第22話 成果
アーガは赤色のカードをしまい、カードケースから黄色の一を引き抜いた。
カードが輝くと同時に、両腕と肩の筋肉が強く張り詰める。
とはいえ、その強化は決して大げさなものではない。
七歳の子供が、素手で木製人形を粉々にできるほどの力が得られるわけではなかった。
アーガは一体目の人形の前まで歩き、両手をその胸へ押し当てた。
そして、全身の力を込めて前へ押し出す。
人形の底部に取りつけられた車輪が、ゆっくりと回り始めた。
人形は軌道に沿って後方へ滑り、二体目の人形へ衝突する。
その衝撃が、さらに次の人形へ伝わった。
十体の木製人形が次々と元の位置から押し出され、最後にはすべて、舞台上にあらかじめ引かれていた終了線を越えた。
すべてを終えた直後、アーガはとうとう身体を支えきれなくなった。
片膝を舞台へつく。
胸が大きく上下し、額を伝った汗が舞台へ落ち、いくつもの濃い染みを作った。
連続してカードを切り替え続けた影響で、指先も小さく震えている。
広場は、ほんの一瞬だけ静まり返った。
アーガは何度か息を整えた。
それから再び立ち上がり、右手を上げて観客席へ一礼する。
次の瞬間。
四方八方から、ほとんど同時に歓声が湧き上がった。
誰の目にも明らかだった。
この七歳の少年は、基礎カードを巧みに連結し、一つの完成された公演へ仕上げてみせたのだ。
本当に驚くべきなのは、単に多くのカードを使えたことではない。
それぞれの能力に対する深い理解。
そして、魔力が尽きる直前まで、途切れることなく術式をつなぎ続けた制御力だった。
貴賓席では、アイリーンの目がすでに赤くなっていた。
拍手を送りながら、手の甲で目尻の涙を拭っている。
アルドリックは、周囲の観客のように歓声を上げることはなかった。
ただ舞台の上に立つアーガを見つめていた。
強く握られていた椅子の肘掛けから、ゆっくりと力が抜けていく。
その口元が、ほんのわずかに持ち上がった。
貴賓席の前方に立っていたドレイク学院長は眼鏡を外し、レンズについた埃を丁寧に拭った。
そして、隣で記録を取っていた書記官へ言った。
「見事なものだ」
「総合評価であれば、五年前の新入生が残した記録と同等だろう」
書記官はすぐに顔を伏せ、その言葉を書き留めた。
アーガは職員に支えられながら舞台を下りた。
両脚には力が入らず、額にかかった髪も汗で濡れている。
それでも、その顔にははっきりとした笑みが浮かんでいた。
ロイスが迎えに来た。
彼はすぐに称賛の言葉を口にすることなく、まずアーガの状態を確認した。
「取材を受けられそうですか?」
「少し話すくらいなら、大丈夫です」
アーガは息を整え、どうにか背筋を伸ばした。
間もなく、数人の記者たちが周囲へ集まってくる。
最前列にいた記者は記録水晶を持ち上げ、発光する面をアーガへ向けた。
「アーガ・ラインハルト殿」
「ただいま十五枚の基礎カードを連続して披露し、グレイクリフ王国における過去五年間の新入生記録へ並ばれました」
「現在のお気持ちをお聞かせください」
「嬉しいです」
アーガの声には、まだ疲労がにじんでいた。
「ただ、魔力はほとんど残っていません」
「最後まで無事に終えられたことが、何よりだと思っています」
周囲に並ぶ記録水晶が、次々と光を放った。
記者は続けて尋ねる。
「今後の目標はありますか?」
「今年開催される王都魔法大会への出場は、検討されていますか?」
「今のところは考えていません」
アーガは首を横に振った。
「僕は、まだ正式に学院へ入学してもいません」
「まずは、もっと基礎から学ぶべきだと思っています」
答えながら、無意識に貴賓席へ視線を向ける。
アルドリックとアイリーンは、すでに元の席からいなくなっていた。
おそらく舞台裏へ向かっているのだろう。
ちょうどよいところで、ロイスがアーガの隣へ進み出た。
記者たちへ向き直り、よく通る声で告げる。
「アーガ・ラインハルト殿の訓練過程、基礎カードの運用方法、そして本日の公演内容につきましては、明日発行される『王都日報』特別号にて詳しくご紹介いたします」
「皆様、本日はご注目いただき、ありがとうございました」
職員たちはアーガを記者たちの輪から連れ出し、舞台裏の休憩室へ案内した。
◇ ◇ ◇
休憩室の扉は、ほどなくして勢いよく開かれた。
真っ先に中へ入ってきたのは、アイリーンだった。
目元は、まだ赤いままだった。
アーガの姿を見つけると足早に近づき、その小さな身体を強く抱き締める。
「あなたって子は……」
アイリーンは、汗で濡れたアーガの髪を優しく撫でた。
「ただの公演なのに、どうしてこんなになるまで無理をしたの?」
「大丈夫だよ」
アーガは母親の胸へ寄りかかりながら、弱々しい声で答えた。
「魔力を使い切っただけだから、少し休めば治るよ」
続いて、アルドリックが部屋へ入ってきた。
少し離れたところに立ち、アーガを頭から足元まで注意深く確認する。
身体に目立った傷がないと分かって、ようやく表情をわずかに緩めた。
「父さん」
アーガは顔を上げ、彼へ笑いかけた。
アルドリックは数秒間黙っていた。
やがて、短く一言だけ口にする。
「よくやった」
一度言葉を切り、さらに付け加えた。
「ただし、最後の部分は少し無理をしすぎだ」
「実戦で危険に遭遇したときは、見栄えのために魔力を完全に使い切るような真似をするな」
「分かった」
アーガは素直にうなずいた。
アイリーンは、まだ彼を抱き締めたままだった。
この半月、きちんと食事を取っていたのか。
訓練中に怪我をしなかったのか。
どうして送ってきた手紙に、もっと詳しく日々のことを書かなかったのか。
次から次へと、小声で問いかけてくる。
アルドリックは隣に立ち、ときどきアーガの代わりに答えた。
窓の外から差し込む夕日が、薄いカーテンを通して家族三人へ降り注ぐ。
休憩室の中は、ひどく温かい色に染まっていた。
◇ ◇ ◇
二日後。
朝の光が薄いカーテンを通して部屋へ差し込み、整然と並べられた荷物の上へ淡い金色を落としていた。
アーガは姿見の前に立ち、自分の学院制服を最後にもう一度確認した。
濃紺の上着は、しわ一つなく整えられている。
襟元につけられた銀色の留め具が、朝日を受けて小さく光った。
袖口を手で整え、カードケースを腰の最も取り出しやすい位置へ固定する。
(いよいよ、本当の学院生活が始まるんだ)
部屋の扉が、軽く叩かれた。
「どうぞ」
ロイスが扉を開け、中へ入ってきた。
今日は普段よりも格式のある濃灰色の礼服を着ている。
金縁の眼鏡の奥にある瞳は、相変わらず抜け目なく輝いていた。
「支度は終わりましたか?」
ロイスは部屋の隅にまとめられた荷物へ目を向けた。
「この半月、グルバート家が用意した住居にはご満足いただけましたか?」
「十分すぎるくらいでした」
アーガは枕元に置いてあった懐中時計を手に取り、ポケットへ入れた。
「指導者を手配してくれたことも、ありがとうございます」
「お互いに利益のある取引をしただけですよ」
ロイスは笑いながら手を振った。
「我々はあなたのおかげで大きな利益を得た」
「あなたも訓練と報酬を受け取った」
「誰も損をしていません」
そう言うと、公文鞄から一部の新聞を取り出した。
一面には、舞台に立つアーガの写真が再び大きく掲載されている。
その上には、次の見出しが書かれていた。
【十五枚の基礎カードを連続発動――七歳の新入生、五年ぶりの記録へ並ぶ】
アーガは新聞を受け取った。
何度か目を通すと、すぐに折り畳む。
「今度こそ、本当に暗殺者を呼び寄せなければいいですけど」
「王都に滞在している間、グルバート家はあなたの警護を強化しています」
ロイスが答えた。
「ただし、学院へ入った後の安全管理は、主に聖イース学院の担当となります」
「少なくとも学院の敷地内であれば、必要以上に心配することはないでしょう」
ロイスは懐から、黒いビロード張りの箱を取り出した。
「こちらが、最後の報酬です」
「中には回復薬が数本と、あなた個人へお渡しする分の現金が入っています」
「残りの大きな金額については、すでにラインハルト家の口座へ送金済みです」
「父さんから、昨日聞きました」
アーガは箱を受け取ると、旅行鞄の隠し収納へ入れた。
そして、留め具をしっかりと閉じる。
窓際へ歩き、向かい側にある無人の訓練場を眺めた。
半月前、初めてあの場所へ入ったとき。
アーガはまだ、自分なりの理解だけで基礎カードを使っていた。
それからは毎朝五時に起き、夜遅くまで訓練を続けた。
その合間には、さまざまなカードの理論まで学ばなければならなかった。
ひどく疲れる日々だった。
しかし同時に、自分が本当に少しずつ成長しているのだと、初めてはっきり実感できた時間でもあった。
前世で試験を受けていた頃も、同じように努力したことがある。
問題を解き、復習し、間違えた問題を一から整理し直した。
思いつく限りの方法を、ほとんどすべて試した。
それでも、最後は二点足りなかった。
もう何をすれば成績を上げられるのか、自分には分からなかった。
三度目の試験へ挑む勇気も、残っていなかった。
どれほど努力しても、これ以上は前へ進めない。
あのときに感じた絶望は、今も記憶の奥に残っている。
アーガは、窓枠を指先で静かになぞった。
「昔、ある試験のために、すごく努力したことがあるんです」
背後に立っていたロイスは、何も言わずに話を聞いていた。
「自分にできることは、全部やりました」
「でも、最後にはほんの少しだけ届かなかった」
アーガは窓の外を見つめた。
「そのとき、自分はもう限界まで来てしまったんだと思いました」
ロイスは少し黙ってから尋ねた。
「今は、どうですか?」
アーガは腰のカードケースへ目を落とした。
やがて、不意に笑みを浮かべる。
「今は違います」
「少なくとも今回は、あの記録へ追いつくことができました」
そこで声を少しだけ落とした。
「今の僕は、本当に今年一番の新入生なんです」
ロイスは思わず笑い声を漏らした。
「何ですか。感動して泣きそうになったのですか?」
そこで初めて、アーガは自分の目尻がわずかに濡れていることに気づいた。
慌てて手を上げ、拭い取る。
「風が入っただけです」
「先ほどまで、窓は閉まっていましたが」
「今は開いています」
ロイスは、それ以上追及しなかった。
アーガは、この半月を過ごした部屋を最後に見回した。
机の上には、持っていかない数冊の訓練記録が残されている。
壁の隅には、術式の練習によって生まれた薄い痕跡があった。
窓辺の魔法植物は、何度か訓練へ巻き込まれたせいで、葉が少し元気を失っている。
それらはすべて、この部屋へ残していくものだった。
「それでは、行きます」
アーガは旅行鞄を持ち上げた。
ロイスは扉の脇へ身体を寄せ、道を空ける。
「私も次号の記事を準備しなければなりません」
小さくうなずいた。
「また機会があれば、協力しましょう」
アーガは荷物を引き、長い廊下の奥へ向かって歩き出した。
開け放たれた窓から、朝の風が流れ込んでくる。
それと同時に、聖イース学院の長い鐘の音が街へ響き渡った。
アーガは足を止め、遠くへ目を向ける。
朝霧の上から、学院の尖塔がかすかに姿を現していた。
腰のカードケースの位置を整える。
そして歩調を速め、階段へ向かった。
(聖イース学院――今、行くよ)




