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第23話 学院初日

聖イース学院の正門は、すでに目の前まで迫っていた。


アーガは旅行鞄を引きながら歩調を速める。


道を進む間にも、彼の顔に気づいた人々が、小声で話し始めた。


「あれ、アーガ・ラインハルトじゃないか?」


「新聞に載っていた新入生?」


「中央広場で十五枚のカードを披露した子供だよ」


アーガは周囲へ礼儀正しく会釈を返したが、足を止めることはなかった。


今日は正式な入学初日だ。


見物人に囲まれたせいで遅刻するようなことだけは避けたい。


学院の門をくぐろうとしたそのとき、内側に見覚えのある人影を見つけた。


少年は濃紺の学院制服を身につけていた。


以前会ったときより、さらに少し背が伸びたように見える。


アーガによく似た淡い金色の瞳で、石柱のそばから行き交う新入生たちを眺めていた。


「ヴィーン兄さん!」


アーガは目を輝かせ、旅行鞄を引きながら駆け寄った。


ヴィーンは片手でアーガの肩を押さえると、頭から足元まで一通り眺めた。


「しばらく見ない間に、王都の有名人になったようだな」


「新聞が大げさに書いただけだよ」


アーガは少し恥ずかしそうに頭をかいた。


それから尋ねる。


「この前の公演、見に来てくれた?」


「いや」


ヴィーンは首を横に振った。


「冒険者ギルドでの実習が終わったのは昨日だ。戻ってきたときには、もう終わっていた」


その声には、わずかな残念さが混じっていた。


「お前があれほど大きな騒ぎを起こすと分かっていたなら、何とかして早く戻ってくるべきだったな」


「これからも、きっと機会はあるよ」


アーガはすぐに笑顔を取り戻した。


ヴィーンは彼が持っていた旅行鞄を一つ受け取り、並んで学院の中へ歩き始めた。


「正直、今日は門の前で人に囲まれていると思っていた」


アーガは、まだ遠くで自分について話している人々を振り返った。


「そこまで大げさなことにはならないでしょ」


「学院には才能のある人間が大勢いる。王都の貴族も少なくない」


ヴィーンが説明する。


「お前に興味を持っていたとしても、全員がわざわざ近づいてくるとは限らない」


「それに、入学したばかりの新入生と知り合うより、すでに家柄や立場を持っている人間へ接近したがる者も多い」


「例えば、リサ・ベルマン?」


「彼女も、その一人ではあるな」


ヴィーンはアーガの肩を軽く叩いた。


「だが、その方がいいだろう。学院内で、どこへ行っても呼び止められることはなさそうだ」


アーガも同意するようにうなずいた。


「それなら、ずいぶん楽だね」


新入生の集合時間までは、まだ余裕があった。


そこでヴィーンは、学院内を案内することにした。


「前にあるのが主校舎だ。魔法理論や基礎科目の授業は、ほとんどあそこで行われる」


「図書塔や共同実験室、いくつかの大教室も中にある」


二人はその後、中央広場や訓練場、複数の実験棟を通り過ぎた。


アーガはすでに何度か学院を訪れていた。


しかし、これまでは入学試験を受けるか、医務室で寝ているかのどちらかだった。


学院全体を落ち着いて見て回るのは、これが初めてだ。


聖イース学院は、想像していたよりもはるかに広大だった。


区域によっては、地図や案内板がなければ、目的地の方角すら分からなくなりそうだった。


最後に、ヴィーンはアーガを学生寮へ連れていった。


中庭を囲むように、四階建ての石造りの建物が整然と並んでいる。


建物の間には大きな木々が植えられ、学生が休憩するための長椅子や、小型の訓練場も設けられていた。


「ここが学生寮だ」


ヴィーンは旅行鞄をアーガへ返した。


「これから数年間、ここで暮らすことになる」


「各階には寮を管理する上級生がいるから、何か問題が起きたら相談するといい」


アーガは目の前の建物を見上げた。


「家の屋敷より大きいかもしれない」


ヴィーンは懐中時計へ目を落とした。


「俺はそろそろ自分の教室へ行かなければならない。あとは一人で行けるな?」


「うん」


アーガはうなずいた。


「兄さんも行ってきて」


「授業が落ち着いたら、また様子を見に来る」


そう言い残し、ヴィーンは校舎の方角へ歩いていった。


アーガは寮の案内板を確認し、二階にある二〇三号室を見つけた。


木製の扉の横には、二人分の名前が記されている。


アーガ・ラインハルト。


ミロ。


アーガは扉を押し開けた。


部屋は、想像していたよりも広かった。


二台の一人用ベッドが左右の壁際に置かれ、その間には大きな窓がある。


さらに二つの机と衣装棚、カードを保管するための鍵付きの引き出しまで備えられていた。


「こんにちは!」


窓際から、少し緊張した声が聞こえた。


アーガが振り返ると、細身で背の高い少年が椅子から立ち上がった。


簡素な麻のシャツと茶色の長ズボンを身につけている。


黒髪は少し乱れており、肌は日に焼けて浅黒い。


琥珀色の瞳が、緊張と期待を帯びながらアーガを見つめていた。


「あなたが、アーガですか?」


「そうだよ」


「僕はミロです」


少年は落ち着かない様子で、両手をこすり合わせた。


「田舎から来たので、家名はありません」


アーガは親しみを込めて笑いかけた。


「初めまして、ミロ。これから僕たちは同室だね」


ミロは何か答えようとした。


だが、そこでようやくアーガの名前が示す意味に気づいたらしく、目を大きく見開いた。


「アーガ・ラインハルト……」


「もしかして、新聞に載っていたアーガですか?」


「たぶん、そのアーガだと思う」


アーガは困ったように答えた。


「でも、新聞の記事には大げさなところも多いから」


「でも、中央広場での公演は本当ですよね?」


ミロは興奮を隠しきれない様子だった。


「まさか今年の魔法試験首席と、同じ部屋になるなんて!」


その反応がおかしくて、アーガは思わず笑った。


「学院へ入ったら、僕たちは同じ一年生だよ」


「アーガと呼んでくれればいい。そんなにかしこまらなくても大丈夫だから」


「わ、分かった。アーガ」


ミロは窓際のベッドを指さした。


「僕は先にこっちを選んだんだけど、構わない?」


「もちろん」


アーガはもう一方のベッドのそばへ荷物を置き、衣服や本の整理を始めた。


ミロもしばらく手伝ってくれた。


やがて、少しためらいながら口を開く。


「実は、学院の授業が少し不安なんだ」


「どうして?」


「僕は、五枚のカードの試験にぎりぎり合格しただけだから」


ミロは俯いた。


「ここには貴族や天才がたくさんいる。授業についていけなくなるんじゃないかって」


「自分の力で試験に合格したなら、ここで学ぶ資格があるということだよ」


アーガはミロの肩を軽く叩いた。


「分からないことがあったら、一緒に考えればいい」


ミロの瞳が明るくなった。


「本当に?」


「もちろん」


◇ ◇ ◇


寮の整理を終えた二人は、そろって校舎へ向かった。


廊下には、自分の教室を探して歩き回る新入生があふれていた。


地図を持ったまま何度も進む方向を確認する者もいれば、すでに同じクラスの生徒と会話を始めている者もいる。


「アーガ、自分が何組か知ってる?」


ミロが尋ねた。


「三組だよ」


「僕も三組だ!」


ミロの表情が、目に見えて明るくなった。


「僕の友達のケイミも三組なんだ」


「彼女は一年勉強しただけで、もう六枚の基礎カードを使いこなせるんだよ。僕よりずっと優秀なんだ」


「それはすごいね」


二人は間もなく、「三組」と書かれた札の下がる教室へ到着した。


教室内には、すでに二十人以上の新入生が座っている。


アーガが中へ入ると、壁際の席で一人、魔法書を読んでいるノエルの姿が目に入った。


「ケイミ!」


ミロは教室の中央へ向かって手を振った。


赤い髪の少女が振り返る。


髪は動きやすそうな高い位置で一つに結ばれていた。


学院制服の袖は少し短く仕立て直されており、活動の邪魔にならないよう工夫されているらしい。


少女は足早に二人の前へやって来た。


最初にミロを見てから、アーガへ視線を移す。


「その子が、話していた同室の人?」


「そうだよ」


ミロが紹介する。


「アーガ・ラインハルト」


アーガは少女へ手を差し出した。


「初めまして」


「ケイミ・ホークよ」


ケイミは、その手を軽く握り返した。


ミロほど興奮した様子はなかった。


ただし、その視線は一瞬だけ、アーガの腰にあるカードケースへ向けられていた。


「五種類の属性術式を同時に維持できるなんて、本当にすごいわね」


「新聞は、あの公演を少し大げさに書いているよ」


アーガは答えた。


「かなりの部分が、事前に用意された演出だったから」


「用意されたとおり、すべて成功させること自体が難しいのよ」


ケイミは持っていた小さな鞄から、一冊のノートを取り出した。


「最近、属性術式について疑問に思ったことをまとめているの」


「機会があったら、あなたと話し合ってみたいわ」


「もちろん」


三人はしばらく会話を続けた。


しかし、アーガの視線は再びノエルへ向かった。


少しためらった後、ノエルの机の前まで歩いていく。


「ノエル」


ノエルは一度だけ顔を上げ、アーガを見た。


だが、すぐに視線を本へ戻す。


「何か用?」


「最近、どうしているのか気になっただけ」


「元気だよ」


ノエルの口調は、ひどく淡々としていた。


「でも、僕がどうしているかなんて、君には関係ないだろう」


アーガは一瞬、言葉を失った。


それ以上は話しかけず、ミロのそばへ戻る。


そのとき、教室の入り口で小さなざわめきが起こった。


最初に人々の目へ入ったのは、眩しい金色の髪だった。


リサ・ベルマンが、整えられた学院制服を身につけて教室へ入ってきた。


腰には以前と変わらず、美しい装飾が施された細身の剣を下げている。


アーガは少し驚いた。


「リサ?」


リサも、すぐにアーガへ気づいたようだった。


二人の視線が、ほんの一瞬だけ重なる。


しかしリサは、すぐに小さく鼻を鳴らして顔を背けた。


そのまま教室の前方へ進み、一番前の席へ腰を下ろす。


アーガも気まずそうに視線をそらした。


あの反応を見る限り、屋敷へ戻った後、かなり厳しく叱られたのだろう。


ただ、それ以上に意外だったのは、リサが魔法系のクラスへ配属されていたことだ。


戦士試験で見せた実力を考えれば、戦士を専門的に育成するクラスへ入っていても不思議ではない。


やがて、教壇に立っていた教師が両手を軽く叩いた。


「静かに」


教室内の話し声が、すぐに止まった。


教師は生徒たちを見回し、全員がそろっていることを確認してから話し始めた。


「聖イース学院へようこそ」


「本日から、君たちは正式に一年生として学ぶことになる」


教師は振り返り、黒板へ一つの数字を書いた。


十二。


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