?」


ラスティが尋ねた。


「故郷へ帰るのも悪くないって、それだけ」


「本心には聞こえませんね」


「俺もそう思う」


二人は東へ続く道を進んだ。


間もなく分かれ道へ差しかかると、そこでウムの姿を見つけた。


彼はすでに馬から降り、泥道の脇へしゃがみ込んで痕跡を調べていた。


「東へ向かっている」


ウムは、雨によって少しずつ薄れている足跡を指した。


「一人だけだ。歩く速度も遅い。誰かに追われていた様子はない」


アーガも馬から降り、隣へしゃがんで足跡を確認した。


痕跡は屋敷の方角から東側の分かれ道まで続いており、途中で立ち止まった形跡もほとんどない。


ヴィエンが自分の意思で出ていったことは間違いなかった。


「このまま追えますか?」


ラスティが尋ねる。


「追える。ただ、あと一時間も降り続けば、足跡はほとんど見えなくなる」


三人は時間を無駄にせず、すぐに分かれ道の先へ進んだ。


東へ進むほど、道の状態は悪くなっていく。


小石が敷かれていた道は徐々に泥道へ変わり、両側に広がっていた農地も、荒れた草地へ置き換わった。


馬を速く走らせることもできない。


雨によってできた穴へ脚を取られないよう、速度を落とすしかなかった。


道中、ウムは何度か馬から降り、足跡を確かめた。


ヴィエンは崩れた壁のそばで一度立ち止まり、倒木の近くでは進む方向を変えたらしい。


それでも、最終的には監視塔へ向かっていた。


昼近くになった頃。


ようやく遠方に、ぼんやりとした黒い影が見えてきた。


使われなくなった監視塔は、荒れた丘の最も高い場所に建っている。


塔の一部は崩れ落ち、外壁は枯れた蔓で覆われていた。


頂上の一角も欠けている。


壊れた部分から絶えず雨水が流れ、壁面には周囲よりも濃い色の筋が何本も残されていた。


「たぶん、中にいる」


アーガが言った。


三人は、監視塔まで数十歩の場所で馬を降りた。


塔の扉は、すでに壊れている。


片方は泥の上へ倒れ、もう片方は傾いたまま蝶番にぶら下がっていた。


アーガは入口へ近づき、外から差し込むわずかな光を頼りに内部をのぞいた。


塔の中は薄暗かった。


一人の人影が、隅で壁にもたれて座っている。


両脚を軽く曲げ、ずっとうつむいていた。


足音を聞いた瞬間、その身体が明らかに硬直する。


数秒経ってから、ゆっくりと顔を上げた。


アーガは一目で、その顔が誰なのか分かった。


「兄さん?」


ヴィエンの左目は腫れ上がっていた。


口元にも傷があり、唇の端が切れている。


上着は数か所破れ、衣服と髪は泥水にまみれていた。


立ち上がろうとしたようだが、片手を壁へついた途端、膝から力が抜けて再び崩れ落ちる。


アーガは急いで中へ入り、ヴィエンの前へしゃがんだ。


「誰にやられた?」


ヴィエンは、すぐには答えなかった。


塔の周囲を調べていたウムが、間もなく外から声をかける。


「近くに人はいない。足跡は多いが、連中が立ち去ってから、かなり時間が経っている」


ラスティも中へ入り、持っていた水袋をヴィエンへ差し出した。


「まず水を飲んでください」


ヴィエンは水袋を受け取り、ほんの一口だけ飲んだ。


水が傷口へ触れたのか、口元がわずかに引きつる。


「途中で、何人かに会った」


ようやく彼は口を開いた。


「金を出せと言われたんだ」


「持っていなかったのか?」


「少しだけ持っていた」


ヴィエンは擦りむいた自分の掌を見下ろした。


「でも、少なすぎると言われた」


「それで、こんなになるまで殴られたのか?」


ヴィエンは小さくうなずいた。


「逃げようとしたけど、逃げ切れなかった。荷物を持っていかれて、そのまま連中は去った」


アーガは、兄の傷を確認した。


大半は拳や蹴り、木の棒によるものだった。


刃物で切られた傷は見当たらず、命に関わる場所も傷ついていない。


見た目はひどいが、しばらく休めば治るだろう。


ラスティは薬粉と包帯を取り出し、アーガの隣へ置いた。


「まず掌に入り込んだ砂や小石を取り除いてください。私とウムは、周囲にまだ誰か残っていないか確認してきます」


彼女は、ヴィエンがなぜ家を出たのか尋ねようとはしなかった。


二人が外へ出ると、監視塔には兄弟だけが残った。


アーガはヴィエンの手を取り、清潔な布で傷口の周囲についた泥水を少しずつ拭き取っていく。


掌には小さな石がいくつか食い込んでいた。


少し触れただけで、ヴィエンの指が小さく縮こまる。


「少し我慢して」


「うん」


アーガは短剣の先を使い、小石を一つずつ取り出した。


そのあと傷口へ薬粉をかける。


処置をしている間、ヴィエンはずっとうつむいたまま、弟の顔を見ようとしなかった。


長い沈黙のあと、彼は突然口を開いた。


「家から逃げたかったわけじゃない」


「分かってる」


「父さんを助けたくないわけでもない」


「それなら、どうして一人でここまで来たの?」


ヴィエンはしばらく黙っていた。


塔の上部にある亀裂から雨水が落ち、少し離れた場所にある瓦礫へ当たっている。


外から吹き込む風によって、濡れた衣服が身体へ張りつき、寒さがさらに増した。


「昨日の夜、これから先のことをずっと考えていたんだ」


ヴィエンの声は低かった。


「鉱山へ行って、父さんを手伝いながら帳簿や労働者の管理をする。それから領地の騎士団に入る」


「この先もずっとフランに残り、時々近くで受けられる依頼をこなすことになるのかもしれない」


「別に、それが悪いとは思わない」


彼は一度言葉を止めた。


「でも、以前の俺は、そんな未来を考えていなかった」


アーガは何も言わず、続きを待った。


「俺は高等学院を受験して、王都の魔法協会に入りたかった」


ヴィエンは静かに話し続ける。


「できることなら、宮廷魔法師にも挑戦してみたかった」


「でも卒業したら、周りの全員が俺は家へ帰るべきだと考えている」


「父さんは直接言わなかった。だけど、家の状況を見れば分かる」


「俺は長男だ。俺が帰らなければ、誰かが自分の計画を諦めなければならない」


そこまで話すと、ヴィエンの指がゆっくりと握り締められた。


「時々、自分が一番上の子供じゃなければよかったのにって思う」


包帯を巻いていたアーガの手が、一瞬止まった。


ヴィエンはすぐに続けた。


「そんなことを考えるのは、自分勝手だと分かっている」


「父さんと母さんは、今まで俺を育ててくれた。なのに家が苦しくなった途端、俺は自分のことばかり考えている」


「それは自分勝手じゃない」


ヴィエンが顔を上げた。


アーガは包帯を掌へ巻きながら言った。


「家族を助けたいと思っているのも本当だし、自分の目標を諦めたくないのも本当だ」


「その二つは、別に矛盾しない」


「でも、家には金がない」


「それなら、みんなで方法を考えればいい」


「お前とノエルは、まだ学院に通っているだろ」


「俺たちだって、永遠に学院にいるわけじゃない」


アーガは包帯を結び終え、ヴィエンを見上げた。


「兄さんが俺より四歳年上だからって、何もかも最初に諦めなきゃいけないわけじゃない」


「高等学院へ行きたいなら受験すればいい。宮廷魔法師を目指したいなら、挑戦してみればいい」


「今は鉱山に人手が必要だから、半年か一年だけ帰って手伝ってもいい」


「でも、それだけで残りの人生を決める必要はないだろ」


ヴィエンは眉をひそめた。


「父さん一人では、長く持たない」


「だからこそ、今の状況そのものを変える方法を考えた方がいい」


アーガは答えた。


「兄さんが本当に宮廷魔法師になったり、魔法協会へ入ったりすれば、ラインハルト家に圧力をかける者も減るはずだ」


「ずっと鉱山へ残っても、今の状態を何年か長く維持できるだけだよ」


ヴィエンは答えなかった。


「それに、家には俺とノエルもいる」


アーガは続けた。


「俺たちが卒業すれば、同じように父さんを助けられる」


「兄さんが、自分だけしか何もできないと思う必要はない」


監視塔の中には、長い静寂が流れた。


ヴィエンは包帯を巻かれた自分の手を見下ろしている。


やがて、唇がわずかに動いた。


「でも、もう父さんに約束した」


「それなら、まずは帰って手伝えばいい」


「そのあとは?」


「来年、もう一度受験する」


アーガは当然のことのように言った。


「兄さんが一年遅れたくらいで、高等学院がなくなるわけじゃないだろ」


ヴィエンは一瞬、呆気に取られた。


それから、うつむいて笑い出す。


その動きによって口元の傷が引っ張られ、すぐに息を呑んだ。


「痛い……」


「笑えなんて言ってない」


アーガは残った薬を片づけ、ヴィエンへ手を差し出した。


「先に家へ帰ろう。母さんが、もう心配で倒れそうになってる」


ヴィエンはその手を握り、ゆっくりと立ち上がった。


両脚にはまだ力が入りにくいようだったが、幸い骨に異常はない。


入口まで歩いたところで、ヴィエンは突然足を止めた。


「アーガ」


「何?」


「ありがとう」


アーガは振り返り、兄の顔を見た。


「そういうことは、家へ帰ってから言って」


雨は来たときよりも弱くなっていた。


ラスティとウムは周囲に危険がないことを確認し、馬を塔の下まで連れてきた。


ヴィエンは負傷しており、一人では馬に乗れない。


そのため、ウムの後ろへ乗ることになった。


アーガとラスティは、それぞれ左右を進む。


帰り道では、誰も話さなかった。


厚く垂れ込めていた雲は、少しずつ薄くなっていく。


遠くの農地も、雨霧の中から再び姿を現し始めた。


フランを囲む低い城壁が視界へ入った頃には、雨は完全に止んでいた。


————


一行が屋敷へ近づくと、アイランが玄関の屋根の下から駆け出してきた。


馬が完全に止まるのを待つことすらせず、ヴィエンのそばへ駆け寄り、彼の膝へ手を伸ばした。


「その顔はどうしたの?」


ヴィエンは馬から降りた。


何でもないと答えようとしたが、その前に母親から強く抱き締められた。


「どうして一人で出ていったの?」


アイランの声には、すでに涙が混じっていた。


「何かあるなら、どうして私たちに話してくれなかったの? また誰かに攫われたのかと思ったのよ」


「ごめんなさい」


ヴィエンはその場へ立ち、しばらく母親に抱き締められていた。


やがて、小さな声で説明する。


「途中で金を奪おうとする連中に会っただけです。もう大丈夫ですから」


「これのどこが大丈夫なの?」


アイランは息子から身体を離した。


腫れ上がった目と、切れた口元を目にすると、再び涙を流した。


遅れてアルドリックが階段を下りてくる。


彼はすぐに叱責することはなかった。


まずヴィエンの身体を上から下まで確認し、命に関わる傷がないことを確かめる。


それから、低い声で言った。


「まず中へ入れ」


居間では、すぐに暖炉へ火が入れられた。


アイランはヴィエンを暖炉に最も近い椅子へ座らせ、顔の傷をもう一度丁寧に処置する。


アーガとノエルは、そのそばへ座っていた。


アルドリックだけは窓の前に立ち、最後まで何も口にしなかった。


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