表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/200

第4話 魔法の目覚め

二日後、ラインハルト家に家庭教師がやってきた。


アイランが招いたのは、アルバートという名の元書記官だった。


すでに六十歳を越えており、髪の半分以上は白くなっている。歩く速度も決して速くはなかったが、話すときの声には張りがあり、人を見る目にも力が残っていた。


最初の授業で、アルバートはアーガとノエルを居間の長机へ座らせた。


そして、自分は古びた羊皮紙を机の上へ広げる。


羊皮紙には、赤、黄、青、緑の四種類のカードが描かれていた。


それぞれの色の下には、対応する数字も記されている。


「すべての魔法は、カードを通して発動します」


アルバートは、羊皮紙に描かれた図を指さした。


「あなた方が最初に学ぶのは、四十枚の基礎カード。いわゆるトランプの数字札です」


指先が、四つの色を順番になぞっていく。


「赤のカードは、主に火や水といった元素に関係しています。黄色は獣の力を身に宿す獣化系。青は補助系が中心で、緑はさまざまな技術や技能に関係するカードです」


アルバートは一度言葉を切った。


「それぞれ十枚ずつあります。J、Q、K、それから二枚のジョーカーについては、今はまだ覚える必要はありません」


アーガは羊皮紙の内容を真剣に見つめていた。


一方、ノエルは机へ身を乗り出したまま、早くも小さな欠伸をしている。


アルバートは一度だけ彼を見たが、叱ることはなかった。


そのまま授業を続ける。


「たとえば、赤の一《火》を使えば、術者は炎を生み出すことができます」


「ただし、基礎カードの力はそれほど強くありません。初心者が魔力の扱いに慣れるためのもので、本格的な戦闘には向いていないのです」


続いて、黄色のヒグマと黄色のチーターについて説明した。


前者は身体の力を強化し、後者は跳躍力を高める能力を持つ。


アルバートの説明はゆっくりとしていた。


一つの内容を話し終えるたび、二人が理解できたかどうかを確かめてから次へ進む。


アーガは最初から最後まで真剣に聞いていた。


ノエルは何度か気を散らしていたものの、質問されれば大半には答えることができた。


二度目の授業で、アルバートは本物の基礎カードを数組持ってきた。


どれも長い間使われてきたものらしく、縁がわずかに反っている。


表面にインクの染みや、指で何度も擦られた跡が残っているカードもあった。


アーガは、その中に赤の一《火》を見つけると、すぐに手を伸ばした。


カードの中央には、単純な炎の絵が描かれている。


術式の模様は複雑ではなかったが、ごくわずかな魔力が今も残っているのを感じられた。


「カードへ魔力を流し込んでみてください」


アルバートに言われ、アーガはカードをしっかりと握った。


数日前に教わったとおり、意識を集中させる。


最初は何も起こらなかった。


だが、しばらくすると、指先にかすかな熱が生まれた。


その熱は指を伝い、カードの中へ流れ込んでいく。


炎の図柄の縁に、橙色の光が小さく灯った。


ほんの一瞬で消えてしまった。


それでも、カードが確かに発動したことに変わりはない。


アルバートの眉が、わずかに持ち上がった。


「以前にも試したことがありますか?」


「ありません」


「これが初めてですか?」


アーガはうなずいた。


アルバートはそれ以上何も言わず、記録用の紙へ数行を書き込んだ。


ノエルもすぐに、黄色のカンガルーを一枚抜き取った。


アーガと同じようにカードを握り、長い間集中する。


しかし、カードには何の変化も起こらなかった。


ノエルの顔が、次第に赤くなっていく。


最後には苛立ったように、カードを机へ叩きつけた。


「もうやらない」


アーガは自分の赤の一《火》を、ノエルの前へ押し出した。


「別のカードを試してみる?」


ノエルはアーガを一度見た。


それでもカードを手に取る。


だが、どれだけ集中しても、表面に描かれた炎が光ることはなかった。


しばらくして、ノエルはカードを机へ戻した。


「ちょっと外に行ってくる」


アルバートが返事をするよりも早く、ノエルは居間を出ていった。


アルバートは閉じた扉を見つめたが、引き止めようとはしなかった。


アーガもあとを追わず、机の上に残されたカードへ視線を落とした。


その日から、アーガは毎晩、自室で一人きりの練習を始めた。


赤の一《火》は、最初こそ一瞬だけ光る程度だった。


それが少しずつ長くなり、やがて一秒ほど維持できるようになった。


炎の光はまだ弱い。


それでも、初めて使ったときより明らかに安定している。


そのほかにも、赤の二《水》や黄色のヒグマを試した。


発動するカードによって、身体に生じる感覚はまるで異なっていた。


赤の一《火》を使うと、手のひらに熱が集まる。


赤の二《水》では、指先から冷たい感覚が広がった。


黄色のヒグマを発動したときには、腕や肩の筋肉がわずかに強張る。


まるで、自分のものではない力が突然身体へ加わったようだった。


それに比べ、ノエルの上達はかなり遅かった。


次の授業では赤の一《火》を三度試し、最後の一回でようやく薄い煙を出すことができた。


だが、炎と呼べるほどのものは生まれなかった。


三週間後。


アルバートは二人へ、簡単な実技試験を行った。


アーガは赤の一《火》、赤の二《水》、黄色のヒグマ、青の一《治癒体》を順番に発動した。


どのカードも完全に安定しているわけではない。


それでも、最低限の効果は引き出すことができた。


一方、ノエルが成功したのは青の一《治癒体》だけだった。


しかも、光はほんの一瞬しか現れなかった。


アルバートは二人の結果を記録し、しばらく黙っていた。


それから顔を上げ、問いかける。


「二人とも、聖イース学院へ入りたいですか?」


「入りたいです」


アーガはほとんど迷わず答えた。


隣に座るノエルは、何も言わなかった。


アルバートは眼鏡を押し上げる。


「来年、あなた方が七歳になれば、聖イース学院の入学試験を受けられます」


「試験の主な内容は、読み書き、算術、そしてカードの基礎です。最初の二つについては、二人とも大きな問題はないでしょう」


そこで一度、言葉を止める。


「カードについては……」


アルバートはノエルへ視線を向けた。


だが、その口調は変わらず穏やかだった。


「まだ半年あります。練習を続ければ、合格する可能性は十分にありますよ」


ノエルはうつむいたまま、青の一《治癒体》を強く握っていた。


何も答えなかった。


◇ ◇ ◇


半年は、あっという間に過ぎた。


春が訪れると、屋敷の草木は再び新しい葉をつけ始めた。


石壁のそばでは黄色い花が咲き、風が吹くたびに小さな花弁を揺らしている。


アーガは古い楡の木の下へ座り、本を読んでいた。


ノエルは厩舎のそばに立ち、家で飼っている老馬の毛を、何度も丁寧に梳いている。


二人はそれぞれ別のことをしていた。


午前中を通して、言葉を交わしたのはほんの数回だけだった。


すでに二人は、このような距離の取り方に慣れてしまっていた。


喧嘩をしているわけではない。


わざと相手を避けているわけでもなかった。


ただ、以前なら何のためらいもなく口にできた言葉を、今はほとんど話さなくなっていた。


数日後。


深緑色の馬車が、ラインハルト家の屋敷へ入ってきた。


その音を聞いたアーガは、書斎の窓から外を眺める。


馬車から降りてきたのは、肩幅の広い中年の男だった。


濃い茶色の上着を身にまとい、髪にはすでに灰色のものが混じっている。


顎には短い無精髭が生え、淡い茶色の瞳はノエルのものとよく似ていた。


アルドリック・ラインハルト。


ラインハルト家の当主である子爵。


そして、アーガにとっては義理の父親にあたる人物だった。


アルドリックは普段、北部の鉱山地帯で暮らしている。


屋敷へ戻るのは、一年に数回だけだった。


ラインハルト家は、小規模な魔晶石鉱山を所有している。


採掘量は決して多くない。


それでも、屋敷と騎士団を維持する程度の収入にはなっていた。


アーガが本を置いて玄関へ向かった頃には、アルドリックはすでに階段を上っているところだった。


彼はアーガを数秒見つめると、大きな手で頭へ触れた。


「また背が伸びたな」


「お帰りなさい、父上」


アルドリックは一つうなずいた。


上着を執事へ渡し、そのまま屋敷の中へ入っていく。


その日の夕食は、普段より少しだけ賑やかだった。


アイランはアルドリックの隣へ座り、鉱山の最近の様子を何度も尋ねている。


アルドリックによると、今年の採掘量は比較的安定しているらしい。


ただ、鉱山で働きたがる若者は年々減っていた。


多くの者が、セント・ローランへ行って新しい仕事を探したがっているという。


ノエルは向かい側へ座り、何度も父親へ視線を向けていた。


しかし、二人の会話へ入るきっかけをつかめないままでいる。


アーガはそれに気づいていた。


それでも、代わりに声をかけることはしなかった。


食事の途中で、アルドリックが突然尋ねた。


「出発は来週の月曜日か?」


「ええ」


アイランはうなずいた。


「荷物も馬車も、もう準備できています。護衛はウムとラスティに任せて、さらに兵士を四人つけます。道中は問題ないでしょう」


アルドリックは短く返事をした。


それ以上は何も尋ねなかった。


それから数日間、屋敷では二人の旅支度が続けられた。


アルバートも、最後の授業をするためにやってきた。


過去半年間の学習記録を整理し、一つの紙袋へ封をする。


そして、それをアイランへ手渡した。


「教えるべき基礎は、すべて教えました」


「最終的に試験へ合格できるかどうかは、当日の出来次第でしょう」


そこまで話すと、アルバートはアーガへ視線を向けた。


「アーガ様の今の実力であれば、よほどのことがない限り、合格できるはずです」


ノエルは机の上に並べられたカードを片づけていた。


その言葉を耳にした瞬間、手の動きがわずかに止まる。


だが、すぐに何事もなかったかのように、カードを一枚ずつ箱へ戻し始めた。


アーガは、その様子を見ていた。


けれど、何も言わずに顔を背けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ