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第40話 フランへの帰還

アーガはしばらくヴィエンを見つめたが、それ以上は尋ねなかった。


卒業祝賀会で交わした話は、今もはっきりと覚えている。


ヴィエンが故郷へ戻ることを選んだのは、勉強を続けたくないからではない。


ラインハルト家には、三人の子供を同時に進学させるだけの余裕がなくなっていたのだ。


ヴィエンは、ただ自分の希望を最後へ回しただけだった。


午後、馬車は宿場で短い休憩を取った。


再び出発し、空が暗くなり始めた頃、ようやく遠方にフランの時計塔が見えてきた。


馬車が屋敷の敷地へ入ると、アイランが使用人たちを連れて玄関前で待っていた。


車輪が止まるよりも早く、彼女は階段を足早に下りてくる。


「やっと帰ってきたのね」


ヴィエンが最初に馬車から飛び降りた。


まだしっかりと立つ前に、アイランに抱き締められる。


彼女は長男の顔を念入りに確かめたあと、アーガとノエルもそばへ引き寄せた。


一人ずつ、髪や肩へ手を触れていく。


「みんな背が伸びたわね」


アイランは言った。


「特にヴィエン。前に会ったときは、こんなに高くなかったでしょう?」


「母上、半年も会っていなかったわけではありませんよ」


「あなたたちは、いつまで経っても帰ってこないでしょう。半月でも半年でも、私にとっては同じよ」


アイランは三人の息子を連れ、屋敷の中へ歩いていった。


アーガが庭を通ったとき、厩舎の方角からラスティとウムが歩いてくるのが見えた。


「久しぶり」


アーガは二人へ手を振った。


ラスティはすでに二十代になり、以前よりも髪が少し伸びている。


身につけている軽鎧も、騎士団の正規団員に支給される制式装備へ変わっていた。


彼女は手を伸ばし、アーガの頭を押さえた。


「また地下城で怪我をしたそうですね?」


「もう治ったよ」


「会うたびに、それを言っていますね」


隣にいたウムが笑った。


「自分の足で帰ってこられただけでも立派なものだ。数日前、お前が翼竜に殺されかけたと聞いたラスティは、そのまま馬で王都へ行きそうになっていたぞ」


「そこまで大げさではありません」


ラスティが彼を睨んだ。


「でも、あのとき隊長のところへ休暇をもらいに行っていただろ?」


「黙ってください」


アーガもつられて笑った。


ヴィエンのことで少し重くなっていた気持ちも、いくらか軽くなっていく。


その日の夕食は、とても豪華だった。


アイランは、学院で食べられなかった分を一度に取り戻させようとするかのように、三人の皿へ次々と料理を載せた。


アルドリックは食卓の上座に座り、学院での生活についていくつか尋ねた。


やがて、ヴィエンへ卒業後の予定を話すよう促す。


「まずは鉱山へ行くつもりです」


ヴィエンが答えた。


「これまでは手紙で帳簿を見ただけなので、分からないことがたくさんあります。最初の半年は、父上について学びたいと思っています」


アルドリックの肉を切る手が、一瞬止まった。


「卒業したばかりだ。そこまで急ぐ必要はない」


「家にいても、特にすることはありませんから」


「お前は、進学試験を受けるつもりだったのではないか?」


ヴィエンはうつむき、スープを一口飲んだ。


「高等学院の試験は毎年あります。一年遅れても問題ありません」


アルドリックは数秒間、息子の顔を見つめた。


しかし、それ以上は問い詰めなかった。


「まずは、しばらく休め」


彼は言った。


「休暇が終わってから決めても遅くない」


アイランもうなずいた。


「帰ってきたばかりなのに、すぐ鉱山のことを考えなくてもいいでしょう。何日か家でゆっくりして、これからのことはそのあと考えなさい」


ヴィエンは笑顔で了承した。


その後、話題を自分の進階カードへ移す。


彼が選んだカードの名前は、「五月牡丹」だった。


主な能力は、花弁と植物の香りを操ること。


正面から戦うための威力には乏しいが、軽傷の治療や動物の鎮静に使える。


特定の植物の成長を促すことも可能だった。


「確かに、騎士向きではないな」


ノエルが言った。


「だから家庭教師になってもいいと言ったんだ」


ヴィエンは笑った。


「少なくとも、子供をあやしたり、庭の世話をしたりするには便利だろう?」


「自分で生活していけるなら、それでいい」


アルドリックが言った。


「必ずしも、家の決めた道を歩く必要はない」


ヴィエンは顔を上げ、父親を一度見た。


すぐに視線を落とす。


「分かっています」


夕食を終えたあと、アーガはすぐに自分の部屋へは戻らなかった。


倉庫から古い木剣を一本取り出し、一人で庭へ向かう。


数日前にリサから教わった動きは、今もはっきりと覚えていた。


足を急いで動かしすぎない。


剣を振る前に、肩を先に動かさない。


手首にも、常に力を入れすぎない。


アーガは木剣を身体の前へ構え、そのまま前方へ突き出した。


剣を引き戻し、立ち方を整え直す。


最初は比較的うまくできた。


しかし二度目には、重心がわずかにずれてしまう。


アーガは動きを止め、もう一度正しい姿勢を取った。


そのまま数十回繰り返す。


剣を握る掌が熱くなり、肩にも軽い痛みを感じ始めた。


「いつから、そんなに真面目に剣を練習するようになったんだ?」


背後から、ヴィエンの声がした。


アーガが振り返る。


ヴィエンは上着を羽織り、温かい水の入った杯を手にして、廊下の下に立っていた。


どうやら、しばらく前から見ていたらしい。


「剣術の授業を選んでから、ずっと練習してるよ」


「リサ・ベルマンが理由か?」


「どうして彼女が関係するんだ?」


ヴィエンは笑った。


「自分が一番よく分かっているだろう?」


アーガは説明する気をなくし、もう一度構えを取った。


「兄さんこそ、どうしてまだ寝てないの?」


「久しぶりに家へ帰ったから、少し眠れなくてな」


ヴィエンは階段へ腰を下ろし、アーガが剣を振る姿を眺めた。


庭はとても静かだった。


聞こえるのは、木剣が空気を切る音。


そして遠くを巡回する騎士たちの馬の蹄が、時折響く程度だった。


しばらくして、ヴィエンが不意に口を開いた。


「故郷へ戻るのも、悪くないと思う」


アーガは動きを止めた。


「俺を納得させようとしているの? それとも、自分を納得させようとしてる?」


ヴィエンは一瞬固まった。


やがて、うつむいて笑う。


「お前は最近、ずいぶん可愛げのないことを言うようになったな」


「リサに習ったんだ」


「それなら、あまり一緒にいない方がいい」


アーガは、それ以上問いかけなかった。


ヴィエンは杯の水を飲み終えると、間もなく自分の部屋へ戻っていった。


アーガは、そのあともしばらく練習を続けた。


腕が完全に上がらなくなってから、ようやく木剣を倉庫へ戻す。


その夜、アーガはあまりよく眠れなかった。


地下城での光景が、何度も夢の中に現れた。


暗闇の中から翼竜が頭を持ち上げる。


無数の硬羽が、リサへ向かって放たれた。


アーガは彼女の前へ出ようとした。


しかし、どれだけ力を入れても、身体はまったく動かなかった。


アーガは勢いよく目を開いた。


部屋の中は静まり返っている。


窓から差し込む月明かりが、床を淡く照らしていた。


壁際に翼竜はいない。


血も流れていない。


アーガはしばらく横になったまま、先ほどの光景がただの夢だったことを確認した。


それから、もう一度目を閉じた。


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