第39話 それぞれの選択
ヴィエンは、深刻な表情を浮かべる二人を見て、突然笑い出した。
まずアーガの肩を叩き、続いてノエルの肩にも手を置く。
「そんな顔をするな。俺は家へ戻って手伝うだけだ。危険な場所へ行くわけじゃない」
「今日は俺の卒業祝賀会だぞ。二人とも祝いの言葉を言うどころか、そんな暗い顔をしてどうするんだ?」
アーガは口元を引きつらせた。
「それなら、家へ帰ったあと、帳簿を見る時間が少しでも減るように祈ってるよ」
「それが祝いの言葉か?」
「じゃあ、珍しい鉱石が見つかるように?」
「それならいい」
すぐ近くから、誰かがヴィエンを呼んだ。
「ヴィエン! ケーキを切り分けたぞ。早く来い!」
ヴィエンは振り返って返事をすると、二人の弟へ言った。
「お前たちも何か食べておけ。いつまでも立っているなよ。俺は先に行ってくる」
彼は同級生たちのもとへ向かった。
すぐに椅子へ座らされ、手には大きなケーキまで押しつけられる。
ヴィエンが一口かじり、口に物を入れたまま何かを言うと、周囲から笑い声が上がった。
アーガは、その場に立ったまま彼を見つめていた。
ノエルもしばらく眺めたあと、低い声で言う。
「兄さんは、本当なら進学できた」
「うん」
「全部、家のせいだ」
アーガは答えなかった。
ノエルは手にした杯を置き、一人で大広間の反対側へ歩いていった。
アーガも呼び止めることはせず、明かりを受けて微かに輝くヴィエンの卒業徽章を見つめ続けた。
窓辺から、杯を置く音が聞こえた。
リサが戻ってくる。
「話は終わりましたか?」
「うん」
彼女は少し離れた場所にいるヴィエンを見てから、アーガへ視線を戻した。
アーガの気分が沈んでいることには気づいたようだが、三人で何を話していたのかは尋ねなかった。
「これから、どこへ行きますか?」
アーガは数秒間黙ったあと、突然言った。
「剣の練習に行こう」
リサは目を瞬いた。
「今日は用事があると言っていませんでしたか?」
「卒業式はもう終わった」
アーガは杯を机へ置いた。
「少し身体を動かしたいんだ」
リサは彼の顔を見つめ、すぐに何かを察したらしい。
それ以上は追及しなかった。
「分かりました」
————
訓練室には、ほかの生徒の姿がなかった。
卒業祝賀会はまだ続いており、大半の生徒は本館の周辺に集まっている。
リサは木製の扉を閉め、壁際の武器掛けから二本の木剣を取った。
そのうち一本を、アーガへ放り投げる。
アーガは木剣を受け取り、手首を軽く回した。
リサは彼の正面に立つ。
「傷は完全に治ったんですか?」
「ほとんどね。医師からは、普通の訓練なら問題ないと言われた」
「もう一度、自分から医務室へ戻るようなことさえしなければ」
「それなら、決闘のときのような無茶はしないでください」
リサは姿勢を整え、木剣の切っ先を斜め下へ向けた。
「準備はできましたか?」
「いつでも」
リサは遠慮しなかった。
最初の一撃は、あまりにも速かった。
アーガが彼女の肩の動きに気づいたときには、すでに木剣が目の前まで迫っている。
慌てて剣を持ち上げ、攻撃を受け止めた。
二本の木剣が激しくぶつかり、その衝撃で手のひらが痺れる。
「遅いです」
リサは動きを止めなかった。
剣をアーガの木剣へ沿わせながら下へ滑らせ、途中で方向を変える。
そのまま手首を横から薙ぎ払おうとした。
アーガは慌てて身体をひねり、どうにか攻撃を避ける。
同時に、下から上へ剣を振り上げた。
リサは手を上げて防いだ。
しかし、その足はすでに一歩前へ出ている。
肩がアーガの胸へぶつかった。
アーガは均衡を失い、数歩後ろへ下がった。
「重心が前に寄りすぎています」
リサが指摘する。
「攻撃しようとするたびに、先に身体が前へ傾いているんです。それでは、剣を振る前に相手へ気づかれます」
「どうすればいい?」
「先に足を動かしてください。肩は動かさない」
リサはもう一度構えた。
「もう一度です」
二度目の交手では、アーガも意識して身体を制御した。
すぐに攻撃を仕掛けず、まずはリサの足運びを観察する。
リサが左へ半歩動いた。
しかし、剣は右側から突き出される。
アーガは先に剣を上げ、ようやく攻撃を受け止めることができた。
木剣同士がぶつかった直後、そのまま前へ押し込み、力でリサの手首を封じようとする。
「今のは悪くありません」
リサは手首を返した。
木剣がアーガの剣身を回り込むように外れ、最後には切っ先が彼の胸へ突きつけられた。
「ですが、やはり死んでいます」
「一度くらい勝たせてくれてもいいだろ」
「わざと負けて、何の意味があるんですか?」
リサは木剣を引き、立ち上がるよう目で促した。
「続けます」
三度目の交手では、アーガも明らかに集中していた。
剣術の授業で習った動きを、頭の中で改めて整理する。
足元を安定させ、視線も剣先だけへ向けない。
リサの肩と腰の動きも、同時に観察した。
リサが再び前へ出る。
今度のアーガは後退しなかった。
自分から一歩踏み込み、正面へ木剣を突き出す。
リサが剣を上げて受けようとした。
だが、二本の剣が接触する直前、アーガは軌道を変えた。
木剣を相手の剣に沿わせながら下へ滑らせ、剣を握る手首を狙う。
リサの目に、わずかな驚きが浮かんだ。
彼女は素早く手を引き、身体を横へ向けて攻撃をかわす。
続けて、剣の柄でアーガの腕を受け止めた。
「覚えるのは速いですね」
「一応、二年間は練習してるから」
「今の一撃は、ようやく初心者らしくなくなりました」
二人は再び剣を交えた。
木剣がぶつかる音が、訓練室の中へ絶え間なく響く。
アーガがリサに勝てないことに変わりはない。
それでも、彼女の攻撃を一部は防げるようになっていた。
時には、剣が来る方向を先に読み、リサに動きを変更させることさえあった。
「あなたの問題は、まだ目に頼りすぎていることです」
リサは交手の合間に言った。
「剣がどこから来るかを見て、それから身体を動かしていたら間に合いません」
「見ないで、どうやって防ぐんだ?」
「身体に覚えさせるんです」
リサが突然、身体を回転させた。
木剣がアーガの視界の外側から回り込んでくる。
アーガは本能的に手を上げたが、それでも一歩遅かった。
リサの切っ先が防御の横を抜け、胸元へ軽く触れる。
「また死にました」
アーガは胸へ向けられた木剣を見下ろし、ため息をついた。
「もう一度」
二人は、夕日が沈みかけるまで訓練を続けた。
アーガは、自分が何度「死んだ」のか数えていなかった。
腕と肩は、もう持ち上げることさえ難しいほど痛んでいる。
リサの呼吸も、普段より明らかに速くなっていた。
長い金髪は汗で湿り、何本かが頬へ張りついている。
最後の交手が終わると、二人とも立ち上がろうとはしなかった。
そのまま訓練場の端へ座り込む。
「実際のところ……」
リサは手の甲で額の汗を拭った。
その声は、先ほどまでより少し小さかった。
「あなたは、かなり上達しています」
アーガは顔を向けた。
「君が直接俺を褒めるなんて」
「事実を言っただけです」
リサはすぐに付け加えた。
「ですが、私にはまだ遠く及びません」
「はいはい。ベルマン家のお嬢様が一番強い」
リサは手を上げ、彼を叩こうとした。
しかし、途中で動きを止める。
結局、アーガの肩を軽く叩いただけだった。
二人は壁にもたれ、しばらく休んだ。
遠くから、卒業祝賀会の音楽が微かに聞こえてくる。
訓練室の中は、すでに薄暗くなっていた。
窓から差し込む最後の夕日だけが、床の一部を照らしている。
「明日から、一か月の休暇ですね」
リサが言った。
「うん」
「フラン城へ帰るのでしょう?」
「父さんと母さんが、迎えの者を手配してくれた。明日の朝に出発する」
リサは木剣の鍔を指で弄びながら、何気ない口調で言った。
「休暇中、あなたに会いに行くかもしれません」
アーガは少し驚いた。
「フラン城まで?」
「父が、近くの騎士団で訓練を受けるよう手配しました」
リサが説明する。
「フラン城から、それほど遠くありません。時間があれば、様子を見に行きます」
「わざわざ俺と剣の練習をするために?」
「ほかに何をするんですか?」
リサは立ち上がり、アーガへ手を差し出した。
「一か月後にもう一度戦います。まったく上達していなかったら許しませんから」
アーガはその手を握り、地面から引き起こしてもらった。
「分かったよ」
二人は木剣を武器掛けへ戻し、簡単に訓練室を片づけた。
外へ出た頃には、空はすでに完全に暗くなっていた。
リサはアーガの隣を歩きながら、先ほどの剣の振り方について、今もいくつか問題点を指摘している。
アーガが時折反論すると、彼女はすぐに別の間違いを見つけた。
いつからか、このようなやり取りが、二人にとってひどく自然なものになっていた。
————
翌朝。
荷物を背負って学院を出ると、ヴィエンとノエルがすでに馬車のそばで待っていた。
ノエルは車体へ背を預け、足元にあった小石を蹴り飛ばした。
「これ以上遅く来ることもできたんじゃないか?」
「本を一冊取りに戻っただけだ」
アーガは荷物を御者へ渡し、もう一度学院を振り返った。
休暇が始まったことで、普段は多くの人が行き交う正門も静かになっている。
数人の教師が石柱の近くで警備に当たっていた。
遠くには、荷物を引きながら学院を去っていく生徒たちの姿も見える。
ヴィエンはアーガのために馬車の扉を開けた。
「先に乗れ。これ以上ここにいたら、今日中に家へ着けなくなるぞ」
三人は車内へ入った。
馬車は間もなく学院を離れ、王都の石畳を通って城外へ向かう。
アーガは窓際へ寄り、見慣れた街並みが少しずつ遠ざかっていくのを眺めていた。
この二年間、彼はほとんどの時間を聖イース学院で過ごしている。
実家へ帰った回数は、それほど多くなかった。
突然一か月もの休暇が与えられると、かえって何をすればいいのか分からない。
馬車が王都を出たあと、ヴィエンが突然口を開いた。
「家へ戻ったら、まず父さんについて鉱山の仕事を覚えるつもりだ」
アーガは彼へ顔を向けた。
「もう決めたの?」
「まずは半年やってみる」
ヴィエンは両手を膝へ置いた。
その口調は、どこまでも軽かった。
「鉱山の状況が少し安定したら、もう一度等級を測る。実力が足りていれば、冒険者ギルドへ登録するつもりだ」
「そのあとは?」
「簡単な依頼を受けてもいいし、騎士団が領地の魔物を討伐するのを手伝ってもいい」
ヴィエンは笑った。
「それでも駄目なら、どこかの家で家庭教師をするのも悪くない。聖イース学院を卒業したんだ。飢え死にすることはないさ」
ノエルが本の向こうから顔を上げた。
「高等学院を受験したかったんじゃなかったのか?」
ヴィエンは、少しの間黙り込んだ。
「それは、また今度だ」
それだけ言うと、彼は窓の外へ顔を向けた。
これ以上、その話を続けるつもりがないことは明らかだった。




